銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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リリーナの辺境巡り

帝国暦487年10月、ケルンテン男爵領 side: リリーナ

 

 

ラインハルトとの結婚を発表したリリーナは、逃げるように辺境星域へと向かっていた。リリーナに反旗を翻した貴族を討伐し、資源供給地を回復するためだった。

 

 

 

 

「メルゲントハイム伯リリーナは、神聖なる銀河帝国に仕える帝国貴族として、ここに宣言する。

 

ケルンテン男爵に告げる。直ちに降伏し、出頭せよ。

 

先般、帝国領を侵犯した自由惑星同盟を称する叛徒は、この私リリーナ・フォン・メルゲントハイムの指揮する艦隊によって撃滅された。しかるに、この侵攻と時を同じくして艦隊を動かし、我がメルゲントハイムの艦艇に攻撃を加えた貴殿の行動は、偶発的衝突の範囲を明らかに逸脱している。

 

その発動時期、行動様式、および対象の選定に鑑み、叛徒との共謀のもとこれに呼応した計画的軍事行動であると認定する。

 

すなわち汝の所業は、外敵との共謀による反逆にして、帝国秩序の破壊を企図した重罪である。

 

帝国が危急に瀕し、叛徒がその神聖なる領土を蹂躙したこの時にあって、メルゲントハイムは帝国の藩屏たる責務に基づき、兵站・拠点・艦隊のすべてをもって帝国宇宙艦隊と連携し、防衛にあたった。

 

しかるに貴殿は、我が管理下にある財産を侵害し、通信網を遮断し、軍事行動を妨害したのみならず、その結果として帝国軍の作戦遂行を阻害し、叛徒の侵攻を利する状況を自ら招来した。

 

これは単なる不法行為にとどまらず、帝国防衛の根幹を揺るがす敵対行為である。帝国貴族としての義務を踏みにじり、帝国法に背反する、最も恥ずべき所業である。

 

さらに、貴殿には大規模な反帝国的陰謀への関与の疑いがある。これが事実であれば、その罪は断じて許されるものではない。

 

現在、帝国宇宙艦隊副司令たる我が夫、ラインハルト・フォン・ローエングラムは、叛徒掃討の任にあり、イゼルローン回廊における戦況は未だ予断を許さない。よって私は、帝国非常時法および貴族艦隊徴用令に基づき、メルゲントハイム艦隊をこれに供出し、辺境防衛に投入する。

 

なお、本艦隊は特殊運用を要するため、私自らこれを統率している。

 

以上をもって、最終通告とする。

 

直ちに武装を解除し、帝国軍に帰順せよ。これに応ずる者には、その責任の軽重を勘案し、寛典をもって処する。

 

これを拒む場合、私は帝国の名において武力制圧を実施する。その際、艦隊ならびに軍事拠点はすべて殲滅対象となる。

 

ただし、直ちに降伏がなされた場合に限り、ケルンテン男爵の生命の安全を保証する。

釈明の機会は与える。異議があるならば、直ちに出頭し、自らの言葉をもってこれを述べよ。

 

選択の余地は、すでに汝らに与えられている。」

 

機械的にそれを読み上げたリリーナは苛立ちを隠そうともしなかった。

 

トワングステを発って以降、いくつの惑星を巡ったのか…………。並行して制圧を進めているので数えるのも面倒だ。

どこも同じだった。防御衛星は一斉射で沈黙し、艦隊は地上で発進する暇もなく宇宙軍港ごと炎上する。

 

その光景すら、すでに新鮮味を失っていた。三つの分艦隊に分けてまで辺境の鎮圧を目指しているが、人口の少ない辺境惑星が無駄に多すぎる。全くもって、人口100万人の惑星が存在する意味が分からない。

 

そして、どうせ同じ結論に至る。ならば、時間の方が惜しい。

 

 

「射撃訓練よ。威力は極限まで抑えなさい。惑星首都上空を横断する軌道で一斉射。終了後、直ちに降下よ」

 

回答期限の一時間を待つ理由はなかった。リリーナはためらいなく圧力を一段引き上げる。

 

本来ならば、初手で首都ごと叩き潰す方が早い。それはリリーナの得意とするやり方だ。

だが今回は違う。

 

占領後の統治を見据えるなら、都市も、港も、管理機構も、軍事施設でないなら可能な限り原形を保ったまま接収する方が効率的だ。無用な破壊は、後の手間を増やすだけに過ぎない。

 

それに、不必要な破壊は目付け役としてついてきたメックリンガーが制止するだろう。ここに至るまでの数回のやり取りでリリーナはもうその手段を試すことすらやめていた。

 

 

そして、ついに観念したケルンテン男爵が降伏する。引きずられるようにして広間の中央に立たされた男爵の前に、静かに一枚の契約書が差し出された。

 

そこに記されている内容は単純だった。

 

領地、資産、権利、そのすべてを、メルゲントハイム家へ譲渡する。

 

だが、男爵の手は動かない。指先がわずかに震え、署名欄の上で止まっていた。

 

その沈黙は長くはなかったが、十分に重かった。

そして、その全てがリリーナにとってはどうでもよかった。

 

「……遅いわね。名前すら書けないのかしら?」

 

リリーナの声は、抑揚を欠いていた。その無機質さが、かえって男爵の神経を逆撫でした。

 

「…………この気狂いが!!」

 

男爵が絞り出すように叫ぶ。

 

次の瞬間、両脇の兵士が即座に肩を押さえつけた。床に膝がつく。

荒い呼吸音だけが、場に残る。リリーナは一歩も動かない。

 

ただ、わずかに視線を落としただけだった。

 

「黙りなさい、この反逆者が」

 

その声は低く、しかし明確だった。

 

「この条件を認めないというのなら、あなたの一族を私のブラックホールに投げ込むわよ。ちょうどいいわ。エネルギーとして有効活用してあげるわ」

 

軽く指を上げると横に置かれたスクリーンの映像が切り替わる。

そこには、すでに拘束された男爵家の人間たち。男爵の妻や子、母、そして一族、代々の使用人に至るまでの姿が映し出されていた。

 

声を上げる者はいない。ただ、怯えた目だけがこちらを見ていた。

リリーナの指先一つで彼らは事象の地平線の向こうに投げ捨てられることになる。

 

「……分かった」

 

ようやく絞り出された声は、先ほどの怒号とは別人のもののように弱々しかった。男爵は震える手でペンを取り、署名する。インクが紙に沈む音が、やけに大きく響いた。

 

そして、リリーナはようやく本題に移る。別に辺境の一男爵の領地を手に入れても大した価値はない。もらえるものはもらっておくという程度の話だ。

 

「それで?この騒乱、誰の差し金かしら?」

 

男爵は口を閉ざしたまま動かない。視線がわずかに揺れるだけで、答えは返ってこない。その沈黙を、リリーナは否定も催促もせず、ただ観察するように受け止めた。

やがて、ほんのわずかに微笑む。

 

「答えられない、という選択もあるわね。その場合も約束だから殺しはしないわ。貴方と一族を丸腰にしてイゼルローン要塞の前に放り出すだけよ。どうなるか……想像くらいはできるでしょう?」

 

男爵の呼吸が乱れる。

 

「待て、待ってくれ……確かに、私は通信衛星を攻撃した。だが、それは」

 

「あら、そこは心配していないわ」

 

リリーナは即座に遮る。

 

「貴方が独断でこのような行動に出るほど愚かではないことくらい、分かっているもの。むしろ問題はその判断を与えた側、つまり真犯人よ。私はそちらこそが真の意味で帝国に徒為していると考えているわ。だからこそ、まだ貴方の領地を灰にはしていないの」

 

言葉の意味が、ゆっくりと男爵の中に沈んでいく。

 

「逆に言えば、貴方がここで独断だと言い張り、首謀者をかばうというのであれば、それはそれで興味深いわね。帝国の秩序を、個人の思いつきで揺るがせると自認したことになるのだから。その場合は、貴方を反乱の首謀者として扱うしかないわ。」

 

リリーナは一歩引き、声の調子をわずかに変える。

 

「私の耳にはね、どうやら、かの大貴族の別荘で陰謀が行われていたと聞こえているのだけど……もし、近隣の領主や上位貴族からそうするよう強制されたのだとすれば、話はまったく変わってくるわ。その場合、貴方は被害者に認定される。つまり責任の所在は、首謀者と共犯者にあるということになるの」

 

わずかな間。

 

「名前を教えてくれればいいのよ。それで貴方は救われるわ」

 

男爵の指が震える。視線が床に落ち、やがてゆっくりと持ち上がる。

逃げ場は、すでに一つしか残されていない。

やがて、押し出されるようにして言葉がこぼれる。

 

吐き出された名前は、いくつかの貴族家…………そして、その連なりの先に、ブラウンシュバイク公爵家の名があった。

 

リリーナはそれを最後まで聞き終えると、小さく頷いた。証言があればなんでもいいのだ。それに裏付けをとるほど暇でもなかった。

 

「勇気ある協力に感謝するわ。その内容はすべて、我が夫ラインハルト・フォン・ローエングラムに伝えられるわ。帝都での処遇についても、それなりに配慮していただけるよう取り計らってあげる」

 

 

 

男爵が連行されると、室内にわずかな静寂が戻った。その空気を破るように、背後から低い声が差し込む。

 

「伯爵閣下」

 

メックリンガー中将だった。艦隊には軍監として抑制装置であるメックリンガー中将が同乗していた。

 

民間人の虐殺や無用な都市破壊を禁じること。それを逸脱させないという規律を、彼は徹底して維持する役割を担っている。

 

それゆえ、リリーナはそれらを控えていた。

 

「伯爵閣下、無理に引き出した証言で何をなさるおつもりか。このような証言で徒に戦端を開けば、無用な血が流れます。やるにしても、ローエングラム閣下が帝都を押さえてからで遅くありません。どうかここで線を引いていただきたい」

 

リリーナは振り返らず、軽く肩をすくめた。

 

「あら、この帝国で反乱の疑いにそこまでの証拠が必要だとは思わなかったわ。無関係かどうかは、これから調べればいいだけの話でしょう。少なくとも、口を閉ざしたまま何も得られないよりは建設的よ」

 

「ですが――」

 

「それに」

 

言葉を被せるように、リリーナは続けた。声は先ほどよりわずかに軽い。

 

「私は民間人を徒に殺したわけでもないわ。ただ、反乱の共犯者を尋ねただけよ!!」

 

メックリンガーは一瞬だけ言葉を失い、やがて静かに息を吐いた。

 

「……確かに、形式上は」

 

 

リリーナはようやく振り返り、わずかに笑う。

 

「なら問題ないわね。それより――」

 

その視線が、すでに別の方向を見ている。

 

「あなたこそ、さっさとラインハルト様に伝えてちょうだい。領地を回収したはいいけれど、統治する人間がいなければただの空白地帯よ。行政官でも監察官でも、使える人材を一刻も早く寄越すようにって」

 

「……了解しました。伝達いたします」

 

「ええ、お願いね。私、占領地の経営まで面倒を見る趣味はないの」

 

メックリンガーは苦笑とも嘆息ともつかぬ表情で一礼し、その場を後にした。

 





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