銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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※技術系の話は斜め読みして大丈夫です…………




波動実験艦

帝国暦487年10月、帝国領辺境宙域 side: リリーナ

 

 

「うるさいお目付け役は勘弁してほしいところだわ」

 

メックリンガーは懲りずに諫言を重ねてくるが、リリーナにとっては取るに足らない話だった。実のところ、辺境の領地の地上げは限界がある。生産力も開発された資源惑星も限られている。それに、いずれ横やりも入るだろう。

 

いま必要なのは、いずれ訪れる決定的な一手のための布石に過ぎない。適当な証言で名目を作り、機を見て大貴族の領地をまとめて押さえる。それがリリーナの描く筋書きだった。

 

だからこそ、その過程で生じるのは退屈だ。そして、そこから逃げるように没頭していたのが、波動砲実験艦の最終設計だった。

 

同盟領への出発以前から進めていた設計は、すでに最終段階へと到達している。理論上の整合性は検証され、各系統の統合試験も完了しつつあった。残るのは、実際に造るという工程のみ。

 

すでに専用ドックの建造は開始されている。通常の戦艦とは比較にならない規模であり、リリーナはその進捗報告に目を通しながら、静かに息を吐いた。

 

 

 

波動砲――正式名称、次元波動爆縮放射器。

 

この兵器の本質は、単なるエネルギー兵器ではない。対象に対して膨大なエネルギーを叩きつけて破壊するのではなく、超高エネルギーの状態を形成し、局所空間そのものを高エネルギー移相へと強制的に遷移させることで、物理法則の前提を崩壊させる装置である。

 

このエネルギーに巻き込まれた領域では、核力や電磁気力といった基本相互作用が変質し、物質構造は維持不能となる。原子は崩壊し、素粒子レベルでの束縛も解かれ、最終的には統一場における波動としてのみ存在を許される。そして、通常状態に相転移して戻ったときには、これらは宇宙のさざ波として元の状態を忘却する。

 

重要なのは、この過程がエネルギーの大小による破壊ではなく、物理法則の局所的な書き換えによって成立している点である。ゆえに、従来の防御手段装甲、シールドといった概念は、本質的に意味を持たない。

 

「問題はこの高エネルギー状態を作り上げるための膨大なエネルギー、そしてその運搬手段だったわ」

 

エネルギーの生成について、波動コア技術が遅々として進んでいない現状では類似機構を作らざるを得なかった。

 

局所空間を高エネルギー相へと押し上げ、物理法則そのものを変質させるためには、恒星級に匹敵する、あるいはそれを上回るエネルギー密度が必要となる。通常の核融合や反物質反応では、理論上の変換効率をもってしても、この要求には到底届かない。

 

「真空波動変換装置、基底空間の性質の変換というのは亜空間技術について発達しているここでもっとも見るべきものだわ。わざわざ月にまでいって、当時の開発段階のデータを入手させた甲斐があったわね」

 

リリーナはこの真空波動変換装置を段階的かつ暴走的に用いていた。

 

始めは通常炉からのエネルギーで、実効プランク定数を変化させ、真空のエネルギー密度そのものを引き上げる。これにより、量子ゆらぎは増幅され、空間は高エネルギー状態へと遷移する。通常では使い物にならない低出力のゼロ点エネルギー炉だが、大量のエネルギーで真空を変化させれば効率はマシになる。

 

リリーナはこれを暴走的に行った。則ち出力されたエネルギーを再度真空波動変換装置に流し込んだのだ。こうしてゼロ点エネルギー炉の出力の増加が繰り返される。真空エネルギーは臨界点を超え、暴走状態へと移行する。

 

ここに至って、ゼロ点エネルギー密度は通常の宇宙とは比較にならない水準に達する。すなわち、空間そのものが巨大なエネルギー源へと変質するのである。

 

「ここまででは、只のお値段の張る爆弾でしかないわ」

 

実際にこの反応の制御に失敗し、リリーナは12の軌道上実験施設を失っていた。

 

安定してエネルギーを取り出すことは不可能だったが、余剰次元へと強制的に退避させることは容易だ。もちろん、こんなものを長期的に保持はできない。すぐさま開放する必要がある。しかし、波動砲のエネルギー源としては十分であった。

 

「そして、ブラックホール生成実験によって、必要なデータは揃ったわ!!」

 

余剰次元に詰め込んだエネルギーは、最終的に大量のマイクロブラックホールを用いて解放される。これをタキオン性粒子場による波動制御することで、波動砲として投射が可能になるのだ。

 

 

 

「まあ結局、要するに波動コアを強引に顕現させるような感じになったわね…………」

 

しかしその過程は非線形かつ自己増幅的であり、出力の微調整は不可能だ。一度起動すれば、プロセスは不可逆的に進行し、停止や調整という概念そのものが成立しない。

 

その結果、このリリーナ式波動砲には実用上の下限出力が存在し、それはリリーナの当初の想定を大きく上回る。抑えて撃つことができない以上、常に臨界規模でしか発射できない。

 

そしてこの制約は、そのまま艦の規模に反映される。暴走的に生成されるエネルギーを受け止め、退避させ、放出するためには、機構の巨大化は避けられない。結果として、波動砲を搭載する艦は、必然的に大規模なものとならざるを得ない。

 

「それにしても、これは酷いわね」

 

リリーナの目の前に展開されたホログラムには、全長15kmを超える巨艦が映し出されていた。艦の質量の過半は反応炉と制御装置に費やされ、その先端には、異様なまでに巨大な砲口が静かに口を開けている。

 

主兵装たる波動砲に加え、副砲として小型ながら中性子衝撃砲三連装八基、計二十四門が側面に湾曲砲塔として配されていた。その火力は、プロシア級に比してもなお劣ることなく、むしろ局所戦闘においては上回る可能性すらある。

 

リリーナはこの艦を「ナッサウ級波動実験艦」と命名し、ラインハルトとの約束である百隻の建造枠のうち、とりあえず十隻をこれに充てることを決めた。反応炉に用いられる希少合金の消費量は莫大であり、建造費はプロシア級とは比較にならない規模に達する。

それは単なる建造費の問題にとどまらない。艦一隻ごとに膨大な技術者と熟練工、専用ドックが必要になる。高出力反応炉を安定運用するための専門教育を受けた乗員の養成と、その維持訓練体系。新型艦にはこの手の問題が常に山積みになるのだ。

 

だが、今のリリーナには、それを問題としない理由があった。すべては任せておけばよい、そう思えるだけの、心強い夫がいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんですって!!」

 

そんなご機嫌のリリーナのもとに、オーディンからの急報が届いた。

その報は皇帝崩御。長きにわたって帝国を統治したフリードリヒ四世の死だった。

一瞬だけ、空気が止まる。

 

だが次の瞬間には、リリーナはその意味を理解していた。

機は来た。

わずかな間を置き、リリーナは振り返る。

 

「丁度いいわ。そろそろ辺境巡りには飽きていたのよ。この機に乗じて、面倒ごとを終わらせるわ」

 

「メックリンガー中将」

 

呼びかけは静かだったが、迷いはなかった。

 

「直ちにラインハルト様へ連絡をお願いするわ。『ブラウンシュバイク公爵およびリッテンハイム侯爵は叛徒と結び帝国領を侵し、さらには皇帝暗殺を引き起こした大逆人である』そう布告すると伝えてくれるかしら。加担した貴族も含めて、すべて処分するわ」

 

その言葉は、あまりに飛躍していた。 暗殺の証拠はなく、正式な審理も経ていない。あるのは辺境貴族から引き出した証言のみで、とても正当性を担保できるものではない。

だが、リリーナにとっては十分だった。

 

領土の管理人を統括してくれるであろうラインハルトさえ押さえていれば、それ以外に気兼ねする必要はない。ラインハルトに名目さえ立てば、それでいい。やらない理由など、どこにも存在しなかった。

 

さらに、リリーナはラインハルトがこのままでは研究予算をひねり出せなくなることを薄々感づいていた。そして、捻出するためには帝国の財布に手を突っ込む必要があることも。

 

だからこそ、ラインハルトにはさっさと帝国の全権を握ってもらって予算を出してもらう必要があるし、帝国内の邪魔者は文字通り全て消す必要があるとリリーナは思っていた。

 

 

「……無理があります」

 

メックリンガーは低く言った。

 

「うるさいわね」

 

リリーナは即座に切り捨てる。

 

「これは帝国の危機なのよ。ゴールデンバウム朝開闢以来のメルゲントハイム家として、この状況を座して見ているわけにはいかないわ」

 

あまりにも白々しいそれは、正義でも真実でもなく、ただ時代を押し動かすための意志そのものだった。

 

 





感想・評価よろしくお願いいたします。




今更ですが、いろんな都合で技術は2199ベースでいろいろぶち込んでます…………
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