銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

67 / 73
貴族連合掃討戦

帝国暦487年11月、帝国領辺境宙域 side: リリーナ

 

「我々からの宣戦布告を受け、ブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯を中心とした門閥貴族連合が結成されたようです。既にかなりの数の貴族がオーディンを離れており、現在ガイエスブルグ要塞およびガルミッシュ要塞を中核として、艦隊の集結が進んでおります」

 

報告は簡潔だったが、その意味するところは重い。リリーナの宣言、そして時を同じくリリーナと組んだラインハルトが帝都に接近したこともあって、大貴族たちは帝都を既に脱出して勢力の結集を図っていた。

 

特に、かねてから多くの艦隊が集まっていたガイエスブルグ要塞は今や銀河でも有数の大艦隊が集結しつつあった。

 

リリーナは一瞬だけ視線を落とし、すぐに顔を上げる。

 

「帝都のこともあるし時間を掛けている暇はないわ。ラインハルト様が帝都についてから時間がかかり過ぎたら、いらないものを処分するにもケチをつけられかねない。とりあえず、地上軍と大気圏内向けの火器を集められるだけ準備させておきなさい」

 

わずかに口元を歪める。

 

「オーディンでの処理ができるようにさっさとその連合とやらを叩き潰すわ。それから、同盟が再び動く気を起こさないように、イゼルローン回廊経由で恒星間誘導弾を撃ち込んでおきましょう。目標は……そうね、バーラト星系の適当な惑星で構わないわ」

 

リリーナが辺境で暴れ回っていたころ、門閥貴族たちはようやく危機をリリーナに一本化して共有し各自の領地に分散していた私設艦隊を本格的に集結し始めていた。

 

そこに、リリーナからの明確な敵対宣言という一撃が加わる。

 

外敵ではなく、同じ帝国内の一勢力によって、正面から戦端が開かれたことで、彼らはもはや退くことも分裂することもできなくなった。結果として、門閥貴族連合はようやく一つの戦力として収束する。

 

ブラウンシュヴァイク公が盟主、リッテンハイム侯が副盟主となって帝国の領主貴族の大半が参加する大規模な勢力となる。ガイエスブルグ要塞を中核に、各地から集結した艦艇は十万隻を優に超えた。規模だけを見れば、帝国史上でも屈指の大軍である。

 

だが、その戦略は意外にも攻勢的とは言い難かった。

 

リリーナと正面から艦隊戦をすれば勝ち目が薄いことは門閥貴族らも知るところであり、それを地の利によって補うというのが構想だった。

 

ガイエスブルグ要塞やガルミッシュ要塞といった防御の固い要塞に籠り、どこかの要塞にリリーナが引き寄せられたら攻められていない要塞から出撃してメルゲントハイム領を突く。そして敵中に孤立して弱ったところを全軍で討ち果たすというのが連合側の戦略だった。

 

なにしろ、リリーナは資源の継続的確保がなせなければ経済が崩壊しかねない。無理に要塞を攻めればリリーナといえども消耗は免れず、ラインハルトがオーディンでの政争に忙殺されているうちにリリーナを葬るという楽観的な前提で計画が進められていた。

 

 

 

 

しかし…………

 

「各地の要塞を、順番に落としていく必要はないわ。とりあえず、あちらが手を出してくる前に本拠地にされているガイエスブルグ要塞から攻撃するわよ!」

 

リリーナの声は、あまりにもあっさりしていた。メックリンガーがわずかに逡巡し、問いを投げる。

 

「……この戦力で、ガイエスブルグ要塞の攻略は困難ではありませんか。それに、敵中深く入り込めばメルゲントハイム領との道を断たれるおそれもあります。ここは一度帝都の騒乱が落ち着くのをまってからローエングラム伯と共同で敵にあたっては?」

 

それは正当な疑問だった。要塞戦においては、単純な艦隊戦力の優劣はそのまま通用しない。ましてや相手は十万隻規模の艦隊と要塞砲を備えている。要塞砲と機動艦隊を組み合わせた防御に対し、正面からの突破を試みれば、戦線の停滞は避けられない。その隙を突かれ、背後を断たれる危険性も十分に現実的であった。

 

しかし、リリーナは即座に首を横に振る。

 

「補給線を気にする必要はないわ」

 

言葉は短いが、否定は明確だった。視線を艦隊編成図へと移し、淡々と続ける。

 

「プロシア級と新型の工作艦、輸送艦。あれらにはすべて、最新の機関を積んでいるわ。単なる改良じゃない。そもそも設計思想が違うのよ。不安定な回廊を強行突破するために組んだ艦よ。船体強度も亜空間跳躍能力も、既存の艦とは比較にならない」

 

一瞬だけ間を置き、わずかに口元を歪める。

 

通常の艦隊が航路と補給に縛られるのに対し、この艦隊はそもそもそれらの存在を前提としていない。安定した航路や拠点を利用するのではなく、そうしたものが存在しない宙域での運用を前提として設計され、編成されているのである。

 

皮肉なことに、この構想が実戦投入されるのは、当初の想定よりも遅れた。リリーナ自身が自由惑星同盟の脅威を軽視していたため、銀河空間から外縁へ進出する段階までは必要性が低いと判断され、開発と建造は後回しにされていたからである。

 

しかし同盟領遠征の進行とともに状況は変わった。それに対応する形で建造が加速される。結果として、遠征の最中に完成した多数の輸送艦や工作艦が順次就役し、この特異な艦隊編成を現実の戦力として成立させるに至った。

 

「途中の面倒な星系からの追撃はすべて振り切る。その前提で動くのよ。あちらが再集結して戦線を整えるよりも先に、要塞そのものを機能不全に叩き込む。それさえ達成すれば、背後だの補給線だのという議論は、すべて意味を失う。問題なんて、最初から存在しないのよ」

 

 

 

 

それと同時に、リリーナは同盟に向かって飛ばしている新兵器の報告を受けていた。

 

「恒星間誘導弾は順調そうね。こんなこともあろうかと思って準備していて良かったわ!」

 

リリーナの指示によって発射された恒星間誘導弾は、イゼルローン回廊にむけて順調に進んでいた。帝国領内であるため、本領の部分は発揮されていないが、目標までの航路が無事にセットされていることにリリーナは安心していた。単純が故に不安もあったが、とりあえずは問題ないようだ。

 

「従来の兵器とは設計思想が違うからどうなるかは分からないけれど…………」

 

その弾頭には、衛星解体を目的として開発された巨大核爆弾が搭載されている。単純な破壊力だけを見れば、それだけでも十分に過剰であったが、本体の本質はそこにはない。あくまで最終目的の破壊を担保する程度のものだった。

 

むしろ問題は、その外殻と推進系にあった。

 

誘導弾は分厚い装甲によって完全に被覆され、その内部には二十四基の通常航行用エンジンに加え、三百基を超える大型の特殊ワープエンジンが組み込まれている。

 

だが、それらのワープエンジンは単なるワープのために用いられるのではない。

 

意図的に同期を外し、位相をずらした状態で作動させるそれがこの兵器の中核だった。

 

通常、ワープ機関は空間の歪みを最小化し、安定した跳躍を実現するよう精密に同期制御される。だがこの誘導弾では、あえてその前提を破壊する。各エンジンは微妙に異なるタイミングで起動し、互いの位相干渉を引き起こすよう設計されている。

 

その結果、生成される空間歪曲は整流されず、干渉と重畳を繰り返しながら急激に増幅される。さらに供給されるエネルギーの大半は推進ではなく、この歪曲現象、すなわち時空震の生成へと変換される。

 

「つまり、ワープを移動ではなく、現象の発生手段へと転化したという話なのよね」

 

発生する時空震の規模は凄まじい。局所的な空間の歪みは、数百キロ級天体の重力擾乱に匹敵し、周辺宙域の航行条件を一時的に破壊する。通常の艦艇であれば、数AU離れた位置であっても航行系に深刻な影響を受け、姿勢制御やワープ計算に致命的な誤差が生じる。

 

さらに問題なのは、時空震が収束していない状態での再跳躍である。この領域でワープを試みれば、空間座標の定義自体が不安定なため、艦は正常な遷移を行えず、時空の狭間に拘束される危険性すらある。

 

すなわちこの誘導弾は、直接的に敵を撃破する兵器であると同時に、広範囲の宙域そのものを一時的に航行不能にする兵器でもあった。

 

味方のいる領域では使いにくく、またその効果も一時的である。さらに、通信や自身の位置の推定に難があるという弱点はあるものの、単純な誘導装置でもそれなり以上の効果を発揮する。

 

「まあ、種が割れたらすぐに対策されるでしょうけど…………」

 

そして敵にとって何より厄介なのは、その運用方法である。

 

時空震がようやく減衰し、宙域が安定を取り戻し始めた頃、誘導弾はすでに次の跳躍に入っている。再び位相のずれたワープが実行され、同様の時空震が発生する。

 

結果として、この兵器は断続的に現れては空間を破壊し、盛大に痕跡を残しながら目的地に接近する。

 

追跡も迎撃も成立しない。ただ、対象に迫っていくことを見守るしかない…………そういう兵器だった。

 






感想・評価よろしくお願いいたします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。