銀英伝で波動砲を撃ちたいTS科学者   作:ヤキブタアゴニスト

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オーディン騒乱

帝国暦487年11月、ガイエスブルグ要塞周辺宙域 side: リリーナ

 

メックリンガーを見送ったリリーナは、全艦隊に次なる行動を命じていた。

 

「これで大貴族たちはメルゲントハイムに攻め込むどころか、まともに動けるかすら怪しいわ。この隙に帝都で片を付けるわよ。」

 

リリーナはここにきて面倒なものと不要なものを排除することを決めていた。

 

「全艦、帝都に向けて発進!それから、例のものも進めさせなさい!!」

 

リリーナの艦隊は一路全てを無視して帝都オーディンへと直進する。多数の輸送艦ともども新式の機関で亜空間跳躍を繰り返し、ガルミュッシュ要塞を無視して帝都へと向かう。

 

「一気に終わらせるわよ!!」

 

リリーナの魔の手がついに帝都オーディンに達しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

帝国暦487年11月、ヴァルハラ星系 帝国首都星オーディン side: ラインハルト

 

 

その一方でラインハルトはリリーナが帝都に直進せずに、貴族連合との戦いにまだ少しの時間を要すると考え、キルヒアイスを連れて帝国宇宙艦隊総司令官ミュッケンベルガー元帥のもとを訪れていた。

 

 

 

ラインハルトが部屋に通された時、ミュッケンベルガーは背中を向けて窓際に立っていた。

 

威風堂々たるその背は、依然として直立している。だがラインハルトには、それがわずかに縮んだようにも見えた。長き戦役と、そして時代そのものが、彼の背から何かを奪い去っていた。

 

「来たか」

 

振り返らぬまま、ミュッケンベルガーは言う。

 

「イゼルローン陥落の際に、職を辞するつもりであった。だが……あれを制御するためという名目で、引き留められていたのだ。だが、その役目も終わる。卿がすべてを引き継ぐというのであればな」

 

ゆっくりと振り返る。その眼には、奇妙な安堵すら宿っていた。ラインハルトにはそれがミュッケンベルガーらしくないと感じていた。

 

「良き時期に退任できると、心の底から思っている。……して、どのような用向きかな」

 

ラインハルトは、ほんの一瞬だけ沈黙した。そして、斜め後ろに控える親友をちらりと見る。

それは逡巡ではない。言葉を選ぶための、最小限の時間。

 

「……恥を忍んで、お願いに参りました」

 

ミュッケンベルガーの眉がわずかに動く。

 

「ほう」

 

「あれを、止めるために力を貸していただきたい」

 

静かに、しかし明確に告げられる。その言葉に、ミュッケンベルガーは一瞬だけ目を細め、そして、かすかに笑った。

 

「これはまた……物好きな頼みだな」

 

軽い調子ではあったが、その内側にあるものは重い。

 

「無理に結婚させられたわけでもなければ、夫たる卿の言葉を無視する訳ではあるまい。夫婦のことは、夫婦で解決すべきではないのか。そもそも、私の言うことだろうと、容易に聞くようなあれではない。門閥貴族の機嫌取りも狂犬の世話ももはや私の仕事ではない」

 

その言葉には、疲労が滲んでいた。ミュッケンベルガーは、ゆっくりと息を吐く。

 

「あれの父親も自由な男だった。だが、ついぞ誰にも繋ぎとめることはできなかった。ヘレーネも随分苦労していたようだ。……血筋というよりは、あの手の人間特有の性質だ。理屈を理解したうえで、それを無視するが故に手に負えん。ある程度は卿が力で抑えるべきものだ」

 

ラインハルトはわずかに視線を落とし、それでも言葉を選びながら続けた。

 

「これを……ご覧いただきたい」

 

そう言ってラインハルトが差し出したのは、一枚のデータパネルだった。

そこに示されているのは、リリーナが開発し、建造中の波動砲の威力想定。それを空間規模で可視化したものだった。

 

惑星圏が塗り潰され、恒星近傍すら歪める規模のエネルギー投射。

それは、戦争のための火力ではなかった。世界を破壊しつくしかねない力だった。

ミュッケンベルガーは無言のままそれを見つめ、やがて低く呟く。

 

「……正気ではない」

 

だが、その言葉は単なる罵倒ではなかった。軍人として、そして長く帝国の戦争を見てきた者としての、冷厳な判定であった。

 

ミュッケンベルガーがなお深く考え込もうとした、まさにその時だった。

 

 

 

遠くで爆発音が響いた。

 

遅れて、低く重い振動が空気を揺らす。窓枠が微かに鳴り、室内の空気が一瞬だけ硬直した。

 

 

「何事だ!」

 

ミュッケンベルガーの声が鋭く飛ぶ。

 

副官が通信端末に飛びつき、続けざまに入る断片的な報告を整理しようとする。

 

「詳細不明です。ただ、ノイエ・サンスーシ方面から白煙を確認。宮殿区画に対する何らかの攻撃と思われます」

 

ラインハルトの表情が変わった。

 

「姉上……!」

 

「アンネローゼ様…………!」

 

その一語だけが、ラインハルトとキルヒアイスの口から漏れる。

 

その直後、別の士官が青ざめた顔で振り返った。

 

「閣下、続報です。大気推進型の超小型ミサイルと思われる攻撃です。複数発が侵入し、迎撃網を突破。着弾点はエルウィン・ヨーゼフ殿下の宮殿に集中しています。」

 

「なんだと。なにをやっている!!」

 

ミュッケンベルガーの声は低かった。

 

「それで被害はどうなっている!!」

 

「殿下の宮殿区画はほぼ完全に破壊されています。生存者の確認は困難。殿下の安否は…………」

 

士官が言葉を詰まらせる。

 

言わずとも、結論は明らかだった。ラインハルトは窓の外を見据えたまま、拳を握る。

 

さらに郊外でも複数回の爆発が確認され、民間宇宙港の一部が炎上した。

帝都防衛の名目で配置されていた憲兵隊がようやく動き出すが、その対応は局所的で、全体の統制には至っていない。

 

混乱が拡大し始めた、その時だった。

 

「ラインハルト様!」

 

キルヒアイスの声が、これまでにない緊張を帯びて響く。

 

「オーディン外周のミッターマイヤー提督より緊急通信です。星系内、オーディンから約二百万キロ地点にて大規模艦隊のワープアウトを確認。識別信号より、メルゲントハイム伯の艦隊と断定されます。現在、高速で接近中…………オーディン到達まで数分とのことです!」

 

一瞬の沈黙。

 

だが、その報告に対して驚きを示す者はいなかった。むしろ、先ほどまでの事象が、一本の線で結ばれる。

 

ラインハルトはゆっくりと息を吐いた。

 

「……これは、明らかに意図的だな」

 

低く、確信を含んだ声だった。ミュッケンベルガーも頷く。

 

ラインハルトは即座に判断を下す。

 

「ミッターマイヤー艦隊に背後から追わせろ。それからビッテンフェルトにプロシア級を率いて行動を阻止するよう命じろ。旗艦以外は撃破して構わない、気狂い女をひっ捕らえてこいと伝えろ」

 

キルヒアイスが即座に操作し、ホログラムを展開する。

 

「ラインハルト様、間に合いません」

 

その声には、珍しく明確な焦燥が混じる。

 

「帝都管制は進路変更と減速を要求していますが、応答はないようです。艦隊はそのまま降下軌道に入りつつあります。この速度では、迎撃に移行しても接触までの時間が足りません。ノイエ・サンスーシ直上へ向けて降下を継続中です。……強行着陸するつもりのようです」

 

ラインハルトはホログラム上の軌道を見据えたまま、わずかに目を細める。迎撃が間に合わない速度と角度を選び、最短時間で中枢へ到達するよう設計されている。なにより、惑星至近への亜空間跳躍というのはリスクが高い。しかし、そんなことに驚くほどの余裕はなかった。

 

その時、別の通信が割り込む。

 

「ラインハルト様、ミッターマイヤー艦隊より連絡です。メルゲントハイム伯からの伝言『我が艦隊は、フリードリヒ四世陛下を弑逆し、帝国の大統を壟断せんとする逆臣を捕縛するためにここにいる。進路を妨げる者は、すべて逆賊への加担と見なす。ノイエ・サンスーシに何が存在し、それに我が艦隊に何ができるかを考えろ』…………とのことです」

 

キルヒアイスの報告が終わる。

 

室内に短い沈黙が落ちた。ラインハルトは歯噛みする。それは怒りだけではない。状況の構図を完全に理解したがゆえの、わずかな苛立ちだった。

ゆえに、ここで選び得る手段は一つしか残されていない。遠隔からの指揮や命令ではもはや介入しきれない以上、直接現場に赴き、リリーナ本人と接触するほかに道はなかった。

ラインハルトは思考を切り替え、ノイエ・サンスーシ上空へ向かうシャトルの準備を命じる。それが、この局面で取り得る唯一の現実的な対応であった。

 






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