タイトルだけの一発ネタ
全能系おねえさんもっと増えろ


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 最近、いいカフェを見つけた。

 

 夏の暑さが少しずつ本格化してきている中、カフェの扉を開けると、涼しい空気とともに、鈴の音を聞いたマスターがこちらに微笑んでくれる。

 

「いらっしゃい。注文はいつもので大丈夫?」

「大丈夫です。今日は何ですか?」

「今日はマンデリンと抹茶のブラウニーよ。少し待ってて頂戴」

 

 マスターの目の前のカウンター席に着く。いつもこの席で、おすすめのコーヒーとお菓子を頼んでいるからか、通っているうちに注文も覚えられてしまった。

 

 コーヒーを淹れるマスターの綺麗な所作を見ながら、このカフェを見つけた時のことを思い出す。高校に入ったはいいものの、中学生の時に入っていた家庭科部は高校にはなくて、かといって他の部活に入る気も起きなかった。趣味の料理が部活でできないから、持て余した放課後の時間は、家で料理をしたり、自分の料理に何か活かせないかとカフェや食堂を巡ったりしていた。

 

 初めてここに来た時は、このお店を見つけるのに苦労して、近くで数分迷った覚えがある。オシャレさの欠片もない、周りのビルと同じような塗装の壁。申し訳程度で、特に凝っているわけでもない植栽。コーヒーがかたどられているシンプルな袖看板と、扉にかかる「OPEN」の文字がなければ、本当にオフィスにしか見えない外装で、大通りから路地を数本入ったところにあるのもあって、とても見つけ辛かった。私も、マップでここがカフェだと示されていなかったら、何も気づかずに通り過ぎてしまっていたと思う。

 

 無骨な外装とは裏腹に、内装は木を基調にした温かみのあるものだった。店内にはどこからか日の光が差し込んでいて、木彫の入った机と椅子を照らしている。初めて入った時には、外見との違いに驚いて声を上げてしまい、少し恥ずかしい思いをした。

 

 そうしているうちに、カウンターからマスターが注文の品を持ってきてくれる。

 

「おまたせ。深煎りのものだから、苦かったら調節して頂戴」

「ありがとうございます。いただきますね」

 

 結構な数のお店を見て回ったけど、梅雨明けにここを見つけてからは、もうここにしか来なくなってしまった。マスターの作るお菓子や料理はとにかく手が込んでいて、材料や作り方、コーヒーとの相性にこだわっていることが伝わってくる。コーヒーも、一口飲んだだけで、他のお店のコーヒーとは明らかに違うことが分かる。コーヒーのことはまだ勉強中だけど、カウンターの裏にある様々なコーヒー豆や、大きいサイフォンを見ると、料理と同じようにすごくこだわっているのだろう。初めて口にした時から、そのこだわりすっかり惚れ込んでしまって、何か自分のものにできないかと足繁く通っていたら、夏休みに料理を教えてもらえることになって、もう楽しみで楽しみで仕方ない。

 

「ん、やっぱりおいしいです」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。今日の学校はどうだった?」

「そう、聞いてくださいよ!今日家庭科の実習で洋裁やったんですけど、もうみんな滅茶苦茶で……!ミシンの使い方は覚束ないし、型紙通りに切るのもできないしで……。おかげで自分の作業はほとんど進まなくて……」

「ミシンなんてそこそこ複雑な機械、普段から使ってなければそうなるのも当然だと思うけどね。でも、そこで他人を手伝うあたり、葵ちゃんも優しいじゃない」

「自分ができることに梃子摺ってるのを見てるのって難しくないですか?褒められて悪い気はしないですけど」

 

 そんなこのカフェだが、不思議なことが一つある。このお店に初めて来た時から、私以外のお客さんを一切見たことがないのだ。いくら裏路地にあるからといって、いくら外観が地味だからと言って、周りのオフィス街から少しも人が流れてこない、ということはないだろう。なのに、このお店はいつ来ても閑古鳥が鳴いている。午前中で学校が終わった日に、お昼にここに寄った時も、実習で遅くなって、日が落ちるギリギリにここに来た時も、お昼ご飯や早めの夕食を食べる人がいてもよさそうなのに、店内には静かに本を読むマスターの姿しかない。マスターと喋るのは楽しいし、他のお客さんがいない分マスターを独り占めできるのは正直嬉しいのだけれど、それよりも、経営的な心配の方が勝ってしまう。

 

「あの……」

「あら、どうかした?」

「失礼ですけど、このお店、大丈夫なんですか?いつ来ても私しかお客さんいないですけど……」

「あぁ、それについては心配ないわ。別にそれほど赤字が出てるわけでもないし、他でも稼いでるしね」

「本当ですか?値段は良心的ですし、この味だって、お金掛かってるの私でも分かりますよ?」

「そんなものでもないわよ?設備と材料があれば葵ちゃんならすぐできるようになるわ。まぁ、経営は向こう数年は大丈夫よ」

「頼みますよ?ここの料理をものにするまで、潰れてもらっちゃ困るんですから」

「それなら、夏の勉強会はもう少し気合入れようかしら」

「望むところです!」

 

 まぁ、いろいろ心配しても、私にできることは、精々ここに通い続けることくらいなのだ。マスターの料理が食べられるのなら、マスターの静かな微笑みが見れるのなら、私がここに通う理由はそれで充分。せめて自分だけでも、マスターの助けになれればなぁ、と思う。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

「ご馳走さまです。今日もおいしかったです」

「よかったわ。じゃあまたね」

「はい!夏休みのお料理教室、楽しみにしてますから!」

「はいはい」

「じゃあ、また今度!」

 

 店を去っていく常連の少女の姿を見送る。私への憧れがひしひしと伝わってくるその姿に、すっかり絆されてしまった。つくづく自分は悪人になりきれない、と思いつつ、今日も彼女の後を追う。

 

 ──彼女は、餌である。

 

 埒外から迫る魔のモノが、どうしても惹かれてしまう、魂魄の輝き。それを持つ者にしか、私の店は認識できないようになっている。よって、彼女は魔のモノに対する囮であり、その魔のモノを狩るものが私である。

 

 路地裏に店を構えているのは、隠蔽が楽だというのもあるが、こういった連中に餌を襲わせやすい、というのが大きい。

 

 路地裏から通りに出る彼女を追っていると、彼女の背後の空間が歪み始める。その歪みに干渉し、歪みの向こう側に足を踏み入れる。

 

 目の前に広がるのは、石造りの大広間。光の差さない薄暗い空間に、歪みの向こうから光が差し込んでいる。その光を背にした私の眼前には、いかにも魔術師然とした格好をした男達が、今にも”此方側”に攻め込もうと勇み足である。もっとも、その足取りは歪みから現れた私を見て止まっているが。

 

 男達の中で、一層豪奢な装備を着込んだ先頭の男が、鋭い目付きで口を開く。

 

「お前、何者だ?我々の術式に干渉しあまつさえ此方に踏み込んでくるとは、並大抵の実力ではあるまい」

「魅力的よねぇ、彼女。その魔力のためなら世界を渡るのも厭わない程度には」

 

 私の後ろでは、歪みがその大きさを増していき、人が余裕を持って通れるほどの歪みから、路地裏の景色が覗いている。

 

「あくまで質問には答えないつもりか。魔力に関しては、お前程の魔術師であれば分かるだろう。あの魔力は腐らせるには惜しい。彼女は偉大な魔術師になるだろう。それを活かすのが我々の責務である」

「あの文明は非魔術文明としては稀有な成功例なのよ。私に免じて見逃してくれないかしら」

「魔術のない文明に魔術を授けることの何が悪いのか。我等が皇帝は寛大にも遅れた文明に魔術を授けることをお望みである」

「その遅れた文明の一個人に逆侵攻されてたら世話ないわね」

「皇帝を愚弄するものは最早生かしておけんな。皆、やれ」

 

 その一言と共に魔術師達の下に魔力が集まる。前方の者はその肉体を強化しこちらに向かってくる。後方の者は杖や魔導書を掲げ魔術をこちらに発射しようと詠唱を行っている。その姿を認識した私は、諦めの思いと共に、一つ、呟く。

 

──跪け

 

 途端、魔術師の集団は、その全員が頽れる。全員が苦悶の表情を浮かべ、指先一つ動かせない有様である。

 

「まぁ、こんなものよね。理知的な接触なら便宜を図るから、私に念話でも送って頂戴。それくらいのことは出来るでしょう?」

 

 先頭の男がようやくと言った様子で口を開く。

 

「貴様、その実力、その態度、一体何様だ?」

 

 その問いに、私は路地裏の夕日を背に、こう答えるのだ。

 

──神様、よ。




感想書く暇があったらお前らも全能系おねえさんを書くのだ

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