あの輝きに憧れて   作:春乃遥

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お久しぶりです。そしてはじめまして。
ゆるーくやっていくつもりです。


1.かつては夢見た「私」

 明日は学校に行きたくない―――そんな感情を抱えていても口から言葉が出ない、素直に嫌だと言えない。小さい頃はいつもそうだった。やりたくもない勉強と遊びを延々とさせられる毎日。「やりたくない」、「楽しくない」と言えば「変なの」と輪から外され、そのまま放置。子供は純真無垢なだけに悪気というものは一切無い。私にとって「みんな仲良く」は呪いの言葉で、小学校の学校生活ほど辛いものはなかった。

 

 それでもなんとか通えていたのは、双子の姉、一歌とその友達がいたからだろう。教室のすみっこで一人本を読んでいる私と違い、明るくていつもクラスの輪の中にいる。名字の通り、まるで『星』みたいな存在だった。

 

 こんな暗くて陰気な奴、放っておいて遊べばいいのに気付けば彼女はいつも私の傍にいた。特に何かするわけでもなく、ただ隣の席に座っているだけ。

 

 暫く無言の時間が続くと何処からともなく癖っ毛をツインテールにした女の子、咲希が間に入ってきて話しかけてくる。至福の読書タイムは唐突な終わりを迎え、咲希を追いかけてきた志歩と穂波を交えて五人でわいわいと騒ぐ―――

 

 それは一日の中で一番騒がしく、でも不思議と居心地は悪くない時間で。暗闇にいた私にほんの少し、少しだけ希望を与えてくれた。

 

 姉みたいになりたいと思った。咲希達みたいな誰かにとっての友人になりたいと思った。思ってしまった。なまじ強い輝きを見たばかりに、自分もソレになれると勘違いをして、落ちて、堕ちた。

 

 ―――ねぇ神様。もしいるんだとしたら教えてくれない?私達は皆主人公なんじゃなかったの?これまでずっと信じてきた。だからここまでやってこれた。でも、でもそうじゃなかったら、私はどうすればいいの?ねぇ···

 

 どうしても星に近づけず、泣きじゃくっている一人の子供に、神は残酷な現実を見せた。早いうちに夢から覚めさせてやろうという神の慈悲か、或いは足りない物を優しく教えてやっただけかもしれない。もしかすると神なんて存在はただの妄想で、いずれ見るべきものを他の子よりちょっとばかし早く見てしまっただけかも。

 

夢見る子供は知ってしまった。この世界にはどうやっても手に入らない輝きがあるのだと。

夢見る子供は気づいてしまった。自分はそんなもの、一欠片だって持っていないことを。

夢見る子供は目を背けたかった。一歌と咲希、穂波そして志歩の四人は『それ』を持っているという事実から。

 

 

 憧れは人の才能を無意識に羨んでいる証だと言う。いくら欲しい、欲しいと藻掻いて、足掻いて、手を伸ばしても届かない。近づくどころか寧ろ自分から遠ざかっていく。いつしか諦めて、心から消えてしまった感情である「ソレ」は、ある日を境に私の心に突如としてまた芽生えたのだった。

 

――――――

 

 

 昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。読みかけの小説を閉じて欠伸をしながら、さっさとロッカーに向かって次の時間の教科書を取りに行く。ついでにあの事を忘れているであろう前の席に座っているオレンジ髪の男の肩にポンと手を置いた。

 

「彰人くん、今日日直だったよね?黒板消さないと次の授業始まっちゃうよ。」

『っとそうだった。教えてくれてありがとな。』

「そこまで大したことはしてないからお礼はいいって。」

 

 律儀だなぁ、うるせぇと軽口を叩きながら黒板を消している友人――東雲彰人とはビビットストリートで迷っていた時に偶然入ったライブハウスで出会って以来、こうやって気楽に話せる仲になった。最初は好青年のイメージが強かったが時間が経つにつれて化けの皮が剥がれたのか、それともこちらが本当の彼なのか、まぁ恐らく後者だろう···今俺が見ている無愛想で遠慮のないヤツになった。暫く眺めていると視線に気付いたのか、彼が訝しげにこっちを見ている。

 

『見てて楽しいか?』

「意外と気付きがあって面白いよ。」

『例えば?』

「キミのお姉さんと雰囲気が似てるところとかかな。なんやかんや言って真面目にやってくれてるのがいかにも姉弟って感じ。」

 

 その言葉がお気に召さなかったのか、彼の表情が若干強張った。

 

『···聞いた俺が馬鹿だった。つーかなんで姉貴の事知ってんだよ。』

「それは勿論生徒会の特権ってやつだよ。夜間定時制の生徒に連絡を入れる時にお世話になってるからね。」

 

 へぇ、アイツがなぁ···と何故か遠い目をしながら黙々と黒板を消していく彰人くん。神山高校の生徒会は何かと多忙な事が多いので、役職が割り振られていない下っ端にも結構な量の庶務が振り分けられる。夜間定時制の生徒にも生徒会の人間はいるが如何せん人数が二、三人と悲惨なので二年生の俺達が放課後まで居残りして連絡して回る。

 口頭連絡より全校生徒にメールで転送とかの方が良さそうなんだけどねぇ···主に俺達生徒会の負担を軽減する面で。

 

『そういや星乃も姉弟がいるんだっけか。たしか名前は―――』

「一歌。姉···まぁ後に出てきたか先に出てきたかの違いだけどね。名前呼びしてるから姉弟って感覚は薄いかな。」

 

 俺の姉。····姉?双子の片割れである星乃一歌。宮女に通っていて最近プロデビューしたバンドのギターをやっている。クールな外見とは裏腹に好きな食べ物は焼きそばパン、趣味はサボテンを育てること、おまけに極度の初音ミクオタクで部屋の棚のCD入れは全てボーカロイドの曲で埋め尽くされている始末。オタクの自覚がある俺目線でも相当な部類だと思う。父さん達が何も言わないのは容認しているからなのか、それとも隠しているのか。真実は神のみぞ知る。

 

『いままで散々愚痴を聞いてきたけど、流石にうちの姉貴より人遣いは荒くなさそうだな。』

「···何処の家庭も似たようなもんじゃない?」

『お前の家もそうか···』

「絵名さんって人遣い荒いんだね。知らなかった···」

『···さっきの言葉、そっくりそのまま返してやる。』

 

 そこに関しては半ば諦めて受け入れるしかない。あっちは姉でこっちは弟。この世に生を受けたときからどっちが上かなんてわかりきっているのだ。大人しくパシられよう。

 午後の麗らかな日光が教室に差し込んでいるのにも関わらずここだけ雰囲気がお通夜になっている。このまま五限目を乗り切れる自身が無い。いっそこのまま時間が止まってくれれば良いのに、なんて願いは当然のように叶わず授業開始のチャイムが鳴る。

 

『ほらさっさと座るぞ。』

「はいはい。因みに今日の放課後って暇だったりする?」

『暇って言ってもWEEKEND GARAGE(いつもの場所)で冬弥達と練習だけどな。』

「ん、そっちのほうが寧ろ有り難い。ちょっと謙さんに用事があってね。」

 

 机から一枚の紙を出してひらひらと振ってみせる。見るや否や、彼はこめかみをぐりぐりと押して大きな溜め息をついた。

 

『···お前なぁ。』

「校則の事ならご心配なく。ちゃーんと校長先生(お上さん)に許可は取ってあるよ。」

『そういうことじゃねぇ。···後で話したい事がある。』

 

 彰人くん、いや『彰人』にしては珍しく真剣な眼差しをしている。話とやらの内容は気になるところだが、それは果たして「友人として」なのか、或いは「夢を持った一人の人間として」なのか。

 

「了解。」

 

 了承の返答だけして教師の注意を聞き流しながら席に着く。ついさっきまでお通夜の空気だった俺達は、当然のように授業を最後まで聞くことなく夢の世界の住人になった。

 

 

 




主人公の名前は後程。
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