最近忙しかったからね、仕方ないね。
お詫びとしてヒロイン出しますお。
病院内を歩き、やがてそこにたどり着いた。
他の病室とは打って変わって厳重な扉に閉ざされたその部屋は、入ってみると、小さめの公園程の広さで人工芝が敷き詰められていた。
その部屋の中央に、そいつは居た。
「久しぶり⋯なんかな?ウルガモス」
「ピィップ」
先日の戦闘で大怪我を負った筈なのに、もう完全に回復しているように見えた。
すごいなポケモンって。生命力が段違いすぎる。
「ウルガモス、今日はお前に感謝を伝えたかったんだ。ありがとう」
「ピィップ」
「森で彷徨っていた俺達を見つけてくれてありがとう。ヘルガーから⋯ビビヨンから守ってくれてありがとう。この恩は絶対に忘れない」
手を身体の横にまっすぐに付け、踵を合わせて腰を45度曲げる。
日本に伝わる、相手に最大の感謝を伝える礼法、最敬礼である。
ウルガモスは何も言わず、差し出される形となった俺の頭を見つめていた。
冷や汗が俺の首筋を辿った。
緊張しているからだけではない。ポケモンに対して多少なりともトラウマを負ってしまった事による、精神的ストレスだった。まぁ要はポケモンがちょっと怖いということなのだが。
ウルガモスは何も言わなかった。
「レン、そろそろいいだろう。それ以上はお前の精神に悪影響が出る」
「⋯⋯⋯わかった。じゃあ、また会えるといいな、ウルガモス」
そう言って俺はザニアに支えられながら部屋から出ていった。
最後、ウルガモスが何か言いたそうにしていた気がした。
病室に戻ってくると、ベッドの上に大きな段ボールが置かれていた。
長方形のそれは、持ってみると結構重かった。大体4、5kgくらいだろうか。
ザニアに許可を取って開けてみると、クッションとプチプチに包まれた腕が出てきた。
一瞬びっくりしたが、よく見ると、金属やプラスチックでできた義手だった。
「どうだ、驚いたか?正真正銘、お前のために作られたお前の義手だ。費用は保険と一部
「マジかよ⋯スッゲェ⋯」
あまりのことに呆然としてしまった。
正直諦めていた左腕が、義手とはいえまた使えるようになるというのは、俺を感激させるのには十分だった。
思わず涙目になる俺に、ザニアが肩を叩いて一言。
「よかったな」
その夜、病院では一人の青年の泣く声が聞こえたとか。
翌日、左肘に義手を取り付けてみた。
思っていたよりも簡単に装着することができたが、いまいち違和感は拭いきれなかった。が、ザニア曰くすぐ慣れるそう。
幸い右利きなので慣れるまでもなんとかなるだろう。
俺は元気に今日も組合へと向かった。
「あでっ」
「おっと」
病院から出ると、白衣を着た男性とぶつかってしまった。
男性の持っていたカバンからバサバサといくつかの書類がフライアウェイ。
「あ、すみません」
「あーいえいえ、こちらこそ」
謝罪しながら書類を集めて男性に渡す。
「すみません、ぶつかっちゃって」
「いえいえ、僕の注意不足なので。拾ってくれてありがとうございます」
「あぁいやそんな⋯」
書類をカバンに収めた男性は、「それでは」と言って去っていった。
シュラ地方とか言いつつとても平和なやり取りだった。まだまだ捨てたもんじゃねぇな。
その後、組合のボロい建物に入って行くと、昨日のおじさんが待ち構えていた。
「ようボウズ。今日はお前にうちの連中を紹介するぞ。おーい!アネモ!カラン!降りてこーい!」
おじさんが奥に向かって叫ぶ。
しばらくして、二人の女性が歩いてきた。
一人は背の高い大人の女性で、白衣と眼鏡を付けているので博士感がすごい。あと胸部装甲がでっかい。
もう一人は小柄な少女で、金髪ショートにダボッとした黒パーカーで、ちょっとギャル味というか、ヤンキー味がある。胸部装甲は薄い。
「あ~、君が例の少年か。はじめまして、私はアネモ。この地方一番のポケモン博士だよ。よろしく」
「マジで博士だった。こちらこそよろしくおねがいします」
アネモさんと握手を交わす。赤い瞳に見つめられると、思春期男子のミーは照れてしまう。おいおじさん、ニヤニヤすんな。
にしてもこの人顔がいいな。モデルとかやったら結構稼げそう。(小並感)
「あ、えっと⋯アタシ、カラン。よろしく⋯?」
「え、あ⋯よろしく?」
なるほど、このカランって子はちょっと人見知り気味なのかな?
「カラン、お前、今日新しいファミリー来るから喋る準備しとけって言っただろうが。すまんな、こいつ人見知りでよぉ」
「あーいや、大丈夫です」
「ちょっと、クロッカおじさん!言わないでよ!」
なんだろ、この子可愛いな。あとおじさんクロッカって名前なんだな。今になって初めて知ったよ。
「うちにいるのはこの二人だけだ。基本家に居ないアネモと、基本外に出ないカランと、大黒柱の俺、あとは保護したポケモン達で暮らしてる。まぁポケモン
「え、じゃあ俺の手持ちになる子って残ってる方の子で決定なんですか?」
「まぁそうなるな。ただあいつぁ結構な曲者でなぁ⋯」
「え、それ俺にトレーナー務まります?」
トラウマ有り
うん、不安しかねぇ。
「まぁどうせ会うことにはなるんだからよ、身構えたところでだろ」
「まぁそうですけど⋯」
「ま、取り敢えずおとなしい子で慣れてくしかねぇな。カラン」
「はいはーい」
カランがボールに手をかざすと、その子は出てきた。
「プッキュイ!」
「えっ、可愛い〜!」
出てきたのはイーブイ。そう、ポケモン界のアイドル、イーブイである。
茶色の毛がふわふわでちょーかわいい。癒やされる。
「フフン!そうでしょ!可愛いでしょ、うちのイーブイ!」
「えぇ〜マジで可愛ぃ〜モフりてぇ〜」
「もう既に脳みそ溶けてるわね」
「あ、あぁ⋯重症だな」
クロッカおじさんとアネモさんが何か言ってるけどそんなの知らん。
可愛いは正義、よく分かんだね。
「プッキュルル!」
「この子、人懐っこいんだな」
「うん。よく知らない人にも甘えてるからヒヤヒヤするよ」
「大変なんだねぇ」
「まあね。でも、君の相棒になるかもしれないあの子の方が大変だと思うよ。⋯別の意味で」
「それってどういう⋯?」
俺がそう問うた次の瞬間、眼の前を黄色い何かが通り過ぎた。
そいつは俺を値踏みするかのようにジトッと眺めながら、近づいてきて一言。
「ビガァ」
ヤンキーのようにドスの利いた声(当社比)でガンを飛ばしてくるのは、国民的アイドル、ピカチュウだった。
黄色い体毛に長い耳、ギザギザ模様の尻尾と赤い電気袋。見覚えが有りすぎるはずなのに、そいつはあまりにも想像していた姿とかけ離れていた。
一言で表すと、ガラが悪い。まるで田舎のヤンキーの兄ちゃん。第一に、目付きが悪い。キュルンキュルンなお目々ではなく、鋭いツリ目。第二に、態度が悪い。公民的アイドルがヤンキー座りをするな。第三に⋯
「ケッ」
「なんじゃオメェヤンのかコノヤロォ!」
こいつ、俺の服に唾かけやがった。若干毛玉混じってるし。
人間様を舐めんじゃねぇ!
連続普通のパンチを放つが、全て避けられる。そしてすぐバテた。
それを見てニシシと笑うピカチュウ。
腹立つこいつ!
「ビッ!」
「アバババ!」
ピカチュウの“でんきショック”!!
レンはたおれた!!
「幸先不安だなぁ⋯」
「⋯⋯この人、大丈夫なの?」
「私の見立てだと病院に直行しないとだね」
「で、またここに戻ってきたという訳か」
「スンマセン⋯」
返す言葉もない。
「まぁ今回は軽症だからもう大丈夫なんだがな」
「じゃあ帰りますと言いたいけどまだ帰る場所ここなんだよな」
「明日まではだがな」
「もうそんなか」
「そうだな。まぁ荷物無いし別にいいだろう?」
大丈夫かな、あそこ。日本で育った俺はあの環境に耐えられるのだろうか。無理な気がしてきた。俺アメリカ旅行でめっちゃ風邪引いたんだよ。明日朝一番に掃除しよ。
そんな会話をしていると、ザニアが何食わぬ顔でテレビを付けてニュースを見始めた。
「なぁここ俺の部屋」
「ここ私の担当病棟」
こいつ⋯この俺とやり合うってか⋯。いいぜ、かかってこいよ。レスバは俺の得意分野だぜ⋯!
反論しようと口を開いた瞬間、聞き捨てならない言葉が耳に入ってきた。
『最近、ここ、ザラントシティにて、黒い蝶ポケモンの目撃情報が相次いでいます。レンジャー協会は、新種のポケモンの可能性があるとして調査を進めているとのことです』
そう言ってテレビに映された写真には、真っ黒な羽を羽ばたかせて夜空に舞う蝶ポケモン。
普通だったら、知らないポケモンに目を輝かせるかもしれない。
しかし、黒い蝶ポケモンなど、心当たりしか無かった。
俺が呆然としていると、背景が切り替わって、ニュースキャスターの苦虫を押しつぶしたかのような顔が映し出された。
『えー次のニュースです。先日、ザラントシティ周辺にて、人やポケモンが突然倒れる事件が多発しています。被害者は現在、酷い錯乱状態に陥っており、皆口々に「許さない」と繰り返しているとのことです。レンジャー協会はゴーストポケモンの仕業だと断定し、調査を進めています』
居ても立っても居られなかった。
あのビビヨンは、進化して暴走する前は実質俺のポケモンだった。ならば、俺がビビヨンを止めなければならない。
しかし、いきなり立ち上がる俺を制する手が一つあった。
「何のつもりだ?黒い蝶ポケモンを捕まえるとでも言うのか?」
「手を退けてくれよ、ザニア」
だがザニアは俺を見つめるだけで何も言わなかった。
俺も負けじと睨みつけたが、ザニアの圧に負けてしまった。
ベッドにへたり込んだ俺に対して、ザニアはゆっくりと口を開いた。
「あの黒い蝶ポケモンが⋯お前が言っていた黒いビビヨンなのか?」
その問いに、俺は断言した。
「あぁ、あいつは俺のポケモンだ」
何秒、何分経っただろうか。
俺とザニアは互いの目を見つめていた。
やがて、ザニアが俯いてため息を付いた。
「もし仮にあのポケモンがお前のポケモンだったとして、お前はあれの責任を負えるのか?」
「ッ⋯」
「そもそもお前のポケモンだと証明する術もない。お前はただの見栄を張りたい嘘つきなガキでしか無いんだよ」
何も言い返せなかった。
そのポケモンの親になるには、特別な場合を除いて、ボールに入っていることが条件となる。
俺は、ビビヨンをゲットしたわけではない。ただちょっと行動を共にしただけの野生ポケモンだ。
俺がいくら訴えたって、相手にされないだろう。
「わかったな?そんな事言ってないで、この世界の勉強でもするんだな」
そう言って病室を去っていくザニア。
窓の外を覗くと、真っ暗な夜空が月明かりを受けて薄く輝いていた。
今日は月がきれいだなぁ⋯。
そんなくだらないことを考えていると、月は徐々に大きくなっていった。
「へ?」
やがて月のようなそいつは、俺の病室の窓の前までやってきた。
「ウ、ウルガモス⋯?なんで戻ってきたんだよ?」
「ピィップ」
窓を開けてウルガモスと会話できる状態にする。尚、ウルガモスは窓より何回りもデカいので病室に入れることはできなかった。
ウルガモスが受け取れと言うように何かを差し出してくる。
それを受け取った俺は驚いた。
ウルガモスが差し出してきたそれは、キーストーンとメガストーンの原石だった。
「あ、洞窟で貰い損ねたやつ⋯」
「ピィップ」
ズッシリと重いそれを受け取ると、満足したかのようにウルガモスは夜空に消えていった。
夜空に一瞬だけ月が2つ浮かんだ。
手にはランランと輝くキーストーンと、緑に黒と紫の模様が刻まれたメガストーン。
俺氏、ここで重要なことに気付く。
このメガストーン、誰のやつだ?
黒と紫も模様ならプテラナイトしか無いのだが、模様以外の色が全く違う。それにウルガモスがプテラナイトを持っているのも変だし。
じゃあこのメガストーンは一体誰の何だと考えた結果、取り敢えず寝ることにした。睡眠取らないと脳が回らないからね。しょうがないね。うん。決して面倒くなったわけではないと言い訳をしておく。
「⋯⋯⋯」
「おはよう。よく眠れたか?」
「⋯⋯⋯」
「その顔を見る限りあまり眠れなかったようだな」
俺はまた悪夢を見た。
辺り一帯真っ暗な空間でただ一人宛もなく彷徨う夢だった。
一昨日とはまた違うタイプの悪夢だ。
「取り敢えず水を飲め。そして着替えて飯を食え」
「オカンかよ⋯」
外に出れる服に着替える。
着るのは転移したときに着ていた中学の頃の学校ジャージだ。相変わらずダセェこのデザインに安心感を覚える。
「ダッセェなその服」
「学校ジャージなんてそんなもんよ」
「そうなのか?ほれ、飯食え」
ザニアが渡してきた飯は味気のない病院食だ。正直言って美味くはない。
微妙な顔して食べていると、ザニアに何枚かの紙を差し出された。
硬てぇパンをかじりながらチラリと覗いてみると、思わず吹き出した。
差し出されたその紙は明細書だった。
3日の入院費、諸々で十五万円。
俺は紙をおいて飯に戻った。
俺はなんにも見ていない。見ていないんだ。
「凄く申し訳ないんだが⋯院長が『いくら可哀想な状況とはいえ、タダにすると他の患者に申し訳つかないからね⋯』だってな。すまんが借金だ」
「Oh my god‥」
「あ、安心してくれ。利子は院長の温情でゼロパーだから」
「だとしてもだよぉ!!」
ポケモンの世界に転移した俺は、なんだかんだあって隻腕になって借金を背負いました。世界は残酷だ。
さてと、おやつ感覚で主人公に借金背負わせました。
次話から組合での生活が始まります。
ヒロインのカランちゃんは今んとこはこのすばのめぐみんみたいな感じの関係性のキャラにしたいんですよね。友達感覚でプロレスできる仲みたいな。
後はカランちゃんをどうやって虐めるかな⋯。楽しみですね。
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