魔法先生ネギま 吸血鬼x吸血鬼   作:謎の旅人

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前世の幸せ

俺は今真っ白な空間にいる。見回しても周りは永遠に続く白だった。何もない。体の感じもおかしい。なんだろうか? 言葉では言い表せない感覚だった。言葉にできないのがなんとも嫌な感じだ。

 

ここには床なんてものがなかった。だが、歩ける。おい、これどうなっているんだ? これ夢だろう? だってどう考えたってありえないから。でも、これは現実だった。だって痛覚があるから。

 

いや、夢と現実をどうやって定めるというのだろうか? 痛覚? なぜ? 夢では痛みを感じないから? いやいや、そう決めるのは違うだろう。痛覚だけなんて違うと俺は思う。はあ……分からないな。

 

 

「本当に分からない。夢か現実かは知らんが、とりあえずここってどこよ? 分からんな」

 

 

声はこの空間に響いた。とりあえず、ちょっと記憶を辿ろうか。

 

    ◆  ◆  ◆

 

やっと終わった!! 俺は授業が終わり、そう叫びたい衝動に駆られた。しかし、そうするわけにもいかない。周りには同じように下校する同じ学校の生徒たちがいるからだ。そんな恥ずかしいことをした次の日には学校には行けなくなる。

 

まだ、卒業はしていないんだ。あと一年とちょっと。俺のメンタルはそこまで強くできていないんだぜ。すぐに壊れるんだ。俺の内心はそんなテンションだったが、表面上はほぼ無表情であった。

 

なぜこんなにテンションが高いのか。それは今日で全てのテストが終わったからだ。テストなんてみんな大嫌いだろう。俺も嫌いだ。好きな奴なんて俺は知らない。だが、だからといって、別にテストの点数が悪いからではないのだ。

 

ただめんどくさいからだ。なぜなら俺は大体テスト時間の半分でテストが終わるからだ。その後の時間が暇になるから俺は嫌いなんだ。その時間を潰すのがめんどくさい。そんな理由だ。

 

それで成績だが俺の成績はいいのだ。もう本当に。校内の順位? 俺の順位は一位だ。そんな俺はテストが嫌い。しかも、残った時間が暇だからという理由で。で、そんな俺が勉強をしているのかだが、もちろんしているさ。

 

といっても復習だけだが。俺が思うに予習なんてしなくていいと思う。復習をすればいいと思うんだ。俺のやり方だと数日空けて復習をするというやり方だ。こうすることで忘れかけた内容をもう一度覚える。

 

俺にはこれがぴったりだった。家に帰ってもやることのない俺には暇だからという理由で勉強をしている。大学の内容も勉強してみた。やはり大学の内容は難しかったが、その分、専門的になっているので奥が深かった。

 

そんな俺は運動向きではないと思われがちだが、一応運動はできる。全部中級者くらいの実力だ。これは俺の運動の才能とスポーツを詳しく勉強した結果だった。

 

 

「さて、どうしようか。そうだな。ゲーセンにでも行くか」

 

 

俺は終わったということで、ちょっと遊んで行くことにした。だが、近場のゲーセンには行かない。あそこには俺と同じような考えを持つ生徒がいるからだ。できれば会いたくはない。

 

いや、別に友達がいないというわけじゃない。ちゃんといるさ。だが、どうも用事があるらしく、今日は無理だった。正直に言うと今日は友達がいないから近場のゲーセンには行きたくないのだ。

 

だって独りだと思われるからな。それは嫌だった。では彼女は? 残念だがいない。もてないのではない。それは本当だ。自分の容姿にはちょっと自身がある。だが、テレビに出るような容姿ではしていない。

 

まあ、かっこいい、くらいだ。だから、相手のほうから告白されることもあった。しかし、断った。なぜなら俺自身が本気ではなかったからだ。俺は遊びで付き合うつもりはない。付き合うなら将来を考えてもいいと思った人だけだ。

 

堅苦しい考えかもしれない。俺はぼんやりと考えながらちょっと遠くにあるゲーセンへと向かった。途中で小さな少女を見つけた。見た目からして十歳くらい。一人でふらふらとして危なっかしかった。俺は親切心からその少女のもとへと向かった。

 

 

「おい、どうした。迷子か?」

「……違うもん! 迷子じゃない!」

「嘘をつくなった。迷子だろう。お母さんはどうした? お父さんか? とにかく保護者はどこだ?」

「迷子じゃないって言っているでしょ!!」

「ははは、いや、分かる。分かっているさ。そんな歳で迷子なんて恥ずかしいもんな。だけど、今は俺に頼れ。一人で意地になっても何の解決になんてならない。こういうときには誰かに頼れ。ことわざにもあるだろう。『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』てな。このまま聞かないせいで何があったらどうするんだ。分かったな。そういうわけで俺に頼れ」

「もう!! 私は迷子じゃないの!! 子どもじゃないもん!! 分かったらどっかへ行ってよ!!」

「ったく、最近の子どもは口が悪いな。俺じゃなかったら殴られていたかも知れんぞ。口に気をつけろよ」

「子どもじゃないって言っているでしょう!! それにあんただって子どもじゃない!!」

「例えそうだとしても、お嬢さんには言われたくはないな。そうだ、お菓子を買ってあげよう」

 

 

俺はまずは信頼からだと思って誘拐犯みたいなことを言い出した。

 

 

「警察呼んでいいですか? もしくは叫んでいいですか?」

「何でだよ!!」

「だって、レディを誘拐しようとする変質者にしか見えませんから」

 

 

少女はゴミを見るような目で俺を見た。よくそんな目ができるな。俺には無理だぞ。きっと小さいころからひどい目に会ってきたに違いない。

 

 

「け、けど、近くにあるアイス屋さんのアイスを奢ってくれるならついて行きますけど……」

 

 

ダメだこいつ。絶対に誘拐犯に簡単に誘拐されるぞ。いや、自分が言い出したんだけどさ。でも、ちょっと大丈夫か?

 

 

「よし! 奢ってやろう!」

「えっ!? 本当ですか!! ついていきます!!」

 

 

大丈夫じゃない。この子は世間の恐ろしさを知らないようだ。

 

 

「ほら、来い。遅れるなよ」

「あ、待ってください!!」

 

 

知り合ったばかりの少女は俺の後ろを慌てて歩く。俺はポケットの財布を取り、中身を確認した。ふむ、二万円と四千円くらいか。今日はゲーセンに行くつもりで持ってきたが、この子にアイスを奢るからな。今日はゲーセンは無理だ。

 

まあ、仕方ないな。この世間知らずのこの子の命を助けたと思えば安いものだ。しばらく歩くと少女の言っていた店に着いた。店内に入ると外との温度の違いを感じさせた。そして、その室温は快適と呼べるものだった。

 

席には女子高生たちが座ってアイスを食べながら会話を楽しんでいた。他にも客はいた。しかし、男性の客は少ない。それも一人ではなく、ちゃんと相手がいた。全員彼女持ちだった。

 

彼女のいない俺にはなんとも入りにくい店だった。しかし、入らないというわけにはいかない。少女との約束を守るためだ。

 

 

「ここだろう?」

「ええ、そうです!! ここです!! は~、一度アイスを食べたかったんですよ!」

「食べたことがなかったのか?」

「え、ええ、なかったんです」

「なら、思いっきり食べな。満足するまでな」

「お、思いっきり食べていいんですか!?」

「ああ。だが、限度は守れよ」

「わ、分かってますよ!」

 

 

……こいつ、絶対に何も言わなかったら大量に頼むつもりだったな。そのとき、俺は視線を感じた。周りを見ると席に座っていた客からのものだった。なんだか怪しいものを見たような目だった。

 

おい! 俺のどこが怪しいんだ! もしかしてこの少女のことか? だからなのか? いや、違うぞ。俺はロリコンじゃない。俺の好みはそうだな。胸が大きい女性が好きだ。いや、別に小さいほうを批判するわけではないが、やっぱり大きいほうがいい。

 

だからこの少女になにもいやらしい感情を持つことはない。俺は少女の胸部分をチラッと見た。やはりぺたんこ……ではないが丘だ。俺が求めるのは富士山だからな。少女は胸の前で両手を交差させて、胸を隠した。そして、俺をジト目で。

 

 

「なんだかいやらしい思考と視線を感じます」

「………………」

「やっぱり変質者ですか?」

「なわけがないだろう。どう見てもいい人だろうが」

「人は見た目じゃありませんからね。信頼と中身です」

「ほう、ならお嬢さんはどうなんだい? 俺たちはさっき会ったばかりだぜ。そんな俺についてきたんだ」

「……いじめて楽しいですか?」

 

 

涙目になる少女。その顔に俺は少々ドキッとさせられた。可愛いという言葉がふさわしい顔だった。ま、まさか美しいではなく可愛いに反応するなんて。まさか俺はロリコン? そんなはずは……。

 

だが、俺はよく子どもに好かれていた。小さい子が泣いていて俺が慰めると泣き止んで俺になぜか懐いてしまっていた。それの影響なのか?

 

 

「それよりも何を頼むんだ?」

「あっ、バニラとチョコレートと抹茶とマスクメロンと……」

「待て。ちょっと待て。頼みすぎだ。食べすぎだろう。腹壊すぞ」

「ママみたいなことを言いますね。親ですか?」

「お嬢さんみたいな子はいらんぞ」

「うわっ、ひどいです! もうちょっとやさしくしてくださいよ!」

「なんで知り合ったばかりのお前に優しくしなきゃいけないんだよ。知り合いならもうちょっとなにか言ったさ」

「それでも異性に優しくするというのはないんですか?」

「ないな。とにかくバニラとチョコレートと抹茶とマスクメロンだけを頼むからな」

「……しょうがないですね。まあいいでしょう」

 

 

全くなんで偉そうなんだよ。俺は店員に注文をする。もちろん俺の分も。しかし、俺はアイスじゃない。飲み物だ。飲み物はリンゴジュースだ。今はリンゴジュースがマイブームだった。

 

あの甘さがいいんだよな。だが、リンゴジュースにも好みがある。いや、別にどこのリンゴジュースがいいとかではない。果汁百パーセントと書かれたリンゴジュースがいいのだ。ほかの三十パーセントとかの砂糖などが入ったのは嫌だ。

 

なんというか、違う。味が違うのだ。そのままの味と作られた味というのが感じられるのだ。それが嫌だった。しかし、この店はどうなのだろうか。おそらくだが三十パーセントだろう。

 

こういう店では経費を抑えるために安いのしかないからな。それに値段からしてもそうだ。仕方ない。別にまずいというわけでもないしな。しばらくするとカップに入ったアイスがおぼんに準備される。そして俺の分も。

 

値段は計千円未満だった。俺は金を払いおぼんを持つ。

 

 

「あそこがいいです!」

 

 

少女が端っこの席を指で指した。俺はその席に向かう。席に着くと少女はすぐにカップを手に取った。

 

 

「いっただきま~~~す!!」

 

 

少女がそう言ってアイスを食べ始めた。俺はそれを眺めながら自分の飲み物に手をつける。う~ん、やっぱり三十パーセントだな。

 

 

「はうう、これがアイスなんですね~。感激です!」

「そうか。喜んでもらえてよかったよ」

「はい、ありがとうございます!! はあ~~~~」

 

 

少女は食べることに集中した。そして少女がひとつ食べ終わると同時に話を切り出してみた。

 

 

「それで。どうして迷子になっていたんだ?」

「む~~。さっきから言っていますけど、私は迷子じゃないです!」

「いや、そうは言ってもな。あんなにふらふらと歩いていれば迷子にしか見えないんだよ。本当に正直に言ってくれ。俺は別に笑ったりなんてしないから。俺はまだ会ったばかりだが、お前のことが心配なんだ」

「いえ、だから迷子じゃないんですって」

「ならそれが本当だとして何をしていたんだ?」

「ただの散歩ですよ。これで十分じゃないですか? それに嘘ついても意味ないですもん」

 

 

少女はどうすればいいのだという顔でアイスを食べていた。少女は一口食べると幸せだな~という満面な顔をしていた。それは見ているこっち側も幸せにさせるものだった。俺は微笑みながらそれを見ていた。

 

こんな表情を見せられると守ろうという気持ちが沸いてくる。う~ん、俺って本当はロリコンなのか? あまり信じたくない。だがこれが深層心理ならありえる。表面上は胸の大きい女の子が好きといっても、それは実は深層心理を誤魔化すためのものかもしれない。

 

そうならば俺の本性はロリコンだということになる。ぐああああっ、マジかよ!! 俺ってロリコンだったのかよ!! 信じたくねえ!! だからか? だからなのか? 俺が本気で好きにならないのは?

 

だったらそうだ。ロリコンだったならそういう女性を好きになることはないのも道理だ。俺はまさかの事実に顔を伏せる。

 

 

「あの……どうしました? 私、何か悪いことでも……」

「ん? いや、違うよ。気にしなくていいから」

 

 

申し訳ないという顔をした少女に俺は優しく言った。まさか、俺がロリコンだったという事実でこうなっているとは言えなかった。こっちが申し訳ない。

 

 

「んでお嬢さんの家はどこだ?」

「やっぱり誘拐が目的でしたか」

「なんでだ!! どこの子かも分からんのに誘拐するわけがないだろう!! 俺は、お嬢さんを家に送るためだ!!」

「いえ、別に結構です。一人で帰れますから」

「だがな。あんなフラフラとして危なっかしい子どもを一人で帰らせるわけがないだろう」

 

 

いや、もしかしてロリコンだからという可能性もあるのだが。しかし、これは心配しているからだと信じたい。

 

 

「……あの」

「なんだ?」

「私って何歳くらいに見えます」

「十くらいじゃないのか?」

「………………いえ、違います」

「えっ、まさかそれ以下か?」

「なんで下がるんですか!! 私は十五です!!」

「あはははははっ、冗談はよせ。子どもじゃないということをそうやって誤魔化そうなんて、面白い発想だが体を見ればそれが嘘なんてバレバレだぜ」

「ぐすっ……本当なのに……なんで……信じてくれないんですか?」

 

 

いきなり少女が泣き始めた。まさかの事態に俺は慌てる。なんで泣くんだよ。頭の中で色々なものが思い浮かぶ。そして、ひとつのことにたどり着いた。

 

 

「まさか……本当に十五?」

 

 

そう。本当のことを言っていたというものすごく簡単な事実に。

 

 

「そうです!! 私は十五です!!」

「ま、マジかよ……。でも学校はどうしたんだ? 見たところ制服じゃなく私服じゃないか。今日は平日だぞ」

「今日は学校の創立記念日です。今日は親に学校があるといって嘘をついて外出をしたんです。一人でなんでとても新鮮で……」

 

 

どうやらこの少女には何かありそうだ。しかし、創立記念日か。どこの学校だ? 今日、テストであったうちの学校ではないな。この町にはいくつか高校がある。俺が通う高校は第三高校という。名前の通り三番目の学校だ。

 

何が三番目かというとその教育の内容の難しさが、だ。この町の学校はそういうものだ。学校は第七高校から第一高校まであるのだ。つまり俺が通う高校は結構頭のいい学校だ。

 

もちろんそれよりも上なのは第二高校と第一高校だ。内容はとても難しいらしい。しかし、俺の学力なら第一高校にもいけた。だが、俺は行かなかった。それは二つの理由からだ。

 

ひとつは金銭的問題。やはり第一高校となると教育の内容もその設備さえも第一だった。部活の内容もそうだ。本格的になりその設備さえも高額なものを使われていた。おかげで第一高校の部活の成績はいつも上位だった。

 

これは設備のせいだけではない。彼らの意識にも原因はある。彼らはいわばエリートなのだ。その自分はエリートだという自身が彼らを強くしていた。技術だけでなく意識までが高い。それは士気だ。

 

戦争でも数が劣っていたが、士気が勝っていたため勝ったというものがあった。士気というのはそこまで影響を与えるのだ。しかし、そのエリート意識がゆえに弱いものは切り捨てられる。

 

それは退学という意味ではないが、周りからの対応が変わるのだ。それは集団いじめといってもいいほどに。しかし、もちろん学校側はそうなることをさせないためにも一応対策はとってある。クラスによる分別である。

 

それによってエリートと落ちこぼれに分けられたのだった。それが第一高校。高い実力者が優遇される場所といってもいい。まあ、とにかく色々あって金がかかるのだ。残念だがこちらは貧乏なので無理だった。

 

そして、二つ目だがそれは友人。中学のとき先生がよく『友達がそこへ行くからといってそれを理由に決めてはダメです』と言っていた。俺がやったことはそれに反するものだった。俺は友人がそこへいるからと言う理由で決めたのだ。

 

しかし、問題はない。なぜなら言ったように第三高校に入学したのだ。第三は第一に及びはしないが、それでもレベルが高いほう。別に何も問題はなかった。それに俺はこの学校だが、ちゃんと勉強はしている。

 

その学力は第一の学生以上だ。ああ、これはもちろん自慢ではない。決して自慢ではない。俺の勉強は暇だったからという理由なんだ。いわば趣味みたいなもの。いや、これはもう自慢か。なにせ趣味程度で必死にがんばっている第一の生徒の学力を超えたのだから。

 

さて、この町で今日が創立記念日だという高校はどこだろうか? 他行にあまり興味のない俺には分からなかった。

 

 

「どこだ?」

「第一です」

 

 

少女はそう答えた。ふむ、なにか聴き間違いかな?

 

 

「すまん。聞こえなかった」

「第一高校です」

「……聞き間違いじゃないのか」

「はい。聞き間違いじゃないです」

「お嬢さんは頭がいいんだな」

「えへへ、それほどでも~」

 

 

少女は十五には見えないほどの笑みを浮かべる。それは決して大人のようなではなく、見た目相応の笑みだった。まだ俺はこの少女が十くらいなのではと思ってしまう。だって仕方ないじゃないか。

 

見た目がこんなに幼いんだから。しかし、俺はまだ今年の誕生日は来ていないから一歳年下か。別の学校とはいえ後輩だ。

 

 

「でも、私ってこういう容姿なのであまり学校になじめてないんですよね」

 

 

少女はあははとなんともないように言う。その顔はその笑いとは反対に悲しみが表れていた。やはり嫌なのだ。それを無理している。自分の学校でのことを笑うことで誤魔化していた。

 

俺はそれがとても痛々しかった。俺はなぜか少女の手を握っていた。

 

 

「ひゃうっ」

「無理をするな。俺とお嬢さんは出会ったばかりだが、こうやってアイスを食べあった間だ。そんな風にしなくていい。ちゃんと本音で言ってくれ」

「………………………………アイス食べあってませんでしたけどね」

「俺はお嬢さんには――――」

「あの、お嬢さんはもう止めてください」

「俺はお前には笑顔でいてほしいんだ。だから、そのためにも本音で話してくれ」

「!!」

 

 

俺の言葉に少女は顔を真っ赤にした。少女の手から伝わる体温は一気に熱くなっていた。なぜだろうか。しかし、俺は正直なことを言った。

 

 

「あ、あの……」

「いや、分かっている。俺とお前は知り合ったばかりだ。そう簡単には話せないと思う。だがそれでもな、言ってくれ」

「ち、ちがっ――――」

「俺は第三高校だ。だが、それでも力になれると思うんだ。それでもダメか?」

「べ、別にダメじゃないんですけど……。ちょっといいですか?」

「なんだ?」

 

 

俺はこの少女の力になりたい。そう思っていた。なぜだろうか。

 

 

「それって……こ、ここここ告白です……か?」

「へっ?」

 

 

俺は間抜けな声を出してしまった。当たり前だ。なにをどう勘違いしたのか、俺の言葉を告白と勘違いされたんだ。間抜けな声だって出てしまうさ。しかし、告白、か。俺は思わずこの少女が俺の彼女になったらという妄想をしてみる。

 

今の少女はまだ幼く小さい。そして可愛いが似合う少女だ。そんな少女が俺の隣を歩く。もちろんその手を繋ぎ。それから………………うん、やめよう。彼女は俺の彼女ではないのだ。そんな妄想は少女を汚すと同じことだ。

 

一旦落ち着こう。俺はゆっくりと深呼吸をする。それが数秒。俺は少女に向き直る。

 

 

「なんで?」

「だ、だって私には笑顔でいてほしいって言ったから……。それって私のことが好きってことですよね?」

「い、いや違うけど」

「あっ、動揺しましたね!! や、やっぱり私のことを……」

 

 

いや、確かに動揺したよ!! でもそれは少女が変なことを言ったからだ。それ以外ではない。そう、それ以外ではないのだ。決してな。

 

 

「だから違うって」

「き、嫌いなんですか?」

「そう聞かれると好きだが」

「やっぱり好きって――――」

「もちろん友人としての好きだ。もしそっちの意味ならあと五年後だな」

「うぐっ、つ、つまりこの体に問題があると」

「正直に言ってしまえばそうだ」

「な、ならもっと色々と大きくなったら、わ、私のことを好きになると?」

「かもな」

 

 

なぜだろうか。話の内容がおかしいような気がする。気のせいじゃないよな。もう気にしないでおこう。本当に俺が裏も表もロリコンになってしまう。俺はジュースを飲む。

 

 

「うう、曖昧な言い方。せめてはっきりさせてくださいよ。困ります」

「困るのはこっちだ。なんで知り合ったばかりのお前にそういわないといけないんだ? そういうのはもう少し知り合ってからだろう」

「そうですけど……」

「それよりもアイスが溶けるぞ」

「あわわっ」

 

 

少女は慌てて他のアイスを食べる。とりあえずこれでこの少女と話さずに済んだ。あのまま続けていたら本当に何を話していただろうか。それにしてもよくそんなに食べられるな。

 

少女は何の問題もないように次々とお腹の中へと入れていく。甘いものが苦手な俺にはできない食べ方だ。本当にその小さい体はどうなっているんだ? 女の子は甘いものは別腹とか言うがそれって本当か? 本当だな。実際に目の前にあるんだから。

 

少女は幸せそうなかおをして食べる。そして、少女は食べ終わった。最後にテーブルに置いてあった紙ナプキンで口を拭いた。

 

 

「……ごちそうさまでした。初めてこんなに食べられてうれしかったです」

「いいって。こっちが勝手にしただけだ」

「そうですか。それで戻りますけど、ずばり言って私のことどう思っています?」

「どうってそんなに小さいのに頭がいい子なんだなと思っている」

「そういうことを聞いているんじゃないんです!! あと小さいは余計です!! 分かって言っているでしょう?」

 

 

頬を膨らませる。店員が食べ終わった少女の皿を片付けた。

 

 

 

「はあ……そんなに知りたいのか?」

「し、知りたいです」

「まあ、お前のことは好きだよ」

「!!」

「だが、それは嫌いか好きかでの話だ。異性としてかと言われれば違う」

「……っ」

 

 

少女は喜んだり落ち込んだりと表情を変えていた。この反応からもしかして少女は俺のことが好きなのかと思ってしまう。しかし、ありえないな。だって俺たちはまだ会ったばかりの関係だ。

 

何度も会っているならまだしも、さすがに一回はありえないだろう。でも例えそうだとしたら、目を覚まさせなくては。それはできるのはたぶん俺だけだ。少女は涙目になる。

 

 

「………………」

「まさかと思うがお前は俺のことが好きなのか?」

 

 

少女はこくんと小さく頷いた。おい、本当になんでだ? いや別に俺は嫌だというわけではないのだ。好意を持たれてうれしくないはずがない。現に俺の心臓はクールを装っている顔とは反対に爆発するのでは、と思うほどに鼓動していた。

 

しかし、しかしだ。この少女と出会ってここまでで俺がなにか惚れさせるようなことをしたか? 否! そんな行動は取っていなかったはずだ。ただ普通に声をかけてこの店に入ってアイスを奢って話をしているだけ。

 

さて、どこに惚れる要素があるでしょうか? ありません。だが、俺の行動を簡単に説明してしまうと俺はナンパを成功させたような感じだな。説明をするときはちゃんと詳細をも話さなければ。

 

でないと説明した相手から『ナンパをして成功させた挙句、わずかで相手を落とした男』なんて呼ばれるかもしれない。いや、きっとならないけど。とにかく聞いてみるしかない。

 

 

「なんで好きなんだ?」

「い、言わないとダメですか?」

「言ってくれ」

「ど、どうしても?」

「どうしても」

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」

「……………………………………………………………………」

「……………………………………………………………………」

「………………………………………………………………………………………………………………………………分かりました」

 

 

沈黙の戦いで勝ったのは俺だった。

 

 

「あの」

「なんだ?」

「言っても笑いません?」

「笑うか」

「約束ですよ。笑わないでください」

「早く言ってくれ」

「は、はい!」

 

 

俺の言葉が苛立ったように聞こえたのか、少女はびくっと体を震わせる。

 

 

「か、簡単に言うとひ、一目惚れです!!」

「へ?」

 

 

どこにも笑う要素なんてなかった。というか、どこをどうしたら笑えるんだ。俺は少女の答えに驚き、間の抜けた声をだした。

 

 

「じ、実は私はあなたと会ったのは今日が初めてじゃないんです」

「俺とお前が?」

 

 

少女は何度も首を縦に振る。俺は目を瞑り自身の記憶を遡る。とにかくこの少女と繋がりがありそうな断片を探すために。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。これも違う。

 

俺はどんどん記憶を探っていく。しかし、全く見つからない。本当に会ったことがあるのだろうか? 会ったことがなければ? だとしたら、彼女の人違いだったということだろう。

 

それはこっちとしては悲しい話だ。できれば人違いではなく俺でありたい。そうは思っても結局見つからなかった。

 

 

「……すまん。全く思いつかない」

「ええ、そうでしょう。多分そうだと思います?」

「どういうことだ?」

 

 

なにか矛盾している。

 

 

「えっと、ただ私がちょっと話を膨らませただけです。すみません」

「なら会ったことはないんだな?」

「はい。ありません。でも! あなたは見たことがあるというのは本当です。もちろん人違いなんて間違いはありません! だって好きになった人ですから! ちゃんと分かります!!」

「そ、そうか」

 

 

興奮した彼女の告白にただそう言うしかできなかった。

 

 

「だから……」

「だから?」

「わ、私と……」

 

 

そこで俺は気づいた。ここには俺以外にも人がいたのだということを。少女との話に夢中で忘れていた。ゆっくりと周りを見ると、やはり他の客たちは俺たちを注目していた。皆のその目はなにか微笑ましいものを見る目だった。

 

なんだかとても居心地の悪かった。少女は周りの目に気づいていなかった。ただ何かを伝えようと必死だった。俺は立ち上がり少女の腕を掴む。

 

 

「きゃうっ」

 

 

少女は変な声を上げる。俺は少女を立ち上がらせてその場から逃げ出すように店を出た。ここの店ではアイスを買ったときに代金も払うためこのまま店を出ても問題はない。俺は店を出たあと、少女を引っ張るようにしてただ走った。

 

少女は抵抗はしなかった。不思議と思いチラッと見たとき、少女はなぜかうれしそうな顔だったということは忘れなかった。なんでだよ。俺は気にしないようにしてただ走った。もう歩いていいはずなのにどうしてだろうか。

 

多分とりあえず人気のない場所へ行きたかったのかもしれない。いや、そう言うとこれから犯罪をするような感じになるが、もちろんそんな目的はない。そして、どこかの公園にたどり着いた。

 

公園には子どもたちとその親がいた。人気のないとはいえないが、みんなは遊び場のほうに夢中になっていた。俺たちを気にする人たちはいなかった。そこでやっと俺は少女の手を離した。少女は肩で息をするほど疲れていたようだ。

 

 

「い、いきなり……はあ、はあ、はあ……こうやって走るなんて……うれしいですけど……ないか言ってくださいよ」

「ああ、すまん」

「それにしてもなんでそんなに疲れていないんですか? こっちはもう疲れました」

 

 

確かに俺は別に疲れていない。なぜだろう。

 

 

「あの……それよりもい、いつまでそ、その腕を掴んでいるんですか?」

「す、すまん!!」

 

 

言われて気づいた。俺はいつまでその細い腕を掴んでいるつもりなのだろうと。俺はすぐに放そうとする。が、なぜかその前に少女のもう片方の手で押さえられた。なぜと思って少女を見る。

 

少女ははっとなる。どうやら少女のほうも無意識でやったものだったらしい。少女は一気に顔を真っ赤にした。

 

 

「こ、これは違うんです!! で、でもだからといって別に嫌でもないんです!! むしろこうしていたいくらいなんです!!」

 

 

俺は何も言えないし、言いたくない。

 

 

「そ、それでここに来たのってどうして……ですか?」

 

 

少女はそう聞いてくるように言ったが、その目には俺に何かを期待しているかのようだった。もうこの子の気持ちは知っている。ならばこんなところまで連れてきた俺に対して期待するのはきっと告白だろう。俺はそれを察した。俺が察したことに少女も気づいた。

 

だが、もちろん俺はできない。まだ少女のことが好きじゃないからだ。俺はゆっくりと俺の手を掴む少女の手をはずす。

 

 

「……すまない。俺はまだ君のことを好きになっていない」

「……っ。そ、そうですか。分かっています。私だけの片思いですから……」

 

 

少女は分かりやすいほどにショックを受けていた。それは俺の心を痛ませた。そんな顔をされて俺は何をすればいいんだ。少女のために嘘の告白をするわけにもいかない本当にどうすれば……。俺は今、かつてない難題と戦っていた。

 

俺を好いてくれる子がいるというのになんとも情けない話だ。こんなの男失格だな。

 

 

「でも……言います」

 

 

少女は立ち直ったのかその顔にはショックは見られなかった。

 

 

「私は……あなたのことが好きです!! 私と付き合ってください!!」

 

 

そう言った。大きな声で。それは少女と出会って初めての大きな声だった。幸いだったのはこの大声の告白を誰かに聞かれなかったことだろう。この公園にいる人たちはその声が聞こえないほどの距離があった。

 

俺はその告白に心臓を再び大きく鼓動させていた。告白とは男の俺からするものだと思っていたのだが、女の子のほうからからされるとは思わなかった。

 

 

「でも、私のことはそういう意味で好きじゃないですよね。でも、いいです。それでいいので私と付き合ってください。今はそうでもいつか私を好きにさせますから。お願いです!!」

 

 

少女は俺の体に密着し、見上げる形を俺にそう言った。そう言う少女の目には本気だという意思があった。それほどに俺を想ってくれる子。俺の心は動き始めていた。

 

 

「なんで……そこまで必死なんだ?」

「だって、一目惚れした相手とまた会えたんです。それにあなたは私のことを知らないのに優しくもしてくれました。運命の相手だと思いました。これのどこに惚れない要素がありますか? こんな私をあなたは単純だと思われるかもしれません。でも、この気持ちは本物です」

「そうか。だが、いいのか? 俺たちはまだ互いの名前も知らないのに。そんな状態なんだぞ」

「あはは……そういえばそうでした。でも、それでもいいんです。だって相手は運命の人なんです。名前を知っている知っていないは大した問題ではありません! 問題はあなたが私を好きになってくれるかどうかなんです」

 

 

潤んだ目で俺を見上げる。触れる部分からは少女が実は震えているということが伝わった。俺はもうすでにこの小さな少女に対してなんだか妙にしっくりと来るような感覚を感じていた。そして俺はいつの間にか少女の体を抱き寄せていた。勝手に体が動いた。

 

 

「え……?」

「俺も単純だな。好きだって言われて俺も好きになるなんて」

「!!」

 

 

俺の発言に少女ははっとなって俺を見た。

 

 

「そ、それってつまり……」

「俺はお前と付き合ってもいいということだ」

「本当ですか!? う、うううう嘘じゃないですよね!? 幻じゃないですよね!? いえ、これは私の夢かもしれない……。だって運命の人だよ。こんなにうまくいくはずがない。いくなんてありえない。絶対に夢だ。それに……こんな体し。うう、早く私目覚めて! こんな幸運な夢よりも現実が……と思ったけど、こんな幸せな夢ならもうちょっと浸りたいな。うん、そうしよう」

 

 

少女はなぜか一人で勝手に進んでいた。いや、俺だってそう思う。今日出会ったばかりの少女に好きだと言われて、今まで告白を断ったくせに簡単にその少女を好きになったのだから。

 

それにしても俺も案外単純だと分かった。だが、この妙にこの少女に対してしっくりとくる感覚は確かに運命だと思った。そして、俺はこの少女を一瞬で惚れて好きになってしまった。

 

恋ってこんなにあっさりとするものなのだろうか? あまり友人たちにそういう話をしなかったからな。よく分からなかった。

 

 

「よし! 夢だって分かったんです!! 好きな人相手に色々とやっても大丈夫!!」

「いや、大丈夫じゃないからな? というか目を覚ませ」

「ここは夢なんです。こんな幸せな夢から覚めろなんて嫌です。そういうわけで私と…………」

「なんだ?」

「は、恥ずかしすぎます!! わ、私の口から……い、言えません!!」

 

 

少女は俺の胸板に顔を隠すようにした。何を言おうとしたんだ。聞きたくなるような衝動に駆られた。まあ、とにかくこの少女をどうにかしよう。まずはこれが現実だということを示さなくては。そうじゃないと話が進まない気がする。

 

 

「一人悶えているところ悪いんだが……」

「も、悶えてません!!」

「とにかく、言っておこう。これは現実だからな」

「う、嘘です!! だってこんなにうまくいくわけがないです!! 私の体はこんな小さいんですよ!! 私を好きになるなんてありえません!!」

「俺も少しありえないと思う。だけど、これは本当に夢じゃないんだ」

 

 

なぜなら痛みがあるからだ。俺もこれは夢かと思って一応、右足で左足を踏んでみた。痛かった。つまり現実なのだ。しかし、痛みのある夢もあるのかもしれない。だけど、それを確かめる方法はもうないな。ただ自分にここは現実だと言い聞かせるしかできない。

 

 

「で、でも……」

「でもじゃない。本当に現実だからな。俺はお前に惚れたんだ」

「えっ、あ、あう……」

 

 

少女は現実と認識したのか、頬を真っ赤にして俯く。

 

 

「今度は俺から言わせてもらう。俺はお前のことが好きだ。俺と付き合ってくれ」

「は、はい!! こちゅらこしょ!!」

 

 

少女は恥ずかしさのあまり噛む。少女の顔は熱があるのではと思うまでに真っ赤になった。

 

 

「そ、そういえば互いに名前を言っていなかったな。俺の名前は大神(おおがみ)慎也(しんや)だ」

 

 

少女のためにと俺は話を逸らした。

 

 

「大神慎也さん……ですね! ふふふ、慎也、慎也さん、ですか。あう、ど、どっちがいいですかね?」

 

 

少女は俺の名前を知って早速なんと呼べばいいかと聞いてきた。ちなみに彼女は未だに俺とくっついたままだ。俺は彼女の顔を見る。その顔を見ても幸せだと分かる。その行動に俺も幸せを感じた。なんとも可愛らしい。

 

 

「そうだな。俺はどっちでもいいと思うぞ」

「そうですか? でも、歳の関係もありますし、私は慎也さんと呼びます。えへへ、慎也さん慎也さん♪」

「どうしたんだ?」

「名前を呼んでみただけです♪ このやり取りってちょっと夢だったのでうれしいです」

「そうか。よかったよ」

「はい!」

 

 

俺は思わず頭を撫でた。少女はそれに別に嫌がることはなかった。むしろ喜んでいた。撫でて分かるが髪はさらさらとしていた。うわ、これが女の子の髪か。ちょっと指を髪に入れてみる。

 

そして、流す。髪はなんの抵抗もなく最後まで流れた。それだけで髪の手入れが行き届いている分かる。

 

 

「わ、私の髪、気に入りました?」

「ああ、気に入ったな。綺麗だしサラサラとしている」

「あ、ありがとうございます、し、慎也さん。私も慎也さんの手……好きです。私なんかよりも大きくて暖かくて包まれているような感じがします」

「まあ、本当に包まれているからな」

「ん? へあっ!?」

 

 

俺たちが今密着した状態だと少女が気づいた。少女は恥ずかしさのあまり離れようとしたが、俺が少女の腰に手を回していたので離れることはできなかった。少女はすぐにあきらめ逆に俺に抱きつく。だが、それでも顔は赤い。

 

 

「こ、この状態ってうれしいですけど同時に恥ずかしいです……ね」

「そうか?」

「そうですよ。恥ずかしくないですか?」

「ああ、恥ずかしくないな。ずっとこうしていたいくらいだ」

「は、恥ずかしいことをすんなりと言えるんですね。わ、私は無理ですよ」

 

 

そう言いつつも行動では俺と同じだ。こうやって抱き合うのは恥ずかしくないのだろうか? それにしても、少女が自分の体を押し付けるように抱きついたので、さっきよりもさらに密着した。ここまでされると少女の体の凹凸がよく分かる。

 

見た目では分かっていたが、この少女の胸はぺったんこではないらしい。ふくらみかけという言葉がぴったりだった。しかし、ふむ。手じゃないから詳しくは分からないが、その胸がやわらかいという事は分かった。

 

この子は分かってやっているのだろうか? それとも素なのだろうか? 個人的には素のほうがいい。でも、出会ったばかりだがこの少女のことからして普通に素なのだと思う。

 

 

「そうだ!! 慎也さん、ちょっとしゃがんでください」

 

 

そう言われたのでしゃがむために俺たちは離れる。多少、ぬくもりと感触が消えることが残念だ。とりあえずしゃがむ。

 

 

「こうか?」

「はい、そうです。私って小さいですからね」

「そうだな」

「む~、ちょっとは慰めの言葉を言ってくださいよ。傷つきやすいんですから」

 

 

俺がしゃがんだことで少女と俺の視線がちょうど合う。少々赤みの帯びた頬が目に映る。こうやって近くから見ても少女がまだ幼い顔つきだと分かる。

 

 

「それでしゃがんだがいいが、どうするんだ?」

「え、えっと私の気持ちを受け取ってもらいたいんです」

 

 

その顔は真剣。しかし、時折その真剣の隙間に不安と羞恥が混じっていた。俺はただ待つだけ。どれだけ時間がかかろうと俺は待つ。

 

 

「こ、これが私の気持ちです!! わ、私の初めてを受け取ってください!!」

「ん? んむっ!?」

 

 

いきなりで分からなかった。いきなり少女の顔が近づいたと思ったら、俺の唇に何かやわらかな感触がしたのだ。今までで感じたことのない感触。なぜかその感触は俺の鼓動を速くしていた。

 

俺自身は理解していなかったが体自身は何が起こったのか理解していた。そして、その状態で数秒。俺はようやく理解した。今、俺の唇に当たっているものが何かを。それは少女の唇だった。

 

つまりこの状態はキスというものなのだ。俺は自然と目を瞑り、そのままの状態で抱きしめた。これでまた密着度は上がった。もちろん唇も。俺も初めてのキスだが、俺たちは互いにこのままでいたいという気持ちが高まっていた。

 

どれだけの時間が経ったのだろか? そんなことを気にすしていなかった。そして、ようやく俺たちの唇は離れる。少女の顔は興奮により赤みを帯びていた。その目線も定まっていない。ボーっとしているようだった。

 

 

「これが……私の気持ちです。初めてを受け取ってくれて……ありがとうございます」

「いや、別にそういうのはいい。俺だって初めてだったんだし」

「そうなんですか?」

「ああ」

「ふふ、よかったです」

 

 

何がよかったのだろうか? 分からん。

 

 

「そういえば私の名前を言っていませんでしたよね?」

「ん、そういえばそうだったな。俺にお前の名前を教えてくれ」

「はい」

 

 

正面から見つめる。

 

 

「私の名前は――――」

 

 

    ◆  ◆  ◆

 

そこで俺の記憶が途切れてた。えええええええええっ!! ちょっと待てよ!! なんでそこで終わったんだよ!! 俺はもう一度思い出そうとする。しかし、思い出せない。まるでまだ知らないかのように。

 

だが、俺は知っているはずだ。そのはずだ。なぜ俺は思い出せない。その先には確かになにかあったはず。幸せがあったはず。それが思い出せない。

 

 

「それがなぜか~、私は知っていますよ~」

 

 

そのとき何とも間の抜けた声が聞こえる。声は高く女性のものだと分かる。俺はすぐにその声のほうを見る。そこにいたのは黒髪の女性だった。日本人らしい顔立ちで美人だった。こういう女性にこそ『大和撫子』という言葉がふさわしい。

 

誰がどう見ても美しいと言ってしまうほどの容姿だ。髪は結ばずにただ流している。髪の長さは腰まであった。服は白を主にしたものだった。見た目からしても口調からしてもおっとりとしたものだ。胸は服の上からでもよく分かるほどの巨乳。正直言って揉んでみたいと思うほどだ。

 

 

「あなたは?」

「私ですか~? 私はあなた方で言う~神です~」

「か、神!?」

 

 

思わず驚く。俺は女性の言葉がしっくりときていた。嘘だとは感じなかった。なぜなら何か神々しいものを感じているからだ。

 

 

「そうです~。ところで~あなたは今の自分の状況を~分かっていますか~?」

「いや、分かっていない。教えてくれ」

「はい~。もちろんです~。説明しましょう~。あなたは死んだのです~」

「死んだ!? なぜだ!!」

 

 

俺はすぐに神に詰め寄る。

 

 

「お、落ち着いてください~。ちゃんと説明しますから~」

「す、すみません」

「いえいえ、誰でもそうですから~。とにかくあなたは死にました~。記憶が途中までしないのも~その死因が関係しています~」

「俺の死因が?」

「そうです~。あなたは道路に飛び出した子どもを助けたときに~代わりにあなたが死んでしまったのです~。そのときのショックであなたの記憶が抜け落ちたのです~」

「はは、俺らしいな」

 

 

確かに俺だったら子どもを救うためにそうしていたはずだ。やはり俺は死んだのか。そのときの記憶がないから実感が沸かない。幽霊は現世に未練があるからとも言われたり、死んだことを理解していないからとも言われる。

 

俺の場合は後者になるだろう。しかし、幽霊ではない気がする。周りは白い空間だ。境目もない。どう見ても現世ではない。

 

 

「ここがどこか~って顔ですね~。ここは生と死の狭間です~。つまりあなたは生きてもなく死んでもない状態ですね~」

 

 

そんなのがあるのか。初めて知ったな。いや、当たり前か。この状態じゃなきゃ知ることなんてできないから。

 

 

「それで俺は今から死ぬんだろう? 俺って天国に行くのか? それとも地獄か?」

「いえ~どちらでもありませんし、そもそも天国、地獄なんてありませんよ~」

 

 

ない!? 天国と地獄が!? ま、マジかよ!! いや、そうだろうな。もともと死後の世界なんて俺たち人間が勝手に作り上げたものだ。現実になくて当たり前だ。

 

 

「でも~死後の世界がない、というわけでも~ないんですよ~。ちゃんとあります~。でも死んだらみんな同じ世界へ行くんですよ~」

「なぜ?」

「う~ん、それを説明するのは難しいですね~。まあ~、天国と地獄があったら~ということで説明しちゃいますと~みんな地獄行きですから~」

「マジですか?」

 

 

うそ。まさかあったらみんな地獄行きなんて。どういうこと? 俺の知り合いでめちゃくちゃいい子がいるんだけど、その子さえも地獄ってことだろう?

 

 

「だってほら~みなさんたちは生き物を殺すじゃないですか~。地獄へ行くか行かないかを~あなた方の基準とするとそうなりますから~」

 

 

俺の疑問を答えてくれた。そして、神は目を細める。その瞬間俺はなんとも言えない恐怖に襲われた。体が上手く動かない。息ができない。恐怖で足が震える。俺はこれが殺気なのだと気づいた。

 

まさか、本当に殺気なんてありえるなんて!! 神がその殺気を治める。神はくすっと笑った。

 

 

「ああ、私が殺気を出したのは~別に怒ったらではありませんから~。ただちょっと~からかっただけです~。これで天国と地獄がないことが~分かりましたよね~?」

「分かりました。それで質問があるのですが、いいですか?」

「はい、いいですよ~。何でしょう~?」

「あの子と俺はどうなったんでしょうか?」

 

 

俺はあの子が気になった。恋人なった人なのだ。気になって当然だ。

 

 

「そうですね~。ちょっと待ってくださいね~」

 

 

神はそう言うと俺の額に手を当てた。その手からは生きている証であるぬくもりが感じられた。それがなんとも心地よい。そのぬくもりは小さい頃を思い出させる。昔、母さんに抱きしめられたことを。

 

俺が大きくなってからは俺自身が恥ずかしくて軽いハグだけになった。母さんは納得しなかったようだが。神が手を置いて数秒。神は俺の額から手を離す。

 

 

「なるほど~。ここからですか~。よく分かりました~」

「何が分かったんですか?」

 

 

一人で納得する神に問いかける。

 

 

「あなたの思い出せる記憶の範囲です~。多分、あなたがこの場面を一番に思い出したのは~もっとも衝撃的だったからだと思います~。走馬灯みたいなものですよ~」

「なるほど。やっぱりそうか」

「それでその後を説明しましょう~。あなたと彼女さんは~順調に交際が進んで~互いの家族が知り合うまでになりました~。あなたと彼女さんの両親はそれを認め~なんと! 結婚の約束までをそのときにしちゃいました~」

 

 

マジかよ!! つまり俺って結構あの子をそこまで好きになったということか。あの子が俺の嫁さんか。

 

 

「そして、その一年後~あなたと彼女さんの子どもが生まれます~」

「ふーん、子どもか。ん? 子ども!?」

 

 

子どもと言ったか? 言ったよな? え? 何やっているんだよ、俺!! まだ一人立ちしていないのに子どもを授かるなんて。というか、あの子の体は無事だったのか? あの体だ。子どもを産むにはまだ早いはずだ。

 

結構な負担がかかったはずだ。死んでいないだろうか? 不安がよぎる。神は俺の不安を察する。そして、安心させるように言った。

 

 

「もちろん無事に出産しました~。男の子でしたよ~。それにちゃんと彼女さんの体は子どもを生めるくらいには成長していましたし~」

「でも、高校生なのに子どもを産ませたんだろう? その、両親とかは大丈夫だったのか?」

「ええ、罵倒されるどころか~むしろ喜んでいましたよ~」

 

 

そういえば俺の両親は親バカだったな。母さんのほうはさっきのとおり、ハグだけというのに不満を持つくらいだからな。

 

 

「そして~また一年後に子どもが生まれます~」

「…………………」

「しかも~双子です~」

「………………………………………………」

 

 

言葉がなにも出ない。本当に何やっているんだよ……俺。

 

 

「これで三人です~。性別は最初に生まれたのが男の子で~次に生まれた双子は一卵性の女の子です~。よかったですね~。三人ですよ~」

 

 

ぜんぜんよくない。まだ十代なのに俺は何やっているんだよ。しかも三人って。ちょっと頭痛がしてきた。

 

 

「でも~あなたはその数ヶ月後に死んじゃったんですよ~」

「はあ……」

「どうしたんです~?」

「いや、子どもが三人もできたのに全部あの子に背負わせて死んだんだなと思うとな」

「いえ、大丈夫ですよ~。彼女さんの家は金持ちなんで~」

「そうだとしてもだよ。全部向こうが負担させているじゃないか。あの子には本当に申し訳ない」

 

 

俺は後悔している。子どもを三人も置いていなくなったのだから。こんなことなら彼女と会わなければよかった。そうすればあの子はもっと幸せになれたはずなのに……。

 

 

「もしかしてですけど~後悔しています~? なんであの子が俺と会ってしまったんだ、会わなければあの子はきっと幸せになったはずだと~」

「……心でも読んだんですか? まんまですよ」

「心は読めません~。なんとなくですよ~」

「そうですか」

「あなたの言うことは分かります~。でも、彼女さんはそうは思っていませんよ~。確かにあなたが死んだことに悲しみと絶望に落ちていました~。でも、それでも彼女はあなたと会えてよかったと思っていましたよ~。それにあなたはお金くらいは残しました~」

「お金?」

 

 

ありえない。俺は大した金額を持っていないはず。例え大学に入らず就職していてもその金額は微々たるものだろう。それを残せたと言えるのだろうか? 言えない。

 

 

「ええ、そうです~。彼女さんのお父さんは社長ですからね~。あなたに株のやり方を教えたんですよ~。そうするとなんと~! あなたの所持金がみるみる増えるではありませんか~。ですから、全て背負わせたわけではないんです~」

 

 

まさか、株!? 株で一稼ぎしちゃったということか? そんなバカな。結構都合がよすぎないか? 株ってそう簡単に上手くいくものじゃないだろう。

 

 

「ちなみに言っておきますけど~あなたと彼女さんは運命の人なんですよ~。だからすぐに好きになったんです~」

「……本当にあるんですね」

「ええ、あるんです~。そして本来なら二人はもっと幸せになれたのです~。喧嘩の内容だって周りから見れば~『なにいちゃついているんだよ!!』ってくらい本当に仲のいいくらいに~。そして、夢のような何の障害もない暮らしが~。でも……」

 

 

でも、俺は死んでしまった。神の言うことはすでにありえないものとなってしまった。もうそれが現実になることは決してないのだ。俺だって見たかった。そんな幸せの生活を。あの子とならそんな生活ができたと思ったのに。

 

本当に悔しい。なんで俺は死んでしまったのだろう。

 

 

「この原因は実は私にあるんです~」

 

 

神は申し訳ないように言う。俺は神の両肩を掴んで迫った。

 

 

「どういうことだ!!」

 

 

つい怒り溢れた。俺の神の両肩を掴む手に力が入る。神のその肩の骨がきしんだ。神は痛みに顔を歪めた。

 

 

「い、痛っ」

 

 

そうこぼした瞬間、俺は正気に戻る。すぐに手の力を抜き、肩を放した。

 

 

「す、すまん!! つい力が入って……」

「いえ、いいんです~。私の責任ですから~」

「説明してくれ」

「はい~。実は間違ってあなたが助けた子どもが予定外で殺してしまうところだったんです~。気づいたときには遅くて~。でも、死にませんでした~」

「俺が助けたから」

「そうです~。あなたが代わって死にました~。でも、驚きましたよ~。だってあなたは運命を捻じ曲げたんですから~」

 

 

運命を捻じ曲げた? どういうことだ?

 

 

「例え私のミスとはいえ、それは運命となってしまった~。運命は変えられないものです~。それが世界です~。分かりますよね~。あなたはそれを違うものとしたんです~。だから驚いたんですよ~」

「運命ってつまり絶対に起こることなんですか?」

「まあ、そうですね~。それよりも言わなければならないことがありましたね~」

「言わなければならないこと?」

「はい~。そのためにあなたを死後の世界には送りませんでした~。あなたを呼んだ理由、それは転生してもらうためです~」

「転生?」

 

 

転生と言うとあれか? 別の何かに生まれ変わるということか? なんだか抵抗があるな。だって転生だろう? こういうのは大抵前世とは別の世界に転生するのがお決まりだ。別の世界。それはもう何もかも別なものだと思うしかない。

 

そんな世界で俺は生きられるのだろうか? それに俺はきっと前世を捨てられない。なにせあの子と俺たちの子を残しているのだから。

 

 

「そうですね~。どの世界にしましょうか~?」

「なあ」

「なんでしょう~?」

 

 

あごに手を当て考える神を遮る。そして、意を結して言う。

 

 

「このまま俺を死後の世界に送ってくれないか?」

「……はい?」

 

 

俺は違う世界で生きたくはなかった。転生などして何の意味がある。そうしたって俺は幸せにはなれないのだ。前世が気になるから。

 

 

「な、何を言っているんですか~? 生き返るんですよ~? なのにこのまま死後の世界に行きたいってどういうことですか~?」

「俺はあいつらのいない世界で生きても生きがいがないからだ。だからこのまま死後の世界へ生きたいんだ」

「そう言われましても~」

「別に問題ないだろう? 俺がそれでいいと言っているんだからさ」

「すみませんが無理なんです~」

「どうしてだよ。転生と死後の世界では転生のほうが手間がかかるだろう。俺が死後の世界へ行くには別に問題ないはずだ」

「そうはいきません~。あなたは本来死ぬべきではない場所で死んでしまったのです~。今のあなたはイレギュラーと言ってもいいんです~。お願いです~。転生してください~」

 

 

神はなぜか必死にお願いしてくる。なんで? だがそれでも俺の気持ちは変わらない。とにかく別の世界に転生などするつもりはなく、今すぐに死後の世界へ行くんだ。

 

 

「ぐすっ、本当に転生してください~。こっちの首がかかっているんです~」

「すまんが無理だ。俺は転生したくないんだ」

「そ、そんな~。そうだ! なら転生の特典をあげます~。どうです~? 可愛い子に囲まれたいなんてことでもいいですよ~。これなら文句ないでしょう~。ハ~レムです」

「それでもだ。それに俺が好きなのはあの子だけだ。そもそも何人も愛せる自信がない」

「うう~どうしたら転生してくれるんですか~。こっちも困っているんです~」

「言っているだろう。転生する気はないと。こっちだってどうしたら死後の世界へ連れて行ってくれるんだよ」

「あなたみたいな人、初めてです~。他のみんなは喜んで転生していましたのに~」

「前もこんなことがあったのかよ」

 

 

だから首がかかっているのか? だとしたら自業自得じゃないか。というか、首って物理的な意味なのか? それとも役職的意味の首なのか?

 

 

「こうなったら最後の手段です~」

 

 

 

涙目でそう言う。しかし、涙目か。これはこれで可愛い。

 

 

「あなたの子孫の幸せでどうでしょうか~?」

「俺の子孫の幸せ?」

「はい~。ああ、別にあなたの子孫が不幸だというわけではないのですが~とにかく悪いことは起きないということです~。どうですか~? 悪い話ではないと思います~。これは脅しです~。だから転生してください~。お願いです~」

 

 

なんだが脅されているはずなのに、この神の口調と必死さのせいでまったくそう感じなかった。しかし、俺は一応脅されている。こうなったら俺の答えは……

 

 

「いいだろう。転生してやるよ」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます~!! これで私の首の皮が繋がりました~」

「それで本当に子孫の幸せを保証してくれるんだよな?」

「はい~。もちろんです~。うふふ~よかった~」

 

 

俺は関係ない未来の子孫のために転生することにした。俺はこの行為を前世に残したあの子と俺たちの子どもへの……なんだろう。とにかくこれは自身の罪に対するものだ。早く死んだという自分の罪に。

 

これはただの自己満足だ。自分の罪から逃れるために。

 

 

「さて~あなたが転生することも決まりましたし~その世界について説明しましょう~。その世界は魔法のある世界です~」

「魔法? 魔法だと? そんな世界があるのか?」

「あります~。私が管理している世界の一つです~。そこへ転生するんです~」

「ちょっと待て。そんな世界で俺は生きられるのか?」

 

 

魔法といえばやはり戦いだ。そういう漫画を読んだことがあるが、類似の作品は全て戦いがあった。それで登場人物が死んでしまう場面も。どう考えても生き残れる自信がない。魔法で襲われてそれで終わりだ。

 

例え戦いに巻き込まれないようにしていても、それは戦いに怯える日々だろう。そんな世界に転生するなら意味がない。

 

 

「大丈夫ですよ~。今からあなたにさっき言った特典を与えますから~。しかも二つです!! 二つなのは私のミスと脅したためです~」

「つまりその特典を使えばなんとかできるかもしれないと?」

「はい~。そうです~」

「ちなみにそれは非現実のことでもできるのか?」

「はい~。といっても限度はありますが~。まあ、大抵のことはなんでも叶えますよ~」

 

 

そうか。それはいいことを聞いた。ならその世界では簡単には死にたくはないからな。俺はある小説を思い出した。あのキャラクターならそう簡単には死なないはずだ。しかし、問題もある。何百年も生きることとなるということだ。

 

というか、寿命があるのかすら知らない。もしかしたらないのかもしれない。俺はそんな生き物になることを特典としようとしていた。

 

 

「決まった。一つ目はキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと同じ吸血鬼の体だ」

 

 

そう吸血鬼の体を望んだのだ。俺が知っている小説のキャラクターだ。

 

 

「問題ないか?」

「ないですね~。それで~体といいましたが~容姿はどうします~?」

「そうだったな。このままでいい」

「分かりました~。それで二つ目は何です~?」

「そうだな。その世界は魔法を使うんだろう? なら魔法を使うために魔力を使うはずだ。だから魔力の量を無限にしてくれ」

「む、無限!? 無限ですか!? なぜですか~?」

 

 

神は目を見開き驚く。

 

 

「俺は死にたくないんだよ。転生するんだろう? あの子と子どもたちを忘れるわけではないが、もしかしたらその世界でも何か出会いがあるかもしれない。そのときにもうその相手を悲しませたくはないんだよ。だから、もしも戦いになっても魔力がなくなって何もできずに死ぬなんてならないようにしたいんだ。それが理由だ」

 

 

神はなるほど~と呟いていた。どうやら納得してもらったらしい。そしてしばらく考える。

 

 

「まあ、いいでしょう~。ですが、無限の魔力です~。扱いきれます~?」

「分からない」

「そうですよね~」

「そうだ。使える魔法をここで設定していいか?」

「設定? どういうことです~?」

 

 

神は人差し指を頬に当て、首を傾げる。

 

 

「自分専用の魔法ということだ」

「つまりオリジナル魔法ですか~?」

「そういうこと。特典じゃないができるか?」

「それくらいなら問題ないです~。でもちょっとだけ条件があります~。そうするとその世界の魔法が使えなくなりますよ~。いいんですか~?」

「ああ、いいさ」

「分かりました~。ではどうぞ~」

「俺の魔法を姿形を変えるものにしてくれ」

 

 

俺が望んだ魔法はそんな魔法だった。だが、これは俺の考えあってのものだ。ちゃんと役立つ場面はあるはずだ。

 

 

「え、えっと~少々詳しくお願いします~。間違いがあったらこちらも困りますので~」

「そうだな。説明するとどんな姿にでもなれるということだ」

「そんな魔法でいいんですか~? てっきりもっとすごい魔法かと思いました~。そんな魔法よりもその世界の魔法を使ったほうがいいと思うんですけど~」

「これでいい。一応考えはあるんだから」

「そうですか~。分かりました~」

「もう一ついいか?」

「何ですか~? 言っておきますけど限度があるんですからね~」

「分かっている。これが最後だ。魔法はもう使えないんだろう? なら魔力を弾や刃などにできるようにしてくれ。別に魔法じゃないんだ。いいか?」

「う~ん、しょうがないですね~。本当はできないんですけど~私にとってあなたのオリジナル魔法は別にすごいというわけではないのでそれで妥協しましょう~」

 

 

やれやれとしながら神は俺のわがままを承諾してくれた。本当にすみません。そしてありがとうございます。あなたが俺を転生してくれる人でよかった!! 多分別の人だったらこうはいかなかっただろう。

 

 

「ですが~ちょっとあなたのオリジナル魔法に制限をかけさせてください~。内容は他人の姿にはなれないという制限です~。いいですか~?」

「問題ない」

 

 

俺がなるのは動物だからな。人間になるつもりはない。どんな動物かは転生してからだ。

 

 

「それで魔力ですが魔力は私のほうである程度決めさせてもらいました~。弾、光線、刃、体を包む球体型つまり防御、そして身体能力強化。このくらいです~。種類は少ないように思えますが~魔力が無限だということを考えれば問題ないでしょう~」

 

 

確かにそうだ。魔力が無限である以上、これだけあれば十分だろう。というか、十分以上だ。不満どころか満足だ。俺が求めたのだが思わず本当にいいのかと思ってしまう。

 

神は腕を組んで考えている。その間には俺はなくした記憶を思い出す。時間が経過したためか思い出してきた。思い出すとやはり涙が出てきた。父親のいない子どもか。大きくなってきっと寂しい思いをするだろう。

 

あの子らに残せたのは写真だ。あの子たちが生まれたときから何枚も撮った。俺もあの子の一緒になってそれも何枚も。どうやら俺たちは両親たちのようにやはり親バカだったらしい。まあ、おかげで写真を残せたから。

 

その間に神の考え事は終わった。神は大きく頷く。

 

 

「よし! これでいいですね~。あなたの心の準備はできました~? 転生しますよ~」

「ああ、こっちの準備はできた。大丈夫だ」

「よかったです~。最後に私から一言、私のミスであなたを死なせてしまいました~。申し訳ありませんでした~」

 

 

真剣に謝っているようだが、やはりその口調のせいでそう感じない。

 

 

「いや、いい。あれは俺がやったことだ。いわば自業自得だよ」

「いえ~違います~。私のせいですよ~」

「なら、今度からはミスしないようにしてくれよ。同じような人が増えるのは嫌だからな」

「分かりました~。がんばります~」

 

 

本当にその口調のせいで色々と台無しだ。

 

 

「では転生させます~。おっと~その前にもう一言~。あなたは運命に愛されています~。多分、また同じようになるでしょう~」

「え? それってすぐに互いに好きになるってことか?」

「そうなりますね~。まあ、そういうわけでがんばってくださいね~」

 

 

それを最後に俺の視界は黒く染まった。




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