エヴァが目の前にある俺が作った料理を、勢いよく食べいる。もう涙を流しなら。本当にうれしそうだ。あ~、これは絶対俺が悪かった。だって、エヴァがこんなに涙を流しながら食べたことなんて無かった。
「こんなに美味しいなんてサイコーだ!!」
もうキャラが崩壊している。お詫びとして俺はその頭を撫でた。髪は相変わらずさらさらしている。エヴァはこっちを見た。だが、いつもと違って目がキラキラしていた。それはまるで子供のように。
「えへへ~」
やばいやばい!キャラ崩壊どころか、精神年齢が下がっているぞ!ここまで壊れるなんて思わなかった……。今度から気をつけ―――――ッ!!
ドカッ!
俺の腹に衝撃が走った。いきなりのことで思わず、膝をついた。いつもなら膝をつくことはない。だが、エヴァのことで油断していた。くっ、誰だ!そう思って自分の腹を見ると、見たことのある細い腕が見えた。その腕の持ち主は………エヴァだった。
まあ、分かっていたよ。だって、俺の目の前にはエヴァしかいない。いくら油断していたとはいえ、他の人間からの攻撃だったらすぐに対応できた。できなかったのはエヴァからの攻撃だったからだ。
「な……何をするんだ……?」
「ふん!朝ごはんと昼ごはんを食べられなかった怨みだ!」
食べ物の怨みは恐ろしいというが、今のエヴァがそうだ。食べられなかったということで、怒っている。まさか、さっきのは演技だったのか。というか、マジで腹が痛いんだが。え?これ大丈夫?口の中に鉄の味がするんですけど。絶対に内臓傷つけたよね?
あっ、やばい。ちょっと気が遠くなってきた……。俺の体に力が入らなくなるのが分かる。力が抜け、上半身が倒れる。目の前には床だ。どんどん近づいてくる。だが、床にぶつかる前に受け止められた。エヴァだ。
「お、おい!嘘だよな!?さすがの私もその悪ふざけは、怒るぞ!」
目に涙を溜めたエヴァが俺の顔を覗いてくる。俺はできるだけ、平気な顔をする。だが、そんな嘘はすぐにばれた。嘘だと見抜いたエヴァは俺を睨みつける。必然的に目が合った。
「体が再生しないのか?」
「再生が遅れただけだ」
あれ?エヴァの目が心配するような目から、冷たい目に変わったような気がする。
「ふん!」
ドカッ!
な、殴られた……。今回は油断していなかったので、ダメージはない。そして、さらに拳が放たれた。今度は受けとめた。結構痛かった。
「次、私を心配させたら内臓を引き出すからな!」
殺気のこもった視線が向けられた。こわっ!もう女の子の発言じゃない!どこのヤンデレだ?ちょっと俺の内臓に危機を感じた俺は、内臓を引き出されないためにも、エヴァの前で怪我をしないようにしようと決めた。
「あと……ごちそうさま。お、美味しかった」
さっきと違い、照れた顔でそう言ってきた。これは卑怯だ。可愛い過ぎる。
「ど、どうした?」
「いや、可愛いなって思ってな」
「い、いきなり何を言うんだ!さっきのやり返しか!」
「いや、素直に思ったことを言っただけだ」
そう言うと顔を真っ赤にした。エヴァはその真っ赤にした顔を伏せた。思わずその頭を撫でた。さっきも思ったが、髪がさらさらだ。
「な、なに勝手に撫でているんだ!!」
「頭を伏せてたんで、てっきり撫でてほしいのかなと思ってな」
「違う!は、恥ずかしくて伏せてただけだ!!」
「嫌だったか?」
「……嫌ではない」
伏せていた顔を上げていたエヴァが、顔を逸らす。だが、手は頭にのせたままだ。言葉だけでなく、行動でも撫でられることが嫌ではないということを表していた。俺が止めようとすると、うるうるした目でこっちを見てきた。
「もうちょっとだけ……撫でて」
「ああ、分かった。これが終わったら勉強するか?」
「うん。明日がテストだからな」
しばらくその頭を撫で続けた。エヴァは撫でられる感覚を。俺はその髪の感触を堪能した。互いに互いで満足したのだ。
勉強を始めたのは1時間後だった。エヴァには俺が作ったテストをやってもらっている。難易度は高い。でも、これで8割取れれば明日のテストは簡単だ。俺は正面に座って見守る。
エヴァはその難しさに唸っている。俺は見守ることしかできない。困っているエヴァを見るのはこっちもつらい。だが、これもエヴァのためだ。仕方がない。一応テストなので制限時間がついている。あと、5分だ。
エヴァの回答を見るが、ほとんどうまっている。どうやら勉強の成果が出ているようだ。む、時間だな。俺は立ち上がった。それに気付いたエヴァは答案用紙から離れた。
「そこまでだ。テスト時間終了だ」
俺は採点を始める。やっぱりほとんど合っている。結果、100点満点中83点だ。このテストは難易度は高めだ。それに問題数も多い。それで83点だ。結構いいほうだ。
採点し終わった答案用紙をエヴァに返す。
「!!み、見ろ!どうだ!いい点だぞ!」
「ああ、知ってるよ。結構難易度高めの問題だ。よくやったな」
俺は喜んでいるエヴァの頭を撫でる。だが、すぐに止めた。
「なんで止めたんだ?」
「ここからはお預けだ。まだ本番じゃないからな。明日、いい点を取らないと意味がない。だが、俺のテストで8割取ったんだ。きっと大丈夫だ」
「分かった。なら、待っていろ!絶対にいい点を取ってやる!そ、そのときはデートだからな!」
「ああ、約束だ。いい点を取ったらデートだ」
まあ、いい点を取らなくも俺がデートしたいから、関係ないけどな。俺は心の中でそんなずるいことを考えていた。エヴァはノートを取り出し、さらに勉強を続けた。まあ、これだけがんばっているんだ。いい点は絶対にとるだろう。
つまり、俺のずるい考えは無意味だろう。だから、俺はエヴァを信じて結果を待つだけだ。それから数時間、俺はエヴァが分からないところを教え、他はただ見るだけだった。
外は暗く、時間はすでに9時になっていた。それまでの休憩は途中で夕食をはさんだ一回だけだった。
「そろそろ終わりだ。もう寝ろ」
「なにを言っているんだ?まだ9時だぞ。あと3時間ある。いや、今日は徹夜だ」
俺はエヴァの頭に拳を落とす。相手は女の子だし恋人だ。軽くやっただけだ。効果音で言うとポカッだ。むしろ撫でられたと勘違いしてしまうくらいのものだ。
「それは撫でているのか?それとも殴ったのか?」
「どっちもだ。だが、主に殴った、だ。いいか?どんな力も使う者が万全じゃないとその力は発揮できない。というわけで、寝ろ」
「もう少しだけ!」
「ダメだ。今すぐ寝ろ。脳が寝ぼけていて、テストに集中できませんでした、にはなりたくはないだろう?」
「うう、確かにそうだな。分かった……。もう寝る」
俺の言った例えが効果的だったようだ。正直に従いエヴァは服を着替える。俺も寝る準備をした。今日の俺の仕事はない。だから、俺もエヴァと寝る。だが、あったとしても一緒に寝る。
部屋の電気を消す。窓からの月明かりが差し込む。おかげで、ベッドまでの道筋が見えた。もっとも、吸血鬼である俺たちにはほとんど意味はない。吸血鬼は夜の生き物。むしろ、夜が活動時間である。
だから、暗闇の中でもはっきりと見えた。だが、生活リズムは昼間だ。そっちに合わせている。エヴァは昼間でも眠いみたいだがな。布団の中に入り込むと、まず最初にエヴァの顔が目に入る。
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
互いにそう言い、軽くキスをした。それからしばらくしてエヴァの寝息が聞こえた。それを確認し、俺も眠りについた。
朝起きて上半身を起こしエヴァをみると、エヴァが俺の腕に抱きついていた。困ったな。非常に困った。引き剥がそうにも、引き剥がせない。本気で剥がそうとすれば剥がせるが、俺にはできない。こんな気持ち良さそうに寝ているエヴァの邪魔をできない。
「困ッテイルヨウダナ」
「ああ、困っている。どうすればいい、ゼロ」
俺の腹あたりに座っているゼロに聞く。相変わらずの神出鬼没だ。こいつが暗殺しに来たら、絶対に暗殺されるな。だって、俺に気付かれずにいたんだからな。
「普通ニ起コセバイインジャナイカ?早クシナイト遅レルゾ」
「ああ、そうだな。起こすか」
時間にはまだ余裕があるが、いつまでもこうしてその寝顔を見ていたら、絶対に遅れる。俺はエヴァの体を揺らす。
「起きろ。朝だ」
「すう……すう……すう……すう……」
全く無意味だったようだ。相手は手強い!俺は額に手をやる。
「ゼロ、ダメだった……。エヴァの眠りには勝てなかった」
「オイ、チョット待テ。マダ一回目ダゾ」
「無理だ」
「早ク……起コセ!」
ゼロが俺に向かってナイフを振り下ろしてくる。俺の体は無意識にそのナイフを指2本で受け止める。む、仕方ない。あまりやりたくはないが、やるしかないようだ。じゃないと体にナイフが刺さりそうだ。
「エヴァ!起きろ!テストをがんばるんじゃないのか?」
「はっ!!」
ガバッ!
勢いよく起き上がった。まだ目は完全に開ききってはいない。俺はエヴァを抱き上げる。それにエヴァはビクッとなった。
「な、なにをするんだ!」
「いや、このままリビングまで運ぼうと思ってな」
「必要ない!だから降ろしてくれ!」
「いやなのか?」
「嫌ではない!でも、まだ寝起きなんだ。ちょっと恥ずかしい……」
こんなに恥ずかしがるなんて珍しい。だが、そんなエヴァの姿も可愛い。俺はエヴァをさらにギュッと抱き寄せる。つまり、密着度が高くなる。エヴァの体温と肌をよく感じる。互いにパジャマとジャージだからだ。ちなみに俺がジャージだ。
「うう~、そ、そろそろ朝食にしろ!」
「はい、お姫様」
「だ、誰がお姫様だ!」
抱きかかえられたエヴァがポカポカと俺の胸を叩く。全く痛くはない。さてさて、悪ふざけはここまでだ。俺はエヴァを抱えたままリビングまで連れて行った。朝食は用意されている。ゼロが用意したものだ。
ゼロは家事を一通りすることができる。あの城では人形とともに家事をしていた。まあ、料理の腕は俺のほうが高いがな。俺が和食でゼロが洋食を得意とする。
「久しぶりにチャチャゼロの料理を見たな」
エヴァがそう言う。ゼロが動けるようになったのは最近。だが、俺が毎日料理をしていたせいで、ゼロが料理するときがなかった。俺がゼロが料理ができるということを忘れていなかったら、朝はゼロにやらせていた。今度からは朝食はゼロに任せるか。
毎日朝早くから起きるのは苦手なんでね。俺だって吸血鬼だ。朝は人間では夜だ。だから、朝に起きるのは苦手なんだ。まあ、エヴァほどではない。
「オイ、御主人ニ慎也。イツマデ抱キ合ッタママナンダ?」
「!!」
「おっと、そうだったな」
ゼロに指摘され、顔を赤くしたエヴァを俺はそっと下ろした。エヴァは顔を伏せたまま椅子に座った。俺もつられて椅子に座る。ゼロはテーブルにちょこんと座っていた。
「「いただきます」」
互いに手を合わせ食事のあいさつをする。そして、食べ始めた。
「慎也のもおいしかったが、チャチャゼロのもおいしいな」
「ああ、そうだな。ゼロ、明日から朝食を頼むな」
ゼロにそう伝える。ゼロは少し考えたあと、首を縦に振った。よし!明日から少し楽になる!表情は変わらなかったが、俺は心の中で喜んでいた。エヴァはそれに気付いたのか、こっちを鋭い目で見てくる。もちろん、表情は崩さない。
そうしている間に俺とエヴァは朝食を食べ終わった。満足だ。他人の料理なんて久しぶりだ。明日からの朝食が楽しみだ。
「「ごちそうさま」」
俺たちはそれぞれの準備に取り掛かる。俺はスーツ、エヴァは制服だ。俺は鞄に仕事に必要な書類を入れる。入れ終わり、最終確認。……。問題ない。忘れ物はしていない。準備が終わり、玄関のところまで行くとエヴァが待っていた。ゼロも隣に浮かんでいた。
「そういえば、今日は先生の用事はないのか?この時間だと間に合わないぞ」
「ああ、ない。だから、あの時間に起きたんだ」
「ふ~ん、そうなのか。では、行くぞ」
「ああ」
俺たちは自然と手を繋ぎ、家を出た。