俺たちは今、学校へ向かっている途中だ。そろそろ人が多くなってきた。まだ時間に余裕があるのでたくさんの人はいない。だが、そろそろ分かれよう。俺たちが仲良くしているところを見られるのはいい。だが、俺のこの姿を見られるのはまずい。
「そろそろ俺は行くぞ」
「分かった」
エヴァの返事を聞き、俺ははや走りで建物の影へ行こうとする。だが、背中から「待て」とエヴァに言われ、立ち止まり振り替える。
「なんだ?」
「今日、私はがんばるからな!」
「ああ、がんばれよ。結果、楽しみにしているからな」
その言葉にエヴァが顔を赤くした。どこかに赤くなる要素があったか?いや、あったな。楽しみにしていると言ったからだ。今回のテストの結果次第では、デートだからだ。つまり、エヴァからしてみれば、俺がエヴァとデートをしたいと聞き取れたのだろう。
だが、実際にデートはしたい。エヴァとデートなんて久しぶりだが、前のデートはデートらしくなかった。だって、指名手配中だったからだ。正直あまり楽しめなかった。今回は違う。エヴァの指名手配はなくなった。つまり、誰も追う者はいない。俺の指名手配は未だにあるが、顔を晒していない。
指名手配されていても、捕まえることは不可能に近い。だから、そのときのデートは何も気にせずにデートに集中できる。
俺は完全にエヴァと分かれ、建物の影へ行く。そこで歳を変え、職員室へ向かった。
「あら、慎也先生。おはようございます」
「おはようございます。今日は生徒たちはテスト。生徒たちが気になるな。しずな先生はどうですか?」
「そうですわね。私も気になりますわ。特にネギ先生と慎也先生のクラスです」
「そうですか。まあ、見てください。きっと面白いことになりますよ」
俺はたくらみのある笑みを浮かべた。しずな先生はそれは楽しみですわと言って微笑んできた。ちょっと小話をして俺は色々と準備をし、教室に向かった。教室へ入ると、皆ノートを見たり、参考書を見ていた。
俺は椅子に座り、その様子を見ていた。俺は別のクラスの監督だが、気になったので来ただけだ。エヴァを見るとエヴァはちらちらと、こっちと手に持つ参考書を見ていた。その姿に思わず頬が緩む。
だが、エヴァ以外に強い視線を感じた。その視線の先を見ると超だ。エヴァと違い超は堂々と見ていた。それはもうじっとだ。しかも、笑顔で見てきている。俺は目を合わせる。目が合うと超はニコっとしてきた。
俺はただ目をそらす。2人のほかに強い視線はない。すべて弱い視線だ。たまに黒板を見てたまたま俺を見たとかだ。時計を見るとあと5分で予鈴だ。クラス全体を見るとバカ5人衆と優秀な人間3人、そしてネギ先生がいなかった。5人衆は行方不明なのか?
それとも遅れているのか?分からないが、あとで学園長にでも聞くか。俺は立ち上がり教室を出た。そのときにエヴァを見たが、ちょっと悲しそうな顔をしていた。
俺は別の教室へ向かった。そこで予鈴がなる。俺はテスト用紙を配り監督をした。
すべてのテストが終わった。俺が見ていたクラスは特に不正もなく順調に終わった。だが、暇だった。テストの監督なんて暇なだけだ。やることがない。というかできない。やればテストの邪魔になるからな。
だが、もう過ぎたあとだ。あとは採点をして、クラス成績を発表するだけだ。だが、採点には時間がかかる。今日は帰るが遅くなるな。エヴァには電話で伝えるか。確か家に固定電話があったはずだ。今度からエヴァの携帯でも買うか。
「慎也先生、今日から採点で忙しくなりますわね」
「本当にそうです。忙しくなりそうですよ」
採点はクラス分だけだ。だが、すべての教科は担任がやるので時間がかかる。ネギ先生はダメだ。まだ見習いだからだ。正式な先生になったらやることになるらしい。だが、別に疲れる仕事ではない。
吸血鬼の体力舐めんな! である。その気になれば、1年は走り続けることができる。その俺がこの程度で疲れるわけがない。だが、面倒な仕事は精神的に疲れる。身体の体力が大丈夫でも、精神の体力がダメだったら意味がない。
だから、その身体能力で一気に終わらせる!でも、採点は職員室でやらないとダメだ。それは生徒の回答用紙をなくさないため。もし無くせばどう責任を取るんだ? 取れるわけがない。
そういうわけで、職員室で採点しないといけない。だが、問題ない。こそこそやればいいんだ。周りに警戒しながらだが。
「ああ、慎也先生。どうぞ。これがクラスの回答用紙と答案です」
男の先生が俺に渡してきた。俺はそれを受け取る。やっぱり多いな。だが、一日で終わらせる。俺は早速、採点にかかった。周りには採点をしている先生たち。だが、全員採点に集中している。
俺は早速一気に採点する。1秒で3枚。あら?これだったら結構早く帰れるんじゃね?なら電話しなくていいな。む! 俺は人の気配を感じ、動きをスローにする。見れば新田先生だ。
「慎也先生、どうですか?」
「結構きついですね。今までの採点は教科別でやっていましたからね」
「ハハハ! この学園は少し特別ですからな」
少し? どこがだ。魔法だらけじゃないか。これが少しなら異常はどれだけだ。毎日爆発しているのか? 怪物がたくさんいるのか? まあいい。俺たちに影響がなければな。
「慎也先生、がんばってください」
「ありがとうございます」
俺は新田先生が離れるのを確認し、再び再開した。次々と採点し終わり、採点が終わった回答用紙が積みあがっていく。未採点の用紙も少なくなってきた。おいおい。吸血鬼の身体能力って便利だな! まさか、わずか数十分で終わるとはな。周りの先生方はまだ多くある。
すまないな。俺だけずるしたみたいだが、ちゃんと採点したんだ。ただスピードが速かっただけだ。それだけのことだ。そして、少し時間が経った。ついにあと1枚! 俺はその一枚を丁寧に採点した。
「終わったな」
採点終了と同時にそう呟いた。ちなみに生徒の名前は見ずに採点したので、エヴァの点数は見ていない。字を見れば誰のか分かる? 残念だが、機械のごとく作業をしていたのでその記憶はない。
俺は用紙を教科別に分けた。分けたあとはある場所に置いた。詳しくは言えないが、そこで生徒の点数を記録したりする。これで俺の仕事は終わった。それを確認し、体を伸ばす。
バキバキという音が体の中に響く。またさらに伸びると、バギバギとさっきよりひどい音がした。おそらく数年ぶりに伸びをしたからだ。人体は不思議だな。普通の人間なら数年伸びをしなくても、こんなにならないだろう。やっぱり吸血鬼だということが関係しているのか?
「あら?もう終わったんですか?」
「ええ、終わりました」
「本当ですか?」
「本当です」
「嘘じゃないですよね?」
「嘘ではありません」
「あの量ですよね?」
「あの量です」
「それをこの数十分で?」
「数十分でです」
しずな先生からの疑いの質問に答える。どれだけ信用されていないんだ。だが、疑うのは分かる。だって、あれをこの短時間で終わらせたのだ。誰だって疑う。しょうがない。だから責めない。
「では、俺はこれで失礼します」
「はい、分かりました。疑ってすみません」
「いえ、気にしないでください」
疑いが晴れた俺はしずな先生と分かれる。さて、急いで家に帰るか。俺は校舎を出た。生徒たちがまだちらほらといる。みんなの顔はそれぞれだ。すっきりした顔、悔しがっている顔、落ち込んでいる顔と色々だ。
テスト終了後の生徒は色々な顔をする。それを見ると面白いと思う。これが先生になったときのすばらしいことだ。先生になると生徒のいろんな顔を見る。この仕事でよかったと思う。なに真面目に語っているんだろうか?
「おや、先生。なにしているカ?」
「何って帰っているんだよ、超 鈴音」
後ろから声をかけられ、振り向くと超の姿があった。超は軽く走って近づいてきた。話しかけられたときは、少し距離があった。俺と超の距離はすぐになくなっていく。
「でも、採点だったんじゃないのカ?」
「あれはもう終わった」
超は少し考えていた。しばらく考えていた超は、分かった顔をして、口を開いた。その目は細く鋭い目だった。
「――――吸血鬼の身体能力、かナ?」
俺は口の端を吊り上げ、言う。
「正解」
不適に笑うのではない。いたずらをしたときのような顔だ。それを見た超は声を押し殺し、笑う。その目には笑い過ぎて涙が溜まっていた。そんなに面白かったか?思わずそう思った。
笑いが収まった超は指で涙を拭きながら、こちらを改めて向いた。そして、一息つく。笑っていた直後は肩で息をしていたが、今はだいぶ落ち着いたみたいだ。
「やっぱり、面白いヨ。さすが私の……だ」
「ん?なんて言ったんだ?」
よく聞こえなかったため、聞き返そうとする。超は俺との距離をゼロにした。つまり、体が服越しだが、触れている。超の顔が俺の顔に近づいてきた。そのとき、一瞬だけドキッとしてしまった。別に浮気とかではない。男なら誰だって女の子に近づかれたら、ドキッとするだろう。だからこれは違う!
超の顔はそのまま俺の顔と向き合うような形にならず、横にそれた。超はそのまま唇を俺の耳元へ近づけてくる。
「ドキドキした?だけど、残念。キスとかはしないヨ。言っておくけど、私は先生のことは好き。でも、今はそのときじゃない。私の好きはLOVEのほうだヨ。でも、ある関係でのLOVE。私は先生とあともう1人しかLOVEの意味での好きになれないヨ」
「……どういう意味だ?」
「それもまだ今じゃないヨ。さっきの質問の答えも今じゃない。でも、ちゃんと教えるヨ」
俺は超の答えに困惑する。答えを聞こうとしたのに、逆に謎が増えた。まるで問題を出された気分だ。答えは超の求める時だけだ。どうしろというんだ。超は顔を離す。そして、再び自身の道へ戻って行く。
「おっと、忘れていたネ。私とのデートは冬休みが始まる1日目」
「……分かった」
振り返りそう伝えてきた。そのときの顔は満面の笑みだった。くそっ、あんな笑顔を見たらてきとうにできない。企みのある笑みだったら、てきとうに終わらせれていたのに。絶対に期待している顔だ。これは男として絶対に楽しませねばなるまい。
そう考えながら、俺も帰路についた。それはすでに赤く染まっていた。徐々に暗くなる道。電灯も点灯する。虫たちもそろそろ鳴き始める。俺は少し急いで帰った。
「ただいま」
「おかえり!」
ドアを開け中に入ると、こちらでも満面の笑みを浮かべたエヴァが駆け寄ってくる。俺の胸に飛び込んできたので、俺は抱きとめる。小柄なので衝撃は軽い。
「私は今日のテスト、がんばったぞ!」
「そうか。なら、後は結果だな」
「む。慎也は私の採点をしたんじゃないのか?」
「したけどほぼ無意識でやったんで、覚えていない」
「……それ、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。失敗したことはない」
俺はまだ腰にしがみついているエヴァの頭を撫でる。そして、つい調子に乗り、脇の下に手を入れそのまま持ち上げる。いわゆる高い高いだ。
「ほ~ら、高い高い!」
「えへへ!……って調子に乗るな!!」
べキッ!バキッ!ドシャ!グシャ!メキャ!
結果、俺は血に染まった。
「お、お前はなにを考えているんだ!!わ、私を子供扱いどころか、赤ん坊扱いするなんて!!このバカァァ!!!」
「いや、すまない。せっかくがんばったし、そのご褒美にしようかと思ったんだ」
「ご褒美だと!?私を辱めることがか!!」
「今度からは別のことにするよ」
「ふん!それはいいが、クラス成績発表まで口を聞かないからな!!それまで反省していろ!!」
俺は反省した。さすがに、あれはなかった。あいつは女の子だし、俺と同じく長い年月を生きた者だ。そこには高いプライドがある。俺は調子に乗りすぎた。俺はエヴァのプライドを傷つけた。
俺だってプライドがある。そのプライドが傷つけられたなら、エヴァのように怒るだろう。だから、口を聞かないという罰を受ける。それで許してくれるのなら、何の異論もなく受けよう。
「分かった。すまないな。今度から気をつけるよ」
「えっ?と、止めないのか?口を聞かないと言っているんだぞ?」
「俺だって止めたい。だが、これは俺が悪いんだ。ちゃんとその責任は取るべきだ。それがお前への責任ならなおさら」
「そ、そうか……。なら、今から、だ」
そのときのエヴァの顔は悲しんでいたようだった。だが、それは気のせいだったかもしれない。