エヴァと話さなくなって、数時間。俺とエヴァの間には沈黙が続いている。エヴァの悲しそうな顔は今も続いていた。やはりあのときの顔は間違いではなかった。その顔はずっとだ。この数時間にあった食事のときまでも、悲しそうな顔をしていた。
俺だってエヴァと話したい。だが、これは俺が悪い。これはその罰のためだ。しかし、恋人であるエヴァがかなしそうな目をしているのに、罰を続ける必要があるだろうか、いや、ない。俺の優先すべきことはエヴァを悲しませないということ。それがなにより優先すべきこと。
その優先は世界滅亡よりも優先されるものだ。だが、滅亡したら生きていけないので、滅亡はさせないがな。
エヴァは今は布団の中にいた。布団の中に体全体を包まり、俺と目を合わせないためにそうしているようだ。俺が言うのは恥ずかしいが、自分が与えた罰とはいえ、好きな相手と話せないというのが、つらいようだ。
おそらく心の中では早く時間が過ぎてくれと思っているんだろう。俺がエヴァとしゃべらない時間はクラス成績発表までだ。だからそう思っているんだろう。
だがそれでも俺はまだどうするべきか決めかけていた。さっきまで罰よりと考えていたはずなのにだ。罰を受けないのか、それとも罰をうけるのかを。
「何ヲヤッテイルンダ?」
「椅子に座っているんだが?」
「ソウジャナイ。ナニ御主人ヲ泣カシテイルンダッテ言ッテイルンダ」
「それは分かっているよ。だが、どうすればいいのか分からないんだよ。エヴァのために罰を受けるのを止めるのか、それとも罰を受けるべきなのか」
「オ前、殺シテモイイカ?」
そう言い刃物を俺に刺してくる。刃物は俺の心臓に刺さる。俺は別にそれくらいじゃ死なない。俺は刺さった刃物を抜き取り、机に置いた。俺の血のせいで机が赤くなる。だが、付着した血が僅かだったので一部が赤くなったくらいだ。
「俺が答える前に刺すな」
「オ前ハ御主人ノ恋人ナンダロ。ダッタラ、クダラナイコトデ悩ムナ」
「スルーか」
「トイウカ、ドコニ悩ム要素ガアッタンダ?オ前、昔ト比ベテ頭ガ固クナッタンジャナイノカ?昔ノオ前は御主人ガソウナッタラ迷ワナカッタンダロ。ヤッパリ100年ノ間に変ワッタナ」
ゼロに指摘される。確かにそうかもしれないな。守らなければならないことは守る。この100年でそれが染み付いたのかもしれない。全く人間らしくし過ぎたな。さっきも自分でエヴァのほうが優先だって考えていたのにな。俺はかるく笑った。
「そうだったな。昔の俺ならこんなくだらないことで悩まなかったな」
「ヨウヤク分カッタカ。ナラ行ッテコイ」
俺はゼロに後押しされ、エヴァのもとへ向かった。
俺はベッドの端へ座る。ベッドには丸まった布団だ。
「エヴァ、俺はあの罰を受けるのをやめた。というわけで、俺はお前と話がしたい。出てきてくれ」
「…………」
「確かにこうするのが遅かったって分かっている。すまなかった」
「……………」
だが、返事はない。さすがに俺も心配になる。やはり、テスト成績発表のときまで、話さないのだろうか?それを確かめるためにも、俺はさらに近づいた。
「布団、どけるぞ?」
「……………」
返事はない。だが、関係ない。俺はためらわずにその布団をどけた。その瞬間、俺は思わず固まってしまった。布団の中にエヴァがいなかったとかではない。
「すう……すう……すう……すう……」
エヴァが寝ていたからだ。エヴァは体を丸まって寝ていた。目元が赤くなったいるころから、布団の中で泣いてそのまま寝てしまったようだ。部屋に静かな寝息が響く。俺は思わずうなだれた。もし、真剣に長い話をしていたら、一生ものの恥だった。
でもよかった。あまり長い話をしなくて。俺はひとまず、その頭を撫でる。寝ているエヴァは気持ち良さそうな顔をする。俺は寝ているエヴァが風邪を引かないようにと、改めて布団をかけなおした。
「ごめんな、エヴァ」
俺は寝ているエヴァの額にキスをして、俺はベッドから離れた。再びリビングに戻るとゼロが机を椅子にして待っていた。
「ドウダッタ?」
「寝てた」
「……明日ガンバレ」
俺はゼロに肩を叩かれ、慰められた。人形であるゼロに慰めれる人間、いや、吸血鬼。おかしな構図だが、ゼロにも意思があるので俺は気にしない。それはエヴァのもう一人の従者、ゼロの妹でもある茶々丸にもいえる。
あいつにも魂はどうか判らないが意思がある。だが、俺としてはあまりいいこととは考えていない。なぜなら、人工物が意思を持ち感情を持つのは、いろんな意味で危険だからだ。別にゼロや茶々丸の存在を否定するわけではないが、もし万が一、人間を好きになったらどうだろうか?
当然実ることは難しい。そういうゲームならまだしも、ここは現実。まあ、現実に意思を持ったロボットがいることがもう、いや、そもそも魔法や俺みたいなのがいる時点でおかしいが。とにかくここは現実だ。
ロボットが人間に恋をする。だが、実らない。きっと、そのロボットは後悔するだろう。なぜ自分は人間ではないのか。なぜ私に意思があるのか。なぜ私は……。このようになる。それはひどく残酷なことだ。
「オイ、ドウシタ?」
「いや、ゼロがいてよかったなとな」
「本当カ?」
「まあ、少し他にも考えていたがな。ちなみに言わないぞ」
「別ニ聞キタクハナイ」
「そうか」
ゼロは何も聞かない。俺としてもゼロのような意思を持ったものを、否定するような考えをしてしまったので言いたくはない。
「ナア、一杯ヤラナイカ?」
「そうだな。たまにはお前と一杯するのもいいな」
ゼロがどこかへ行き、戻ってくると一本の酒瓶を持っていた。あきらかにあの小さな体では持てないものだったが、それをものともせずに持ってきた。俺はその酒瓶を受け取る。
ふむ。久々に飲むな。最後に飲んだのはいつだっただろうか?もう覚えていない。おそらく数年振りだな。俺はゼロの杯に酒を注ぐ。その後は自分だ。
「では、乾杯」
「乾杯」
俺たちはぐびっと飲む。久々の酒が俺の体の中に入ってくる。くっ~、いいね!体に染み込んでくる酒が俺のテンションを上げる。吸血鬼とはいえ、アルコールを分解するには時間がかかる。
「ケケケ、俺モ久々ニ飲ンダゼ。コレモ慎也ガ御主人ノ封印ヲ無クシタオカゲダナ」
「くくく、なら俺のために一曲歌ってくれ」
「イイゼ。俺ノ上手サニ感動スルナヨ?」
そう言ってゼロは歌いだした。もちろん俺も歌った。酒が入っていたせいで、一晩中歌ってしまった。もし、まわりに人の家があったら迷惑だっただろう。そう思うと騒ぎすぎたと反省した。
翌朝、俺は頭痛のする頭を持ち上げながら、立ち上がる。俺はどうやらテーブルを枕にし、そのまま寝てしまったようだ。テーブルには数本の空の酒瓶が散乱していた。ゼロは机の上でまだ寝ている。
「おえ、気分悪っ」
思わず呟く。もちろん誰も反応しない。今日も学校があるため、吸血鬼の回復力を利用し、体を万全にする。頭がすっきりし、頭痛もなくなる。そういえば、今日の準備をしていなかったな。
早速俺は準備する。準備にはそんなにかからなかった。そろそろ行こうか。だが、その前にエヴァのもとへ行く。俺も教師として学校が有るので、エヴァも学校があるのだが、今日くらいいいだろう。そう思い、今日は起こさなかった。
教師としてはどうだろうかと思うが、仕事よりエヴァのほうが優先だ。ナギの呪いが解けた今は
ベッドを見れば、まだ規則正しい寝息をたて気持ち良さそうに寝ていた。俺はその頬に手を当てる。
「じゃ、行ってくるよ」
「んん……わか……った……」
俺の声に反応したエヴァを見て、俺は微笑んだ。俺はしばらくその顔を見てその場から離れた。今回は別にエヴァといないため、家であの姿になる。俺は家に帰ってからエヴァとどうやって話そうかとそういうことを考えながら学校へ向かった。
もう仕事が終わったあとのことを考えていた。何度も言うようだが、俺にとってはエヴァのほうが優先順位が高いのだ。その次に仕事だ。これはもう重傷だな。
まあ、ともかくそんなことを考えながら学校へ向かった。職員室に行くとすでに結構な人数の先生がいた。まあ、職員会議が始まる5分前だからな。当たり前だ。いつもはこんなに遅く来るわけではないが、昨日の酒のせいで遅れた。
おれは自分の席に着き、今日の仕事の準備をする。だが、なんだかやる気がでない。これもエヴァがいないと分かっているからか。それともただ調子が悪いのか。どう考えても前者だ。
「あの~、大神先生。なんだか元気がないみたいですね」
「ああ、ネギ先生。ちょっと昨日は飲みすぎましてね」
「そうなんですか。大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。そろそろ職員会議が始まるんで席に着いたほうがいいですよ」
「そうですね。では、僕はこれで」
しばらくして職員会議が始まった。内容は大した内容ではなかった。会議が終わると早速教室へ向かう。一時間目は数学なので俺の授業だ。教室へ入りエヴァの席を見るが当然ながら座っていない。
「起立、気をつけ、礼」
「「「「「お願いします!!」」」」」
「では、授業を始める。教科書135ページを開け。今日からの数学は1年から2年までも問題を解いてもらう。今日はこのページにある問題だ。次の授業では1年の分のプリントしてもらう。つまり、今回から復習をしてもらうというわけだ。もし分からないことがあれば言ってくれ。では、始めてくれ」
みんながやり始める。その間は椅子に座り、みんなを見る。みんなその問題を解くのに集中していた。
「ねえ、そういえばエヴァちゃんがいないね」
「そういえばそうだね。ネギ君が先生になってからずっと来ていたのにね」
女子の話が耳に入る。その話に俺はつっこみたかった。ネギ先生ではなく、俺が来てからだと言いたかった。やはり恋人が別の男のためにとなっていたら、ムカっとくる。
「エヴァちゃんって絶対にネギくんに気があるよね」
バキッ
その一言に机に力を入れすぎてしまい、机にヒビが入った。だが、それに気付いたのは数人だけだった。
「だから、ネギくんが来てからずっと来ていたんだよ。気になる相手が休むわけがないからね」
バキィィィィン!
その一言についに力が入りすぎ、机を真っ二つにしてしまった。その出来事に全員の視線がこっちを向く。
「おやおや、どうやら教卓が腐っていたようだ」
「そ、そうなんですか。でも、これって今年買ったばからの今日教卓だったような気が……」
「なら買ったときから腐っていたようだ。俺はこの教卓を片付けるから、みんなはそのまま勉強を続けてくれ」
俺は割れた教卓を抱え、外へ持っていった。教卓の残骸はゴミ捨て場へ持っていった。教卓は別のものを用意しようかと思ったが、面倒なので俺の具現化能力を使い新たな教卓を作り出す。
作り出した教卓はちょっと豪華な造りになっていた。間違って豪華になってしまったのだ。同じような感じだとなにか疑われると思って、違うような感じにしたがこれはやりすぎた。だが、造ってしまったものはしょうがない。
これを持っていこう。別にお金がかかったわけではない。問題はないだろう。あったらどうにかして誤魔化せばいい。
俺は豪華な教卓を掲げ教室へ向かう。今の時間はもちろん授業中であるため、周りにはほとんど誰もいない。いるとしたらそれは用務員か遅刻者くらいだろう。
教室に着くとみんなは静かに勉強をしていた。俺が入っていると一斉に俺を見てくる。そして、次に俺の持っている教卓に視線が移動した。その視線から驚きがあるのが分かる。どう見たった高級なものだからだ。
「先生、それってどうしたんですか?」
「ああ、ちょっとあまり物を貰ってな。まあ気にせずに勉強を続けてくれ」
生徒の質問に答え、教卓を壊れた教卓があった場所へ置く。俺は顎に手をあて、教卓をじろじろと見ていた。ふむ、幅も高さも前のと同じくらいか。さすが俺だな。見た目だけが高級なだけで他は前のと同じだ。
俺にもこういう芸術の才能があったのか。これを機に趣味でやってみるのもいいかもしれないな。うん、そうしよう。エヴァになにか送るときにでも使えるな。
それから何もなく時間が過ぎて行く。あれからずっと俺への視線が向けられていた。なんとも居心地の悪い時間だった。それを逃げるように、チャイムが鳴るとすぐに教室を出た。
職員室へ行くと次にするプリントを作る。次の時間は1年生の内容なので、2年生であるあの子たちには簡単だろう。なので、難易度の高いプリントを作った。これを解ける生徒は限られる。
きっと成績上位の者だけだろう。その中で超は確実に解くだろう。あの子は格別だ。俺の秘密を知り、知識も高い。俺の中で今もっとも危険すべき人間である。だが、だからといって殺したりするわけにもいかない。今の俺はオリジナル魔法がつかえない。
それ以外にも相手は俺の生徒であり、女の子であるからだ。俺もエヴァと同じく女と子供には手を出さない。だから、俺は超をどうすることもできないのだ。今はおとなしく超とデートをするしかない。
俺はプリントを作りつつ、超とのデートのついて考えていた。