午前のすべての授業が終わり、昼になる。生徒たちはテレビがあるところに移動する。もちろん放送もされるので学園内ならどこでも聞ける。俺はというともちろん屋上だ。隣にはエヴァと茶々丸だ。
茶々丸がエヴァといるのを見るのは久しぶりだ。俺が来るまではこれがいつものことだった。だが、俺というエヴァと親しい者が出てきて、一緒にいることが少なくなったのだ。
「先生はどれだけ強いのでしょうか?」
「なぜそれを今聞く?」
「データの収集にと思いまして。私はマスターの安全を守るために行動します。マスターの傍にいる者のデータは必要です」
なるほど。つまり、自分がいないときでも俺にマスターであるエヴァを守れる実力があるかどうか知りたいということか。まあ、いいだろう。茶々丸はエヴァの従者だ。裏切ることはほとんどない。あればその口を封じるまで。
ふむ。だがどうやって示せばいいのだろうか? 何かを圧倒的に破壊すればいいのだろうが、そんなことをすれば学園が消えるからな。示せないな。
「どうやって教えればいい? 一応考えたのが全部ダメだった」
「分かりました。そうですね。今は口答でいいです。実力は機会があればそのときに」
口答でいいのか。まあ、適当に答えるか。誰かより強いと言っても事実だ。自惚れではなく、それは事実だ。
「まあ、ナギ・スプリングフィールドよりは強い。あとエヴァよりも」
「最強と呼ばれているあの英雄とですか!? ……あとついでにマスターよりも?」
「ああ」
茶々丸がエヴァをバカにしたような気がする。
「ちょっと待てっ!! 茶々丸、今さりげなく私をあのバカのおまけ扱いしただろ!!」
エヴァが茶々丸に向かって怒る。ああ、やっぱりバカにしたのか。どうしてエヴァの従者たちは従者らしくないのだろうか? まあ、いいだろう。主従関係にも色々とある。きっとこういう関係もあるさ。
「ん? おっともう時間だ。話は発表を聞いてからだ」
時間とともにスピーカーにスイッチが入った。俺は別にクラスの順位はどうでもいい。気になるのはエヴァのテストの結果だけだ。今クラス発表の内容を聞くのは教師だから。教師が自分のクラスの順位を知らないのは問題だからな。
スピーカから放送担当の生徒の声が聞こえ、次々とクラスの順位が発表される。まだ俺たちのクラスは出てこない。さあ、ネギ先生。あなたの運命はどうなりますかね。
「ふん。A組は最下位じゃないのか? あのぼーやはいなくなり、ふふふ、慎也が副担任から担任に」
「おいおい、まだあと7クラスあるぞ。最下位脱出すればいいからな。まだ分からんぞ」
「なら賭けるか? 私は最下位だな」
「なら俺は最下位脱出だな。だが、これって俺に有利じゃないのか? みんなには結構勉強をさせたぞ」
「くくく、勉強をさせたのにまだ出てこないぞ。この賭け、私の勝ちだな。あとは私の結果を見るだけだ」
自信満々に言うエヴァ。その間にも言われていく。残るは3クラスだ。そして、結果、A組は最下位だった。あれ? おかしいな。自分で言うのもなんだが、確実に成績が上がるようにしたはずだ。どういうことだ?
「くくく、あははははははっ! 勝った! 勝ったぞ! 私は慎也にやっと勝ったぞ!!」
「マスター、はしたないです」
エヴァが声を上げて笑う。おい、お前の勝ちはそれでいいのか? 色々と小さくなってないか? 昔と比べると色々とダメになっているみたいだ。昔はこんなことで喜ぶようなやつじゃなかったのに。
ん? 俺の目に小さな子どもがどこかへ向かって走る姿が映った。あれはネギ先生。走ってどこへ? ああ、そうか。A組が最下位だったからか。つまりネギ先生は正式に教師になれなかった。不合格ということ。ネギ先生、さよなら。また会える日があるといいですね。
「さて、次は私の点だ! 早く教室へ行くぞ! まあ、見なくても結果は分かっているがな」
そう言っているが、顔にはこれから見る点数にまだ不安があるようだ。茶々丸は……よく分からない。やっぱりロボだからか? まあ、それでも感情はあるはず。ただ表情に表れないだけだ。
エヴァが歩き俺と茶々丸はそのあとに続く。周りから見れば大きい者が小さい者に付き従っているように見えるだろう。もちろん、俺は付き従っていない。ただ後ろを歩いているだけだ。
教室まで歩いていると再びスピーカにスイッチが入った。周りの生徒もざわめく。俺たちもその場に立ち止まった。
『えー、さきほどのテストの結果に訂正がありました』
そして聞こえてきたのは俺たちA組の結果の訂正だった。なんと学園長のミスがあったようだ。あの妖怪ジジィ、あまり俺を怒らせるなよ。今度責任を取ってもらおうか。そのミスが直された結果を発表され、俺たちA組は一位になった。
ああ、まさか最下位脱出どころか1位になるとは。俺はエヴァを見る。しゅんとなって顔を俯いていた。な、なんとも言えないな。さっきまで声を上げて笑っていたからな。
「は、はは、さっきまでの私が恥ずかしい。勝ったと思ったら負けた。それも大きくな。やっぱり私はダメだな。これじゃ、私のテストもダメだ」
「マ、マスター、大丈夫です」
黒いオーラが見えるエヴァを茶々丸が必死に慰めていた。俺が慰めても意味がない。なんせ、エヴァを負かせた本人だからな。エヴァを傷つけるだけだ。茶々丸に任せる。これでエヴァが暗い子にならないといいが。
俺は暗いオーラを放つエヴァとそれを慰める茶々丸と教室に入った。教室にいる人数は少ない。まあ、テストの受け取る受け取らないは自由だから当たり前だな。俺は着ているスーツに手を入れ、懐からみんなのテストを取り出した。
俺はずっと持っていた。エヴァが隣にいるときもずっと。エヴァを見るとちょっとは元気は出たようだが、まだ暗いオーラを持ちながら表情を変化させていた。驚いた顔、睨む顔、落ち込む顔。見ていて面白い。
「ではテストを返す。出席番号順に取りに来い」
生徒たちが次々と取りに来る。いない生徒は飛ばす。一応、渡した際には一言言っておいた。そして、超が受け取りに来る。俺はみんなと同じように渡した。
「よくやったな。いい点数だ。学年1位だ」
そうやって超を褒めた。まだよく分からない超だが、今は生徒だ。褒めるときは褒めるさ。超は頬を染めていた。なぜだ? まあよく分からない。まさか本当にこんなおじさんに惚れているんじゃないだろうな。
だとしても残念だがあきらめてもらうしかない。俺はエヴァと付き合っているし、そうでなかったとしても人間と吸血鬼では寿命が違う。彼女を心から愛しても互いにつらい思いをするだけだ。
告白でもされたらもちろん断るし、それでも彼女があきらめられなかったらエヴァと逃げる。エヴァの登校地獄はすでに無効化済み。いつでも逃げられる。
「ほら、次だ。席に戻れ」
「わ、分かっているヨ!」
頬を染めたまま彼女は席へと戻って行く。再びテストを返却していく。そして、ついにエヴァの番だ。エヴァが机と机の間を通り、俺ももとまで来る。その表情は不機嫌だった。
「さっきのはなんだ? 超 鈴音と仲良くしているみたいじゃないか。あの娘に気があるのか? 私とは遊びだったのか? 私にあんなことまでして、ずっとお前の傍に居たのに! だとしたらあいつを殺して私も死ぬぞ。お前が私以外の誰かと結ばれるならそれくらいしてやるさ」
「おいおい、ヤンデレか? というか、お前は不老不死だろうが。超 鈴音のことは別にそういうのではないさ。俺は前から言っているが、エヴァ一筋だ」
「バ、バカ! は、話は後だ。早く渡せ」
互いの会話は小さな声で行われた。他のみんなには聞かれていない。……一部を除いて。この教室には実力者がいる。要注意人は数人だ。聞かれてないといいがな。聞かれていたら色々とまずい。
見た目が幼いエヴァと見た目が30代のおじさんが男女の仲になっている。それも生徒と教師だ。前者でも大問題なのに後者も加えれば大問題以上だ。
エヴァは照れたのかそっぽ向く。俺はテストを渡した。点数はまだ見ていない。2人であとで見ようと決めたのだ。なので見えないように裏返しにして渡した。エヴァも見ないようにしていた。
そうして全員に返却し終えた。アスナがいないのは悲しいな。あの子の点数を見たが、どうやら封印された記憶の一部が解放されているようだ。その証拠に平均点数は87点と高得点だった。
本当にあの子は優秀だな。まあ、ただ今のアスナは体育会系でやんちゃだ。昔はそんな子じゃなかったのに。やっぱり成長したんだな。そう思うと涙が出そうになる。
「みんなのテストは返した。今回はみんなよく頑張った。ほとんどの者が全体的に上がっていた。その結果、全員の平均点数が上がり、一位になれた。最下位脱出どころか1位だ。もう一度褒めるが本当によくやった。これからもこの調子で頑張るように」
俺は最後にそう言った。俺も先生に染まったな。みんなは自分の結果に満足のようだ。みんなよくがんばっていたからな。当然の結果と言えよう。今日はこれで終わりだ。何もない。
最後のあいさつをして、生徒たちは自由に行動し始める。俺もやることはないので、あとは自由だ。俺は教室全体を見て、教室を出た。廊下にはA組以外の生徒たちで溢れている。
生徒たちの隙間を縫うように通り抜ける。だが、生徒たちは俺を見ると道を開けてくれる。これが生徒と教師の関係だ。ときどき思うがこれを見ると自分が王にでもなったように感じる。
「おや、慎也先生。あなたのクラスは最下位脱出どころか1位になったそうですね。僕が担任のときより今のほうが良いようだ。ちょっと悔しいな」
そう俺に話しかけたのはタカミチだった。
「そうかな。まあ全部ネギ先生の影響さ。タカミチ先生」
「いや、慎也先生。あなたのおかげだ。ネギ先生は生徒に慕われているがまだ教員としては未熟。もしかしたら、慎也先生がいなくても結果が出ていたかもしれない。だけど、ここまで大きな結果を出せたのは慎也先生がいたからだと思っているよ」
タカミチも成長したなと思った。昔は小僧だったのに今は立派になって……。
俺が思うに
分からないことではない。心の中で分かっていたとしても、そう思うことは仕方のないことだ。だが、それでもよくがんばったな。自称世界最強の俺が君を
「ところで僕と慎也先生は昔に会いませんでしたか? 実は最初に会ったときからずっと思っていたんですよ」
「……いや、きっと人違いさ。君のような人に会って俺が忘れるはずがないからな。俺は君のことを認めているよ。俺が認めたんだ。誇っていいさ」
「それは……どういうことですか?」
「いずれ分かるさ」
もしかしたら君が俺の正体が分かるかもしれない。いや、もう本当は知っているんじゃないのか? 君くらいの実力者だ。俺が隠していても薄々は。
「では、これで。タカミチ先生もたまにはクラスに顔を出してあげてくださいよ」
「ええ、分かりました。僕もこれで」
互いに別れ、それぞれの向かう場所へ歩いて行く。俺が向かうのはもちろんエヴァの家だ。今日は早い。まず家に帰ったらなにをしようか? 今の俺の頭は今からの予定を考えるのでいっぱいだ。
そういえばネギ先生はどうなったのかな? 最初は最下位だったが、結局1位になったんだ。これでネギ先生は大丈夫なはずだ。まさか知らずに故郷へもう帰ったんじゃあるまいな。さっき走ってどこかへ行くのを見た。
その可能性はある。だが、全部あの学園長のせいだ。なんとかするだろう。そうネギ先生の心配をしているうちに家に帰りついた。