夕食を食べ終わった後、俺はエヴァの勉強を見ていた。
「なあ、慎也」
「なんだ?分からないところでもあるのか?」
「いや、違う。わ、私がいい点を取ったらデートしてくれ!」
デート、か。思い出すのは超のこと。だが、今はエヴァだ。俺は今だけ超との約束を隅に追いやった。それに俺の秘密を知っているし、それで脅してきた。超とのデートは何かある。エヴァが言ったようなデートではない。
「こ、答えてくれ!い、いやなのか?」
「ん?ああ、すまん。いいよ。いい点を取ったらデートしてやるよ」
「約束だぞ!絶対だそ!」
そのとき、俺はエヴァと超がかぶったような気がした。それは超と同じことを言ったからだろう。俺は笑顔でいるエヴァの顔を見ながらそう思った。
「~♪どこにしようかな♪」
おいおい、もうデート決定のようだ。まだ、テストはやっていないぞ?だが、それだけ楽しみなのだ。もし、ダメだったとしても恋人の日常と言い訳でもして、デートをしよう。俺も甘いものだ。
「なら、勉強をするぞ」
「わ、分かっている」
ちょっとあっち側に行っていたエヴァを現実に引き戻し、勉強を続けさせた。聞こえるのは鉛筆の音と、外の虫の声だ。それは心地よい空間だ。そんな空間で俺は眠っていっていた。
「起きてないよな?起きろ~。もう終わったぞ~」
起こしたいのか分からないが、囁くくらいの声が聞こえる。だが、起きることよりまだ眠りたいというほうが勝っていた。
「お、起きてないみたいだな。よ、よし!」
誰かの吐息が顔にかかってきた。誰かが近づいてくるのが分かる。誰だろうか?答えを知るのは簡単だ。ただ目を開ければいい。だが、めんどくさい。このまま寝るか。いや、起きよう。エヴァの勉強を見ないと。俺は起きることにした。思い瞼がゆっくりと開かれる。入ってくるのは光だ。まるで太陽の光を見ているような気がする。
その光にはすぐに慣れる。慣れると家の家具が見えてきた。だが、それより目立つのがある。それはエヴァの顔だ。俺の視界のほとんどを占めていた。その目は閉じられ、軽く唇を突き出し、頬はほんのりと赤く染まっていた。
「何しているんだ?」
「!!お、起きていたのか!!ま、まさか、さっきの……!」
「ああ、見てたよ」
さっきも赤かった頬がされに赤くなる。いや、頬だけじゃない。顔全体だ。む、まさか熱か?だとしたら早く寝たほうがいい。熱かどうか確かめるために、俺はエヴァの額に手を当てた。やっぱり熱い。俺はこれは熱だと確信した。なんだ?まだ熱くなる。エヴァの顔を見る。その顔は赤いままだったが、頭からは湯気が出ていた。
「し、慎也のバカあああぁぁぁぁぁぁ!!!」
ドカッバキッガッシャーーーン!
俺は殴られ蹴られ、壁まで吹き飛ばされる。殴られたとこと背中に痛みがあるが、それほど痛いというほどではない。俺は吸血鬼だ。滅多なことでは怪我は負わない。
まあ、俺じゃなかったら死んでいたか、運がよくて重傷だったが。俺は何事もなかったように立ち上がった。
「エヴァ、何をする。おかげで服がボロボロだ」
「ふん!自分の胸に手を当てて考えろ!」
「そう怒るな。だが、何をしようとしてたんだ?」
「い、言えるか!それより、私の勉強は終わったぞ!」
エヴァが俺にノートを見せてくる。ちゃんとうまくまとめてある。問題ない。このまま明日もこれだったら問題ない。エヴァは学力が高いようだな。2日でこれだからな。
「私はもう寝る!」
「風呂はどうするんだ?」
「今日は入らん!」
「いや、入れ。お前は女の子だぞ?それでいいのか?」
「……明日入る」
そう言って、エヴァはベッドへ向かう。今は赤かった顔もいつも通りだ。俺もボロボロになった服を着替える。パジャマ?いやいや、俺はいつもジャージだ。なぜジャージか?それは動きやすいからだ。ふとベッドのほうを見ると、エヴァは学生服を着たまま寝ようとしていた。
「おい待て。風呂に入らずに寝るのは……まあ、今回はいいとして。せめて着替えろ」
「わ、分かっている!」
少し頬を染めた顔を向けながら言ってくる。ふむ、癒されるな。エヴァは俺の目の前で着替え始めた。互いに恥ずかしがらない。互いに慣れたのだ。若い夫婦なら恥ずかしがるだろうが、100年近い時間、一緒にいるのだ。その程度で恥ずかしくはならない。
着替え終わるとエヴァはベッドに入りこんだ。俺も着替えベッドへ入り込む。エヴァは外側を向いていた。どうやらまだ怒っているようだ。このままだと明日も怒ったままだ。俺はエヴァを後ろから抱きつく。一瞬、エヴァの体がびくっとなった。
「な、何をする!」
「いや、エヴァが怒っているようだったからな」
「私は怒ってない!」
「ならこっちを向け」
「……分かった」
エヴァがこっちを向く。俺が抱きついているので、腕の中でエヴァの体が回転した。
俺はエヴァがこっちを見た瞬間にその唇を塞いだ。
「ん!?んん……んちゅる、ちゅ、ん……んっ、んっ、んっ……んちゅじゅるぅぅ……ちゅは……………はあっ……はあっ……」
エヴァの顔が真っ赤に染まっていた。ちょっとやりすぎたか?エヴァは今も肩で息をしていた。
「うう~、ず、ずるい!卑怯だ!いきなりだったら私も許してしまうじゃないか!」
「やっぱり怒ってたのか」
「もう許す。さっきのでチャラだ」
エヴァはそう言った。さっきの余韻が残っているのか、エヴァの顔はまだ赤かった。
「し、慎也、女である私が言うのは、はしたないような気がするが、今日は、わ、私を抱いてくれ」
赤くなった顔で俺にそう言った。俺はそれに負け、エヴァを再び抱きしめた。小柄な体だが、その雰囲気は大人の雰囲気を出していた。
「分かったよ」
「ちゅ……ん……」
再びキスをする。今度は軽くだ。だが、強く抱きしめる。互いに互いの体温を感じる。俺はエヴァを抱いた。
今日も早く起きる。今日もテスト勉強だからだ。隣には気持ち良さそうに寝ている、エヴァがいた。俺はしばらくエヴァの頭を撫でる。エヴァの体はそれに反応したのか、気持ち良さそうな顔になった。
「ドウシタンダ?御主人ハズイブントゴ機嫌ダナ」
「さあな。夜になにかいいことでもあったんだろう」
「ソレヨリ、早クシタホウガイイゼ」
ゼロに言われ、時計を見る。確かに時間があと少ししかない。俺は急いで支度をした。朝食は食べない。そんな時間がないからだ。俺は準備をしてすぐに2-Aへ向かった。
教室にはすでに全員が着席していた。あ、そういえば、あの5人を探すのを忘れていたな。今日こそは探すか。俺は椅子に座る。
「今日は自由に勉強してくれ。だが、昨日のプリントがやりたいなら言ってくれ。用意しょう」
言い終わると、皆はそろぞれの勉強をし始める。俺は暇なので、天井を見ながらボーっとしていた。聞こえるのは紙に書かれているシャーペンの音。静かな教室には非常に心地よい。
思わず寝てしまいそうだ。寝ないためにも俺は3×3のルービックキューブを出し、それで脳を起こす。崩しては揃え崩しては揃え。それを何回も繰り返す。1回につき、かかる時間は3秒。昔は結構時間がかかっていたが、今ではここまでになった。
だが、こう簡単に終わるとつまらなくなる。止めよう。俺は教卓の上にルービックキューブを置く。やることがなくなった俺は生徒を見回すが、全員俺のほうを見ていた。
「どうしたんだ?」
「は、速いですね、ルービックキューブ」
「誰だってがんばればできる。大したことない。まあ、皆はがんばってくれ」
生徒にそう告げ、俺はどうにかして時間を潰した。こんなことなら、何か仕事を持ってくるんだったな。昨日はプリントがあったから良かったものの。今度から気をつけないと。
「はい、そこまで。今日はもう終わりだ。後は家で勉強をしてくれ。だが、この教室で勉強を続けてもかまわない。ちなみに、俺はこれから帰るつもりだ。なので、何か質問があるなら、あいさつが終わってすぐに来るように。以上」
「起立、気をつけ、礼!」
「「「「ありがとうございました」」」」
あいさつが終わったあと、俺はしばらく椅子に座ったままでいる。生徒たちが次々に教室から出て行く。急ぐ者や歩く者、出て行く者や残る者、みんなそれぞれ。そして、残ったのは数人。その中には超もいた。
超は俺と目を合わせると、ニコっと笑ってくる。だが、俺は無視する。その後に超の顔をチラッと見たが、悲しそうな顔をしていた。俺には超の考えが分からない。俺に好意を持っているのか、それとも何か企んでいるのか。
前者だとしても、今はおっさんの姿だし脅してくる理由が分からない。そうなると、後者だ。これなら脅してきた理由もいろいろと辻褄があう。だが、楽しそうにする顔や悲しそうにする顔は分からない。
矛盾が多すぎる。やっぱりデートで聞くしかないようだ。それまでに対策を考えよう。結局、誰も質問しに来なかった。そろそろ帰ってもいいだろう。俺は帰り支度をする。
「じゃ、俺は帰るからな~」
一応残っている者に伝えた。教室から出ると、誰かが慌てているような音がした。関係ないだろう。そう思い、足を進めた。
「ちょっと、待ちたまえヨ」
独特な口調だ。振り向くとやはり超だ。
「何のようだ」
「む。デートをする予定の相手に何のようとは失礼じゃないカ?」
「それは脅されたからだ。進んでデートをしようとした覚えはない」
「……そうだったネ。でも、もうちょっと優しく言ってくれ。私はか弱い女の子。傷つく」
たしかに超は悲しそうな顔をしていた。どうしてそんな顔をする。お前はなにがしたいんだ。俺は超の行動にイラつきを覚えていた。だが、それを表に出さないように、理性で押さえつける。
「はあ~、分かった」
「ちなみに春休み初日ヨ」
「その日だな」
「そう。待ち合わせ場所は校門前。私は本当に楽しみにしているヨ」
笑みを浮かべ、去っていった。俺も学園内から出る。さて、まだ時間はある。さっそくあの5人を探そう。
「『探索魔法、魔力の羅針盤』」
魔力が集まり、形を作る。そうして、羅針盤を出す、はずだった。魔力は形になる前に崩れ霧散した。ちっ!失敗したか。
「『探索魔法、魔力の羅針盤!』」
再び発動させる。しかし、結果は同じ。ただ霧散する。それから何度もやったが、どれも成功しなかった。俺は冷や汗を流す。魔法が使えない?ありえない。俺は別の魔法を使う。
「『ディバインシューター』」
球体の魔力弾が作られる。作り出すことには成功した。俺はそれを操る。魔力弾は俺の思い通りに動いた。つまり、問題ないということだ。他にも試したが、使えなくなっていたのはオリジナル魔法だけだった。
ちょっと待て!オリジナル魔法が使えない?俺の肉体操作の魔法はオリジナル魔法だ。つまり、これも使えないとなると、俺はずっとこの姿のままだ。それは嫌だ。
俺は人目につかないところに移動する。そこで発動した。
結果、問題なく発動できた。安心した俺はその場に膝をついた。よかった!本当によかった!とりあえずこのオリジナル魔法は大丈夫のようだ。
オリジナル魔法なしで探すのなら難しくなるな。どうするか。俺が知っている魔法は攻撃魔法がほとんどだ。日常に役に立つ魔法はない。学園内にいるのは確かだ。なら一通り見て回ろう。
2、3時間、探し回ったが全く見つからなかった。明日はテストだ。こうなったら、どこかで勉強会でもしていると信じたい。明日いなかったら学園全体で探してもらおう。
ひとまず家に帰った。家に帰ると、エヴァは起きて、昼食の準備をしていた。おそらく、俺の帰りが遅かったので我慢できずに、自分で作ろうと考えたんだろう。朝食を用意していなかったからな。
「ただいま、エヴァ」
「おかえり」
エプロン姿で俺のもとまで来る。よく似合っている。俺はエヴァを抱きしめた。エヴァは驚くことなく、俺の腰に腕をまわす。完全に抱き合う形だ。だが、エヴァはすぐに離れた。顔を見ると少し怒っているようだ。俺、何かしたか?
「なぜ早く帰ってこなかったんだ!私は朝から何も食べてないんだぞ!!何か無いかなと思ってみても、全部食材だけだ!私は自分のために料理はしないし、チャチャゼロは料理できない!だから、朝食は我慢した!今日も昼までだからそれまで我慢しようとした!けど、昼になっても帰ってこなかった!帰ってきたのは数時間後!私に死ねと言っているのか!?」
ものすごい勢いで言ってくる。これは俺が悪かった。これからは用意をするか、インスタント食品を置いておかないと。
「分かったか!!分かったら、作ってくれ……。料理をしようとしたが、お腹が減ってできなかった……。ぐすっ……お願い、作って」
涙目でそう言ってくる。両手で俺の服を掴んで。それほどお腹が減っていたんだ。俺は大急ぎで作った。