推しの子の巨乳に転生したけど盛大に何も起こらない 作:れいん
「ほらアクア、起きなさい。今日は入学式だろう?」
「ん……おはよう、父さん……」
時刻は朝の6時半。部屋まで起こしに来た父親、輝の声で
「元気って……いっつも俺が起きるのはこのくらいだろ?」
「ああ、うん、そうなんだけど……なにぶん、アクアが一番遅いってのは珍しいからね」
「え、もう起きてるのか?ルビーも?兄さんも?母さんも??」
「そうそう。今は下で制服の撮影会やってるよ」
まさかあの母さんが6時台に、とアクアが急いで階段を駆け下りると、そこには確かに本職顔負けのセットでルビーのことを撮影している母アイと兄大輝の姿があった。
「俺の妹マジで可愛いな」
「そうでしょそうでしょ!だって私の娘だもん!」
「ママ似ママ似〜!」
「思ったより撮影会だな」
「だろう?」
「ちょっと待って、アクアの分もフレンチトースト焼くから」と輝は卵液に漬けておいた食パンを取り出し、少し温めたフライパンの上に乗せる。こういう大切な日にだけ作ってくれる、父お手製のフレンチトースト。「手作りの何かでアイを喜ばせたい」と若い頃にSNSで流行っていたレシピを頑張って練習したという思い出の品である。
「というか母さんがこんな時間に起きてるの本当に珍しくない?旅行の日だって8時起きがデフォなのに」
「流石の私だって可愛い子供たちの晴れ舞台には寝坊しないよ〜!まあ私の方が可愛さでは勝ってるけどね」
「そうだね、アイの領域にはまだまだ遠いかな」
「いつまで子供に対抗心燃やしてるんだこの両親」
「どっちも可愛いで良いだろ。可愛いなんていくらあっても困るもんじゃない」
「見境なさすぎるだろ兄さん……というかまだ7時前だし、せめてもう少し静かに──」
アクアがそう言いかけたところで、ピンポーンと、この時間では珍しいインターホンが鳴った。キッチンの父に代わり、大輝は「俺出るわ」と玄関へ向かう。
「よっ、悪いな、朝早く」
「あっ社長」
そこに姿を現したのはかつてはアイが、今は大輝が所属している芸能プロダクション、「苺プロ」の社長、斉藤壱護とその妻、斉藤ミヤコ。アイにとっての親代わりであり、三人にとってはめちゃくちゃ仲の良い親戚くらいの感覚の人たちである。
「それにしても朝早いっすね。何か用でも?なんかカッチリしたの着てるし……」
「おう。今日がアクアとルビーの入学式なんだろ?「せっかくだしどうですか」ってヒカルのやつに誘われたんだよ。一人につき三人まで同伴出来んだろ?」
「あ、らしいっすね。俺も行くつもりですし」
大輝が話している中、相変わらずルビーを撮りながら「大輝ー!誰だったー?!」と聞いてくるアイ。彼が「社長とミヤコさん」と答えると、社長は「いや、もう一人「大物」がいる」と首を横に振った。
「じゃじゃーん!ミキさんアイさん、それに双子ちゃん!入学おめでとー!!」
「わ、片寄ゆらだ」
「あっゆらちゃん!」
「ルビーちゃん!久しぶりー!」
というわけで社長達の背からひょっこり現れたのは現在トップスターへの道を爆走している真っ最中の片寄ゆら。彼女につられてやってきたルビーをゆらはぎゅーっと抱き締める。なぜこれほどまでに距離感が近いのかと言うと、彼女が駆け出しだった頃、仕事で出会った輝とそれはそれは意気投合。ついでにアイとも意気投合し、それから度々星野家へと遊びに来る仲に。アクア達にとっては近所のお姉さん枠である。
そして彼女達が激しい抱擁を交わす傍ら、フレンチトーストを焼き上げた輝が彼等を出迎えた。
「すいません社長、こんなに朝早くに来てもらって」
「良いんだよ、あいつらの人生の節目なんだから。全く、お前が「僕にアイをください!!!!」って土下座してきてからもう15年経つのか。時間の流れってのは早えもんだな」
「えー!ミキさんそんなことしてたの?」
「いや、あれは、あの頃は若かったっていうか……」
「おっ親父の失敗談だ。アクア!親父の失敗談だぞ!」
「一応聞くか」
行儀の悪いことに、父親の失敗談と聞いて思わずフレンチトーストの皿ごと持って玄関まで出てきたアクア。そしてアイも「いやー、これベストショットじゃない?」なんてイカつい一眼レフのルビーを選りすぐりながらその後をついてくる。流石に玄関も飽和状態ということで、輝は社長達に「せっかくですし朝ご飯でも」と声を掛けて家に上げた。
「あ、もしかしてミキさんフレンチトースト焼いてた!?」
「はい。ゆらさんはシロップ多めですよね?」
「わかってるぅー!」
「そういやアイ、親御さんとは最近どうなんだ?」
「えーっとね、今度のゴールデンウィークに帰省するって話になってるよ」
「おばあちゃんのお土産、私が選ぶんだ〜」
「ねえアクア、そろそろちゃんと役者やってみるつもりはない?「苺プロ」の俳優部門はあなたのこと大歓迎なのだけど」
「良いじゃん来いよ。イケメン兄弟俳優なんてめちゃくちゃモテるぞ?」
「……まあ考えとく」
時計の針が7を回る音は、楽しげな笑い声で掻き消されていく。5人家族と、追加3人の大所帯。陽東高校入学式で「あいつの家気合い入りすぎだろ……」と噂になるのはまた別の話である。
高評価とか感想、良い返しが思いつかんだけでマジで嬉しくしてます
これからもご贔屓に〜