エルフ少年と私のスイーツ巡り ~ 抹茶パフェは罪深い味 作:裃 左右
老舗の和菓子屋さんを出て、帰路の途中にある、モダンなカフェ一休みをした。
さすがにそろそろお腹いっぱいだった。
コンクリート打ちっぱなしの壁に、シンプルな木のテーブルと椅子。
私たちは席に着き、メニューを開いた。ファルグリンは、写真付きのメニューをじっと見つめている。
抹茶を使ったドリンク、抹茶のチーズケーキ、白玉やわらび餅を使ったほうじ茶のパフェ。ソフトクリームのあんみつ。どれも見た目も華やかで、でも最初のカフェの抹茶パフェとはまた違った雰囲気だ。
「ほう、ほうじ茶ラテ。聞いたこともない言葉だ」
「日本の『茶』を使った飲み物だよ」
「ああ、茶はわかるぞ。抹茶には衝撃を受けただけで、茶はわかっている。ふむ。これも罪深さの発展形、というわけか」
「発展形って言うのかな」
結局、ファルグリンは抹茶ガトーショコラ、ほうじ茶ラテ。私は抹茶グリーンティーを注文した。
よく食べられるな、ファルグリン。
運ばれてきた抹茶ガトーショコラは、表面こそこんがり茶色に焼かれているが、断面は青々としている。盛られると見た目もおしゃれだ。
ファルグリンはそれをフォークでそっと口に運んだ。
「むむ、これは……」
ファルグリンが目を細める。睫毛が繊細な色を帯びた。最初の抹茶パフェの時とは違う、もっと複雑な表情。
「滑らかな口溶け……優しくまろやかな甘さに、練り込まれた抹茶のほろ苦さがアクセントとなって。優美でありながらも、芯がある」
彼は一つ一つの要素を分解するように味わっている。そのままほうじ茶ラテを含む。
「これは……単一ではないな。複数の要素が複雑に絡み合っている。まるで……我々エルフが、様々な歴史や記憶を受け継いでいくように」
「ケーキとほうじ茶ラテでそこまで考える?!」
「当然だろう。食とは、ただ栄養を摂取するだけの行為ではない。その国の積み重ねられた文化や伝統。その豊かさ。これが当たり前に食べられることがどれだけ素晴らしいことか、まさかわからないのか?」
ファルグリンは真顔で言う。はいはい、わかったよ。君が正しいよ。
私が抹茶グリーンティーを飲んでいると、ファルグリンがこちらをじっと見ているのに気づいた。
「その……それなのだが」
「これ? 普通に点てた抹茶の水割りだけど」
「水割り? ……抹茶を点てる?」
ああ、そもそも抹茶を点てる概念を知らないのか。……ちょっと説明が難しいな。
私が悩んでいるとファルグリンが、「ひとくち良いか?」と遠慮がちに尋ねた。珍しい。普段なら「寄越せ」くらいの勢いなのに。
というか、私が口付けてるけどいいわけ?
「どうぞ」
結局、私は何も言わずにカップを差し出す。
すると、一口飲んだファルグリンは頭を抱えた。
「くっ……こちらを頼んでおけばっ!」
あんまり大騒ぎしないでほしかった。
その間も、近くに座っていた若い女性たちが、チラチラと私たちの方を見てきているし。
スイーツ巡りをしている以上、若い女性客が多い。ファルグリンと言うエルフの美少年、そこに私という普通の人間が一緒にいるのも珍しいのだろう。
ファルグリン自身は全く気にしていないようだが、私はなんだか落ち着かない。
でも、目の前で感動に打ち震えているファルグリンを見ていると、まあ、これも面白い経験か、と思えてくるのだった。