エルフ少年と私のスイーツ巡り ~ 抹茶パフェは罪深い味   作:裃 左右

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第6話 足早な歩調で、どういたしまして

近くの公園のベンチに腰掛けた。街の喧騒から少し離れて、木々の緑が目に優しい。寮まではあと数分だった。

 

「今日の『罪深い』探求は、非常に有意義だったな」

 

ファルグリンが満足げに言う。

 

「そうかい?付き合わされたこっちとしては、結構疲れたけど」

「ふん、人間はこれだから困る。すぐに疲労を訴える」

「はいはい」

 

いつもの調子に戻ったファルグリンに、私は苦笑いする。

 

「だが…今日の様々なスイーツを通して、改めて感じたことがある」

 

 ファルグリンは真剣な顔つきになった。

 

「お前たち人間は、短い生の中で、植物という血肉を、これほどまでに多様な形に加工し、味わっている。我々から見れば奇妙で、ある意味『冒涜』とすら言えるかもしれない」

「冒涜って。まあ、そういう見方もできるのかな」

「だが、そこに込められた『工夫』や『探求心』は、認めざるを得ない」

 

 ファルグリンはそう言って、太陽が傾きかけた空を見上げる。

 

「我々エルフは長い生の中で、『始まりの大樹』と深く繋がり、その恵みを享受する。それは確かに豊かだ。だが、時として、その長すぎる生と、変わらない営みの中で……何のために『食べる』のか、何のために『生きる』のか、その本質を見失うこともある」

 

 ファルグリンの言葉に、私の胸にストンと落ちてくるものがあった。

 二度目の人生を生きる私にとって、「生きる」ことの意味は、かつてよりもずっと軽く、そして曖昧だ。

 何のために生きているのか、自問自答することは少なくない。

 

 今の私には自分の生を、どうも感じることが出来ない。私はベンチの木目を指でなぞりながら言う。

 

「君たちの長い生では、僕たちの短い生…考え方が全然違うんだね」

「ああ。お前たち人間が、限られた時間の中で、必死に新しいものを生み出し、生きている間に豊かに味わおうとするその営みや試み。それは、我々エルフには無い、ある種の輝きを持っているのかもしれない」

 

 ファルグリンは私の方に顔を向けた。彼の瞳は、どこか遠い世界を見ているようだった。

 

「特に、お前……陽介といると、そう感じる」

 

 その言葉に、私の呼吸が一瞬止まった。

 

「お前は……僕より先に。どこまでも早く、生を駆け抜けてしまうのだろう。この楽しい時間も、きっとまばたきのようなものだ」

「そうかもね。私たちの人生なんて、君たちからしたらあっという間だよ」

「だけど、陽介。お前は――他の人間よりも、いっそう早く駆け抜けようとしている気がする」

「そんなことは……」

 

 何も言い返せなくなりそうだった。ファルグリンは寂しそうな瞳を向けて来たから。

 

「いいから。少しくらい、僕に合わせて歩いたっていいだろう?」

 

 ファルグリンの言葉は、私の抱える秘密の核心に触れていた。

 僕は転生者であることを明かしたことはないけれど、ファルグリンはエルフとしての感性で、何かを感じ取っているのかもしれない。

 

 結局、私は誤魔化すように笑った。

 

「……ファルグリンは、面白いことを言うね」

 

 胸の奥が、温かくなるような、くすぐったいような感覚でいっぱいだった。不自然な沈黙が場に立ち込めていた。

 

 それから静かな帰り道、互いに言葉を発することはなかったけど。

 寮に着く直前……ファルグリンは偉そうに言ったんだ。

 

「陽介、またどこかに僕を連れて行けよ。今日のは悪くなかったからな」

 

 彼は視線を逸らしたまま、そう呟いた。

 エルフ至上主義で尊大なファルグリンが、人間に、それも私に遠回しでも感謝の言葉を述べるなんて。

 

 これは、今日一番の驚きかもしれない。

 

「それはどういたしまして」

 

 私は、心からの笑顔で応えた。

 ああ、どうしてかな。ファルグリン。君が歩調を合わせてくれているのか、私が歩調を合わせようとしているのか。

 

 少しでも長く、一緒に歩いていたいと思ってしまうのは。

 でも、きっとそれはそんなに長くない。

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