魔物。それは従来の動物から魔力溜りによる突然変異で生まれたもの。そのランクはFからSまであるが、群の数や襲われる状況などを含んだ危険度を示しており、決して魔物自体の強さだけのランクというわけではない。
しかし、ここは魔大陸。出現する魔物は世界で最も強いと分類されている場所。故に単一で高ランクの魔物も存在する。
狩りのため、朝早くに町の外へと出る。
隣には先日購入した防具を身に着けたエリス。
装備、道具、獲物や収集品を入れる背負い袋、周辺地図と情報も用意して準備は万端。
昨日ギルドで仕入れた情報では、このあたりはパクスコヨーテ、アシッドウルフ、大王陸亀、巨岩石亀が出現するらしい。ねらい目は巨岩石亀、高値で取引される魔石がとれる。逆に今回は大王陸亀は無視するつもりだ。肉が大量にとれるが運搬が大変だ。
ギルドの依頼書の中に"パクスコヨーテの毛皮の収集(Cランク)"というものがあった。ただパクスコヨーテは生息数が多い。狩ってしまってもかまわないだろう。
町の外へ出て、しばらく歩くとアシッドウルフと遭遇した。数は2匹。魔物に
しかし、それ以降は魔物を見つけられず狩りができていない。しばらく町周辺を適当に散策していたが、運任せは失敗だったか。
ルイジェルドは索敵についても多少は教えてくれたが、それは周囲警戒、夜襲の備えといったものであり、今はあまり役にたたない。彼は生体レーダー持ちなので、技術というよりは能力で索敵を行っていたのもある。
「もうっ! なんで獲物がいないのよ」
エリスが愚痴をこぼす。気持ちはわかるが彼女はまだいい、アシッドウルフ相手に剣を振ったのだから。俺は戦闘すらしていない、死骸を焼いただけだ。
しかし、ホントに魔物と遭遇しないな。
会いたいと 思うときほど 会えないの。恋の川柳。
「エリス、体力は大丈夫ですか?」
「問題ないわ」
「ならもう少し足をのばして、石化の森あたりまで行ってみましょう。そこまで行けば、魔物がいないということはないでしょうから」
「わかったわ!」
俺の提案にエリスは了承してくれた。さすがにこのまま狩りを終えるには不完全燃焼だ。石化の森は討伐依頼でそれなりに見た場所だし、魔物がまったくいないということはないだろう。まあリスクを考えて、あまり深くまで入り込む気はないが。
昼ごろに石化の森に到着。
「エリス、ここからは注意して行きましょう」
「うん、わかったわ」
森に入る。森というだけあって周りは木、ではなく木の形状をした岩だらけだ。
あまり視界が通らない、物陰には注意しないと。
「…あれ?」
何か聞こえる。金属音のような………誰かが戦ってるのか? エリスと目が合う。彼女も気づいたようだ。すぐさま共に駆け出す。
走る、探す、どこだ?
いたっ! まだら模様の3mほどの蛇が数匹、3人組と戦っている。
ん?
"石化の森で目撃された謎の卵の採取(Dランク)"
今までいくつかDランクの依頼はこなしてる。今朝ギルドに貼り出された依頼は、"謎の卵"なんて曖昧な表現のものだったけれど、石化の森はまだ足を踏み入れたことはなく、はじめて行く場所だ。ワクワクした。
そして今は後悔してる。
石化の森に入ってすぐに鎧姿の魔物、エクスキューショナーと遭遇した。警戒しながら進んでいたのに、岩のカゲでバッタリ遭遇してしまった。慌てて逃げ出すも、逃げ込んだ方向に今度はアーモンドアナコンダが何匹もいた。
ガブリンは肩をやられて血を流してる。俺もバチロウも息があがってる。
くそっ、死んでたまるか!
剣を持つ手に力を込めて、踏み出したその時、
「ヤアァァァッ」 赤い影と閃光のような斬撃が走った。
「『
アーモンドアナコンダの1匹が倒れた。
ええっ?
「クルト、大丈夫ですか? 加勢します」
戦闘はすぐに終わった。エリスの剣術と俺の魔術で簡単に各個撃破だ。
「神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん『ヒーリング』」
怪我をしていたガブリンに治癒魔術を施す。まだ顔色が悪い。肩の怪我は治ったはずだが、癒したはずの患部は若干変色している。…毒か。
「神なる息吹は滋養の源、病患いしかの者に再び目覚めの力を与えん『アンチドーテ』」
患部の変色が消えた。よかった、効いたようだ。ただ顔色はまだ若干悪いな。
「あ、ありが、と…ございマス…」
「無理にしゃべらなくていいですよ。治癒と解毒を施しましたが、すぐには全快にはなりませんから」
ひとまず負傷者の治療をした。
すると目に涙を浮かべたクルトが手を握って礼を言ってくる。
「助かったよ本当に! ありがとう、ありがとう」
続けてエリスの手を握ろうとして嫌がられた。それでもクルトは彼女にも何度も感謝の言葉を述べた。
「ルーデウスたちは、どうしてここに?」
「ええ、小銭稼ぎに魔物を狩りに来ました。はじめは…」
クルト達に事情を話す。小銭稼ぎのための売り物になりそうな魔物狩り。町近辺を探すも不発だったため石化の森まで来たこと。そこで戦闘の音を聞いて駆けつけたこと。
「それで石化の森に来ちゃうんだから、すごいな」
「そうなんですか?」
「そうだよ。俺たちもはじめて来たけど、ここは魔物が多くて有名なんだ。俺たちも警戒してたつもりだけど、いきなり遭遇しちゃってさ」
なるほど。意図的に戦闘していたわけではないと。
「ここは視界も悪いし、警戒するにも限度がありませんか?」
「いや。バチロウは普通よりずっと耳が良いんだ。大抵の魔物の接近には気づける。あとガブリンは夜目が効くから薄暗い程度なら、問題なく見渡せるし」
そりゃすごい、素直に感心する。 個人の特技か、種族由来の能力か…。
「でも魔物には遭遇したと」
「魔物だって動いてなければ、物音なんてしないしなあ」
まあ、そうだな。完全完璧な索敵術も警戒術も土台無理な話だ。ルイジェルドの生体レーダーも生き物に大しては有用だけど、トラップの類は感知できないとか言っていたし。
「これからどうするんですか?」
「ああ、俺たちは依頼を受けて…」
クルト達が受けた依頼の内容をきいた。
"謎の卵"か…。それだけの情報では探すのにも相当大変ではないだろうか。この広い範囲を地道に足を使って探すしか思いつかない。
俺たちはまだ狩りを続けたいし…、よし、
「ではクルト、『デッドエンド』と『トクラブ村愚連隊』で一時共闘しませんか?」
「共闘?」
「ええ。僕たちはまだ狩りを続けたい、ただ魔物の位置がわかるような感知は正直苦手です。クルトたちは依頼のため森を探索する必要がある、そして索敵が得意。
クルトたちに僕らが同行して、魔物と遭遇した時は僕らが戦闘に参加します。もちろん魔物の強さや数を見て、戦闘を避けることはあると思いますが。あと期限は…今日一日。僕らも狩りばかりするわけにもいかないもので。…どうでしょうか?」
「う~ん、それってギルドの規約的にどうなんだ? Dランクの依頼だし、たしかヘルプに入るのも…」
「いえ、ギルドに報告する必要はありません。そもそも僕らは狩りを行っているだけで、依頼には一切関与はしません。当然依頼報酬も僕らは受け取りませんよ」
「そっか…よし、それならよろしく頼むよ」
なんというか、素直な奴だな。
魔物から収集した素材の分け前については、わざと話さなかった。先程の戦闘を見てもクルトたちはそれほど強くない。戦闘になればこちらの成果のほうがまず大きいだろう。それで後で分け前を多めに主張するつもりだったんだが。ここまでまっすぐな奴だと、すごい悪い気がするな。
「スコシサキ、イル。アシッドウルフ カ パクスコヨーテ。カズ、スクナイ」
「数が少ないなら、パクスコヨーテじゃないな。たぶんアシッドウルフだ」
4本腕バチロウが感知して、白髪クルトに報告する。
え? 本当に魔物がいるの? 全然聞こえないし、見えもしないんだけど。
エリスを見てみるが、彼女も不思議そうな顔をしている。
疑心を持ちながら慎重に前に進む。
見えた、たしかにいるな。数は3匹。
エリスと目配せする、先制攻撃だ。
「『泥沼』!」
まとめて足を止める。散らばられたら面倒だ。
すぐさまエリスが駆け出す、接敵。
「シィィィッ」
斬撃、3閃。
頭と胴が別れた死骸が3つ。戦闘終了。
「エリス、ツヨイ」
「ルーデウスの魔術も見たこともなかった」
「………」
3人から手放しで褒められる。いや鳥頭ガブリンはまだ回復しきってないせいか話せないけど。
アシッドウルフの死骸から牙を回収する。クルト達にも渡そうとしたら固辞された。いやいや君、どんだけやねん。さすがに心が痛むので、いくつかは無理矢理にでも渡しておいた。
その後も探索を続ける。途中で本日のねらい目と思っていた獲物、巨岩石亀を探知。当然のように狩る。
今度はクルトも参戦したが、動きは悪くなかった。エリス程じゃないが魔術なしの俺よりもは上だろう。
しかし、"謎の卵"が見つからない。そもそもロクな情報がない。大きさ、形状、色、過去の目撃情報詳細も何もなし。これは依頼としてどうなんだろうか。
日もじきに傾きはじめるだろうし、ここらで引き返すのがベターかな、なんて考えているとバチロウが何かを感知した。
「ナニカ、タタカッテル。ニゲテル? ヒメイ、キコエル」
戦い? 悲鳴?
…さっきのクルトたちのパターンか!
ここは魔物が多くて有名な場所なんじゃないのか。なんでこんなに襲われてる現場に出くわすんだ。
クルトと目配せをする。俺たちは急いで感知した方向に向かった。
そして、いくつかの死体と
単一Aランクの魔物、赤喰大蛇に出会った。
次回予告 「強い魔物」