旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

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010 魔物

 

 魔物。それは従来の動物から魔力溜りによる突然変異で生まれたもの。そのランクはFからSまであるが、群の数や襲われる状況などを含んだ危険度を示しており、決して魔物自体の強さだけのランクというわけではない。

 しかし、ここは魔大陸。出現する魔物は世界で最も強いと分類されている場所。故に単一で高ランクの魔物も存在する。

 

 

 

 

 

 

 狩りのため、朝早くに町の外へと出る。

 

 隣には先日購入した防具を身に着けたエリス。

 装備、道具、獲物や収集品を入れる背負い袋、周辺地図と情報も用意して準備は万端。

  

 昨日ギルドで仕入れた情報では、このあたりはパクスコヨーテ、アシッドウルフ、大王陸亀、巨岩石亀が出現するらしい。ねらい目は巨岩石亀、高値で取引される魔石がとれる。逆に今回は大王陸亀は無視するつもりだ。肉が大量にとれるが運搬が大変だ。

 

 ギルドの依頼書の中に"パクスコヨーテの毛皮の収集(Cランク)"というものがあった。ただパクスコヨーテは生息数が多い。狩ってしまってもかまわないだろう。

 

 町の外へ出て、しばらく歩くとアシッドウルフと遭遇した。数は2匹。魔物に(つがい)ってあるのかな、なんて考えていたらやる気満々のエリスがひとりで斬り倒してしまった。売り物になる牙を回収後、死骸を焼いておく。

 

 しかし、それ以降は魔物を見つけられず狩りができていない。しばらく町周辺を適当に散策していたが、運任せは失敗だったか。

 ルイジェルドは索敵についても多少は教えてくれたが、それは周囲警戒、夜襲の備えといったものであり、今はあまり役にたたない。彼は生体レーダー持ちなので、技術というよりは能力で索敵を行っていたのもある。

 

「もうっ! なんで獲物がいないのよ」

 

 エリスが愚痴をこぼす。気持ちはわかるが彼女はまだいい、アシッドウルフ相手に剣を振ったのだから。俺は戦闘すらしていない、死骸を焼いただけだ。

 しかし、ホントに魔物と遭遇しないな。

 会いたいと 思うときほど 会えないの。恋の川柳。

 

「エリス、体力は大丈夫ですか?」

 

「問題ないわ」

 

「ならもう少し足をのばして、石化の森あたりまで行ってみましょう。そこまで行けば、魔物がいないということはないでしょうから」

 

「わかったわ!」

 

 俺の提案にエリスは了承してくれた。さすがにこのまま狩りを終えるには不完全燃焼だ。石化の森は討伐依頼でそれなりに見た場所だし、魔物がまったくいないということはないだろう。まあリスクを考えて、あまり深くまで入り込む気はないが。

 

 

 

 昼ごろに石化の森に到着。

 

「エリス、ここからは注意して行きましょう」

 

「うん、わかったわ」

  

 森に入る。森というだけあって周りは木、ではなく木の形状をした岩だらけだ。

 あまり視界が通らない、物陰には注意しないと。

  

「…あれ?」

 

 何か聞こえる。金属音のような………誰かが戦ってるのか? エリスと目が合う。彼女も気づいたようだ。すぐさま共に駆け出す。

 

 走る、探す、どこだ?

  

 いたっ! まだら模様の3mほどの蛇が数匹、3人組と戦っている。

 ん?

 

 

 

 

 

 

 "石化の森で目撃された謎の卵の採取(Dランク)"

 

 今までいくつかDランクの依頼はこなしてる。今朝ギルドに貼り出された依頼は、"謎の卵"なんて曖昧な表現のものだったけれど、石化の森はまだ足を踏み入れたことはなく、はじめて行く場所だ。ワクワクした。

 そして今は後悔してる。

 

 石化の森に入ってすぐに鎧姿の魔物、エクスキューショナーと遭遇した。警戒しながら進んでいたのに、岩のカゲでバッタリ遭遇してしまった。慌てて逃げ出すも、逃げ込んだ方向に今度はアーモンドアナコンダが何匹もいた。

 

 ガブリンは肩をやられて血を流してる。俺もバチロウも息があがってる。

 くそっ、死んでたまるか!

 剣を持つ手に力を込めて、踏み出したその時、

 

「ヤアァァァッ」 赤い影と閃光のような斬撃が走った。

 

「『岩砲弾(ストーンキャノン)』!」 拳大の何かが貫く。

 

 アーモンドアナコンダの1匹が倒れた。 

 ええっ?

 

「クルト、大丈夫ですか? 加勢します」

 

 

 

 

 

 

 戦闘はすぐに終わった。エリスの剣術と俺の魔術で簡単に各個撃破だ。

 

「神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん『ヒーリング』」

 

 怪我をしていたガブリンに治癒魔術を施す。まだ顔色が悪い。肩の怪我は治ったはずだが、癒したはずの患部は若干変色している。…毒か。

 

「神なる息吹は滋養の源、病患いしかの者に再び目覚めの力を与えん『アンチドーテ』」

 

 患部の変色が消えた。よかった、効いたようだ。ただ顔色はまだ若干悪いな。

 

「あ、ありが、と…ございマス…」

 

「無理にしゃべらなくていいですよ。治癒と解毒を施しましたが、すぐには全快にはなりませんから」

 

 ひとまず負傷者の治療をした。

 すると目に涙を浮かべたクルトが手を握って礼を言ってくる。

 

「助かったよ本当に! ありがとう、ありがとう」

 

 続けてエリスの手を握ろうとして嫌がられた。それでもクルトは彼女にも何度も感謝の言葉を述べた。

 

「ルーデウスたちは、どうしてここに?」

 

「ええ、小銭稼ぎに魔物を狩りに来ました。はじめは…」

 

 クルト達に事情を話す。小銭稼ぎのための売り物になりそうな魔物狩り。町近辺を探すも不発だったため石化の森まで来たこと。そこで戦闘の音を聞いて駆けつけたこと。

 

「それで石化の森に来ちゃうんだから、すごいな」

 

「そうなんですか?」

 

「そうだよ。俺たちもはじめて来たけど、ここは魔物が多くて有名なんだ。俺たちも警戒してたつもりだけど、いきなり遭遇しちゃってさ」

 

 なるほど。意図的に戦闘していたわけではないと。

 

「ここは視界も悪いし、警戒するにも限度がありませんか?」

 

「いや。バチロウは普通よりずっと耳が良いんだ。大抵の魔物の接近には気づける。あとガブリンは夜目が効くから薄暗い程度なら、問題なく見渡せるし」

 

 そりゃすごい、素直に感心する。 個人の特技か、種族由来の能力か…。

 

「でも魔物には遭遇したと」

 

「魔物だって動いてなければ、物音なんてしないしなあ」

 

 まあ、そうだな。完全完璧な索敵術も警戒術も土台無理な話だ。ルイジェルドの生体レーダーも生き物に大しては有用だけど、トラップの類は感知できないとか言っていたし。

 

「これからどうするんですか?」

 

「ああ、俺たちは依頼を受けて…」

 

 クルト達が受けた依頼の内容をきいた。

 "謎の卵"か…。それだけの情報では探すのにも相当大変ではないだろうか。この広い範囲を地道に足を使って探すしか思いつかない。

 

 俺たちはまだ狩りを続けたいし…、よし、

 

「ではクルト、『デッドエンド』と『トクラブ村愚連隊』で一時共闘しませんか?」

 

「共闘?」

 

「ええ。僕たちはまだ狩りを続けたい、ただ魔物の位置がわかるような感知は正直苦手です。クルトたちは依頼のため森を探索する必要がある、そして索敵が得意。

 クルトたちに僕らが同行して、魔物と遭遇した時は僕らが戦闘に参加します。もちろん魔物の強さや数を見て、戦闘を避けることはあると思いますが。あと期限は…今日一日。僕らも狩りばかりするわけにもいかないもので。…どうでしょうか?」

 

「う~ん、それってギルドの規約的にどうなんだ? Dランクの依頼だし、たしかヘルプに入るのも…」

 

「いえ、ギルドに報告する必要はありません。そもそも僕らは狩りを行っているだけで、依頼には一切関与はしません。当然依頼報酬も僕らは受け取りませんよ」

 

「そっか…よし、それならよろしく頼むよ」

 

 なんというか、素直な奴だな。

 魔物から収集した素材の分け前については、わざと話さなかった。先程の戦闘を見てもクルトたちはそれほど強くない。戦闘になればこちらの成果のほうがまず大きいだろう。それで後で分け前を多めに主張するつもりだったんだが。ここまでまっすぐな奴だと、すごい悪い気がするな。

 

 

 

「スコシサキ、イル。アシッドウルフ カ パクスコヨーテ。カズ、スクナイ」

 

「数が少ないなら、パクスコヨーテじゃないな。たぶんアシッドウルフだ」

 

 4本腕バチロウが感知して、白髪クルトに報告する。

 え? 本当に魔物がいるの? 全然聞こえないし、見えもしないんだけど。

 エリスを見てみるが、彼女も不思議そうな顔をしている。

 

 疑心を持ちながら慎重に前に進む。

 見えた、たしかにいるな。数は3匹。

 エリスと目配せする、先制攻撃だ。

 

「『泥沼』!」

 

 まとめて足を止める。散らばられたら面倒だ。

 すぐさまエリスが駆け出す、接敵。

 

「シィィィッ」

 

 斬撃、3閃。

 頭と胴が別れた死骸が3つ。戦闘終了。

 

「エリス、ツヨイ」

「ルーデウスの魔術も見たこともなかった」

「………」

 

 3人から手放しで褒められる。いや鳥頭ガブリンはまだ回復しきってないせいか話せないけど。

 アシッドウルフの死骸から牙を回収する。クルト達にも渡そうとしたら固辞された。いやいや君、どんだけやねん。さすがに心が痛むので、いくつかは無理矢理にでも渡しておいた。

 

 その後も探索を続ける。途中で本日のねらい目と思っていた獲物、巨岩石亀を探知。当然のように狩る。

 今度はクルトも参戦したが、動きは悪くなかった。エリス程じゃないが魔術なしの俺よりもは上だろう。

 

 しかし、"謎の卵"が見つからない。そもそもロクな情報がない。大きさ、形状、色、過去の目撃情報詳細も何もなし。これは依頼としてどうなんだろうか。

  

 日もじきに傾きはじめるだろうし、ここらで引き返すのがベターかな、なんて考えているとバチロウが何かを感知した。

 

「ナニカ、タタカッテル。ニゲテル? ヒメイ、キコエル」

 

 戦い? 悲鳴?

 

 …さっきのクルトたちのパターンか!

 ここは魔物が多くて有名な場所なんじゃないのか。なんでこんなに襲われてる現場に出くわすんだ。

 

 クルトと目配せをする。俺たちは急いで感知した方向に向かった。

 

 

 

 そして、いくつかの死体と

 単一Aランクの魔物、赤喰大蛇に出会った。

 

 




 
 次回予告 「強い魔物」

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