赤喰大蛇。
赤い蛇の魔物。全長10メートルにもおよぶ巨体で猛毒の鋭い牙を持ち、火に耐性のある硬い表皮が全身を覆っている。動きは非常に俊敏で、さらには外敵や獲物を探知する感知能力も高い。石化の森に生息している白牙大蛇の上位種にあたる。確認された個体数は多くはないがその強さと攻撃的な性質から、この魔大陸で単一Aランクの難易度をつけられた魔物である。
見つけたのは、いくつかの死体と負傷している冒険者。
そして、巨大な赤い蛇と武器を振う豚頭。…ブレイズ?
「あれは、おそらく赤喰大蛇デス」
怪我と毒からだいぶ回復したガブリンが言う。
「早く助けないと!」
クルトが駆け出す。
ああ、もう! 情報整理もできていないのに!
すぐに俺とエリスも駆け出した。
「クソがぁ!」
武器を振う。
硬えぇ。思い切り武器を叩きつければ傷つけられないわけじゃねえ。しかし浅い、致命傷には遠い。こっちはチョッパーとグリムの2人が既に殺された。エッジの奴は致命傷だ、早く治療しないとヤバい。他の2人も負傷して戦えそうにない。
失敗した。こうなる前に撤退の判断を…、いや難しいか。不意打ちを受けて2人がやられた時点で、パーティは壊滅だった。せめて何人か生き残れるように俺がケツもつくらいしか…
はっ、過ぎたことだ。今は目の前のことだけ見てろ、後悔なんざ後だ!
「シャァー!」
体当たり、避けろ。
噛みつき、弾け。
ぐっ、キツイぜ。こっちの体力が尽きちまう。
ん、なんだ? 奴があさっての方向を向いた?
岩の飛翔物が何に命中するわけでもなく視界から消える。
避けた!?
今の
「ハアァァァ」
エリスが素早く切り込む。斬撃。
傷はつけたが切断には至らない。
「シューー、シュゥー、シュゥー…」
赤喰大蛇は威嚇音を上げながら、こちらを見ている。
マズイな、こいつ相当強い魔物だ。
「バカヤロウ! こっちにかまうな、さっさと逃げろ!」
「いえ…、もう遅い、でしょう」
実際遅かった。
赤喰大蛇がいきなり突進してくる。地を這いながら、俺に向かって。
速い!
「っ!」「ちぃ!」
エリスとブレイズが突進を止めるべく、攻撃を仕掛ける。
赤喰大蛇の足は止まったが、2人と1匹で乱戦状態になる。
今なら! 2人に当たらないように。
「『
巨体をくねらせ、岩の砲弾が外れる。
また!? くそっ、ピンポイント攻撃はダメだ。
「『泥沼』!」
今度は巨体を丸ごと沈み込める程、広範囲の泥沼を作り出す。
よし、ハマった。
「今のうちに撤退しましょう!
ブレイズさん、負傷者をお願いします。クルト達も手伝って!」
「なっ、く、わかったっ」
「ああ!」
負傷していたブレイズのパーティメンバーを抱えて離脱を始める。
死体は…無理だな、ごめん。
ブレイズが直接抱えている負傷者を見る。
この人のケガが最も酷い、危ない状態だ。距離を離したらすぐにでも…、いや、移動しながらでも。
「母なる慈愛の女神よ、彼の者の傷を…」「マッテ! クル!」
バチロウの警告。すぐさま赤喰大蛇が姿を表す。
ちくしょう、もう抜けてきたのかよ。こっちは体勢が悪い、けが人を抱えてる。
「シャァァァー!!!」
くるっ、
と思った瞬間、奴の目元あたりで赤い煙がパッと散った。
「よし、あたった!」
苦しみだした赤喰大蛇、後退しながら激しく体をくねらせ悶えている。
振り返れば、投げ終えた体勢のクルト。
「仕掛け玉だ! でもあんまりもたない」
そうか、催涙弾の類か。
どうする?
状況は好転していない。考えろ、頭を使え。
催涙弾の効果もじきに切れる。今から走って逃げてもすぐに追いつかれる。こっちには負傷者だっている、逃げ切れる可能性はないだろう。
赤喰大蛇の苦しみ悶えていた様子が、落ち着いていく。
なら、飛ぶか? ひったくり犯の時のように。…ダメだ。さすがにこの人数は飛ばせない。
赤喰大蛇が体をくねらせながら、こちらを警戒している。
俺とエリスだけなら? ブレイズとクルト達が狙われる、こっちには追ってこない。…馬鹿か。ルイジェルドがそんなこと許すと思うのか。エリスだって同じはずだ。
赤喰大蛇が威嚇音を出しながら、少しずつこちらに近づいてくる。
アイツをここで殺す。それがベストだ。
「エリスッ!」
彼女は黙って頷く、覚悟の表情だ。
「僕が合図をしたら飛び込んで。相手の正面で注意を引き付けて!」
「わかったわっ」
「ブレイズさん! エリスと同じタイミングで尾を攻撃してください」
「…いいだろう。のってやらぁ」
「クルト達はここで負傷者を守って!」
「あ、ああ。まかせろ!」
俺は一歩踏み出す。相手はこちらの魔術を察知するうえ、
ストラップのついた杖を強く握りしめて、突き出す。
「『
前方超広範囲に微小な水玉を飛ばす。次は
「『
前方見える範囲すべてが氷と霜の世界に変化する。当然、赤喰大蛇も範囲内だ。
正直、辺りを凍らせるだけなら、混合魔術フロストノヴァ一発で可能だ。しかし、あえて別々に発動した。初級魔術
「エリス!ブレイズさん!」
「っ!」「おう!」
二人が飛び出す。エリスが頭側、ブレイズがまわりこんで尾側から攻撃をはじめる。
俺も射線を確保すべく前に出る。頭と尾を避けて胴体に打ち込める位置へ。
使う魔術は
大きく、強く、鋭く、魔力を練りこむ。
蛇は極低温では冬眠する生き物だ。狙いどおり動きの鈍くなった赤喰大蛇に対して、エリスとブレイズは喰らいついている。
ヤツの注意もこちらには向いていないはずだ。
前衛の二人が傷を負い始めた。
早く………できたっ!
「『
八つ裂き光輪のような巨大な氷刃が横並びに3つ、高速で射出される。
赤喰大蛇に避けることを許さずに胴体を切断、いくつかの輪切り状態になった赤喰大蛇が倒れこむ。
静寂。それぞれの息を吐く音だけが響く。
「はぁ、はぁ…、やった? やったわっ、ルーデウスッ!」
そんなことを言いながら、エリスが駆け寄ってきた。
つ、疲れた。そんな長時間の戦闘をしたわけでもないのに。地面が霜と氷だらけじゃなかったら、座り込みたいくらいだ。
いや、早く負傷者の治療をしないと。おそらく解毒も必要だ。
治癒魔術をかけるために後方のクルト達に向かい歩きだす。
「っ! ルーデウス、後ろっ!」
クルトが叫ぶ。
振り返る。
目の前に 赤喰大蛇の牙
瞬間、俺は横から押し倒された。
すぐに顔を上げて周りを見ると、俺に覆いかぶさるように抱きついているエリス。
そして武器を振り抜いた状態のブレイズが言った。
「はんっ、ツメが甘ぇよ」
すぐ傍に、頭に大きく傷をつけた赤喰大蛇の断片が倒れていた。
結局それがトドメの一撃となったようで、赤喰大蛇を完全に討伐した。
その後は負傷者を治療し、赤喰大蛇から持ち運べそうな素材を回収後、魔術で焼却した。
『スーパーブレイズ』の亡くなった面々は、その場でブレイズが焼いた。
彼は焼いたあとの骨を拾いながらつぶやいていた。
「………俺なんかについてきてくれて、ありがとよ」
今は帰路についている。大物を仕留めたという高揚感は、まるでない。
「さっきは、ありがとうございました」
俺はブレイズに話しかける。
「ふんっ、気にすんな」
「いえ、ブレイズさんがいなければ、僕とエリスは無事だったとは思えません」
「バカヤロウ、むしろ礼を言うのはこっちのほうだ。お前らがいなかったらこっちは全滅だってありえた」
「それならクルト達に言ってやってください。彼らのおかげでブレイズさん達の戦闘を察知できたんですよ」
「ん、そうか。ガキ…あー、『デッドエンド』に白髪の小僧ども、正直助かった、あんがとよ」
ブレイズが俺とクルト達に向き直り、姿勢を正して深く頭を下げる。彼のパーティメンバーも同様に、だ。
なんというか、この人は無愛想だけど律儀というか…。口の悪いヤクザ者だけど義理堅いって感じがして、嫌いじゃない。ちょっとルイジェルドに似てるな。
「しかし、おめえの魔術を見てると思い出すな」
「え、何がですか?」
「………悪い、何でもない。昔の話だ」
彼は以前、あのノコパラとかいう馬ヅラと昔同じパーティだったと言っていた。そのあたりのことだろうか? あまり人の過去を詮索するものじゃないが…。
日がすっかり落ちて完全に夜になったあたりで、町に帰ってきた。
『スーパーブレイズ』『トクラブ村愚連隊』はギルドに。『デッドエンド』は宿に。行先が異なるので、その場で臨時の3パーティ合同チームは解散した。去り際にブレイズが報酬を分けるから、明日昼頃にギルドまで来てくれと伝えてきた。
宿までの道中でエリスに話しかける。
「エリス、すみません。最後は助かりました。僕が油断…」
「いいわよっ」
俺が言い終わる前に、彼女に言い切られる。
「仲間なんだから、当然よっ!」
いつもの腕を組んでの仁王立ち。
「たまには私がルーデウスを助けたって…、いいでしょ?」
いつもとは違う、どこか照れた様子でこちらを伺うような表情。
ああ…、彼女は、本当にカッコよくて、可愛くて。
「ええ、最高です」
そんな会話をしながら、一緒に宿に帰った。
クルト達、ブレイズには本作独自の色づけをしてます。原作ではあっという間にお亡くなりになったり、大した描写もなかったりで、本来の能力も性格も不明な部分が多いので。
オリキャラ:チョッパー、『スーパーブレイズ』のパーティメンバー、死亡
オリキャラ:グリム、『スーパーブレイズ』のパーティメンバー、死亡
オリキャラ:エッジ、『スーパーブレイズ』のパーティメンバー
次回予告 「協力体制」