旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

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011 強い魔物

 

 赤喰大蛇。

 赤い蛇の魔物。全長10メートルにもおよぶ巨体で猛毒の鋭い牙を持ち、火に耐性のある硬い表皮が全身を覆っている。動きは非常に俊敏で、さらには外敵や獲物を探知する感知能力も高い。石化の森に生息している白牙大蛇の上位種にあたる。確認された個体数は多くはないがその強さと攻撃的な性質から、この魔大陸で単一Aランクの難易度をつけられた魔物である。

 

 

 

 

 

 

 見つけたのは、いくつかの死体と負傷している冒険者。

 そして、巨大な赤い蛇と武器を振う豚頭。…ブレイズ?

 

「あれは、おそらく赤喰大蛇デス」

 

 怪我と毒からだいぶ回復したガブリンが言う。

 

「早く助けないと!」

 

 クルトが駆け出す。

 ああ、もう! 情報整理もできていないのに!

 

 すぐに俺とエリスも駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「クソがぁ!」

 

 武器を振う。

 硬えぇ。思い切り武器を叩きつければ傷つけられないわけじゃねえ。しかし浅い、致命傷には遠い。こっちはチョッパーとグリムの2人が既に殺された。エッジの奴は致命傷だ、早く治療しないとヤバい。他の2人も負傷して戦えそうにない。

 

 失敗した。こうなる前に撤退の判断を…、いや難しいか。不意打ちを受けて2人がやられた時点で、パーティは壊滅だった。せめて何人か生き残れるように俺がケツもつくらいしか…

  

 はっ、過ぎたことだ。今は目の前のことだけ見てろ、後悔なんざ後だ!

 

「シャァー!」

 

 体当たり、避けろ。

 噛みつき、弾け。

 ぐっ、キツイぜ。こっちの体力が尽きちまう。

  

 ん、なんだ? 奴があさっての方向を向いた?

 

 

 

 

 

 

 岩の飛翔物が何に命中するわけでもなく視界から消える。

 

 避けた!?

 今の岩砲弾(ストーンキャノン)は無詠唱で術名も言わなかった。偶然…じゃないな。赤喰大蛇は避ける前にこっちの攻撃を察知してた。

 

「ハアァァァ」

 

 エリスが素早く切り込む。斬撃。

 傷はつけたが切断には至らない。

 

「シューー、シュゥー、シュゥー…」

 

 赤喰大蛇は威嚇音を上げながら、こちらを見ている。

 マズイな、こいつ相当強い魔物だ。

 

「バカヤロウ! こっちにかまうな、さっさと逃げろ!」

 

「いえ…、もう遅い、でしょう」

 

 実際遅かった。

 赤喰大蛇がいきなり突進してくる。地を這いながら、俺に向かって。

 速い!

 

「っ!」「ちぃ!」

 

 エリスとブレイズが突進を止めるべく、攻撃を仕掛ける。

 赤喰大蛇の足は止まったが、2人と1匹で乱戦状態になる。

 今なら! 2人に当たらないように。

 

「『岩砲弾(ストーンキャノン)』!」

 

 巨体をくねらせ、岩の砲弾が外れる。

 また!? くそっ、ピンポイント攻撃はダメだ。

 

「『泥沼』!」

 

 今度は巨体を丸ごと沈み込める程、広範囲の泥沼を作り出す。

 よし、ハマった。

 

「今のうちに撤退しましょう!

 ブレイズさん、負傷者をお願いします。クルト達も手伝って!」

 

「なっ、く、わかったっ」

 

「ああ!」

 

 負傷していたブレイズのパーティメンバーを抱えて離脱を始める。

 死体は…無理だな、ごめん。

 

 ブレイズが直接抱えている負傷者を見る。

 この人のケガが最も酷い、危ない状態だ。距離を離したらすぐにでも…、いや、移動しながらでも。

 

「母なる慈愛の女神よ、彼の者の傷を…」「マッテ! クル!」

 

 バチロウの警告。すぐさま赤喰大蛇が姿を表す。

 ちくしょう、もう抜けてきたのかよ。こっちは体勢が悪い、けが人を抱えてる。

 

「シャァァァー!!!」

 

 くるっ、

 と思った瞬間、奴の目元あたりで赤い煙がパッと散った。

 

「よし、あたった!」

 

 苦しみだした赤喰大蛇、後退しながら激しく体をくねらせ悶えている。  

 振り返れば、投げ終えた体勢のクルト。

 

「仕掛け玉だ! でもあんまりもたない」

 

 そうか、催涙弾の類か。

 

 どうする? 

 状況は好転していない。考えろ、頭を使え。

 

 

 

 催涙弾の効果もじきに切れる。今から走って逃げてもすぐに追いつかれる。こっちには負傷者だっている、逃げ切れる可能性はないだろう。

 

 赤喰大蛇の苦しみ悶えていた様子が、落ち着いていく。

 

 なら、飛ぶか? ひったくり犯の時のように。…ダメだ。さすがにこの人数は飛ばせない。

 

 赤喰大蛇が体をくねらせながら、こちらを警戒している。

 

 俺とエリスだけなら? ブレイズとクルト達が狙われる、こっちには追ってこない。…馬鹿か。ルイジェルドがそんなこと許すと思うのか。エリスだって同じはずだ。

 

 赤喰大蛇が威嚇音を出しながら、少しずつこちらに近づいてくる。

 

 アイツをここで殺す。それがベストだ。

 

「エリスッ!」

 

 彼女は黙って頷く、覚悟の表情だ。

 

「僕が合図をしたら飛び込んで。相手の正面で注意を引き付けて!」

 

「わかったわっ」

 

「ブレイズさん! エリスと同じタイミングで尾を攻撃してください」

 

「…いいだろう。のってやらぁ」

 

「クルト達はここで負傷者を守って!」

 

「あ、ああ。まかせろ!」

 

 

 

 俺は一歩踏み出す。相手はこちらの魔術を察知するうえ、岩砲弾(ストーンキャノン)を避けるくらい動きが俊敏だ。まずは広範囲の魔術で動きを鈍らせる。泥沼はすぐに脱出された、それなら。

 ストラップのついた杖を強く握りしめて、突き出す。

 

「『水蒸(ウォータースプラッシュ)』!」

 

  前方超広範囲に微小な水玉を飛ばす。次は

 

「『氷結領域(アイシクルフィールド)』!」

 

 前方見える範囲すべてが氷と霜の世界に変化する。当然、赤喰大蛇も範囲内だ。

 

 正直、辺りを凍らせるだけなら、混合魔術フロストノヴァ一発で可能だ。しかし、あえて別々に発動した。初級魔術水蒸(ウォータースプラッシュ)でとにかく範囲を拡大して、赤喰大蛇に避けられることを防ぎたかったからだ。

 

「エリス!ブレイズさん!」

 

「っ!」「おう!」

 

 二人が飛び出す。エリスが頭側、ブレイズがまわりこんで尾側から攻撃をはじめる。

 俺も射線を確保すべく前に出る。頭と尾を避けて胴体に打ち込める位置へ。

 

 使う魔術は氷霜刃(アイシクルエッジ)。これで決めたい。

 大きく、強く、鋭く、魔力を練りこむ。

 

 蛇は極低温では冬眠する生き物だ。狙いどおり動きの鈍くなった赤喰大蛇に対して、エリスとブレイズは喰らいついている。

 ヤツの注意もこちらには向いていないはずだ。

  

 前衛の二人が傷を負い始めた。

 早く………できたっ!

 

「『氷霜刃(アイシクルエッジ)』」!

 

 八つ裂き光輪のような巨大な氷刃が横並びに3つ、高速で射出される。

 赤喰大蛇に避けることを許さずに胴体を切断、いくつかの輪切り状態になった赤喰大蛇が倒れこむ。

 

 

 

 静寂。それぞれの息を吐く音だけが響く。

 

「はぁ、はぁ…、やった? やったわっ、ルーデウスッ!」

 

 そんなことを言いながら、エリスが駆け寄ってきた。

 

 つ、疲れた。そんな長時間の戦闘をしたわけでもないのに。地面が霜と氷だらけじゃなかったら、座り込みたいくらいだ。

 

 いや、早く負傷者の治療をしないと。おそらく解毒も必要だ。

 治癒魔術をかけるために後方のクルト達に向かい歩きだす。

 

「っ! ルーデウス、後ろっ!」

 

 クルトが叫ぶ。

 振り返る。

 

 

 

 目の前に 赤喰大蛇の牙

 

 

 

 瞬間、俺は横から押し倒された。

 すぐに顔を上げて周りを見ると、俺に覆いかぶさるように抱きついているエリス。

 そして武器を振り抜いた状態のブレイズが言った。

 

「はんっ、ツメが甘ぇよ」

 

 すぐ傍に、頭に大きく傷をつけた赤喰大蛇の断片が倒れていた。

 

 

 

 結局それがトドメの一撃となったようで、赤喰大蛇を完全に討伐した。

 その後は負傷者を治療し、赤喰大蛇から持ち運べそうな素材を回収後、魔術で焼却した。

 

 『スーパーブレイズ』の亡くなった面々は、その場でブレイズが焼いた。

 彼は焼いたあとの骨を拾いながらつぶやいていた。

 

「………俺なんかについてきてくれて、ありがとよ」

 

 

 

 今は帰路についている。大物を仕留めたという高揚感は、まるでない。

 

「さっきは、ありがとうございました」

 

 俺はブレイズに話しかける。

 

「ふんっ、気にすんな」

 

「いえ、ブレイズさんがいなければ、僕とエリスは無事だったとは思えません」

 

「バカヤロウ、むしろ礼を言うのはこっちのほうだ。お前らがいなかったらこっちは全滅だってありえた」

 

「それならクルト達に言ってやってください。彼らのおかげでブレイズさん達の戦闘を察知できたんですよ」

 

「ん、そうか。ガキ…あー、『デッドエンド』に白髪の小僧ども、正直助かった、あんがとよ」

 

 ブレイズが俺とクルト達に向き直り、姿勢を正して深く頭を下げる。彼のパーティメンバーも同様に、だ。

 

 なんというか、この人は無愛想だけど律儀というか…。口の悪いヤクザ者だけど義理堅いって感じがして、嫌いじゃない。ちょっとルイジェルドに似てるな。

 

「しかし、おめえの魔術を見てると思い出すな」

 

「え、何がですか?」

 

「………悪い、何でもない。昔の話だ」

 

 彼は以前、あのノコパラとかいう馬ヅラと昔同じパーティだったと言っていた。そのあたりのことだろうか? あまり人の過去を詮索するものじゃないが…。

 

 

 

 日がすっかり落ちて完全に夜になったあたりで、町に帰ってきた。

 『スーパーブレイズ』『トクラブ村愚連隊』はギルドに。『デッドエンド』は宿に。行先が異なるので、その場で臨時の3パーティ合同チームは解散した。去り際にブレイズが報酬を分けるから、明日昼頃にギルドまで来てくれと伝えてきた。

 

 宿までの道中でエリスに話しかける。

 

「エリス、すみません。最後は助かりました。僕が油断…」

 

「いいわよっ」

 

 俺が言い終わる前に、彼女に言い切られる。

 

「仲間なんだから、当然よっ!」

 

 いつもの腕を組んでの仁王立ち。

 

「たまには私がルーデウスを助けたって…、いいでしょ?」

 

 いつもとは違う、どこか照れた様子でこちらを伺うような表情。

 

 ああ…、彼女は、本当にカッコよくて、可愛くて。

 

 

 

「ええ、最高です」

 

 そんな会話をしながら、一緒に宿に帰った。

 

 





 クルト達、ブレイズには本作独自の色づけをしてます。原作ではあっという間にお亡くなりになったり、大した描写もなかったりで、本来の能力も性格も不明な部分が多いので。

 オリキャラ:チョッパー、『スーパーブレイズ』のパーティメンバー、死亡

 オリキャラ:グリム、『スーパーブレイズ』のパーティメンバー、死亡

 オリキャラ:エッジ、『スーパーブレイズ』のパーティメンバー

 次回予告 「協力体制」

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