旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

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012 協力体制

 

 体が動かせない。意識は覚醒しているはずなのに起き上がることができない。物理的な拘束? それとも魔術の類か? 誰が? 何のためにこんなことを? 疑念は湧き上がるが答えは出ない。さらには気づいてしまう。自分のすぐ傍に、狂暴な肉食獣が徘徊している気配を。

 

 神よ。どうか許されるなら、最後にあなたを想うことをお許しください。ああ、せめてあなた様の分身たるご神体を再び拝見したかった………。

 

 

 

「何バカ言ってるの?」

 

 重いまぶたをゆっくり開ける。

 視界にはエリス。腕を組んでのいつものポーズ。

 

「おはよう! 起きたなら早くゴハン食べにいくわよっ」

 

「…おぁよう…ございますぅ」

 

 はぁ、体が重いのは事実なんだが…。昨日の疲れが残ってるなあ。

 俺は起き上がってベッドから離れた。

 

 

 

 遅めの朝食をとった後のティー()タイム。

 昨日ブレイズに言われたので、今日は昼ごろにギルドに行く必要がある。なので町の外に出て狩りをしに行くわけにはいかない。冒険者として依頼をこなすのも現実的ではないだろう。必要な買い出しも今は特にない。市場調査もこの間したばかりだ。なんだろう、ぽっかりと時間が空いてしまった。

 

「今日はどうするの?」

 

 現在考え中です、お嬢様。

 ………フム。

 

「そうですね、昨日の件で昼頃にギルドを訪れる以外は予定していることはないです。なのでお昼まではエリスの勉強の時間にしようかと」

 

「えっ…なんで?」

 

「僕は『デッドエンド』の仲間であると同時に、エリスの家庭教師でもありますから」

 

「………」

 

「この前も言ったじゃないですか。魔神語を覚えてくださいって」

 

「うっ………」

 

「いいですか、エリス。文字の読み書きまで、とは言いませんが、言葉を覚えて話すことはできるようになったほうが良いです」

 

「ルーデウスがずっと私の傍にいればいい」

 

 状況が状況ならプロポーズのようなときめく言葉なんだろうが。ちょっと変化球を混ぜるか…。

 

「それに昨日のような状況だってあるでしょう?」

 

「…?」

 

「昨日のように他のパーティと協力する時だって今後あるはずです。その時に言葉を理解できれば、ずっと動きやすくなるんじゃないですか?」

 

「それは…そう、かも」

 

 追い込んだ。

 

「宿で一人でも食事を頼めるようになりますしね」

 

「うぅ…わかったわよ」

 

 勝利。

 

「でも…そうっ! お休み! 前みたいにお休みもないとイヤだわっ」

 

 まあ、勉強ばかりではエリスも嫌になってしまうだろう。言語に対して苦手意識を持ってもらっても困るし。そのあたりはバランスだな。

 

「はい、わかりました。では今後は空いた時間や夜に勉強しましょう」

 

「うぅ~、ルーデウスのいじわるぅ」

 

 というわけで本日は昼まで久々に家庭教師の時間になった。ロキシー手製の魔神語資料があるわけではないから効率的なことはできないが。まあ、ゆっくりやっていこう。

 

 

 

 昼になってエリスと一緒に冒険者ギルドに向かう。

 ギルド前には既にブレイズとクルト達が来ていた。

 

「ブレイズさん、クルト達も。すみません、お待たせしたようで」

 

「かまわねえよ、こっちだ」

 

 ブレイズに連れられてギルドから少し離れた酒場に入る。テーブル片側に俺とエリス、対面にクルト達、いわゆる誕生日席にブレイズが座る。

 

「ギルドの中ではないんですね」

 

「おう、今回の報酬はギルドの依頼料は関係ないからな」

 

 全員分の飲み物を適当に頼んで、いよいよスタート。

 

「まず俺から報告するぜ」

 

 ブレイズの話の内容は、まずは報酬について。赤喰大蛇から回収した素材はギルドを通して、すでに換金したこと。今回の報酬はそれを2等分して『デッドエンド』と『トクラブ村愚連隊』に渡すとのこと。

 それから昨日の状況になった経緯を語った。『スーパーブレイズ』は依頼"石化の森の白牙大蛇の討伐(Bランク)"で森に入り、探索中に赤喰大蛇の奇襲を受けて撤退もできず応戦したところに俺たちが介入したこと。パーティメンバーが減ったことで、元々受けていた依頼はキャンセルしたこと。

 

「当然だが石化の森に赤喰大蛇が出てきたことはギルドに伝えてある、重要な情報だしな。あとここにいる3パーティで戦闘になったこともな」

 

「じゃあ俺たちからも報告するよ」

 

 クルトが語った。依頼"石化の森で目撃された謎の卵の採取(Dランク)"は、自分たちの手には負えないと判断してキャンセルしたこと。

 

 ちなみに俺たちには特に報告することはなかった。依頼ではなく狩りという名目で森に行ったことは、昨日の帰路で伝えていたからだ。

 

「なんだか僕たちが一番実入りがいいようで、申し訳ないですね。それにブレイズさん達の分け前が全くないのはどうかと思うのですが…」

 

「バカ言え。こっちはお前らがいなきゃ、おそらく全員生きて帰れてねえ。それにケガ人の治療だって手伝ってもらったしな」

 

「ああ、ウチもガブリンを助けてくれたし。問題ないよ」

 

 そういうもんか、まぁ貰えるモンは貰っとくか。

 

 それからブレイズが俺とクルトに報酬を渡した後、パーティメンバーの見舞いがあるからと帰っていった。帰り際に、金は店に払ってあるからあとは好きに飲み食いしていけ、とのこと。親分っぽい気質の人だ。

 

 

 

 お言葉に甘えて好きに飲み食いしよう。俺もエリスもメニューを見ても料理の内容がわからないので、注文はクルト達に任せた。出てきた料理は宿で出されるものより、見た目も豪勢でボリュームがある。大王陸亀の肉なんかもあったが、香草と香辛料をたっぷり使って香ばしいタレがかかった焼き料理だった。やっぱりあの肉は単体だと微妙なんじゃないかな。

 

 食事も終わった頃にクルトが話しかけてくる。

 

「実はルーデウスたちに頼みたいことがあるんだ」

 

 ん?

 

「俺たちに魔術を教えてくれないか?」

  

 昨日の狩りでもそうだったが、これまでにクルトたちの前で何度も魔術をつかっている。その度に驚いたり感心されたが、これは予想してなかった。しかし、

 

「それは………難しいですね。伝えてはいませんでしたが、僕たちはこの町に長く留まるつもりはありません。必要な分までお金を貯めたら、リカリスから出ていくつもりです」

 

「えっ? そうなの?」

 

「はい。なので魔術を教える時間はないと思います。魔術は個人差もありますが、習得に時間がかかります。あと教わったからといって、誰もが習得できるわけでもないですし」

 

「う~ん…、出ていくって、何処にいくの?」

 

「ひとまず魔大陸南端のウェンポートを目指します。その後は海を渡ってミリス大陸、さらに中央大陸まで行く予定です」

 

 クルトが考え込む。両隣の仲間と目配せすると、

 

「それならさっ! どこまでかはわからないけど…、俺たちも一緒に行っていいかな?」

 

 まさかの提案。いやいや、まてまて。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。クルト達はこの町で冒険者としてやっていくんじゃないんですか?」

 

「いや、俺たちも別の町に探しに行こうか、って話があってさ」

 

「え? どういうことですか?」

 

 詳しい話をきいてみる。

 要約すると、同じ村の3人でつくったパーティ、冒険者として活動するために町に出てきた。ただ全員が前衛職なため、後衛の魔術師を加えたいとずっと考えていたらしい。はじめに宿でエリスに声をかけたのも、それが理由だ。しかし、なかなか仲間に加わってくれそうな人物が見つけられない。さらに昨日のこと。今より上を目指すなら魔術は必要になってくる。

 

 わからない話ではない。昨日のような戦闘では治癒、解毒魔術はもちろん攻撃魔術もあったほうがいい。昨日の魔物はちょっと強すぎた感はあるが…

 

「ホントはさ、はじめは君たちにパーティに加わってくれないかと思ってたんだ。ただ昨日の戦闘を見てたら、実力が違いすぎるし。だから、せめて魔術を教えてほしいって頼むことにしたんだ。でも今のルーデウスの話を聞いたら、俺たち協力できるんじゃないかな?」

 

 今度は俺が考え込む。クルト達と組むことのメリットとデメリット。

  

 まず道中の索敵をかなり助けてくれるはずだ。昨日のバチロウの耳による索敵は確かなものだった。あの分ならガブリンの目による索敵能力も悪くはなさそうだ。次に戦闘時の人数増加。俺とエリスの二人では対多数には不安がある。そして旅の間の労働力確保。情報収集、宿の手配、買い出し、etc。このあたりをエリスにまかせるのはちょっと…、いや、かなり難しい。俺が確保できる時間もだいぶ厳しくなってきてたし…。

 不安があるのは戦闘能力か。クルトはそれなりに戦えたが、先の二人は未知数だ。あとは目的地を優先させてもらうなら多少は旅の資金援助も必要だろう。

 

 まとめると

 メリットは索敵警戒技能、戦闘員増加、労働力増加

 デメリットは戦闘力の不安、金銭

  

 こんなところか。………不安は解消できるか。

 

「テストしてもいいですか?」

 

 クルトたち3人は不思議そうな顔をする。

 

「上から目線のようで申し訳ないですが…。組む、となれば背中を預けることもあるでしょう。なのでどのくらい戦えるか見せてください」

 

「見せる、って魔物と戦うところを見学するとか?」

 

「いえ、エリスとの模擬戦です」

 

 

 

 町の外。開けた場所で膝をつく少年3人と…

 

「まだまだねっ!」

 

 仁王立ちで楽しそうな赤毛の少女。

 

 結果はこうなると予測していたが…、でも全体的に3人は動けていたように思う。鳥頭ガブリンは剣での刺突攻撃メイン、4本腕バチロウはバットのような棍棒を2本持って完全にタンクの動きだった。そこに素早い動きと変則的な攻撃を繰り出すクルト。

 

 戦闘時、主力は俺とエリスになるとしても、立ち回りを失敗しなければクルト達も足でまといにはなるまい。なんとかなりそうか。

 

「悪くないと思います。これなら僕らと連携も十分可能でしょう」

 

「はぁ、はぁ、ん…、じゃあ?」

 

「はい、これからよろしくお願いしますね」

 

 手を差し出す。

 

「ああ、よろしくっ!」

 

 クルトはその手をとって立ち上がった。

 

 

 

 ここまで所々でしか説明していなかったエリスに事情を詳しく説明する。

 

 今後は昨日にひき続きクルト達と協力体制をとること。クルト達の目的、この町にいる間だけでなく旅をする際にも同行すること。

 

 すると彼女は一瞬何かに気づいた表情をしてから、

 

「っ! それなら私が剣術を鍛えてあげるわっ」

 

 …透けて見えるな、エリスの魂胆。

 まあ、ルイジェルドやギレーヌの真似事をしてみたいってのもあるかもしれないが。

 

 協力体制をとるにあたって戦闘訓練も組み込まないか、とクルト達に話してみると彼らは是非とも、と了承してくれた。今日はこのまま日が傾くまで模擬戦と剣術指導となった。男4人はヘトヘトになって、エリスは一人最後まで元気いっぱいだった。

 

 

 

 宿に戻る。そのまま一緒に食事をとることにする。

 食事しながらクルトと明日以降どうするか話していると、エリスとガブリンとバチロウが何とかコミュニケーションをとろうとお互い拙く会話を試みていた。こういったメリットもあったか。

 

 部屋に戻ってからエリスと話す。

 

「すみません。クルト達とのこと、ロクに相談もなしに決めてしまって」

 

「私じゃそういうのわからないもの、問題ないわ」

 

 それはそうなんだろうが。…いかんな。彼女に言いたいことは遠慮なく言うように言っておいて、今回のような独断専行は。なるべく彼女にも事前に伝えて手本を示さねば。

 

「同じパーティではないとはいえ、今後は彼らも仲間です。お願いしますね」

 

「うん、わかったわ」

 

 あと彼女に遠慮なく言わなければならないこと。

 

「ああ、それと。剣術指導することになったとはいえ、勉強がなくなったりはしませんよ?」

 

 顔を引きつらせた少女が悲痛な叫びを響かせる。

 

 

 

「ルーデウスのバカァーーー!」

 

 





 次回予告 「旅の準備」


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