『デッドエンド』と『トクラブ村愚連隊』は協力体制をとることになった。
俺たちの目的は中央大陸アスラ王国に行くこと、クルト達は魔術師の人材を求めて。魔大陸南端ウェンポートを目指すことになるが、先に旅のための準備だ。このリカリスから次の町まで行くのにも10日以上かかるので、準備はそれなりに大がかりになる。必要となるのはなによりもお金。クルト達にも多少は捻出してもらうつもりではいるが、足となるトカゲ2匹分の購入金が最低限必要となる。
まずは以前より有効だと睨んでいた、土魔術による金策を進める。
コップとお皿は厚みに少し改良を加えつつ、大きさにバリエーションを持たせて増産した。
剣はエリス達にアドバイスをもらいながら、いくつか試作品を作ってみた。両刃の直剣だけでなく、短剣、片刃の剣、刺突剣、幅広で厚みのあるナタのような剣。それぞれに邪魔にならない程度に装飾もほどこす。装飾に関してはクルト達よりもエリスの助言を参考にして形成したものの方が見栄えが良かった。このあたりはさすが貴族のご令嬢様ってところか。
人形はなし。売れても二束三文なのは前回で学んだ。
次に狩りによる金策。
基本的に探索は町周辺に限定。以前の石化の森のように、赤喰大蛇のような高ランクの魔物はさすがにリスクが高すぎる。クルト達の探索技能も大いに役にたち、探知、接敵、討伐、回収、と効率良く狩りを行う。そして戦闘員増加のためフォーメーション、戦術を思考錯誤しながら試してみる。これはこれで旅のよい予行演習となった。
最後に冒険者として依頼をこなして報酬を得る金策。
俺とエリスはFランクであるため、主に町中の依頼しか受けられない。ただクルト達はつい最近まで、その町中の依頼を十分こなしてきた先達である。なので時には共同で、時にはアドバイスをもらっていくつも依頼をこなす。正直、土魔術や狩りによって得られる金銭に比べれば、低ランク依頼の報酬は微々たるものだ。しかし冒険者ランクを上げておけば、後々狩りと討伐依頼が兼ねられるようになるので冒険者としての活動も進めておく。
そんな日々を1ヵ月。
土魔術製品を売りにいった後、市場を冷やかしてから他の面々と別れて、一人で冒険者ギルドに来た。エリスとクルト達は剣術指導、戦闘訓練のため町の外に向かった。
貼り出された依頼書を見ようと進むが、なにやら喧騒とした様子。何かあったんだろうかと周りを見回すと、知った顔を見つける。
「ブレイズさん、こんにちわ」
「おう、ルーデウスか。何だ、一人か?」
あの石化の森での一件以来、ブレイズとは随分と打ち解けたように思う。ランクが違うため共同で依頼を受けるといったことはないが、こうして気安く会話する程度には仲を深めた。彼のパーティメンバーも同様に。
「ええ、今日は僕一人です。しかし何やらギルド内が騒がしいですね。何かあったんですか?」
「ああ、何でも冒険者の不正が発覚したんだとよ。『ピーハンター』ってパーティ、知ってるか?」
その名は以前、ガブリンから聞いたことがある。たしかペット探し専門だかエキスパートだったか。
「はい、名前は知ってます。ただロクに話したこともないですし、詳細は知りませんが…」
「そいつらが捕まったんだとよ。ただ男が一人、今も逃走中らしい」
ブレイズから概要を聞く。
『ピーハンター』はペット探しの依頼を得意としているパーティ。しかし実態は自分たちで町中のペットを攫い、そのペットの捜索依頼がギルドに出されると依頼を受注、手元に捜索依頼のペットがいるわけだから即依頼達成。というカラクリらしい。
呆れを通り越して感心するような完全マッチポンプ。死の支配者も真っ青だ。
「どういうわけかパーティの一人の女が自首したらしくてな、そこから発覚したんだと」
自責の念か仲間割れか。
「こういう場合って、やっぱり冒険者資格は剥奪ですよね?」
「当然そうだな。捕まった男は牢から出られるかどうか。自首した女も釈放されても町から追放処分をくらうと思うぜ」
人でなくペット攫いでも、それだけの回数にわたれば刑も重くなるか。
「おめえも、そのうちココから出ていくらしいが…、町にいるうちに何か困ったことがあったら俺に言え。切羽詰まって馬鹿なことやる前にな」
ホントこの人は親分肌だな。
俺とエリスとクルト達は金を貯めたら、町をでることは伝えてある。順調に行けばもうそれほどの期間もないのに面倒見のいいことだ。
「それより今日はどうした? 嬢ちゃんと白髪のボウズ達と一緒じゃないのか?」
「ええ、今日はもうこの時間ですし、良さげな依頼があるかどうかの確認だけなので」
「そんな使い走りみてえな…いや、むしろ飼い主らしいといえばらしいか」
「え? 飼い主って何のことですか?」
「おめえ、そう呼ばれてるぞ。手が早くて何でも噛みつく、赤毛の"狂犬"。それを操る、黒幕の"カイヌシ"。そのカイヌシが最近ランクの近いパーティを取り込んで、子飼いの兵隊を増やしてるってな」
どこの任侠モンだよ、そりゃ。
結局、大した依頼もなかったので宿に戻る。
今は宿の部屋に俺一人。魔大陸に来てから一人だけの時間というものは極端に少なかった。大抵はエリスと一緒にいる。一緒でない時間なんて、早朝にエリスが宿の外で自己鍛錬している時ぐらいだ。いや、あとエリスが体を拭く時に部屋から追い出される時もあるか。
部屋に一人、何もおきないはずはなく………。いやいや、自重自重。そういうことはお花を摘むところで。
さて、バカやってないで必要な考えをまとめよう。
まずは土魔術による金策。これは順調だ。コップとお皿を卸してる露店の店主からは専属契約を結ばないかと持ちかけられたほどだ。いずれ町は出ていくので断りはしたが、ひょっとしたら有田焼きや越前焼きのようにグレイラット焼きなんてブランドを立ち上げるのも夢じゃないかもしれない。 ………冗談だ。
剣も最初に比べれば良い評価を貰えるようになった。食器に比べれば単価が高いので、こちらもいい収入源となっている。
次に狩り。狩場を町周辺に限定しているので、比較的安全に狩りを行えている。個々の特性、性格もわかってきた。連携面はまだまだ模索中ではあるが、まあこれからだな。
冒険者としての活動。俺たち『デッドエンド』は現在Dランク間近のEランクだ。短時間で達成できるもの、比較的労力が低いものを選んで低ランク依頼をこなしている。クルト達には随分と協力してもらっているが…ギブアンドテイクだ、問題はない。
協力といえば、剣術指導、戦闘訓練だ。これは今考えれば必要なことだとわかった。効果は戦闘能力の向上だけでなく、エリスのメンタルケアにもよかった。現状の冒険者活動は決して華々しいものではなく地味なものだ。他にも魔神語が理解できない、勉強中ということを考えれば、ストレスはかなり溜まるだろう。狩りという発散の場はあるが連日狩りばかりするわけにもいかないので、剣術指導と戦闘訓練はかなり有用だった。
エリスの言語学習。これはクルト達にも協力してもらっている。剣術指導と戦闘訓練を日中空いた時間に割り当てているのに対し、勉強は日が落ちてからの空いた時間に割り当てている。さらに俺が土魔術製作をする時はクルト達に代わってもらい、簡単なコミュニケーションを試みる先生役をお願いしている。
統括すれば、順調。お金はトカゲ2匹分は稼いだ。あとはその他の備品代と余裕をもつ意味での資金調達だ。それと冒険者ランクを最低Dランクまで上げれば、旅の準備は完了となる。
ふぅー、こんなところか。結構な時間考え込んでしまったな。
さてエリス達が戻ってくるまでどうするか。何もせず、ぼけっとしているのもあれなので土魔術の製作作業でもするかな。
そんなことを考えながら、ふと何気なしに部屋のドアを見た。ドアが若干空いている。
あれ? 閉め忘れてたのか?
不思議に思いながら、その小さく空いた隙間を見ると、
「っ!?」
思わず悲鳴が出そうになる。隙間にはこちらをじっと見る目と赤い髪が…
エリスじゃん。
「…何やってるんですか?」
「っ! な、なんでも。別にルーデウスが部屋で一人ナニナッテルカ興味ないくぁらっ」
バタン。
ドアは閉じられ、廊下を走り去る足音が遠のいていった。
カミカミお嬢様、僕がいったいナニをしていたと思って覗いたのですか? エリスもそういったことに興味があるのだろうか。今まで全然そういう風には見えなかったが。エリスの情操教育は………フィリップとヒルダか? うん、全然読めん。
そんなこんなでさらに半月が経ち、旅の準備が完了した。
土魔術製品による金策ブースト、クルト達との協力体制。原作のようにズルしたりルイジェルドバフ(戦闘力↑↑↑コミュ難度↑)がなくても、ルーデウスなら知恵をきかせてそれなりにうまくやるんじゃないか? と勝手に思い本作のようになりました。
次回予告 「さらばリカリスの町」