旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

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014 さらばリカリスの町

 

 魔大陸。

 

 草木があまり自生しておらず、乾いた風と枯れた大地の過酷な環境。生息する魔物は世界で最も強いと分類されている。

 魔大陸には魔王と呼ばれる存在はいるが、ただ一人が頂点に君臨しているわけではない。魔王は複数存在する。国という概念はなく、それぞれの魔王が各地を取り扱っている。しっかりとした統治を行っている魔王もいれば、ただ力が強大なだけの魔王もいる。

 リカリスの町周辺に君臨するのは魔王バーディガーディ。しばらく前から放浪の旅に出ており不在である。フリーダム。

 

 現在は魔王が互いに戦争するということもなく平和なもの。しかし平和なのは魔王の周辺だけであり、魔大陸の大半は無法地帯である。

 

 

 

 

 

 

 早朝、リカリスの町の外門。

 そこに旅支度をした俺、エリス、クルト、ガブリン、バチロウの5人。そして、

 

「お世話になりました。すみません、見送りまでして頂いて」

 

「なに言ってやがる。世話になったのはこっちのほうだ」

 

 ブレイズと彼のパーティメンバーは、こんな早朝にわざわざ来てくれた。

  

「またこの辺りに来ることがあったら訪ねてこい。飯ぐらい食わせてやるからよ」

 

「その時は遠慮なく。ああ、でもその時は出世して僕が奢る立場になってるかもしれませんよ」

 

「はっ、言うじゃねえか」

 

 ニヤリと男くさい笑みを彼は浮かべる。

 

 訳も分からぬまま来てしまった魔大陸。ルイジェルドとミグルド族の協力を得て、辿りついたリカリスの町。思い返せばこの町にきてから色々あった。冒険者登録から冒険者としての活動、狩りに金策、自分たちだけではじめて経験することが多かった。

 そしてクルト達とは協力体勢を、ブレイズ達とは友好を深めた。うまくいったこと、いかなかったこと、トラブル、課題、充足感…、そう考えれば感慨深いものがある。

  

 寂しい気持ちも確かにある。

 でも俺もエリスも前に進まなくちゃいけない。だから踏み出す。

 

「それじゃあな、死ぬなよ」

 

「ええ、ブレイズさん達もお元気で」

 

 がっちりと握手を交わす。

 

 こうして俺たちは2ヵ月程滞在したリカリスの町に別れを告げ、ウェンポートを目指して出発した。

 

 

 

 

 

 

 大トカゲ2匹が大地を進む。

 

 高価なだけあって、この大トカゲの性能は良い。人を2~3人乗せている以外に、野営道具やら非常食やらをまとめた荷物を固縛していても尚余裕がある。高低差や悪路にも強い。最高速度は馬より劣るが、普段の速度は馬車より若干遅い程度か。速さ、積載量、継続移動距離などを考えれば徒歩に比べると雲泥の差だ、長旅には必須だろう。

 

 次に目指すべき町まではおよそ15日程。リカリスの商業ギルドで移動ルートの情報、このあたりの地図も手に入れてある。無事たどり着けることを祈ろう。

 

 大トカゲ騎乗時のフォーメーションは『トクラブ村愚連隊』が前で、『デッドエンド』が後ろだ。これはクルト達のほうが索敵能力が高いことが理由だ。そして地図を持った俺が後ろから指示を出すといった役割になっている。索敵に関しては大トカゲも外敵が接近すれば反応するとトカゲ屋の商人が言っていたが、警戒を厚くするにこしたことはない。

 

「平坦な地形はここまでのようですね、ここから少し岩場が続きます。警戒してこのまま進みましょう」

 

 俺がクルト達に地図を見ながら、そう声をかける。日の高さで時間、影の方向で方角を判断。地図、事前の経路情報から現在地を推測して進む方向を指示する。かつてルイジェルドに教わったことが生かされる。

 

 エリスもこのあたりは教わったはずなのだけど。ふと彼女を見てみる。

 

「~~~んふふ」

 

 楽しそうでなにより。ロアにいた頃は冒険者に憧れていたようだし、旅をするということが嬉しいようだ。まあ適材適所か。当分ナビ係は俺がやることになるかな。

 

 旅の途中、魔物は基本的には避けていこうとクルト達とは話をしてある。理由は狩って素材を回収しても荷物が増えてしまうからだ。大トカゲにまだ余裕があるとはいえ、わざわざ重量を増やすことはない。例外は大王陸亀のような食料になる魔物。それとストーントゥレントのような燃料となる魔物だ。まだ食料も燃料も手持ちに余裕があるので今はいいが、場合によってはこちらから積極的に仕掛けることになるだろう。こちらの索敵をくぐり抜けて魔物から仕掛けてきた場合は、勝てそうなら迎撃、苦戦もしくは敵わないと判断すれば撤退という方針だ。

 

 そして日が落ち始めた頃に、岩陰で野営を始める。準備は全員で行った。魔術による水と火の用意、かまどの準備、食材の準備と調理、寝具の用意、大トカゲの世話、etc。やることは色々あった。このあたりはじきに慣れるだろうし、最適化もするだろう。

 

 旅初日の食事はクルト達がメインで調理してもらった。大王陸亀の干し肉と香草と香辛料。それと買い込んであった日持ちする豆のようなものを煮込んだ料理。かなり美味しい。やっぱり大王陸亀の肉を焼いただけのものは料理とは言えないんじゃないかな。

 

「おいしいわね!」

 

「ええ、クルト達の料理は見事ですね」

 

 エリスと二人で料理に舌鼓を打ちつつ、他のメンバーにも伝える。

 

「だろ? ガブリンは味にすごくうるさくて大変なんだよ」

 

 クルトが愚痴をこぼす。そんな鳥頭で美食家なのか。

 

「いや、本当に旅の野営食とは思えないほど美味しいですよ」

 

「喜んでもらえたようで嬉しいデス。旅の人数も増えて腕の振い甲斐がありマス」

 

 そうか、3人で故郷の村から出てきて町で冒険者になったとか以前聞いたな。その道中の話か。

 

「これまでは調理はガブリンが?」

 

「はい、ワタシが主にやってまシタ」

 

 素晴らしい! 

 いや本当に。彼は貴重な人材だ。このレベルの料理が毎日でてくるのなら、旅の間の食に関するストレスは無さそうだ。

 

「一応全員でやってたけど、調理はガブリン、索敵はバチロウって大まかな役割は決めてたんだ」

 

 ふむ、能力と性格に見合った役割分担か。

 

「そうするとクルトは?」

 

「クルト ツヨクテ リーダー」

 

「ええ、以前剣術を習っていてワタシたちの中では一番強いデス。そして大まかな方針を決めるリーダーという役割デス」

 

 バチロウの言葉足らずな発言にガブリンが補足してくれる。たしかにクルトは3人の中では動きが異なり、剣術の腕も確かなものがある。

 

「習っていたとは? 道場に通ってたとか?」

 

「いや、少し前のことなんだけど、村に旅人が来たことがあってさ。その人から教わったんだよ」

 

「冒険者の方ですか?」

 

「うん。ただ冒険者として稼いではいるけど、本人は武芸者として武者修行してるって言ってたよ。村に滞在してる間、剣の振り方とか体捌きとか手合わせなんかもしてくれてさ。あっ、あと仕掛け玉も教えてもらったんだ」

 

 ああ、赤喰大蛇の時の催涙弾のことか。

 

「その武芸者は剣の流派とか言ってましたか?」

 

「たしかホクシンリューキバツ派って言ってたよ。でも俺がそういった剣の流派? ってよくわかってなくて…」

 

 ホクシンリューキバツ派? ホクシン流キバツ派、北神流奇抜派か…。

 北神流の分派とかそういうのかな?

  

 とりあえずクルトたちに剣における剣神流、水神流、北神流の3大流派を説明する。隣のエリスにもクルトが以前北神流を習っていたことを伝えると、

 

「いいわねっ、勝負よ!」

 

 いや勝負って、あなた普段の戦闘訓練で3人相手にボコボコにしてるじゃないですか。

 

 その後は俺とエリスが剣神流を教わっていたこと、エリスはその中でも上級であること、過去の戦闘経験や討伐した魔物の話などで盛り上がる。

 

 こうしてみるとクルト達とは町にいたころから協力体制をとっていたのに、互いに知らないことがたくさんあるな。まあ、町にいた時はやることが多くて俺も余裕がなかったということもある。これを機にもっと会話をして相互理解するのもいいだろう。

 

「それにしてもルーデウスの魔術は本当にすごいよね。戦いだけじゃなくて、こうして簡単に火も水も土も作っちゃう」

 

 やめろよ、クルト。そんな褒めたってデレないんだからねっ///

 

「ハイ、エリスの魔術もルーデウスから教わったと聞きまシタし、ワタシたちにも教えて頂いて感謝してマス」

 

 そう。以前魔術の指導を打診された時は、町に長く留まるつもりはないという理由で断った。しかし協力体制をとることになって、戦闘訓練時には剣術指導とは別に魔術指導も行うようになっている。

 

「そうよ! ルーデウスはすごいんだからっ!」

 

 さらにエリスに持ち上げられる。ヤメテ、私のライフはとっくに満タンよ!

 …今通訳してないのにエリスに伝わったな。

 

「それならクルト達は僕とエリスに料理を教えてくださいよ。僕たちもリカリスに辿り付く前に多少は野営をしていましたけど…、調理の腕は全然ですから」

 

 エリスにも内容を伝えると彼女もブンブンと頭を縦に振って同意してくれた。

 

「フフ、わかりまシタ。ワタシの指導は厳しいデスよ」

 

 ああ、こういう感じ、なんだかイイなぁ。

 

 思えばこっちの世界に来てから友達ってあまり作れてなかった。向こうの世界では引き籠ってからはそんなものとは無縁だったけれど。

  

 こっちではパウロは悪友のようにお互い接しているけど、あくまで親子であり最低限そのスタンスは崩していない。 シルフィはもちろん友達だけど、保護者、兄貴分って部分が少なからずある。 エリスも言葉にしたことはないが友達だと思ってるし、将来は…ごにょごにょ。ただ、今現在は雇用関係というか主従的なものがあるのも確かだ。 ギレーヌ、ルイジェルドはこちらが保護されてるって感じだし。 そしてロキシーは師で恩人で神だ。

 

 そうするとギブアンドテイクが多少あったとしても、何もしがらみも制限もない付き合いができてるのって、クルト達…とあとブレイズぐらいか。俺、人族以外にモテモテなタイプ?

 冗談はさておき、分け隔てなくうまくやれてると解釈するべきかな。

 

 

 

 そうしてリカリスの町を出発してから6日。

 順調な旅路。日中は移動、日が傾く頃には野営場所を選定、剣術魔術訓練、野営準備、ガブリンの料理指導、食事、エリスの語学勉強を兼ねてコミュニケーション。眠る者は寝具に入って横になる。そして、

 

 

 

 バチロウの警告が聞こえた。

 

 

 





 次回予告 「厳しい道中」


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