旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

16 / 31
016 力を望むもの 集い

 

 リカリスの町を発ってから数か月が経った。

 俺たちは魔大陸南端ウェンポートを目指して南へと進んでいる。

 

 基本的には町から町へ、なるべく冒険者ギルドが存在するような規模の町を渡り歩いている。当然だが旅には物資が不可欠となるため、辿り付いた町で金策をする必要がある。旅の道中で狩った獲物の売却、冒険者としての活動、土魔術で作った食器や武器を売ってお金を得る。そうした活動の合間に次の町への情報を得る。魔大陸には街道と呼ばれるものはないので周辺地理と経路の調査は必須だ。当てずっぽうで進めば、すぐに現在地がわからなくなって荒野でさまようことになるのがオチだ。

 

 町での滞在はだいたい10日ほどだ。(トカゲ)屋とのやりとり、宿の確保、金策、情報収集、物資の補給を全員で手分けしてこなす。このあたりはクルト達と協力体制をとっていたことが大きかった。俺とエリスの二人だけでは確実に手が回らなかっただろう。

 

 冒険者ランクはCランクへと上がった。クルト達も同じランクだ。このランクまで上がると以前までのように街中での雑務のような依頼を受けることはほとんどなくなり、代わりに町近辺の魔物の討伐やその魔物の素材収集が中心になった。ただ町から日を跨ぐような遠出が必要な依頼、地理的に難所だと思われる場所、噂レベルではあるが迷宮に関連するような案件は避けている。単純に余計なリスクと日数はかけたくはないというのが理由だ。

 

 請け負った討伐依頼や町から町への移動中の戦闘でも、クルト達には随分と助けられている。索敵能力の高いバチロウとガブリンのおかげで、大半は接敵前に対象を先に察知できる。そして先に察知ができれば先手がとれる。俺の攻撃魔術や行動阻害魔術でこちらのペースにはめ込んで、その後は近接戦闘組とあわせて各個撃破するのが鉄板パターンだ。もちろん、それだけですべてがうまくいくわけではなく負傷者がでてしまうも少なくはないが、こちらは治癒解毒魔術の使い手がいるのでなんとかなっている。

 先に対象を察知できなかった場合、奇襲を許した際は…逃げの一手だ。重要なのは生き残ること。うん、大事なことだ。

 

 あとは合同チーム全体の方針として、極力『デッドエンド』や『トクラブ村愚連隊』の名前が墜ちるような行為は慎んでいる。時にはシビアな判断も必要にはなるが、元々エリスもクルト達も根は素直なやつばかりなので、そのあたりでトラブルになったことはない。まあ、あくどいのは俺だけか。

 

 そうしてお金、物資、情報を必要なだけ得ると次の町を目指して出発する。そんなサイクルを続けている。

 

 

 

 今は町から町への移動中、クルト、俺、ガブリン、バチロウ、エリスの全員が大トカゲから下り、休憩を兼ねて膝を突き合わせながらルートの確認をしている。

 

「ようやく岩場は抜けたね」

 

「ええ。地図と情報によれば、ここから南西にもう少し行けば次の町があるはずです」

 

「ここからは平地ですカラ、移動もずいぶんラクになりマスネ」

 

「トカゲ ノッテモ コウテイサ アルト キツイ」

 

「ふふん、情けないわね。それも修行と思えばいいのよ!」

 

 ふむ。エリスは随分と会話に混ざれるようになったと思う。魔大陸に来たばかりの頃は、当然だが周囲とまったく会話ができなかった。しかし、この数か月での旅の間で彼女の魔神語はかなり上達し、聞き取りと話すことは問題ないレベルに達している。ここまでの道中でも語学授業は続けていたし、夜に俺と二人で話す時を除けば、魔神語でコミュニケーションをとる面々に囲まれた環境だ。なので言語を覚えるのも早かったのだろう。文字の読み書きに関しては全くといっていいほどのお察しレベルではあるが。

 

「次の町…ラクロって名前だっけ?

 今度こそルーデウスみたいな魔術師の子が見つかるといいなあ」

 

「ソレ ムズカシイ」

 

「ハイ。そこまで高望みはできまセン。もう少し求めるレベルは甘くてもいいデス」

 

 クルト達が次の町とパーティ事情について話している。

 ここまで彼ら『トクラブ村愚連隊』の目的である魔術師の勧誘はうまくいっていない。パーティに所属していないソロの冒険者はそれなりに見かけるが、その中でも魔術師となると途端に遭遇率が低くなる。さらには、その数少ないソロの魔術師は例の冒険譚の影響のせいか、訪れた各ギルド内で争奪戦になっているようなパターンが多い。

 少し前に訪れた町で2本角に悪の女幹部みたいな服装の女魔術師を見つけたが、勧誘はうまくいかなかった。あれは単に女魔術師の眼鏡にかなわなかったのか、それともクルト達の牛乳特戦隊的な名乗りに引いていたのかはわからない。勧誘を断られた際、まるで天秤にでもかけそうな冷めた目をしていたのが印象的だったので、とりあえず今後はあの名乗りはやめたほうがよいとはクルト達には伝えておいた。

 

 魔術といえば旅の間に行う魔術訓練に成果があった。ガブリンが治癒魔術を使えるようになったのだ。習得したのは初級治癒だけではあるが、これは大きな進歩だ。『トクラブ村愚連隊』のメンバーでも魔術を習得できる証明になったし、『デッドエンド』を含めた合同チームとして考えても治癒魔術の使い手が増えたのは、ここまでの戦闘を振り返っても非常に大きかった。ガブリンも手応えを感じたのか、最近の魔術訓練には特に意欲的に取り組んでいるし、治癒魔術だけではなく解毒魔術も覚えたいと本人は言っていた。治癒に加えて解毒か…。ガブリンが目指す立ち位置は回復戦士、もしくは近接戦闘もできる治癒術師という感じだろうか。

 教師役の俺にとっては、教え子が回復系の魔術を得意とするのはなんだか新鮮だ。最初に教えたシルフィは万能型だった。エリス、ギレーヌは元々治癒解毒に重点を置いていなかったのもあるが、攻撃魔術しか習得できなかった。俺自身が攻撃魔術が得意だとしても教え子の性質はその限りではなく、あくまで本人の資質だということか。

 

「では出発しましょうか。日はまだ十分高いですが、早く着くにこしたことはないでしょう」

 

 俺が声をかけて一同が大トカゲに乗り込もうとする。その時、バチロウが何かを感知する。さらにガブリンが遠くを指さしながら、

 

「あそこに集団が見えマスネ、何でしょうカ?」

 

 あれは… 大トカゲ数頭に荷車、人もけっこういる。身なりは悪くないな。商隊?

 

 

 

 

 

 

「いや~悪かったなボウズ達。野盗と勘違いしちまってよ」

 

「いえ、気にしないでください。そういうことなら仕方ないと思います」

 

 発見した集団はとりあえず野盗や無法者の集団には見えなかったので、声をかけてみた。ところが接触してみると、はじめはすごく警戒された。今まで訪れたどの町でも最初は見た目で判断されて警戒、危険視されるようなことはなかったのだが。こちらが旅をしている冒険者の一行であることをどうにか説明して、ようやく会話にこぎつけた。

 話をして判明したのが、彼らは俺たちと同じ町ラクロを目指している商隊であること。そして彼らの商隊は最近野盗に襲われかけたため警戒している最中であり、声をかけた時はこちらに対してかなり疑いを持っていたとのこと。

 

「それにしても盗人とかゾンビとか…、ひどい言われようだった」

 

 無事コミュニケーションがとれて空気が和らいだ影響か、クルトが愚痴をこぼす。

 

「悪い悪い、アレに比べりゃボウズ達はかわいいモンだぜ。今思い出しても…うぅ、大事な積荷が奪われかけたことより、あのおそろしい容貌がおっかないったらなかったぜ」

 

「そんなに見た目がアレな感じの野盗だったんですか?」

 

「相手は単独だったようだし、襲われたっつーか盗まれそうになったって感じなんだが…。

 数日前の夜の話だ。野営で休んでたら積荷のほうで物音が聞こえてよ、警戒して護衛と一緒に確認しに行ったんだ。そしたら………居たんだよ、積荷を漁ってるボロ切れを身に着けた男が。その男が俺たちに気づいたのか、こっちに振り向く。するとその姿は………骨と皮しかないような体、口は半開きで顔もガリガリ、ただやたらとギラついた目でこっちを見るんだよっ!」

 

「「 ひィ! 」」

 

 左腕が痛い、いつの間にかエリスが俺の腕にしがみついている。あと地味にわかりにくいがバチロウも元々の青い顔をさらに青くしている。

 

「結局そのゾンビもどきは半狂乱みたいな状態ですぐに逃げたんで、被害自体はほとんどなかったんだが。あん時は本気で肝が冷えたぜ」

 

 俺たちもここまでの道中で野盗に何度か遭遇したことはあるが、今聞いた話では随分と毛色の異なるタイプのようだ。一人で行動する野盗、いや盗人か…。ああ、野盗でもさらにその中であぶれた者、爪弾き者ってセンもあるか。少しだけ嫌なことを思い出す。

 

「他にも白骨死体やら五体バラバラな死体を少し前に見かけた、って話を商隊仲間の連中から聞いたことがあるしよ、最近は野盗も食い詰めてんのかね」

 

「野盗の景気が悪いのなら、ワタシたちのような旅人にとっては悪い話ではないデスね」

 

「はは、たしかにそのとおりだな。警戒を強めたおかげで予定より少し遅れちまったが、ラクロの町はもう目と鼻の先だ。あそこは今祭りの最中のはずだし、景気の悪い話はこのくらいにしとこう」

 

 へぇー、祭りか。今まで訪れた町でそういう催しに出くわしたことはなかったな。ちょっと面白しろそうだ。

 

 旅をはじめてから何気に初遭遇の商隊、情報交換、そしてお祭り。俺もなんだかんだと旅と冒険者としての生活を楽しんでいるな。これまでの旅は決してお気楽なモノではなかったし、下手を打てば生き死にの問題になることは理解している。ただ、何の因果でこの魔大陸に来てしまったのかは不明だが、こうして行動して、真剣に考えて、本気で生きて、しっかり楽しむ。うん、いいんじゃないかな。

 

「それなら早く行くわよ、ルーデウス! クルト達! あとオジサンも!」

 

 祭りと聞いたせいか、エリスが急に元気になって急かしてくる。

 Oh、しっかりと楽しんでいた左腕の感触が行ってしまった。成長具合は…うん、いいんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 門番に挨拶して外門をくぐる。

 

 視界に入るのは活気と賑わい、人の往来の多さ。聞こえてくるのは様々な店での客の呼び込み、どこからか聞こえてくる民謡っぽい音楽、人々の笑い声。

 

 「ルーデウス、見て! すごい、すごいわね!」

 

 「ええ、エリス。たしかにこれは…見事ですね」

 

 魔大陸三大都市と言われたリカリスに比べれば多少見劣りする規模の町。だけど、この雰囲気はすごい。魔大陸に来てから殺伐とした空気ばかりだったが、まるで違う。これが祭りか。ここを治めてる魔王が誰だかは知らないが、こんな催しができるのなら為政者としてしっかりとした統治をしているんだろう。

 

「じゃあ俺たちは積荷の荷下ろしがあるからよ、ここでお別れだな」

 

「短い時間でしたが、色々話ができて良かったです。ありがとうございました」

 

 

 

 俺たちは商隊に別れの挨拶をして、(トカゲ)屋に向かう。が、混んでるな。

 

 俺とクルトは(トカゲ)屋での手続きと宿の確保を他の3人にまかせて、ひとまず冒険者ギルドに向かう。俺たちは基本的に新しい町に着いた際には、はじめにリーダー役の二人が冒険者ギルドに顔を出すようにしている。短い期間であっても、その町のギルドにはお世話になることは間違いないので、挨拶しておけば何かと心象は良くなるからだ。

 

 スイングドアを開けて冒険者ギルドに入る。

 あれ? 閑静としてる、あまり人がいない。

 

「ん、坊やたち。冒険者ギルドに何か用かい?」

 

 キセルらしきものを咥えた女受付が応対してきた。

 毎度のことだが、見た目で舐められることが多い。

 

「こんにちわ。僕たちはそれぞれ『デッドエンド』と『トクラブ村愚連隊』というパーティのリーダーをやっているルーデウスと、こちらはクルトといいます。冒険者ランクはC、こちらが冒険者カードです」

 

 俺とクルトは変に疑われる前に、さっさと冒険者カードを提示する。

 

「『デッドエンド』って………、まあいいけどさ。

 冒険者カードは…本物みたいだね。この町ははじめてかい?」

 

 デッドエンドの名はやっぱり評判がよくはないか…。

 

「ええ、この町には旅の途中で立ち寄ったので。しばらくは滞在するつもりなので挨拶を、と」

 

「へぇ、そりゃご丁寧にどうも。今は祭りの最中だからねえ、警備や雑務の依頼ならいくつかあるんだけど…。それとも大会を観戦するクチかい?」

 

 俺とクルトは顔を見合わせる。大会?

 

「すみません、大会というのはどういったものでしょうか?」

 

「来たばかりの旅人なら知らないか。この町の祭りは近場でも遠方からでも武芸者や腕に覚えのある連中が集まって、闘技試合をするのが元々の形なんだよ。んで、それに乗っかるように周りで商売や交流で盛り上がるってのが実情だね」

 

 そういった事情なのか。闘技大会の話をエリスが聞いたら、絶対参加したそうにするやつだな。

 

「ルーデウス!」

 

 クルトが期待に満ちた目でこちらを見ている。おまえもかよ。

 

「祭りの期間はもう半ばを過ぎたし、大会もあと何日かで終わっちまうだろうけど、せっかくこの町に来たんなら見ていくのもいいんじゃないか。ウチの連中もだいたい観戦に行っちまってるし」

 

 すでに闘技大会とやらは進行していて参加する目がないことがわかったのか、クルトが意気消沈する。

 

 ただ、なるほどそういう理由か。町中の警備や雑務の低ランク依頼しかり、大会の観戦しかり、場合によっては冒険者自体がその大会に参加していることを考えれば、ギルド内に冒険者が少ないのもうなずける。

 しかし、これはタイミングを逃したかな。闘技大会のことだけでなくても、もう少し早くこの町に辿りつけていれば、俺も土魔術製品の露店を開いたりしてみたら面白かったかもしれない。なんだか考えが商人のようになってるな。

 

「あっと、そういえば臨時の依頼もあったね。大会の運営本部が治癒魔術の使い手を募集しててね。あんたらのパーティに該当する人間はいるかい?」

 

 

 

 

 

 

「じゃあワタシとルーデウスが、その依頼を受けるということでいいデスネ?」

 

 冒険者ギルドを出て3人と合流した後、俺たちは宿でこれからの行動について話し合った。

 ギルドで聞いた話では、大会の運営側が現場での負傷者治療のための魔術師を募集しており、俺とガブリンは条件に一致する。一応は元から何人か確保していたらしいが、追加募集といった感じらしい。報酬も悪くないし、これはクルト達の目的の魔術師勧誘のチャンスでもある。集められた連中がパーティを組んでいないソロの冒険者かどうかはわからないが、とりあえず魔術師であることは確定なので、片っ端から声をかけてみるのはどうかというのがここまでの会話の流れだ。

 

「ルーデウス、ガブリンもごめん、二人だけに任せることになって」

 

 クルトが申し訳なさそうに言う。エリスとバチロウもなんだか心苦しそうな表情だ。

 

「依頼の条件に治癒魔術とある以上、こればかりは仕方ないですよ。僕とガブリンでちゃんと勧誘できそうな人がいないか確認してきますから」

 

 クルト達の目的のためには大事なことだし、もう何か月も一緒に旅をしてるんだ。今更これぐらいの労力も協力も、問題だとは思わない。

 

「ルーデウス、私も何か手伝ったほうがいい?」

 

 おおっ、あのエリスがこちらを気遣ってる。彼女の成長に涙が出そうになるな。

 

「大丈夫ですよ、エリス。クルトとバチロウも近接戦闘組は試合の観戦でもしててください。他の人の戦いを見るのもきっといい勉強になると思います」

 

 俺は他の3人に気にしないよう伝える。

 

「わかったよ、ルーデウス。じゃあ依頼の受注手続きのついでに会場を覗いていこうか」

 

 

 

 俺たちは宿を出て、ギルドで依頼の受注手続きを行った。そして、その足で会場に向かう。

 外は相変わらず人通りが多いな。日もじきに傾くだろうに、賑やかで陽気な雰囲気はまだまだ衰える様子がない。

 

「はぁ~、私も試合に出られればよかったのに…」

 

「う~ん、いっそのこと名乗りを上げながら会場に乱入するとか?」

 

 おいおい。後ろを歩いている剣士二人がなにやら不穏な相談をしている。バチロウに観戦中は大人しくさせるように後で言っておかないと。

 

 しばらく歩くと会場と思われる場所が見える。

 人だかりと声援、あるいは怒号か。まだ試合途中のようだ。

 

 人だかりの中心に向かって進むと、さらに一層の人の壁。この奥が試合場か。俺たちはなんとか試合を一目見ようと奥に進む。ちょっと、すみませんね、このっ、通りますよっと。なんとか試合が見える位置まで全員でたどり着く。

 瞬間、周囲の歓声が響き渡る。観戦する前に勝敗がついてしまったか。

 試合場と思われる舞台に倒れた男と転がっている大振りな剣、そして立っているのは…

 

 

 

 

 

 

 ………先生?

 

 

 





 本投稿のガブリン以外の治癒魔術指導、習得、その時期について。色々不明なところがあり、本作独自に設定しました。少々長くなってしまったため、活動報告に記載させていただきます。ただ、そこまで問題にはならない、と考えていますが…。

 次回予告 「力を望むもの 憧憬」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。