旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

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018 力を望むもの 情景

 

 私はめぐまれているんだと思う。

 

 おじい様が好きだ。おじい様は私にうるさく言ったことがない。声はうるさいくらい大きいけど、でもまっすぐで強くて。だから小さい頃からおじい様のまねばかりしていた。

 お父様はあまり話してくれないけど、でもたまにお話ししてくれる時は色々教えてくれる。お父様は頭が良くて、みんなからたよりにされてて、ずっと先のことも考えてる。

 お母様はいつだってやさしい。いつも見守ってくれる。私がおぼえていない兄や弟のことで思うこともあったと思う。でも小さいころからずっと私を見ていてくれる。

 ギレーヌは強くてカッコいい。剣術も教えてくれる。先とかしょうらいとかよくわからないけれど、おとなになったら私もああいうふうになりたいって思う。

 

 自分がボレアスの家で周りからどういうふうに見られているか、だいたいわかってる。アルフォンスもメイドも良くしてくれる。けどきっと言いたいことはあるんだと思う。たまに来るおじい様やお父様に会いにくる人達はもっとわかりやすい。うたがうような目、さんねんだと思ってる目、本心はバカにしてる目、そういう人たちには、はじめは会っていたけどそのうち会わないようになった。

 そのうち家庭教師とかいうのがくるようになった。あいつらも同じ目だった。だから殴った。会いたくないから。エドナは小さい時から知ってるから、ギレーヌは強いからじゅぎょうを受けた。レイギサホウはおもしろくないけど、剣術は楽しかった。

 ルーデウスがやってきた。はじめは小さくて生意気なヤツだと思った。殴ったら殴り返された。腹がたったから追いかけまわした。たぶん私とルーデウスのはじめて会った時のことは、いいことじゃないし、とにかく生意気だったってことしか覚えていない。でもすぐに違うってわかった。ルーデウスは魔術をたくさん使えるし、お父様みたいに頭がいい。私やギレーヌがわからないこともいっぱい知ってて、それを教えてくれる。勉強なんて興味なかったけど、ルーデウスが教えてくれたらわかるようになった。

 ルーデウスとギレーヌ、おじい様とお父様とお母様で暮らしていた時はいい毎日だった。私はめぐまれてると思う。

 

 この魔大陸に来たのが私一人だったら生きていけなかった。でもルーデウスがいっしょにいてくれた。私じゃあ言葉もわからなかったし、お金もかせげなかったし、たぶん食べ物だってとれなかった。ルーデウスも魔大陸ははじめてって言ってたけど、言葉も知ってるし、他にもいっぱい知ってる。ルーデウスが何をすればいいか教えてくれるし、ルーデウスの言うことは間違ってないし、ルーデウスはすごい。

 

 私も何かしたい。されるだけじゃなくて、何か返したい。

 私にできることって何? 魔大陸に来てから色々教わったことって何?

 

 "お前には一流の戦士になれる素質がある"

 "お前が守りたいもの、お前のすぐ傍でお前を守ってくれる者のために武器を振え"

 

 強くなりたい。強くなって、ルーデウスを守りたい。

 そばにいたい。ルーデウスのとなりで戦いたい。

 

 クルトの師匠。私にとってのギレーヌにあたるヤツ。一目見て、つかうヤツだと思った。戦ってるところを見て、やっぱり強いと思った。ギレーヌやルイジェルドほど力があるとは思わない。これまで狩りで戦った魔物、おそってきた野盗とは違って、戦わなくても死ぬワケじゃない。守るための戦いじゃない。

 

 でも、この男と戦って、勝って、私はもっと強くなりたい。

 

 

 

 

 

 

 翌日、ラクロの町、武闘大会最終日。

 

 今日も朝から町の様子は慌ただしい。俺とガブリンは昨日に引き続き、治癒術師の仕事として試合会場に入る。現場には昨日と同じ治癒院の二人がいた。今日は上位4名による準決勝2試合と最終試合の決勝が行われる。計3試合なら治癒術師4名で十分だろう。

 観客もじきに入ってくる。天気は最後の日を飾るかのように快晴、今日も大いに盛り上がることが予想できる。仕事として来ているが、俺も試合が楽しみでソワソワとしてしまう。

 

 生前、引き籠ってからははこういった行事や観戦なんかに対して、自分は斜に構えた思考だったと思う。でも今考えれば、当時は勿体ないことをしていたなと感じる。いや、これは今だからこそ考えることができるようになったのかな。

 

 あの時、あの頃、自分の殻に閉じこもって引き籠っていたが、もっと無理にでも行動していればよかったと思う。学校に通うのは難しかったとしても、できることはあったんじゃないだろうか。難しいことでなくても、当たり前のことでももっと自発的に。そうすれば両親とも兄貴たちとも、あそこまでこじれることは………。

 

 どんな因果でこの魔大陸に来たのかわからない。いや、そもそもどんな理由でこの世界に来たのかもわからない。でも新しくルーデウスという存在で生まれて、新しい家族がいて、ロキシーに救われて、本気で生きていくって決めて。俺が大切だと思っている子がやりたいことがあるのなら、手伝いたい、手助けしたいって思う。それくらい考えられるようには、俺も変われたかな。

 

 

 

「…デウス! ルーデウス!」

 

 ん、気づけばガブリンが俺を呼んでいる?

 

「ルーデウス、聞こえてマスか? 仕事デスヨ!?」

 

「っと、すみません。少し考え事を…」

 

「スグに魔術が必要デス。おそらく私では対処できまセン」

 

 いかんいかん、仕事はちゃんとやらないと。ってか試合始まってたのか。

 ガブリンで対処できないとなると中級治癒が必要ということか。怪我している人物を見るとロデリゲスではないし、その相手でもない。彼の出番はこの次の試合か。よし、仕事も含めてここからはきっちり集中していかないと。

 

 怪我人を治療した後、準決勝のもう1試合、ロドリゲスが登場する。彼は昨日と同じように真剣な表情そのもの。その試合が終わり、少しの休憩時間を挟んで決勝が行われた。

 試合舞台では闘志、怒気、殺気、技術、技、読み合い、駆け引き。そして会場は熱狂、静粛、歓声、怒号、喝采の拍手。

 

 結果はロドリゲスが最後まで勝ち抜き、大会勝者となった。

 

 

 

 

 

 

「先生! よろしくお願いします!!」

 

「こちらこそだ、クルトよ。魔大陸で旅してきたという成長を見せてくれ」

 

 町の外、クルトとロドリゲスの手合わせがはじまった。

 

 闘技大会が終了して、今は祭り最終日の宴の前。日も傾きはじめた夕暮れ時、俺たちは町の外までやってきた。

 ここに来るまでに大会優勝の賛辞を送るとともにロドリゲスに話を聞いたところ、どうやら彼は明日にはこの町を発つとのこと。例の別地方の魔王御前試合出場には時間的な余裕はあまりないらしく、弟子との手合わせの機会は今、この時しかない。昼間に闘技大会を戦い抜いた身で弟子との手合わせにつき合ってくれるあたり改めて良い師匠だと思う。

 

 クルトはこの数か月、実戦経験も積んでいるし、出会った当初に比べれば腕を上げているのだろう。しかし、そこは弟子と師匠、力量差があることは俺の目でも明らかだった。手合わせは全力のクルトの攻撃をロドリゲスが受けきるような形となり、その上でロドリゲスがカウンターを決めて勝負ありとなった。

 

 ここまではいい、弟子と師匠の再会、久々の稽古。問題はここからだ。

 

 クルトとロドリゲスが先程の手合わせについて、労いと談笑をしている中、赤毛の剣士が前に出る。そして腕を組んで仁王立ちで叫ぶ。

 

「剣神流のエリスよ! えっと、えー…、師匠はギレーヌ! とルーデウス! あとルイジェルド! 勝負しなさいっ!!」

 

 なんだか締まらない名乗りだ。しかし、言いたいことはわかるが、彼女は相変わらず言葉足らずというかなんというか…。ここはフォローを入れておくか。俺はロドリゲスに話しかける。

 

「ロドリゲスさん、よろしいですか? 本日は戦いっぱなしでお疲れだと思うのですが…」

 

「わかっているとも、ルーデウス君。ここまでのエリス君の剣気を考えれば、どういうつもりでこの場に来たのかわかっているつもりだ。それに、ふふっ。一武芸者として、彼女のような剣士と仕合えるとは、こちらとしても望むところさ」

 

 この場に来るまでのエリスの発する空気はさすがに読んでたか。それにしても気持ちのいいおっさんだな、この人は。クルトが慕うのもわからないではない。

 

 ロドリゲスが勝負を受けてくれそうなので、俺はさらにルールを提案する。

 

 1.殺し合いは無し、止めは刺さないこと

 2.どちらが怪我をしても、俺ができる限りの治癒治療を施すこと

 3.勝っても負けても禍根を残さないこと

 

 勝負であっても、相手を殺したいわけではない。ルールの内容にロドリゲス、エリスの双方が承諾した。

 

 先程からクルト、ガブリン、バチロウの3人は黙って見守ってくれている。彼らもこれまでのエリスと俺の空気を察していたのだろう。

 

 エリスとロドリゲス、双方が武器を構える。互いの距離は10mといったところか。剣士同士の戦いだからか、はじめから距離が近い。

 エリスはマントを脱いで、革製の防具とミグルド族の里でもらった幅広で湾曲した剣、ロドリゲスは闘技大会と同じ防具を身に着け、両手それぞれに中型サイズの剣を持った二刀流。

 

 さあ、勝負がはじまる。

 

 

 





 戦闘描写も含めると長くなりそうだったので、ここで一端切ります。次話はなるべく早く投稿できるよう頑張ります。

 現在のラクロの町、闘技大会、勝負のエピソードは次話で完結予定です。

 次回予告 「力を望むもの 追憶」

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