旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

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019 力を望むもの 追憶

 

 静かな闘志だ。目の前の手練れの剣士は戦意十分な眼差しをしながらも、落ち着いた剣気を放っている。

 

 出会ったのはつい先日だが、これまでの様子を見るに、もっと直情的で気迫を前面に押し出してくるタイプだと思っていた。

 剣神流、おまけに師はあのギレーヌだという。剣王、黒狼のギレーヌ・デドルディア、師の元で剣を学んでいた頃に何度か聞いたことがある。剣神ガル・ファリオンから直接の指導を受け、本人も勇猛果敢な気質で、剣神流では4番目に強いと聞く。

 

 おそらく剣速ではこの剣士には勝てまい。剣神流といえば光の太刀、無音の太刀に代表されるように他の流派に比べて、剣速と攻撃に特化した剣術だ。故に相手の動く気配、起こしの動作が見えれば即座に間合いと呼吸をズラして、相手の剣速が乗る前にカウンターを狙うところだったのだが、こうも動く気配が見えないとなると…。

 

 ふっ、無粋か。己は力を求める者。強大な敵ならば打ち崩す、強者ならば切り崩さん。目の前の剣士がいかなる猛者であっても、己が武で斬り開くのみ!

 

 

 

 

 

 

 ルーデウスが勝負開始の掛け声をかけてから、どれ程たったか。

 

 いつもならとっくに打ち込んでいる。なんなら開始と同時に踏み込んで、渾身の斬撃を浴びせてる。でも隙がない。目の前の構えている男には、斬り込める隙が見えない。

 

 わかってる。相手は防御と返し技がうまいのは、昨日今日の試合とさっきのクルトとの手合わせで見てる。

 

 足先、剣の切っ先にはブレがない。そして視線。勝負開始から、ううん、開始前からどうにも見られている感じがする。こちらが迂闊に踏み込めば、即座に返し技で迎撃されそうな予感がある。

 

 遮蔽物も何もない平地、この距離なら3歩で私の間合い。せめて2歩。そこから最速で踏み込む。

 

 すり足で近づいっ!? 向こうが仕掛けてきた!

 

 左の剣、突きの動き、狙いは下段。動作の起こしが早すぎる、届かない、フェイントだ。これを見切って、次が来る前に…届く!?

 

「くっ!」

 

 届かないと思った相手の突きが、何故かこちらに届く。なんとか体を捻って躱すが、体勢を崩された。追撃、右の横なぎがくる、防げ!

 

 キィンッ

 

 剣を立ててなんとか防ぐ。体勢は悪いままだ。力で押し切られる前に、相手の斬撃方向に飛びのいて力を受け流す。

 

 ちぃ。思わず心の中で舌打ちしてしまう。後ろに飛んで視界が広がったことで、さっきの突きが届いた理由がわかった。

 奴は今、剣を1本しか持っていない。最初の仕掛けで見せた突きの動作で、そのまま剣から手を離して放った。剣を投擲してきたのだ。さっきまで自分がいた場所の少し後方に剣が地面に突き刺さってる。下段を狙ったのはこのためか。

 

 奴が剣を回収しようと動く。させない、ここは2歩の距離!

 

 間合いを詰めて斬り下ろし! 半身をズラされて躱される。 すぐさま横なぎ! 下がって躱される。 でもこれで剣から距離が離れた、回収できない。

 

 相手は2本の武器のうち、1本を手放している。さらにはまだ1歩の距離、私の間合いだ。踏み込む。

 

 "相手より早く踏み込んだなら相手の動きを読み、そこに剣を打ち込め"

 

 袈裟斬り、躱される。切り返して逆袈裟、剣で防がれるがそのまま振り抜く。相手が体勢を崩しながら半身(はんみ)で後退する。追う。

 

 踏み込んで横なぎ。防がれるが剣を弾いた、奴の体勢がさらに崩れる。追撃だ。

 

 "相手の足先と目線で行動を予測しろ"

 

 さっきの横なぎで弾き飛ばせこそしなかったが、剣を()()()()()()。しかし奴の目線、そして妙な足の運び、何?

 

 !?

 

 ビュン

 

 頭のすぐ上を剣が通過する。奴は後退、半身(はんみ)の体勢、弾かれた武器の勢いを殺さずに回転斬りを仕掛けてきた。それを何とかしゃがんで回避する。

 追撃がくる。剣を持っていない逆手で。拳、拳撃だ。奴は手の甲までカバーした金属製の小手をしている。剣で防御は間に合わない、受け止められない。

 

 ブンッ

 

 顔のすぐ前を拳が通過する。しゃがんだ姿勢から、さらに仰向けに倒れて拳撃をギリギリで躱す。こちらの体勢は最悪だが、向こうも無理な攻撃をしたせいか、次の攻撃までが遅い。

 

 その一瞬の遅れに、仰向けの体勢から相手の脛を蹴りつける。反動の勢いそのままに後方に転がって、体勢を立て直す。

 

 距離をとって再び睨み合い。

 

「フゥー、ふー、ふぅ」 「ハァー、ハァー、はぁー」

 

 "まずは相手より先に踏み込んで剣を振ることを考えろ"

 

 奴は剣を1本失ったまま、息は整えさせない。先に仕掛ける!

 

 一気に間合いを詰めて、斬撃。連撃。さらに武器を振るう、3連撃! 躱される、防がれる、受け流される。しかし奴の体勢は崩している、反撃はこない。

 

 "手を休めるな" "相手をよく見ろ"

 

 前に出て剣を振る。攻撃、攻撃、攻撃、何度も斬りつける。 

 奴の防御は硬い。防がれる、受け流される、体をズラされ体勢を入れ替えられる。でもさっきのような回転斬りは許さない。奴の姿勢、視線、武器の位置と切っ先。見えている。このまま仕留める!

 

 ガキィン

 

 剣で防がれたが、いい角度で入った。奴を後方にふき飛ばす。

 

 ふき飛ばしたせいで2歩の距離ができるが、相手の体勢は崩し切った。片膝と剣を持ったほうの手で倒れることは防いだようだが、片膝立の体勢。ここっ!

 

 全速の踏み込み 最短最速の突き

 

 奴は剣を持っていないほうの腕を上げて、ガードの姿勢をとろうとするがこちらのほうが速い。大会で見せた手足を地につけた動きをする気配もない。大丈夫、よく見えてる。

 

 間合いを詰める、これで決める!

 

 

 

 瞬間、視界が赤白く染まる。

 

 ぐっ!?

 

 体が硬直してしまう。見えない。でも、ソコにいるはず! 突きを繰り出す。

 

 しかし、手応えはない。

 

 

 

「あ………」

 

 視力が戻る。

 赤白く染まった視界が、色のついた世界に戻った時、私の首元に剣が突きつけられていた。

 

 

 

 

 

 

「そこまで、ですね」

 

 俺はロドリゲスがエリスの首元に剣を寸止めしているのを見て、終了の合図を告げる。

 

 正直、俺はエリスが勝つと思った。いや、俺だけでなくこの場で見ていた全員が、あの流れならエリスが勝つだろうと思っただろう。でも勝者はロドリゲスだった。

 

 勝負の序盤はまだしも、中盤、終盤はエリスがずっとロドリゲスを圧倒していた。それをひっくり返したのは最後、ロドリゲスが自分の小手で夕日の光を反射させて、エリスの視界を潰した場面だ。

 かつて野盗に焚火を消されて奇襲を許したことがある身としては、視界がいきなり潰されるというのは想像以上に厳しい状態になることは理解できる。人はだいたい視力で、外部の情報を読み取る。バチロウやルイジェルドみたいに、目以外で情報を得る人達もいないわけではないが、それだっておおまかな位置しかわからないだろう。剣術、近接戦闘の場でわずかな時間でも視力が無くなるというのは致命的だ。

 俺は第三者という立場、かつ近くで勝負を見ていたから、何がどうなったか理解できているが、これが対峙しているエリスの立場だったらワケもわからずにやられていただろう。

 

 それにしても目潰しの技、戦法というべきか。アレを巧いと捉えるか、卑怯と捉えるかは人それぞれだと思う。でも、これは元々剣のみの試合というわけじゃないし、双方とも途中では拳や蹴りも使っていた。

 

 総括としては相手が巧かったというか、一枚上手だった、という感じになるだろうな。エリスにとっては悔しいだろうが。

 

 

 

 俺は決着がついた二人に近づく。

 

 ロドリゲスは仰向けに倒れて、

 

「ぜえぇー ぜえぇー げほっ ごほっ 、ぜえぇー ぜぇー…」

 

 大きな怪我は負ってないようだが、怪我じゃない理由で死にそうになってるな。この人は今日だけで4試合くらい戦ってるし、体力もギリギリだったんだろう。

 

 エリスは決着がついた姿勢のまま、

 

「~~~~~~っ!、~~~~~~っ!、ーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 悔しさやら自分への怒りやらを、必死で飲み込んでる最中かな。エリスはロアにいた頃と違って、最近ではストレスを貯めても周りにあたることはほとんどなくなった。少し時間をおけば落ち着くだろう。

 

 その後は、念のためロドリゲスに治癒魔術を施し、即席で作ったコップと水を渡して勝負を受けてくれたことに礼を言った。彼は息を整えたあとに、良い勝負だった、と逆にこちらを労ってくれた。できた人だな、本当に。

 

 

 

 

 

 

 今は町の外、勝負をした場所でエリスと二人、並んで座っている。日は完全に沈んだが、ここは町のすぐ近くだ。今夜は祭り最後の宴とやらが催されているはずだし、町から光が漏れている。明かりを灯さずとも薄暗い程度、相手の顔が見えるくらいには視界がある。

 

 彼女の目元は赤く腫れている。色んな感情を飲み込んだとしても、涙は出たのだろう。あまりまじまじと見るべきじゃないな。

 

 

 

「………ごめ゙ん゙、なざい」

 

 唐突に涙声でそんなことを言う。なに言ってんだか。

 

「謝ることなんて、何もないですよ?」

 

「………勝てなかった」

 

「………」

 

「………ルーデウスに、後押ししてもらったのに…」

 

 ホントなに言ってんだか、このお嬢様は。

 

「いいじゃないですか。勝負に勝った負けたなんて、よくあることです」

 

「………」

 

「魔物と戦ったワケでもなし、野盗の類を退けるワケでもなし。ギレ-ヌや僕との剣術の稽古だって勝ったり負けたり色々だったでしょう?」

 

「………でも」

 

「ふぅ…。いいですかエリス、よく聞いてください」

 

「………うん」

 

「かつて僕と師匠が魔術の訓練で、下手を打った時がありました。

 でも、その時の言葉は "今、失敗をしたんじゃない。経験を積んだんです" と」

 

「………」

 

「エリスが強くなろうとしていること、わかってますから」

 

「………」

 

「今はギレーヌはいないし、サウロス様もフィリップ様もヒルダ様も、この場にはいませんが。でもエリスが強くなろうとしていること、強くなっているところを、僕は見てますから」

 

「………」

 

「だから落ち込む理由なんて、何もないんですよ?」

 

「………うん」

 

「エリスが元気でいるほうが、僕も嬉しいですしね」

 

「………うん。ありがと」

 

 少しはエリスを励ませただろうか。今言った言葉に嘘はない。エリスが強くなろうとしていることは知ってるし、やっぱり彼女には元気でいてもらったほうが俺は嬉しい。

 

「………でも、ふふっ。ルーデウスでも失敗することもあるのね。それにルーデウスの師匠って人もいい人みたいだし」

 

 ん? ああ…。

 

「いえ。先程の話は、失敗したのが師匠のほうで、言葉をかけたのが僕ですね」

 

 彼女は一瞬目をまるくした後、

 

「もうっ、なによそれ。結局ルーデウスがすごいって話じゃない!」

 

 エリスは怒ったような泣いてるような、でも笑顔が混じった、そんな表情で言った。

 

 

 

 

 

 

 祭り最後の宴というだけあって、町中は活気と陽気、酒精に包まれている。道行く人々は楽しそうな表情、露店や屋台は人が集まっている、酒場からも酔っ払いの笑い声が聞こえてくる。

 

「ルーデウス! あれ! あれも食べてみたい!」

 

 エリスは先程屋台で買った骨付き肉をかじりながら、そんなことを言う。

 

「そんなに一気には食べれませんよ。もっとゆっくり楽しみましょうよ」

 

 俺はエリスと二人、町中を歩く。通りがかりの店々を覗き、路上で披露している芸や小芝居を見学し、屋台で売ってる食べ物を買い食いしながら、祭り最後の夜を楽しんでいる。

 

 エリスもすっかり調子を取り戻したようで、あちこちに目を向けながら楽しそうにはしゃいでいる。なんだかロアで家庭教師を始めて、最初の休日を思い出すな。

 思い返してみると、このラクロの町に来てから俺は祭りを楽しんだという気分ではない。いや、闘技大会は興奮したし勉強にもなったのだが、仕事の一環というのが本分だった。よし、残るのは最後の夜だけになってしまったが、俺もお祭りを楽しもう。

 

「おや、お二人も屋台巡りデスカ?」

 

 背後から声をかけられる。ガブリンとバチロウだ。

 

「ええ、食べ歩きながら色々見てまわってますよ。ガブリンとバチロウも?」

 

「ハイ。こういう場でしか見ない料理もありマスし、色んな食べ物をつまみながら楽しんでマス」

 

「ガブリン タノシイ オデモ オモシロイ」

 

 祭りを満喫してるようで何よりだ。二人は何かの肉の串焼きをおいしそうに頬張っている。どういう料理なんだろうか…

 

「この大王陸亀の心臓の串焼きも大変美味デスネ、しっかりとした下味のつけ汁にツケて、ソレを辛味のある香草と…」

 

 うん、一気に興味がなくなった。あとガブリンの調理うんちくは相変わらずだな。

 

「あれ? クルトはどうしたんですか、一緒じゃないんですか?」

 

 同じパーティ、いつも3人一緒にいるイメージがあるせいか、二人しかいないことに疑問を覚える。

 

「クルト センセイ ト イル」

 

「ハイ、広場前の酒場でロドリゲスさんと一緒に飲んでマシタ。屋外のテーブルで二人で盛り上がってるようデシタ」

 

 クルトはロドリゲスと飲んでるようだ。ロドリゲスは例の御前試合のために、明日にはこの町を発つらしいし、師弟水入らずでの晩酌会といったところか。邪魔するつもりはないが、次にロドリゲスに会えるとなるといつになるかわからない。挨拶くらいはしておくか。

 

 俺たちはそのまま広場に向かう。広場は元々この町の中央にあるもので、闘技大会会場とは別に商売と交流を中心とした祭りでの、その日の目玉となる催しが開催されていた。競売だったり演目だったりだ。俺たちは一度もその目玉の催しは見てはいないが。

 

 露店と人混みの大通りを抜け、広場に到着する。クルト達は…いた。

 

「クルト! ロドリゲスさんも。宴、楽しまれてるようですね」

 

 俺は酒場の屋外テーブルで飲んでいる二人に声をかける。

 

「ん、ルーデウス君、エリス君も。お疲れさまだ」

 

 ロドリゲスが答える。すでにそれなりの酒量なのだろう、二人とも顔が赤い。

 

「ルーデウスもエリスも楽しんでるようだね。二人とも同じものでいいかい?

 おーい、店員さーん。追加で…」

 

 クルトに有無を言わせず酒に誘われる。飲めないわけではないが…

 

「いえいえ、師弟の場をお邪魔するつもりは…」

 

「はっは、気にする必要はない。私もクルトもすでに飲んだくれているし、そういった空気でもないさ。それに、エリス君とは剣術について話してみたいしな!」

 

 突然エリスに話をふられるが、

 

「いいわっ、話してあげる!!

 クルト! 強いのちょうだい」

 

 おいおい、大丈夫か?

 

 その後はエリス、クルト、ロドリゲスの剣士3人組で剣術談義で盛り上がる。やれどこの流派が強いのだの、やれ対人と魔物では勝手が違うだの、普段の訓練やら剣の質やら、話題が尽きることはない。

 俺も小さい時から剣術を習っているはずなんだが、本業が魔術師のせいか話題にのめり込めない。隣のエリスを見ると…楽しそうだな。むぅ、なんだか盗られた、ちょっとNTRな気分だ。

 

 俺はちびりちびりと酒を舐めながら、広場に目を向ける。広場では何やら楽団っぽい人達が演奏をしている。以前、ボレアスの屋敷で何らかの行事の時にくる、演奏家の人達を何度か見たことはあるが、それよりもは原始的な楽器を使って演奏している。簡素な造りの弦楽器、大小様々な太鼓、奇妙な形状の笛類。その演者の周りで見学している人、手拍子をしてる人、なんだか平和な光景だ。

 

 一曲が終わり、別の曲の演奏がはじまる。ん? あれ、この曲、どこかで聞いた覚えがあるな。どこだったか…。

 思い出した。これは…正確には違う曲だろうが、曲調はかなり似ている。

 

「エリス、ちょっといいですか?」

 

 熱の入った談義をしている3人に割って入って、エリスに話しかける。

 

「どうしたの? ルーデウス」

 

 俺は楽団の演奏者を見ながら、問いかける。

 

「今演奏されているこの曲、思い出しませんか?」

 

「………?」

 

 エリスは思い至れないか。少し寂しい気がするが…

 いいさっ! 今夜は祭り最後の宴だ。アルコールも手伝って、俺は思い切りのいい行動に出る。

 

 無詠唱で拳大の水玉を作り出す。水玉で両手を濡らして、髪をかき上げる。いつかのパーティーのように、ちゃんとした整髪料なんかあるわけじゃないので、これくらいしかできないが。服装も普段どおりだが、まあいい。

 俺は椅子から立ち上がる。そしてエリスと向き合い、胸に手を当てて少しだけ頭を下げる。

 

「お嬢様、僕と踊っていただけませんか?」

 

「………………   っ!! うんっ!」

 

 一瞬呆けたようだが、エリスも気づいてくれたようだ。ちょっと嬉しい。

 

 エリスの手をとって、広場の真ん中まで進む。楽団の前、二人で向かい合わせになる。

 

「ダンス、覚えてますか?」

 

「もちろんよ!」

 

 俺は軽く目線と踏み込みでフェイントを入れる。すると「ふふっ」と小さくつぶやきながら彼女は反応した。大丈夫そうだな。

 

 片方の手をつなぎ、もう片方は腰にまわす。はじまりはごく自然に。音楽に合わせてステップを踏む。手をつなぎながら体を揺らし、時には互いの体を離し、時には抱き寄せるかのように体を近づける。動きが音楽とズレそうになると、目線でフェイントを入れて修正する。踏み込んだり、引いたり、手を上げ下げしたり、時には回ったりして俺たちは踊る。

 気づけば周りの人々が音楽に合わせて手拍子をしている、あっちの人達は俺たちを真似て踊りはじめた。エリスを見てみる。彼女は踊りながら笑っている。綺麗で可愛い笑顔で実に楽しそうだ。

 今日だけでいくつ彼女の表情を見ただろうか。勝負の時の真剣な表情、攻めている時の気迫のこもった表情、勝負に決着がついて悔しそうな表情、敗れて泣いている表情。そして、今この時の最高の笑顔。

 

 楽団の人らも気を利かせてくれたのだろう。長い曲も終わり、踊り終えると拍手が起こった。俺もエリスも息を切らしながら、笑っている。お互い、笑いあっている。ああ、最高に楽しいひと時だった。

 

 

 

「ねえ、ルーデウス。ロアってどっちの方角?」

 

 エリスが妙なことを尋ねてくる。今のダンスで故郷に思いを馳せたのだろうか?

 この町のだいたいの見取り図と世界地図を思い浮かべる。えーっと、あっちが南だから、西はこっちで…

 

「そうですね。ここからだと、だいたいあちらの方角になると思います」

 

 俺はロアがあると思われる方角を指差しながら答える。

 

「どこ?」

 

「ええ、ですからあの酒場の看板の…」

 

 

 

 チュ

 

 

 

 ーーー えっ?

 

 あれ、今、なんか、頬に、濡れた感触が…

 

 

 

「「「 ~~~~~~~~~!!! 」」」

 

 一瞬の静粛、次の瞬間には爆発のような歓声。

 

 えぇ? えぇっ? いやいや いやいやいや 俺は今、間違いなく混乱している。いや、だって、エリスが、俺に、まじかっ!

 

「「 ~~~~~~! ーーーーーー!! 」」 

 周りが騒がしい。歓声と拍手、指笛の甲高い音も聞こえる。

 

「はっは、青春しているようで結構結構!」

 ロドリゲスが達観しているようなことを言う。

 

「ヒュー ヒュ-」

 クルトが一昔前のような煽りを言ってくる。

 

「仲睦まじいようでなによりデス」

「オメデドウ」

 いつの間にか広場に来ていたガブリンとバチロウがそんな祝辞を述べる。

 

 

 

 ラクロの町、祭りを締めくくる最終日の宴。

 様々なできごとがあった、色んな思いがあったはずが、頭からふっとんでしまった夜。

 

 ここは魔大陸の半ば。目的地まではまだまだ距離はあるし、時間もかかる。

 全体の行程を考えれば、旅はまだ始まったばかりになるだろう。

 

 ここまでの旅は決して楽なものではなかった。辛いこと、キツイこと、悲しいこともあった。きっとこの先の旅路も、油断も慢心も楽観視もできるようなものじゃないはずだ。

 でも俺は、しっかりと行動して、真剣に考えて、本気で生きていく。そう決めている。

 

 俺とエリスの旅は、まだまだ続く。

 

 





 申し訳ありません。前話からなるべく早く投稿するつもりでしたが、書きたいこと、表現したいこと、描写したいことを煮詰めていたら、執筆に結構な時間がかかってしまいました。

 アニメ版では即落ち2コマでルイジェルドにやられたロドリゲスですが、本作ではこのような強さ設定にしました。強さ議論は難しいところですが、ルイジェルドが王級以上、帝級? 北帝オーベールの3番弟子ってところを考えると、決して弱くはないんじゃないかなあ、なんて個人的に考えました。

 本作は今まで章分けしていなかったのですが、今後は章分けします。ここまでの投稿を"帰還・旅立ち編"とし、次投稿から"帰還・旅路邁進編"とします。

 本章は甘々な展開で締めました。書きたかったんです。

 19話使って魔大陸半ばまでしか進まなかった…、次話は魔大陸南岸あたりからのスタート予定です。

 20250619:句点、読点、改行、スペースを修正しました。内容に変更はありません。
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