旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

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002 魔大陸で目が覚めて

 

 目が覚めると夜だった。

 

 星空、炎の影、パチパチと聞こえる音。

 どうやら焚き火の側で寝ていたらしい。

 

 そして………おかしな夢。

 なんだったんだ、あのモザイク卑猥野郎は。

 なんだか夢に馬鹿にされたような気分だ、

 俺にはすでに神がいるというのに、神を名乗るとは。不届き者め。

 

 …仮に本物の神様だとしても、きっとあいつは邪神の類だな、うん。

 

 

 

 さて、とりあえず周りを見回してみる。

 

 すぐ後ろにエリスが俺の裾を掴みながら寝ている。よかった、無事か。外傷はなさそうだ。

 

 すぐ横にはエリスからもらった杖がある。これも無事だ。破損はなさそうだ。

 

 すぐ前には焚火とその向こう側には人影がある。ギレーヌかな?

 

「………っ!?」

 

 ギレーヌではない、と悟り瞬時に警戒した。人影は…男だ。筋肉質の成人男性に見える。

 敵意は感じない。向こうから何かしてくる気配もない。

 

 髪色はエメラルドグリーン、肌は白い。額には赤い宝石なようなものが見える。傍らには白い三叉の槍。顔には縦断する傷がり、鋭い眼光と険しい表情。

 

 この風貌は………スペルド族?

 ロキシーの教えを思い出す。

 

『スペルド族には近づくな』

 

 エリスを抱えて全力で逃げようとして、寸前で思いとどまる。

 まて、逃げれば逆に襲われるかもしれない。ロキシーが言っていたことを思い出せ…。

 

『近づかないでください』

『絶対に怒らせないでください』

『見かけたら用事があるフリをして立ち去ってください』

『どんな言葉がキッカケで爆発するかわかりません』

 

 そう、こんな感じだったはずだ。刺激せず、怒らせず、エリスを連れてこの場を離れる。オーケー、イージーオペレーションだ。問題はない。できれば情報収集もしたいが…

 

「こんにちわ」

 

「………ああ」

 

 挨拶をすると、返事が帰ってきた。

 

「失礼ですがお名前を伺っても? あ、申し遅れました。僕はルーデウスといいます」

 

「………俺の名はルイジェルド・スペルディアだ」

 

 やっぱり。名前からしてスペルド族か。

 

「………お前はスペルドを知らないのか?」

 

 どう返答するか? 誤魔化すか…、いやここは正直に答えて誠意を示そう。

 

「師匠には注意するようには言われてます」

 

「師匠の教えは守らなくてよいのか?」

 

「師は偉大な方であり、恩人だと思っていますが…。ただ初対面の方にそのような対応をするのは失礼かと」

 

「フム、不思議な子供だな」

 

 悪くはない、コミュニケーションはとれそうだ。誤解を招きそうな言い方は避けて…

 

「僕はいま目が覚めました。なので現在の状況がさっぱりわかりません。よろしければここは何処でどのような状況なのか教えていただけないでしょうか?」

 

「………まずここは魔大陸の北東、ビエゴヤ地方。旧キシリス城の近くだ」

 

「は? 魔大陸?」

 

「ああ、そうだ。お前たちは空から降ってきた。人族の子供の体は弱い。焚き火を作って身体を暖めておいた」

 

 魔大陸って、どういうことだ? 最後の記憶は…たしかロアの郊外で水聖級魔術をエリスとギレーヌに見せようとして…。そうだっ、変な奴に襲われた後に、唐突に光に包まれたんだ。

  

 えっ? じゃあ世界の端から端まで移動したってこと? なんで?

 いや、落ち着け。まずは…

 

「ルイジェルドさん、どうやら助けて頂いたようでありがとうございます。先程申し上げましたが、僕の名前はルーデウス。あと隣の子は僕のツレでエリスっていいます」

 

「気にしなくていい、子供を助けるのは当然のことだ」

 

 子供好きなのだろうか。それとも攫ったり奴隷にするには子供のほうが都合がいいのか。

 

「あと聞きたいのですが、僕たちと一緒に獣族の女性は見ませんでしたか? 褐色の肌で眼帯をつけているのですが」

 

「いや、見ていない。見つけたのはお前たちだけだ」

 

「そうですか…」

 

 ギレーヌは近くにはいないか…。

 

 さて、どうするか。ここが魔大陸というのが本当なら、地理感覚がまったくない。周囲は真っ暗だ。夜が明ければ多少は見晴らしが効くかもしれないが、近くに人里、町があるかどうかもわからない。

 

「ところで、ここから近くに人のいるところはありませんか?」

 

「ある。近くにミグルド族の集落がある」

 

「ミグルド族!?」

 

「む、知っているのか?」

 

「はい、僕の師匠はミグルド族です。…よろしければその集落のある場所を教えてください」

 

「そういうことなら夜が明けたら案内しよう。大した距離ではないとはいえ子供だけでは危険だ」

 

「いえ、僕は魔術が使えますしツレも剣が使えるので、場所さえわかれば僕たちだけでも行けますよ」

 

「子供が余計な気遣いをするな。それにミグルド族の集落は俺が普段世話になっている場所でもある。問題はない」

 

 んー、ここまで言うなら人攫いの類の可能性は低いか…。できればすぐに離れたかったけど、ヘタなことを言って刺激したくはない。あと一応名前以外の情報は極力出さないようにしたから、後々問題になるようなことはないはずだ。

 

「わかりました、では案内をお願いします。あとツレの子がそろそろ目を覚ますかもしれません。少し騒ぐかもしれませんが、気にせずに頂けると有難いです」

 

「………言いたいことはわかる。気にするな」

 

 なんだろう、思った以上に理性的というか知的というか。ロキシーから聞いていたスペルド族のイメージとはけっこう違う。いや、今のは当たり障りのない内容だったからというのもあるかもしれない。何が逆鱗に触れるかわからない、このまま慎重に対応しよう。

 

 

 

 しばらくしてエリスが目を覚ました。身体を起こし、周囲を見渡す。次第に不安そうな顔になり、俺と目が合ってほっとした表情になる。

 

 そしてルイジェルドと目があった。

 

「ひっ!!! ス、ス、スペルド族っ!?」

 

 目を見開き、明らかに動揺している。

  

「ふーっ、ふーっ、ふー、ふー…」

 

 荒い呼吸を落ち着けながら、俺の後ろまでゆっくりと近づく。

 

「ルーデウスゥ…」

 

 懇願するように名前を呼んで、俺の後ろに隠れる。

 

 あらやだ、なにこのカワイイいきもの? 最近は随分と打ち解けたとはいえ、初対面の時のジャイアンはカゲもカタチもないような態度。雨の日にダンボールに入った捨て猫のようだ。持ち帰って、めっちゃ愛でたい。    

  

「大丈夫ですよ、エリス。彼はルイジェルドさん。夜が明けたら近くの集落まで案内してくれる方です」

 

「………そうなの?」

 

「ええ、それにその集落はどうやら僕の師匠と同じ種族なので。安心していいです」

 

「………わかったわ」

 

 あの気の強いエリスが実に素直な反応だ。普段の授業でもこれくらい従順だったらいいのに。

 

「というわけでルイジェルドさん、この子がエリスです。ちょっと怖がっていますが、決して悪感情ではないので、ご容赦ください」

 

「こっ、こわがってなんかないわっ!」

 

「ふふ、エリスにも子供らしくて、かわいいところがあるんですね」

 

「ば、馬鹿にしないでよ!」

 

 エリスは顔を真っ赤にしながら俺をキッと睨んだ。

 照れてるんだか、怒ってるんだか。

 

 腕を組んで仁王立ち、しかし態度とは裏腹に震える声で

 

「エ、エリスよ! よろしくおねがいしますワ!」

 

「ああ、ルイジェルドだ。よろしくたのむ」

 

 エリスがほっとした表情になる。会話ができたことで安心したようだ。

 

「ルーデウスが一緒だもの、こわくないわっ!」

 

「そうか」

 

 どうやら俺は精神安定剤らしい。いやー、頼れるオトコは困っちゃうね。

 

 それから3人で焚き火を囲んで夜が明けるのを待った。エリスは終始俺の傍から離れなかった、やっぱり不安はあるのだろう。

 

 

 

 夜が明けてあたりを見回すと岩と土だらけの世界が広がっていた。

 

 魔大陸はかつて人魔大戦によって引き裂かれ、いくつかに別れた大陸のひとつと言われているが…。なるほど、ここから見える範囲だけでも過酷な環境なことはすぐに見て取れる。

 

 俺たちは移動を開始した。実際に歩いてみると先程見た以上の厳しさを実感する。岩が多く、高低差が激しい。大地は固く、栄養があるようには思えない。岩だらけの荒野、砂漠手前の土、まさに死の大地といった感じだ。大魔王様の本拠地が実在したらこんな風景ではないだろうか。

 

 道中の会話はあまりなかった。ルイジェルドは自分から会話するタイプでもないようだし、俺も周囲の警戒をしつつも目の前のスペルド族に完全に心を許すことはできないため、必要なこと以外はあまり話しかけることもなかった。エリスだけ一人ではしゃいでいたが。

 

 

 

「ここだ、着いたぞ」

 

 歩いたのは大体4時間ほどか。高低差が激しかったうえ、何度か大きくまわりこむような不思議な進みかたをしたため、結構時間が掛かってしまった。だが直線距離にして2キロも離れていないだろう。正直疲れた、身体が重い。

 

「すごいっ! 村ね!」  

 

 エリスは疲れている様子がない、体力すごいな。

 見るものすべて新鮮なのか、目をキラキラさせている。

 

「ルイジェルドさん、ここまでの道中で何度かまわり道をするように来た気がするのですが…」

 

「ああ、気づいたか。魔物はなるべく避けてここまできた」

 

「魔物の位置がわかるんですか?」

 

「ああ」

 

 なんだろう、特に魔術を使っているようには見えなかった。気配を察知する、みたいなことができるんだろうか。むっ、殺気! なんちゃって。

  

 村を見渡してみる。村というには小さい。どちらかと言えば集落という感じだ。十数軒ほどの家に小さな畑。その畑も何を育てているのかはよくわからないが、豊作という感じはしない。言っちゃわるいが寂れた印象を受ける。

 

 

 

「止まれ! ルイジェルド、そいつらは何者だ?」

 

 門番? 今のは魔神語だった。大丈夫、ちゃんと聞き取れてる。ノープロブレム。

 

「昨夜の流星だ」

 

「………怪しいな」

 

「どこがだ? なぜ怪しい? 彼らはまだ子供だ。それに彼らの師はミグルド族だぞ」

 

「なんだそれは? 師? そんな話は知らないぞ」

 

 ルイジェルドは俺が話した内容を信じてるらしい。まあ事実だし問題はないのだが。ここまで見たままの感じだと彼は多少ぶっきらぼうであっても、あまり表裏がない人物に見える。

 おっと、それよりは

 

「はじめまして、僕はルーデウスと申します。こちらの赤毛の子はエリス。僕の魔術の師匠はミグルド族の女性です。こちらが証拠になります」

 

 一歩前にでてそう言うと、首から下げて服の中にしまっていたペンダントを取り出す。

  

「…たしかにこれはミグルドのお守りだ。これをどうして、いや、どこで手に入れた?」

 

 ああ、もらったとは思わず、拾ったとか買ったとか疑われるか。あるいは盗んだか奪ったか。

 

「これは師匠から卒業の記念にもらいました」

 

「その師匠とやらはどこの誰だ?」

 

「名前はロキシー、僕の尊敬する魔術師です」

 

「なんだって!?」

 

 門番らしき人物が大きく声を上げて、俺の肩を掴んだ。

 マズイ、やぶ蛇だったか。

 

「お前、い、今ロキシーといったのか!」

 

「はい、師匠の名はロキシーですが…」

 

 すると、いきなりルイジェルドが門番の腕を掴んだ。

 

「手をはなせ、ロイン」

 

「ぐっ、いや、でも…」

 

「手をはなせと言っているっ!」

 

 ルイジェルドは険しい顔で、門番に詰め寄った。ロインとよばれた人物は渋々といった様子で俺の肩から手をはなす。ルイジェルドに掴まれていた腕をさすっている、随分と痛そうだ。

 

「いや、それよりも教えてくれ! ロキシーは、生きているのか!? 今どこにいるんだ!? ロキシーは俺の娘なんだよ!」

 

 えっ、娘!? パパってこと? ゴッドファーザー? どこのイタリア系マフィアだよ。

 それにしても、…この中学生ぐらいの男がロキシーの父親ってありえるのか?

 

「20年以上前に村を出ていったきり、音沙汰がないんだ。頼む、教えてくれよ………」

 

 ロキシーは親に黙って家出していたのか? それに20年以上前って…。

 

「えー、ロキシーは半年前までシーローン王国にいたはずです。僕も卒業してからここ数年、直接会っていたわけではありませんが、手紙のやり取りはしていましたので」

 

「そ、そうか…。生きているのか…、うぅ…よかった、よかったあ」

 

 ロインは目に涙を浮かべて膝をつく。

 

 長い間音信不通の娘の安否がとれたんだ、そりゃ嬉しいだろう。神が親からしっかり愛されている様子が知れたことは、俺にとっても嬉しい。…なんだかブエナ村での生活を思い出すな。

 

「僕からも質問があるのですが…、ロキシーって今何歳なんですか? それとミグルド族の一般的な寿命も教えてください」

 

 ロインは娘の生存が知れたことでこちらを信用したのか、しっかりと答えてくれた。

 彼の話ではロキシーは現在44歳、まさかの同い年! まあ俺のほうは前世での年齢を加えた数ではあるが。あとミグルド族の寿命はおおよそ200年くらいらしい。

 

 

 

「ふむ、何やら騒がしいから様子を見に来てみれば…。ロインとルイジェルドとそちらのお二人はどちら様かな?」

 

 気づけばロインの後ろにとっつぁん坊やみたいなのがいた。

 

「長、こちらの二人は私の娘ロキシーの弟子だそうです」

 

 どうやらこの人物は長らしい。長というからにはそれなりの年齢だろうに、こんな見た目なんだ。

 

「客人方よ。私はこの里の長のロックスといいます」

 

「はじめまして、僕はルーデウスと申します。こちらはエリス。ロキシーの弟子は僕だけで彼女は違いますよ」

 

 とりあえず、俺は胸に手をあて軽く頭を下げた貴族式の挨拶をした。

 

「おや、これは礼儀ただしい。ご丁寧にどうも」

 

 俺はエリスに目配せする。ここまで彼女は会話に参加できておらず、何やら不安そうだ。

 

「エリス、挨拶してください。彼はこの村の長らしいです。」

 

「で、でも、言葉わからないし…」

 

「僕が伝えますから。授業で習ったとおりでお願いします」

 

「うー………わかったわ。

 お、お初にお目にかかります。エリスですワ」

 

 エリスは、軽く頭を下げスカートの裾を持ち上げる動作で挨拶をした。実際はズボンだから少々不格好になってはいるが。

 うん、礼儀作法の家庭教師、エドナも草場のかげで泣いて喜んでるよ。

  

「ふむ、こちらのお嬢さんは挨拶をしてくださったのかな?」

 

「はい、僕らの故郷での挨拶となります。彼女はエリスっていいます」

 

 里長はそうかそうかと頷くと、エリスに挨拶を返す。

 

「お嬢さん、この里の長のロックスです」

 

 自分に言葉をかけられたエリスは俺に尋ねる。

 

「ルーデウス、この人今なんて言ったの?」

 

「この里の長のロックスです、って」

 

「そ、そうなの。ふふっ、ちゃんと通じたのね!」

 

 エリスは意志疎通ができて嬉しそうだ。ご立派ですよ、お嬢様。

 

「それで、里には入れて頂けるのでしょうか?」

 

「長、お願いします」

 

 ロインも嘆願してくれる。

 

「ああ、わかっておる。問題ないとも。

 客人方よ、ようこそミグルド族の里へ」

 

 ロインはほっとした表情で門を通してくれた。 

 

「あ、でもその前に。

 神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん『ヒーリング』」

 

 ロインに治癒魔術をかける。先程ルイジェルドに掴まれて痛そうにしていた腕に。

 

「お…おおっ、すごいな。痛みが全然なくなった」

 

「師匠の教えの賜物です」

 

「ほう」

 

 ロキシーの家族には良くしたいし、これから話を聞くなら里長にも好印象を与えておきたい。あとルイジェルドにもなんだか感心されたようだ。

 

「ルイジェルドさんも先程はありがとうございました。お気をつかわせてしまったようで」

 

「気にするな。おまえの魔術も見事なものだ」

 

 うんうん、と里長も顔をほころばせている。好印象ゲットだぜ。

 よし、ファーストコンタクトとして悪くはない。この調子でいこう。

 

 

 

 こうして、俺たちはミグルド族の里へと入った。

 

 





 改行の使い方って難しいですね。どう文章を区切っていいのやら…

 20250509:句点、読点、改行を修正しました。内容に変更はありません。


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