「 静かに眠りし翠風の王女よ、その激情を解き放ち忌まわしき邪悪を跳ね飛ばせ『
ドパァァーーン
ザアアァァァァ
「おおっ」
思わず感激の声が漏れる。犬耳の少女が放った風魔術が海岸浅瀬の海水を陸側に吹き飛ばし、そして打ち上げられた大量の水が降り落ちた後には魚や貝が姿を表す。
「 すごいじゃないですか、威力も精度も申し分ないと思います。 」
「 い、いえそんな。あたしなんか全然ですから。 」
手放しで彼女のことを褒めると随分と遠慮がちな返答がされる。決しておべっかというわけではなく素直に賞賛してるんだが。
最初は俺が風魔術で海水を打ち上げていたのだが、手伝いに来たテルセナが魔術を少しは扱えるということで任せてみた。結果は今見た通り、これは嬉しいほうの誤算だな。この分なら食料の確保は短時間で済ませられそうだ。
『デッドエンド』『トクラブ村愚連隊』冒険者チームと獣族の子供達は襲撃され逃走した翌日、日が昇ると同時に行動を開始した。ただ行動といっても即行軍するというわけではない。
昨晩計画した逃走プランでは、少しでも早くウェンポートに辿り着く必要がある。そして襲撃者や魔物といった外敵には極力遭遇したくはない。なので行軍中は可能な限り移動と索敵に専念できるように、事前に準備できることは余裕がある今この時に済ますつもりだ。
準備の具体的な内容は、まずは食料の調達。行軍中に狩りや採取といったことに時間を取られたくはないし、周囲から目立つような魔術の使用は控えたい。獣族の子供達を保護し一行に加えたことで手持ちの食料もいよいよ切迫してきたという事情もある。
それから確保した食料を保存食に加工する作業。少なくともウェンポートまでは食料が保つようにして新たに調達しなくても済むようにと考えている。
あとは大トカゲ積載確保のための荷物の取捨選択だ。俺達冒険者は5人、獣族の子供も5人。合わせて10人にもなる結構な大所帯だ。全員を大トカゲに騎乗させるためには余計な荷物を積載させる余裕はない。最低限の旅道具と食料以外はこの場で破棄する予定である。
「 いっぱい獲れたニャ。じゃああたし達はあっちで魚を捌いてくるニャ。 」
「 ええ、お願いします。言葉は理解できないでしょうが、ガブリンの作業を真似てやってみてください。 」
ミニトーナと獣族の子供達が魚介類を持ってガブリンのところへ向かう。彼女達は先程魔術で確保した獲物を保存食に加工する役割だ。獣族の子供達にはすでに俺が土魔術で新たに作った石の短剣を全員に渡してある。魚介類を捌くのに問題はないハズだ。行軍前の事前準備としては最も手間のかかる作業だが、あっちは人手も多いのでなんとかなるだろう。
周囲を見渡す。
大トカゲの傍にいるエリスとクルトは荷物の破棄と積載作業が担当だ。持ち運ぶ物の取捨選択はクルトが判断できるし、作業量自体は大したことはないのですぐに終わらせると思う。
西側に一人立っているのはバチロウだ。彼には事前準備中の周囲警戒にあたってもらっている。昨日の襲撃では強風下という悪条件もあり奇襲を許してしまった。しかし今は嵐も完全に過ぎ去ったので、ヤツらがいかにその手のことに慣れた連中であろうと彼の索敵から完璧に逃れるのは難しいと思う。何かあればすぐに知らせてくれるだろう。
「 では僕達は食料の調達作業を続けるとしましょうか。手早く済ませましょう。 」
「 は、はい。お願いします。 」
この海水を打ち上げる行為は周囲からそれなりに目立つ。日が昇りはじめてから時間もそれほど経ってはいないが、襲撃者達が追ってきているのならいつ見つかってもおかしくはない。ただ慎重になって魔術を使わず手作業での食料調達となると相当な時間がかかってしまう。それならば多少のリスクを承知の上で魔術を使用してごく短時間で必要量の食料を確保してしまおうという方針だ。一応、バチロウに歩哨として周囲を警戒してもらっているので、襲撃者達に発見された場合も即座に対応できるよう保険はかけてあるしな。
俺とテルセナが海水を浜辺に打ち上げる。ふむ、やっぱり彼女の魔術は悪くないと思う。見せてもらったのは風魔術一つだけではあるが、詠唱は淀みないし発動も安定している、変にリキんだりもしていない。そこらの冒険者と比べても遜色はないんじゃないかな。
「 やっぱり僕が見る限りはしっかりと魔術を扱えてますよ、大したものだと思います。 」
「 ルーデウスさんのほうが断然凄いですよ。詠唱しないで魔術を使えたり、さっきみたいに石で刃物を造ってしまったり。 」
褒めたつもりが逆に褒め返される。悪い気はもちろんしないが……そういえば無詠唱魔術の使い手ってほとんど見たことがないな。ブエナ村にいた頃はシルフィがいたが彼女以外では見たことがない。ロアではエリスとギレーヌに魔術を教えていたけど、そもそも他の専任魔術師に会ったことがない。魔大陸に来てからは他の冒険者パーティに所属する魔術師は何度か見かけたけれど無詠唱魔術の使い手というのは聞いたことはなかった。う~ん、案外詠唱なしで魔術を使える人間って少ないのだろうか。でも、まあやっぱり、
「 フッ、僕の師匠はもっと凄いですがね。 」
と、唐突のロキシープッシュ。ロキシーは師であると同時に神だからな、いくら褒めても褒め過ぎるということはない。
「 そ、そうですか。ルーデウスさんより凄いってどれだけ凄いのか想像もつかないです。その師匠という人はどういった方なんですか? 」
「 師匠はこの魔大陸ビエゴヤ地方のミグルド族ですね。魔術は……魔法大学で習ったんじゃないでしょうか。 」
「 魔法大学って、ひょっとしたらラノアの? それなら少し前、一昨年にお姉ちゃんが留学に行きましたよ! 」
なんと思わぬところで思わぬ繋がりが。テルセナの話を聞いてみると、どうやら彼女の姉とミニトーナの姉が現在ラノア魔法大学に留学中らしい。大森林を発ったのが一昨年で今年入学したとのこと。ロキシーの何年後輩になるんだろうか。あれ? そうすると彼女達の姉は俺の先輩になるかもしれないな、俺も魔法大学に行くつもりではあったし。
「 僕もいずれは魔法大学で学ぶつもりなんですが、テルセナはザントポートの学校に行く予定でしたっけ? 」
「 あ、はい、いえ。その、そういう、予定ではありました。 」
ん? 何かニュアンスがおかしな気がするな。
「 師匠も言ってましたが魔法大学でなくとも魔術を教えてくれる学校はあるそうですし、ちゃんと指導を受ければ一端の魔術師にはなれるんじゃないでしょうか。 」
「 そう、ですね。 」
なんだか歯切れの悪い返事だ。魔法大学だけが魔術を習う手段ではないとフォローを入れたつもりなんだが。この子は引っ込み思案っぽいし、元々こんな感じなのかな。ああ、自分の人生経験年数に比例していないコミュニケーション能力の低さが恨めしい。
しかし、さっきの返事といいオドオドとした態度といい気弱な性格が見てとれるのだが……うん、彼女の胸部装甲はどうにもおとなしい性格に反比例しているように見えるな。先程から魔術を使い海水を打ち上げる度に、たゆんたゆんと揺れる様が視界に入りどうにも気になってしまう。成長著しいエリスもあの活発なミニトーナも優れた装甲を持っているが、彼女はその中でも随一だ。
ん? テルセナが1歩下がる。さらにもう1歩下がる。あ、あれ? 警戒されてる!? いかん、女性は男性の視線には敏感だというし、胸中での胸部の狂喜な品評会が見透かされたか。
「 えっと、今のはセクハラというつもりではなくてですね… 」
「 い、いえ。決してルーテウスさんが悪いというワケでは… 」
なんだろう、この男上司が女部下のお尻に偶然触れてしまったかのようなやりとりは。自分が煩悩まみれなのは自覚しているが、いや、ホントに今のはセクハラの意図はなくて…
ドスッ
石の短剣が俺の足元横50センチに突き刺さる。
「ルーデウスッ!!」
赤毛の狂犬が俺の名前を叫びながら走り迫ってくる。
冷や汗が出る。狼狽するダメ上司からまな板の鯉にジョブチェンジした心境だ。
「ルーデウス、大丈夫!? 怪我してない!?」
あれ? 咎められてるワケではない? なんだか純粋に心配してくれてるようだ。
「ルーデウス、平気かい!?」
エリスと同様にクルトが俺の安否を心配しながら駆け寄ってくる。
んんん?
「え~っと、結局コレはどういうことでしょう?」
イマイチ状況が飲み込めない俺は地面に刺さった短剣を指さしながら二人に質問する。二人の話では大トカゲへの積載作業が終わって、エリスがクルトから剣の投擲術を教わっていたらしい。死線を感じたさっきの一撃は、どうやら彼女の試し撃ち失敗の結果のようだ。誰だ、エリスを狂犬と評したヤツは。
「ルーデウス、ごめんなさい。
もうっ、クルト。全然狙ったところに飛ばないじゃない!」
「いや、力いっぱい投げればいいってものじゃなくて…」
はは、苦労しているな後輩よ。先達から言わせてもらうと、その赤毛の少女にモノを教えるのは並大抵のことじゃないんだぜ。
そんな感じで3人でやりとりをしていると、テルセナが遠慮気味に発言する。
「 ル、ルーデウスさん。食料も獲り終えたみたいなので、あたしはトーナ達の手伝いをしてきます。 」
あ~、獣神語ではなく魔神語で会話していたし彼女に気を使わせてしまったか。いや、さっきのセクハラ疑惑で気まずかっただけかもしれないが。まあ食料の確保は無事に済んだし、多少の気まずさが残ったとしても行軍には影響はないと信じたい。俺も試しておきたいこともあるし、ガブリン達の作業が終わるまでは空いた時間を有効活用するとしよう。
・
結局、行軍前の事前準備は日が最も高くなる頃、正午あたりに終えることができた。ここからは慎重かつ迅速に移動してウェンポートに向かうこととなる。
「じゃあ出発しよう」
クルトの号令で俺達は行軍を開始する。
2匹の大トカゲが歩を進める。速度はそれほど出ていない、馬車より少し遅い程度の大トカゲの通常速度だ。これでも人間の歩行速度よりはよっぽど速いし、今はこれ以上行軍速度を上げられない理由がある。元々所持していた旅道具の大半は先程の事前準備中に破棄しているので、積載している荷物は食料以外はほとんどない。しかし俺達と獣族の子供達合計10人が騎乗しているため、大トカゲ2匹の積載量としてはギリギリといった状態だ。緊急時を除き通常の進行で大トカゲに無理をさせて潰れるような真似はしたくない。
手放した旅道具の替わりは魔術で補うつもりだ。調理と暖のための火の用意はエリスが、水はバチロウ、そしてテルセナも少し扱えるということで彼女らに任せる。俺は土魔術で必要な道具をその都度用意する役割だ。正直、全ての役割を合わせてもを俺一人で問題なくこなせるのだが行程後半の負担を考慮して、このような分担となった。
一行は慎重に進行する。大トカゲの手綱を握っているクルトとガブリンも慎重に操作している。全員が周囲に気を配りバチロウが索敵に専念している以上、そう簡単に外敵に奇襲を許すとは思えないが俺達は昨日襲撃者に奇襲を許し襲われたばかりだ。緊張するなというのは無理な話だろう。
事前の準備中は襲撃者はあらわれなかった。奴らが追ってきているのかいないのかもわからない。追ってきているのなら、どの程度本気で追跡する気なのかもわからない。しかも今は奴らと離れる方向ではなく、近づくように西側に進行している。警戒し過ぎるということはない。
ふと後ろを見ると2匹の大トカゲのすぐ後ろに付いてくる聖獣が視界に入る。コイツも変に吠えたり駆け回ったりせず、おとなしくこちらの言う通り動いてくれるので今のところ問題はない。まあ俺達が直接指示を出しているというワケではなく、獣族の子供達が獣神語でお願いしているのを聴いてもらっているようなのだが。色々とツッコミたいことはあるが、それは後にしておこう。
行軍を開始して半日弱、岩小屋手前まで戻ってきた。手前といっても岩小屋からはまだそれなりに離れている。視認もできないしバチロウが音を拾えるような距離ではない。しかし今日の行軍はここまでだろう。あと1時間もすれば日が沈む。夜間の行軍は灯りが必須となるため、逆に周囲から目立ってしまう。
一行は野営準備をはじめる。場所は岩場の陰。探せばもっと周囲から発見されにくい場所も見つかるだろうが、今は探索に労力を割きたくはないしリスクも犯したくない。俺は岩場の隙間と開放部分を『
「ルーデウス、助かる。あとは俺達に任せてよ」
「ええ。話した通り、あとの作業はお願いします」
俺の役割はここまでだ。残りの野営作業、調理だったり夜間の見張りはクルト達に託すことになる。
俺は手頃な岩に腰を掛けて休む。しかし事前に話した役割分担とはいえ、こうして一人休んでいるとなんだかすごく悪い気がするな。……いや、俺の役割はプランの後半に集中している。今は体を休めることがチームのためになるんだ、焦るんじゃない。
そんなことを考えながら座って休んでいると、ミニトーナとテルセナが話しかけてきた。
「 おうおう、一人休憩とはいいご身分だニャ 」
「 ちょっと、トーナ! すみませんルーデウスさん。 」
ミニトーナの言葉は本気で言ってるワケじゃなく、単に茶化してるだけだろう。それにテルセナもなんだか板についた謝罪だ。この二人は普段からこんな感じなんだろうな、なんだか微笑ましい。
「 二人にも働かせてる中、休ませてもらって申しワケないですね。 」
「 だ、だいじょうぶですか? 朝から何度も魔術を使ってるみたいですし、体調を崩されたりしたんですか? 」
おとなしい性格のテルセナだが、心配性の気もあるようだ。
「 体調は問題ありませんよ。ただ予定どおりウェンポートから船に乗れた場合、後々頑張らなくちゃいけないんで、今は体力と魔力を温存させているだけです。 」
「 そうなのかニャ? なら休んであたし達に任せるといいニャ。武器ももらったし、なんだったら奴らが襲ってきてもあたしが蹴散らしてやるニャ! 」
片手で武器を掲げ宣言する猫耳少女。だが残念。その手に持つのはマスターな剣ではなく、ただの石の短剣だ。あけすけで無鉄砲なところがあるミニトーナ、気弱で心配性でもあるテルセナ。見事な凸凹コンビだな。
「とりあえず初日はここまで来れました。重要なのは明日になるでしょう」
「うん、そうだね。この先ににあるルーデウスに造ってもらった小屋とヤツらの拠点があるっていう辺りは、より慎重に進むべきだろうね」
簡単に用意した食事を摂りながらクルトと現状の確認を行う。
明日は岩小屋と襲撃者達の船が停泊している場所を通過することになる、通過といっても北側に迂回するような形になるだろうが。プランの中でもここは危険度が最も高い。俺が襲撃者の指揮官なら岩小屋には間違いなく待ち伏せを配置させる。それに自身の拠点には当然見張りはつけるだろうし、近辺に斥候も何人か放つかもしれない。警戒した襲撃者と北側の魔物、やはり明日は接敵する可能性が一番高い。
……ふぅ。自分で立案したプランではあるが、危険度が増してくると思うモノがあるな。
俺が考えた逃走経路。それは"情報が拡散、周知される前に大森林に逃げ込もう"というものだ。
襲撃者達全体の規模や影響力がどの程度なのか俺達にはわからない。しかしミリス大陸大森林で大量の人攫いを行い、船で出航したところから間違いなくザントポートには影響力を持っている。さらに船の規模からして行先は魔大陸ウェンポートだろう。ここにも奴らの組織としての力が及ぶことが推察できる。そして囮にされた獣族の子供達と聖獣、それを保護した冒険者の俺達が奴らの襲撃を迎撃し逃れたという事実。瞬時の通信や伝達手段がないこの世界では、まだこの情報はウェンポートにもザントポートにも知れ渡ってはいない。
情報が拡散し、周知され、人攫いの組織が各都市で警戒する前に海を渡り大森林に逃げ込む。そのために船の襲撃者達より先にウェンポートに辿り着く必要があるし、ウェンポートに到着してからも公的な船に素早く乗る予定だ。私的な船は使えない、裏で奴らの組織とどう繋がっているかわからないからな。獣族の子供の話では雨季でもザントポートは入港は可能ということなので大陸間渡航の船は出航していると踏んでいるが…、もし公的な船に乗船できなかった場合は、即ウェンポート西側に逃げる第2プランに移行するつもりだ。冒険者ギルドで周辺地理の情報を手早く仕入れて、引き続き大トカゲでの逃走になる。
船に乗り無事ミリス大陸に渡れたとしても、ザントポートはすぐに出るつもりだ。大森林までの地理は獣族の子供達が知っているし、情報が届いて襲撃者達の組織に捕捉されるのは避けたい。
雨季の大森林での行軍は俺の魔術で対策を考えてある。かつてロアで家庭教師をやっていた頃に空いた時間で製作していたフィギュアの数々、念ために事前準備中の空いた時間で実験もしている。製作には大陸間渡航の乗船時を充てる予定だ。船に乗ってる数日間は俺は土魔術での製作作業に没頭することになる。
製作物を持って船を降り、即町を出る。大森林の洪水を製作物と魔術を使って行軍する。聖獣が元居たという村まで無事辿り着ければ、襲撃者とその組織の脅威から逃れられると見ていいだろう。
……どうなんだろうか。自分が立てた計画に穴はないか見落としはないか、不安になる。しかしこれ以上のプランを思いつかないのも事実だ。安全策を求めすぎて、この地で時間をかけ過ぎると海を渡るのも難しくなる。海を渡れなければ俺とエリスはアスラ王国へ帰還することはできないし、獣族の子供と聖獣を大森林に送り届けることもできない。やはりリスクはどこかで背負わなければならない。いや、でもそれで万が一にも犠牲が出たりしたら…
「大丈夫よ」
気づけば目の前にいるエリス。……食事の手を止め、少し一人で考え込んでいたようだ。
「ルーデウスはすごいもの、大丈夫よ! それに私だってルーデウスの言う通りちゃんと動くわ!」
赤毛の少女が俺を励ましてくれる。そんなに思いつめた姿に見えただろうか。いや、そうだな。俺達は冒険者だ。行動の結果なんて誰にもわからないし、元々保証なんてどこにもありはしない。こうして仲間が、一番近くにいる子がこう言ってくれるだけで十分過ぎるほど励みになる。
「ありがとう、エリス」
「ふふ、仲間なんだから当然ね」
ああ、彼女の元気はホントに俺の力になるな。
・
行軍2日目、俺達の一行は石小屋を避け回り込むように進行する。石小屋に待ち伏せがいるかどうかは不明。そもそも待ち伏せがいるとしたら周囲に気取られるような大きな物音を立てているハズがない。息を潜めていればさすがのバチロウでも察知はできないので、こうして大きく北側に迂回している。
石小屋を越えてしばらく進行する。このあたりは襲撃者達の拠点である船が停泊しているあたりだ。
ここでバチロウが感知する。彼の報告では魔物ではなく人、少数、魔神語ではない会話。奴らの見張り兼斥候といったところか。発見されないよう進路をさらに北側に回り込むようにとる。すでに以前大型の魔物に襲われた丘陵地帯に足を踏み入れている。これ以上北側には侵入したくはないな。
幸いにも以降は襲撃者達には出くわさず進行できた。日没ギリギリまで行軍したおかげで十分奴らの拠点からは距離を離した。
俺は仲間達の様子を伺う。クルト達も獣族の子供も疲労の色が濃いように見える。進行速度とリスクを考えて日中は全く休憩をとっていない、加えて常に緊張を強いられる行軍だ。気力も体力も削られるのは当然だろう。
しかし、とりあえずは最も危険だと考えられる場所を通過できた。明日以降はもう少しラクには、ならないか。何処であっても今の状況で襲撃者にも魔物にも発見されるのは避けたい。……きつい状況が続くな。
気力と体力を消費しながら俺達の一行は先に進む。
行軍3日目は何事もなく無事距離を稼ぐことができた。
行軍4日目は魔物と接敵した。マッキーラット、体長50センチぐらいのネズミ型の魔物だ。エリス達の近接戦闘と俺の魔術。魔術はなるべく効果範囲を絞って目立たないようには工夫した。魔物の数は多かったが問題なく蹴散らすことはできた。周辺には感知されなかったと信じたい。
行軍5日目、全員疲弊しているのがわかる。会話も少ない。聖獣も心なしか元気がないように見える。しかし、歯を食いしばり俺達は前進する。
そして、行軍を開始して6日目。
俺達は遂に魔大陸南端、ウェンポートに辿り着いた。
「脱出魔大陸」は長くなってしまったため前後編の2話に分けました。
文字数ばかり増えてしまって、なかなか話が進展せず申し訳ありません。
次回予告 「脱出魔大陸 後編」