旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

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 視点変更、多数


028 逃亡の果て

 

 ザアァァーー  ザアァァーー  ザアァァーー

 

 ダッ ダダッ ダッ ダダッ ダダダッ

 バシャ バシャ バシャ バシャシャ

 

「 こっちだニャ。もう少し だニャ。 」

 

 大雨の中を少年少女10人と大型犬1匹が駆ける。

 

 人のできた船長の協力もあって、俺達は魔大陸ウェンポートから6日間の航行でミリス大陸ザントポートまで無事に辿り着いた。しかし、休んでいる暇は当然ない。渡航中に製作した石船パーツを各々が持って船を飛び出し、ザントポートの外門を通過。そして獣族の集落を目指し、こうして走り続けている。

 

「はぁ、はぁ、エリス 体調は どうですか?」

 

「もう大丈夫、奴らがでてきても私がやるから!」

 

 駆けながらの質問に彼女が答える。船を降りた直後は青白い半病人のような顔色だったが、今は調子を取り戻したようで気合の入った表情だ。この様子なら問題ないだろう。

 

 問題があるとすれば、この雨か。話には聞いていたが大森林雨季の雨脚は予想以上に強い、土砂降りと言っていい。この雨と薄暗い視界は、追われている側からすれば奴らから多少発見されにくいというメリットがある。しかし、それ以上に奴らを察知しづらくなるというデメリットもある。バチロウの音による感知能力も獣族の子供や聖獣の鼻も、この環境下ではあまり期待はできない。

 

 一時は海上であれだけ距離を離していたんだ、よもや追いつかれるとは考えにくいが…。いや、最悪は想定しておかなければいけない。クルトの言うように後悔しないためにも。

 

「ルーデウスは平気なの?」

 

 塞ぎ考え事をしていたせいかエリスに心配される。

 

「すみません、少し 考え ごとを。はぁ、はぁ、ここから、集中 しましょう」

 

 そうだ、今は考え事よりも集中してしっかり備えないと。一行10人の内、俺とエリスの2人は自身の武器以外の荷物は持っていない。下船直後のエリスの体調、俺の役割という面もあるが、移動中の接敵、奇襲を受けた際は咄嗟の主戦力として動けるように荷物の運搬はクルト達と獣族の子供達に負担してもらっている。

 

 それにしてもエリス、体力あるな。魔大陸に来たばかりの頃はそれほど差もなかったのに、今ではフィジカル面ですっかり置いて行かれるようになってしまった。俺だって少しは背も伸び、冒険者生活で体力はついているはずなのに。いかん、また考え事を…

 

「 ハァ、ハァ、ここだ ニャ。着いたニャ。 」

 

 ザントポートを出て2時間程度、樹木の多い山だか丘だかよくわからない起伏を越えて走り続けてきたが…。目の前には、ここまでの道のりにあった木々がかわいく見えるほどの立派な大樹の群。そして視線を下げれば、大地が全く見えない圧倒的水量。これが大森林と雨季による洪水か。

 洪水は激流というほどでもないが、結構な水の流れがある。ここを泳いで渡ることは自殺行為に等しいな。大樹の枝を渡り伝えば移動はできるんだろうが、この雨だ、難易度は相当高い。なるほど、獣族の大人でも長距離を移動するのは難しいというのも納得できる。

 

「すぐに石船を組み上げます、パーツをこちらに」

 

「ルーデウス、どのくらいかかる?」

 

「15分あれば。クルト達は周囲の警戒をお願いします」

 

 簡潔にクルトとの(リーダー同士)役割の確認。

 

 洪水手前、開けた場所にパーツを集めて、俺は石船を完成させるための作業に入る。そして、俺以外の皆には周囲の警戒にあたってもらう。

 

 各パーツを手早く組み上げ、魔術で接合。ボレアスの屋敷でも旅の途中でも数え切れない程使ってきた土魔術だ、問題ない。

 2つ、3つ、4つ、パーツ同士を順調に接続していく。接合部分ははっきり言って、不格好な溶接にも似た見た目になっているが気にはしない。今は早く確実に石船を仕上げることが重要だ。

 

 よし、残り半分。このまま完成までもっていく。

 

 

 事前に話していたとおりルーデウスが魔術を使いはじめた。ひとまず作業は順調そうに見える。

 

「ふぅーー……」

 

 息を吐いて剣を握り直す。雨の中なのに手に汗が滲む。自分でも緊張しているのがわかる。

 視界がとおらない、足場もあまり良くない、敵はどこからくるのか、どれだけいるのか。でもやらなくちゃいけない。子供達とセイジュウサマを助けたいって言い出したのは俺なんだから。

 

ギュッギュゥ

 

 もう一度、剣を握り直す。

 俺自身もそうだけど皆にもちゃんと指示を出さないと。戦う時はいつもルーデウスに指揮を頼ってきた。でも今は彼にしかできないことをやってもらってるんだ、俺がやらなくちゃ。

 

 入れ込みすぎてる、わかってはいるが肩に力が入ってしまう。

 ルーデウスならもっと冷静にやれるんだろうな。ついこのあいだ直接話したけど、やっぱり彼は別格ってやつなんだと思う。頭が良くて、戦闘指揮ができて、ガブリン以上に物知りで、見たことも聞いたこともないような魔術をたくさん使えて…。

 別格と言えばエリスもそうだ。出会った頃から剣士として実力に差があるのはわかってた。でも、先生と互角以上にやり合えて、普段も率先して前に出て戦って、旅をしてきたこの1年で差が縮まったとは少しも思えない。

 

 俺、ガブリン、バチロウ。『トクラブ村愚連隊』の3人だけだったら、リカリスの町からここまで無事に辿りつけたのかな。やっぱり、いや、でも…。

 

「テキ! タブン、ムコウ」

 

 バチロウの警告、すぐに意識を切り替える。

 

 バチロウの視線の先、木々の隙間から奴らと思われる男達が姿を現す。

 数は…4人か。思ったより少ない。

 

「いたぞ、こっちだ!」

「絶対逃がすな、足を止めろ」

「応援を呼べ、兄貴にも伝えるんだ!」

 

 仲間を呼ぶつもりか? させない、一人も逃さずここで仕留めてやる。

 

「俺とエリスとバチロウでやる! ガブリン達はここで守りを…」

 

ピイィィィィーーーーーー!!

 

 っ、なんだ? 雨の中でも耳をつんざくような甲高い音が響く。

 奴らの一人が小さな筒状のモノを咥えてるが、あれから音が出てるのか?

 

……ピイィィーーピイィーー!

 

…………ピィィーー…ピッピィィーー…

 

………………ピィィー……ピィピィィー……

 

 少し間をおいて。すぐ近くから、あるいは遠くから似たような音が響くが、これは一体…?

 あっ、音か! これ、たぶん俺達の合流方法と同じ、音の信号だ。

 

 くそっ、もう目の前の敵を斬っても手遅れだ、すぐに奴らが集まってくる。襲撃された時は20人近くいた。少なく見てもそれぐらいだ、今回はもっと多いかもしれない。

 

 俺は振り返ってルーデウスを見る。彼もこの異変と異音に気づいてるようだ。

 

 逃げる、ことはできない。運んできた石をまた運ぶことも、ここに捨てることもできない。アレがなければ流れてる水の上を移動できない。そして獣族の村を除いたら逃げる先なんてない。

 

「ルーデウス! あとどれくらいかかるっ?」

 

「~~~っ、 3分! 3分ください、それまで時間を稼いで!」

 

「了解!」

 

 俺の叫ぶような問いかけに彼が答える。

 ああ、やっぱりルーデウスを頼ってるなぁ。でも、3分。それぐらいは俺だってやってやる、リーダーとして自分の役割と責任を果たしてみせる!

 

「ここを守る! 俺とバチロウが一番前に! 皆もなるべくこの場所から離れず戦うんだ!」

 

 周囲に身振り手振りを交えて指示を出す。獣族の子達も石の短剣を持って頷いたところを見ると、こっちの言いたいことは伝わったと思う。

 

「エリスは好きに動いてくれ。でも例の…」

 

「わかってるわ、あの男は私が相手するから」

 

 話を聞いた限りだと、『傷の男(スカー)』とかいう奴は俺とバチロウじゃあ手に負えない。俺達のエースにやってもらうしかない。

 

 ダッ ダダッ ダダダッ

 

 最初に見た敵とは別方向から、武装した男達が駆け寄ってくる。奴らの仲間が集まりだしたな。

 

 ここを守る、皆を守る、時間を稼ぐ、やってみせる。

 

「バチロウ、前に出るよ!」

 

 

 テキ、オデにむかってくる。モンダイない。グッ。

 テキ、クルトにむかう。やらせない。ウグッ。

 

 テキ、とおしたくない。デモ、ゼンブはムズカシイ。グフッ。

 テキ、できるだけひきつける。グゥッ。

 

 イタイ、スゴク。

 デモ、イタイのはガブリンとルーデウスがナントカしてくれる。モンダイない。

 

 テキ、またフエタ。

 デモ、いきのこる。ミンナ、いきのこる。

 

 

 傷ついた獣族の子ニ素早く駆け寄る。

 傷はそれなりに深いケド、これならなんとかなりそうデス。慌てず、落ち着いて詠唱ヲ。

 

「神なる力ハ芳醇なる糧、力失いしかの者ニ再び立ち上がる力を与エン『ヒーリング』」

 

 フゥ、これでヨシ。

 

 人攫い達の仲間が矢継ぎ早に寄ってくる、もうワタシ達よりモ相手のほうが人数が多イ。

 味方モ負傷する者が増えてきタ。敵の数を減らさないト、形勢はドンドン不利に傾いてゆク。

 でも獣族の子と大差もない、ワタシの戦闘力なんてタカが知れてマス。だから、自分にできることを全力でやりマス、仲間を信じテ。

 

 周囲を見渡す。前線のバチロウの傷が多イ、次は彼の治療ヲ。

 

 

 やってやる、やってやる、ヤッてやるニャ。

 

 テルセナの言うように聖獣様を村に、聖木の元まで帰ってもらうことは大事なことニャ。でもアイツらがあたしになにしたか…、絶対、絶対に思い知らせてやるニャ。

 

 今なら武器だってある、できるニャ。

 

「 シャァァーー! 」

 

 

「 汝の求める所に大いなる水の加護あらん、清涼なるせせらぎの流れをいまここに『水弾(ウォーターボール)』 」

 

 何度目かの魔術、息がきれる、苦しい。気持ち悪い。

 

 周りの怒号、叫び声、うめき声、剣戟音、そして血の匂い。

 足がすくむ、怖い、怖くてたまらない。今すぐ(うず)くまって泣きたいよ。

 

 でも…、今なにもしなかったら、きっとまた同じ目にあう。嫌だ。

 体を押さえつけられ、自由を奪われ、蹂躙される。あんなのは、もう嫌だ。

 

 トーナと聖獣様と村に戻る。トーナも…、あれ? トーナは?

 

 

 正眼に構えて奴を見据える。

 私の真後ろにはルーデウス、ここから先には行かせない。

 

「で、結局俺の相手はおまえかよ」

 

「…………」

 

「女ぁ、忘れたのか? 前にやった時は余計な横ヤリが入ったが…。おまえ、俺に一度負けてんだぜ?」

 

「…………」

 

 この男、相変わらずよく喋る。

 でも気にしすぎることはない、どうせ大したことは言ってない。

 

「黙ってないで何とか言え、よっ!」

 

 踏み込んでくる、逆袈裟気味の斬り上げ。

 外せる、1歩下がる。

 

ヒュン

 

 外した、反撃。踏み込んで胴に横な… 視界の端の奴の剣が止まっていない!

 

クルッ

 

 くっ。

 

ガキィンン

 

 反撃の動作から、無理矢理体勢を直して防御する。

 危なかった、でもなんとか2連撃目の打ち下ろしは防いだ。

 

「…………」

 

ツゥーー

 

 防御が遅れたせいで少し頬を斬られた。

 でも大した出血じゃない。視界にも影響はない。

 

「前は猪のように突っ込んできたっつーのに、今回は"待ち"かぁ? まあ返し技のいいカモだったもんな。はっ、獣も少しは学習するってことか」

 

「…………」

 

「ちっ、ダンマリかよ」

 

 奴とは2歩の距離。足場はそれほど良くないけど、踏み込もうと思えば踏み込める。

 でも、ルーデウスは"時間を稼いで"と言った。

 

「水神流も(かじ)ってないような腕前で受けにまわるとはな。俺も甘く見られたもんだ、なっ!」

 

 奴が間合いを詰めてくる。

 

 時間を稼ぐ、ルーデウスの所には行かせない。やる!

 

 

 

 

 

 幾合もの打ち合い。ううん、打ち合いじゃない。

 攻撃側と防御側は固定されてる、奴の攻撃を私が防ぐ一方的な攻防。

 

「はぁ、はぁ…、フゥー…」

 

 息を整える。

 

 少し、わかった気がする。

 奴のほうが攻撃も防御も巧い。でも、足の運びと剣速は私のほうが上。相手はフェイントも緩急も織り交ぜてくるけど、大丈夫、全部避けて全部防ぐつもりで動けばいい。多少の傷はつけられても、致命傷は負わない。ルーデウスの言っていた時間は稼げる。 

 

 数歩分の距離。息を切らしながら奴が再び口を開く。

 

「はっ、少しは頭を使ったみたいだが、所詮は獣だな」

 

「…………」

 

 集中、奴の動作の起こしを見逃すな。

 

「阿呆が。……射線、空いてるぜ」

 

「っ!?」

 

 投擲の動作、しまっ……

 

 

 ちくしょうが。赤髪の女、今回は挑発に乗ってこねえ。

 

 こっちはもう既に大損失、大損害がほぼ確実だっつーのに。イラつくぜ。

 

 帆の破れた船でウェンポート近くまで無理矢理の航行、海上での突貫修理、調達部隊が仕入れた情報を元に追跡、それまでの無理がたたったのか渡航船に追いつけもしねえ。こいつらが聖獣の村に向かうと踏んで、この場まで最短を突っ切ってきた。ザントポートは無視して近くの海岸に接舷、いやほとんど座礁だ。……船1隻分の損失。

 

 補填があるとすれば、船に残ってる分とこの場にいる獣族のガキ共。それと目の前の女の得物、前回から目を付けてたがスゲェ業物使ってんじゃねえよ。

 あとは…女の背後に見えるのは、何だありゃ? 船、なのか? よくわから…、いや、前に似たようなモノを見たな。そうだ、魔大陸南岸で見た石でできた小屋だ。あの魔術師モドキ、どんだけ破格の魔力付与品(マジックアイテム)を使ってやがる。まあいい、金にはなるか。

 

 聖獣の回収、獣族のガキ共の回収、金の補填。あとは組織の上層部へ言い訳。そこまでやってプラマイゼロ以下とはよぉ、クソが。

 

 獣族のガキ共はいいとして人族と魔族、こっちはいらねえ。この場で全員殺す。

 

 それにしても、この猪女が受けにまわるとはな。まともにやり合えば負けるとは思わねえ。しかし、速さは強さだ。足も手も速い奴に待たれると、殺しきるのはなかなか難しいぜ。

 魔術師モドキ、魔力付与品(マジックアイテム)の回収から先にやるか? 上手いこと仕留められれば、この不感症女も少しは反応してくれそうだしな。

 

 踏み込み、斬撃、フェイント、連撃。

 次は突き、に見せかけて横なぎに変化。

 再度の踏み込み、少しだけ歩幅を縮めて距離感を狂わせてから、もう1歩踏み込む。

 反撃したくなるよう一瞬間を置いてからの引き打ち。

 すぐに間合いを詰めて上段からの打ち込み、を止めて下段蹴り。

 真正面から連続突き、からの眼球を狙った貫き手、は躱されるか。

 

 ふぅ、なかなか働かせてくれる。だが、これで準備は整った、なんとか誘導できた。

 女ぁ、自分の位置がおかしいことに気づけてねえな。

 

「はっ、少しは頭を使ったみたいだが、所詮は獣だな」

 

「…………」

 

 視線は動かさねえ、わずかに狂った位置関係をギリギリまで悟らせるな。

 

「阿呆が。……射線、空いてるぜ」

 

「っ!?」

 

 魔術師モドキ、狙いは首、できれば一撃で仕留める。

 どんな魔力付与品(マジックアイテム)かは知らないが壊れてくれるなよ。

 

ビュン!!  

 

 投擲した剣が魔術師モドキに一直線に向かって…

 

ビュン!

 

キィィン

 

 

 

 はぁあ? なんだそりゃ?

 俺が投擲した直剣が、女の投擲した業物に防がれただとぉ?

 

 コイツ、実は北神流も修めて…

 

「フンッ、結構簡単ね」

 

 このクソ女ぁ!

 

 いや、落ち着け、冷静になれ。

 違う、冷静になるのは頭だけ。感情はそのまま顔に出せ。

 

 お互い剣を手放した状態、だが女が腰に短剣を帯びてるのはわかってる。

 

 そら、抜けよ。ほら、腰のモン抜けよ。よし、抜いたな。

 こっちは武器無しだぜ? 仕留めに来い、仕留める好機だろ?

 冷静さを欠いた相手に迂闊に近づいてこいよ。

 ……背中に予備武器の短刀を隠し持ってるけどな。

 

 ちっ、なかなか近づいてこねえ。何を慎重になってやがる。ここは挑発の一つでも…

 

「 相手は丸腰、チャンスだニャ! シャァーーー!! 」

 

 獣族のガキ? どっから出てきやがった!

 

「っ! バカ、前にでるな!」

 

 

 こいつで、最後!

 よし、後半はほとんどやっつけもいいところだが、これで石船は完成だ。

 

 顔を上げ周囲を確認する。作業中でも耳に届いていた音で察してはいたが…、さして広くもないこの場所に、いくつもの戦闘、雨で滲んだ血の色、ここはもう完全に多対多の戦場だ。

 

「集合っ! 撤退します!」

 

 雨の中、戦闘中でも届くように全力で叫ぶ。

 

「 石船に乗ってください、早く! 」

 

 手前の獣族の子供達を石船に誘導する。負傷、血の跡、相当無理をさせてしまっている。

 戦場を見れば…、最後尾はクルトとバチロウか。殿(しんがり)を務めてくれてるな。

 エリスは? エリスがいない?

 

「『水砲(スプラッシュフロウ)』」

 

 クルト達を援護しつつ、エリスを探すが、どこだ?

 

 最後尾の二人も石船に乗り込む。

 

「クルト、エリスがどこにいるかわかりますか?」

 

「いないのっ!? 俺もわからない!」

 

 クルトにエリスの所在を確認するが、彼もわかってないようだ。くそっ。

 

「『水砲(スプラッシュフロウ)』!」

 

 手前の襲撃者を魔術で吹き飛ばす。くっ、いつまでも捌ききれないぞ。

 今、石船に乗ってるのは1、2…8人と1匹。エリス以外にも誰かいない? ミニトーナ?

 

「ルーデウス! 遅れた、ごめんなさい」

 

「エリス!」

 

 頬を血で濡らした赤毛の少女が姿を現す。

 彼女が肩に担いでるのはミニトーナか。負傷してる!? 意識もないのか?

 

「ガブリン、治療を! 船を出します、皆どこかに掴まって!」

 

 最後のエリス達が石船に駆け込むのを確認する。

 

 目の前の襲撃者達、あの傷痕の男『傷の男(スカー)』は視界の中にはいないようだが…。本当に、本心から、もう二度とお前達のことは見たくもないし、会わないことを願うよ。全開、

 

「『衝撃波(エアバースト)』!!」

 

 

 

 

 

 

 全力の風魔術。特大の衝撃波が幾人かの襲撃者諸共、雨も地面も、そして俺達が乗った石船も吹き飛ばした。

 

「はぁ~…」

 

 船尾から見える辺り一面の洪水と大樹の群、視界自体が悪い影響もあるが襲撃者達の姿はもう見えない。どうやら魔術で上手いこと石船を発艦、距離を稼ぎつつ無事に着水できたようだ。俺は肩の力を抜く。

 

 ザバアアァァァァァァ バシャババシャバシャ

 

 吹き飛ばした雨と土が、水の塊と土砂となって遅れて降り落ちてくる。

 さすがに全力の魔術は威力が過剰だったかもしれない。渡航中に丁寧に造った石船が壊れることはないと思うが…。いや、接合部は雑な造りだ。あとでチェックしておかないと。

 

「皆も大丈夫ですか? かなりの……」

 

 俺は振り返って仲間に声をかけようとするが、目に写った光景が理解できない。

 

 横たわった猫耳の少女。

 深手を負ってるのは一目でわかる、治癒魔術を施されていない?

 周りの仲間も獣族の子供達も治療に動いてる気配がない。

 

「ガブリン、何をやってるんですか! 急いで治癒魔 ぐっ!?」

 

 少女に近づこうとしたところでクルトに止められる、体ごと、強く。

 

「……ルーデウス、もういいんだ」

 

 えっ?

 

「……もう亡くなってマス」

 

 え?

 

「……ごめんなさい、たぶん私が連れてきた時には、もう…」

 

 うそ、だろ?

 

「 ぁぁあぁあ いやぁあ いやあああぁぁ トーナァ トーーナァァ 」

 

 

 

 魔大陸で保護した獣族の子供達と聖獣。

 襲撃者達の手から逃れるため、俺達は大森林まで全力で逃走した。

 でも、全員は辿り着けなかった。

 

 雨音とテルセナの悲痛な叫びが、雨季の大森林に冷たく響いた。

 

 

 




 多対多の戦闘ということで、視点の変更が多い描写にしてみました。一応、時系列順にはなっています。ただエリス→ガルスのあたりは一部時間が重なっているところがあります。

 次回予告 「ドルディア集落でのハードライフ 変化と変質」


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