旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

29 / 31
 下品、不快な言葉や表現あり


029 ドルディア集落でのハードライフ 変化

 

 ザアァァー  ザアァァー  ザアァァー

 ザアァァァ  ザアァァァ  ザアァァァ

 

 雨。

 雨か…。

 

 ゆっくりと瞼を開く。

 視界に入るのは木材を編んだような造りの天井。ここ数日の間はずっと寝込んでいたが、目を覚ます度に見える光景だ。そして、常に耳に届く降りしきる雨の音。

 

「あと2ヵ月…」

 

 聞いた話では、この雨はあと2ヵ月弱続くらしい。大森林の雨季は本来3ヵ月程、俺達は雨季のほぼピークとなる時期に大森林まで辿り着いたということになる。

 

 寝台の上で体を起こす。

 

 ザアァァァ  ザアァァァ  ザアァァァ  ザアァァァ

 

 窓から見えるのは相変わらずの雨模様。

 部屋に一人、この景色、この雨音。数日前のことを思い出す。

 

 

 

 襲撃者達の手から逃れたと思った矢先、獣族の子の一人、ミニトーナの死が発覚。

 

 あの場の失意と落胆、犬耳の少女の泣き声。出会ってからの期間はそれほど長いってワケではない、特別に親しくなったというワケでもない。けれど、あの子の天真爛漫なところや無鉄砲さ、鋭い毒舌も短剣を掲げて意気込む姿もはっきりと覚えている。だから、どうしようもなく辛くて、やるせなくて。

 

「ふぅぅ…」

 

 "失うこと"っていうのはこういうことを言うんだろう。俺でこうなんだ、仲が良くいつも一緒にいたテルセナは…。

 

 俺は仲間を、エリスを失ったらどうなってしまうのだろう。想像することもできない、そんな仮定を考えることすら拒否したい。失いたくない。失うなんて、絶対に嫌だ。

 

 同時に自分自身に嫌悪感を抱く。何を身勝手な、どれだけ自分に都合の良い甘い考えをしているんだと。俺は人を失うことに対して、そう感じる資格があるのか? 俺は生前、親が亡くなった時でさえ、親の葬式ですら…。

 

「はぁぁぁぁ…」

 

 ダメだな。気分が暗く沈む、思考がネガティブに傾く。すでに仲間はしっかりと動き始めてるっていうのに。こんな後ろ向きな姿勢が続くのも、先日からの体調不良の影響が少しはあるかもしれないが。

 

 ミニトーナの死の発覚後、遺体は俺の魔術で氷漬けにした。石船も大樹の枝上も荼毘にふすことができるほどの火力には耐えられないので、応急的に処置をした。

 それから獣族の子供達による案内と俺の水魔術で石船を操って、大森林の洪水を丸2日かけてどうにか渡った。移動中の俺はほとんど休まず睡眠もとっていない。そもそも船の操作は俺にしかできない。一度大樹に石船を土魔術で括り付けようと試みたが、洪水の流れの負荷が大き過ぎて諦めた。

 

 元から逃走経路の後半は俺の負担が大きいとはわかってはいたが、結局このあたりの無理がたたって体調を崩した。獣族の集落に着く頃には、意識も朦朧としていて正直あまり覚えていない。

 

 集落に到着後、俺は滞在用に借りた部屋の一つでもう4日も寝込んでいる。今日までエリスの看病、ガブリンの治癒魔術、獣族の人達からも食事をはじめとした手厚い看護を受けていたが…。

 

「そろそろ、起き上がらないとな…」

 

 体の調子はだいぶ戻ってきている、すでに病人の域とは言えない。しかし、どうにも体に力が湧いてこない。……エリスに会いたい。

 

 寝台から降り、俺は身支度を整え始める。

 

 この天候では判断しづらいが、今は夕方前といったところか。クルト達もじきに戻ってくるだろうし、エリスもその辺りにいるはずだ。テルセナと一緒だろうか。

 

 詳しくは知らないが、彼女は俺の看病をしている時以外は大半はテルセナと過ごしているらしい。同性で年も近く、親友を亡くしたばかりの犬耳の少女。エリスも心情を察して人に寄り添えるんだな…、いや、これは彼女に対してあまりに失礼か。俺はいつも彼女に元気づけられてもらっているというのに。

 

 

 

「ルーデウス殿。もう起き上がられても平気なのですかな?」

 

 部屋を出ようとしたところで2人組に声をかけられる。

 

「ええ、ギュスターヴさん。十分休ませて頂きました。寝床に食事、色々ご迷惑をおかけしてしまって…」

 

 俺は謝辞を兼ねて挨拶を返す。

 声をかけてきた老戦士風の男はギュスターヴ・デドルディア。この集落の長であり、ドルディア族の族長にあたる人物だ。

 付き添っている女性はラクラーナ。いかにも裸に剥いて冷水をぶっかけてきそうなドSクール系の見た目をしているが、寝込んでいた俺に食事を運んできてくれたお世話係のような人である。

 

「どうかお気になさらないで頂きたい。ルーデウス殿と皆様方には感謝してもしきれぬ身、この程度のことは当然ですから」

 

 これだ。クルトも言っていたが獣族の人達は過剰なまでに俺達に感謝の意を示してくる。それもおべっかとか上辺だけ、というワケではなく本心からのものを。

 

「聖獣様を取り戻して頂いたことには、改めて部族を代表してお礼申し上げる。本来ならば我らが命を賭して果たさねばならぬこと、その業を成して頂いた皆様は獣族の、いや大森林の英雄と言っても過言ではありません」

 

 と、いうことらしい。保護した子供達の様子で察してはいたが、あの犬コロはどうやら本当に獣族の上位者、崇拝の対象って感じのようだ。俺には愛嬌のあるモフモフにしか見えなかったが。

 

「はじめに保護に動いたのはクルト…、ああ、仲間の白髪の奴ですから。僕はそんな…。それに他に攫われた子供達も、何よりあの子を救えなかったことは…」

 

 遠慮や謙遜ではなく、後ろめたさ。

 あの子、ミニトーナは今話しているギュスターヴの孫娘という話は聞いている。

 

「それこそお気になさらずに。あの子のことは残念でしたが…。元々は聖獣様と子供達を無様にも攫われた、防ぐことも捕らえることもできなかった我らの不甲斐なさが故。ルーデウス殿が責任を感じる必要は全くありませんよ」

 

「…………」

 

 どう言葉を返せばいいのわからない。

 ギュスターヴはそう言ってくれるが、逃亡先も逃走手段も案を出したのは俺だ。今となってはもう遅いとしても、どうしても考えてしまう。あの時、魔大陸で子供達と聖獣を保護した時、もっと別の手段、別の行動はできなかったかと。寝込んでいる間もずっと頭を駆け巡っていた。何かが違っていれば猫耳の少女は今でも、と。

 

「…フム。ところでルーデウス殿は出歩かれるようですがどちらまで? 食事なら運ばせますが」

 

 話題が変わってくれたか。どのみちこのあたりのことはどこまで掘り下げても、ベストもベターも結論づけられそうもない。

 

「おかげさまで体調はほとんど回復したので、今は散歩がてらエリスを探しに行こうかと」

 

「私もエリス殿の所在は存じ上げないが…。フム、それなら私もご一緒しましょう。男二人の散歩というのも味気ないですが、たまには良いでしょう」

 

 突然の同行願い。ただ族長さんよ、先程から会話に入ってないとはいえ一人忘れてるんじゃないか、と思ったが、どうやらラクラーナさんは一緒には行動しないようだ。

 

 

 

 言葉通り、俺達は男二人並んで歩き始める。

 

 体調を崩し寝込んでいたせいで、こうして獣族の集落を出歩くのははじめてだが…。視界に入るのは木の上に構えられたいくつもの住居に通路、木と木を繋ぐ渡し橋。地面は相変わらず洪水に覆われているため、自然とこういった生活様式になるんだろうか。

 

「どうですかな? 我らの住処は。人族のルーデウス殿には少々退屈に見えるやもしれませんが」

 

「いえ、大森林に来たのははじめてですから。むしろ見えるもの全部が新鮮に感じますよ」

 

 歩きながら考える。ギュスターヴに対してはやっぱり気まずさはあるな。ミニトーナの件を置いておいても、目上ではるか年上の人間がやたらと仰々しくも丁寧に接してくるので、どうにも畏まってしまう。年齢に関しては実際の年数は当て嵌まらないけど。

 

「…………」

 

 う~む。この族長、なんだかボレアスの屋敷でサウロスやフィリップを相手にしているような感覚だ。会話の主導権は常に握られてる感じがするし、一番上の立場の人相手ということもあって、こちらも態度を崩しにくい。あと、あまりに違和感なく話しているので今気づいたが、ごく自然と人間語を使ってる。

 

 う~~ん。それならいっそのこと、もっと友好を進める方向に踏み込んでみるか。向こうも好意的なのは間違いないし、俺達はあと2ヵ月はここに滞在することになる。知りたいことも色々あるし、仲を深めること自体に損はないと思う。

 

 そこからは俺はギュスターヴに色々と話を聞いた。当初のエリスを探すことと散歩という目的はどこにいったのかという程に。おかげで色んなことを知ることができた。獣族、デドルディア、アドルディア、別の集落、戦士団、戦士長、秘伝魔術の存在、大森林と周辺の地理、食事事情…。

 話の途中にあった聖獣と聖木については詳細が(ぼか)されたが、そこは宗教や信仰といったものだから機密だって当然あるだろう。我が神の御神体(パンツ)もちょっと人には言えないしな!

 

 

 

「……では雨季と言っても魔物の危険性はやっぱりあるんですね」

 

「ええ。我らの住処は人族の町のように塀や壁といったもので囲えるワケではないので、どうしても魔物の侵入を許してしまう。通年であれば戦士団が見回りをして対策をとっているのですが…。クルト殿達には感謝しております。本来は部族の戦士がやり遂げねばならぬこと。しかし今年は聖獣様や子供達の件もあって、どの集落も人手不足といった有様で。情けない話です」

 

 ふむ。このあたりの事情もあってクルト達は見回りの手伝いに動いているんだろう、直接話を聞いたか察したかはわからないが。それに、そういったことなら俺も動かないとな。クルト達だけに苦労をかけるワケにもいかない。

 

 あれ? いつの間にか、沈んでいた気分が少し軽くなってる気がする。

 ああ、そうか。こちらが引け目を感じる話を避けて、知りたいであろうこと、興味を示す話題、行動するのための理由。……気を遣ってもらったのか。

 

「そういうことなら僕とエリスも協力しますよ。それとギュスターヴさん、ご心配おかけしたようで、すみません」

 

 俺がそう返すとギュスターヴは一瞬驚いた顔をしてから、

 

「フフ、どうやらルーデウス殿は謙虚なだけでなく聡明であられるようだ。寝込んでいると、どうしても塞ぎがちになりますから。外に出て少しでも活動すれば、精神的な疲れを癒すこともあるでしょう。もちろん体調が戻られていることが前提ではありますが。出過ぎた真似でしたかな?」

 

「いいえ、ご配慮ありがとうございます」

 

 なんというか、この人はいい意味で相手を転がせる、扱えるといった感じだな。これまでに出会ったルイジェルド、ミグルド族里長、ブレイズ、ロドリゲス、バルバロス船長といったどこか尖ったところがあっても、できた人間とはまた違ったタイプ。()()()人間ってところか。

 ん? そういえばギレーヌもギュスターヴと同じデドルディアと名乗っていた記憶がある。ドルディアの集落はここ以外にも存在するらしいが、ひょっとしたら知っているかもしれない。

 

「少々お聞きしたいのですが、ギ…」

 

「うるさいっ! アンタに何がわかるのよ!」

 

 質問をしようとした瞬間、辺りに響く金切り声。

 この声はエリスだ。何かあったのか?

 

 ギュスターヴと目配せをして、すぐに声の発生元と思わる場所まで急ぐ。

 目の前には他の住居に比べて大きく造りも丁寧な家屋。まだ中からエリスの怒声が聞こえるし、ここで間違いないだろう。

 一瞬、無断で家屋に足を踏み入れて良いかどうか迷ったが、ギュスターヴが躊躇なく入っていくので俺も続く。

 

 

 

 家屋の中には屈強な男をはじめとした何人かの獣族の人間とテルセナ、そして…

 エリスが泣いている?

 

「……ひっく…えぐっ。そんなこと…言われるような…ひっく」

 

 涙を浮かべ体を振るわせながら、そう(つぶ)やいている赤毛の少女。聞こえてきた金切り声や怒声からは想像もしていなかった光景。

 

 予見眼を開く。エリスの元まで駆け寄り、右手を屈強な男に照準する。

 

「お待ちくださいっ、ルーデウス殿! どうか冷静に。

 ギュエス、説明しろ! 何があったというのだ?」

 

 ギュスターヴの静止と男に問いただす声。

 頭が沸騰しかけたが、冷静になる。大丈夫、俺は冷静だ、右手は下げないが。

 

「……僕からもこの状況の説明をお願いします」

 

「あ、ああ。その、エリス殿と愚妹の話になったもので…」

 

 彼の説明では、どうやらつい先ほど考えていたギレーヌについての話題らしい。

 話の内容は、まずは目の前の男ギュエスはギレーヌの兄であるということ。続いてギュエスのギレーヌに対する評価だったのだが、これが実に酷いモノだった。不良、不出来、乱暴者、悪童、一族の面汚し。問いただされているためか多少言葉は取り繕ってはいるが、聞くに堪えないものばかりだ。

 

 なるほど。ギレーヌに懐いていたエリスにとっては気に入らないだろうし、よく殴りかからなかったものだ。彼女が泣いていたのは失意や傷心からくるものではなく、怒りや悔しさを外には発散せずに内に溜め込んだせいなのだろう。

 彼女の気持ちはとてもわかる。しかし、それとは別に身内からの評価というものはおおよそ正しいというのも知っている。血の繋がった者がすぐ傍でずっと見てきた姿、ギレーヌはギュエスの言うような酷い人物だったのかもしれない。

 でも、それは過去の話だ。

 

「たしかにギレーヌはギュエスさんの言うような人間だったのかもしれませんね」

 

「っ!? なんでよ、ルーデウスはギレーヌのこと、嫌いなの?」

 

 俺の発言にエリスが驚きと悲しみが入り混じった表情で言葉を返してくるが、早まらないでほしい。

 

「もちろん僕もギレーヌのことは好きですよ。彼女には何度も危ないところを助けてもらいました。それにエリスの家で3年近く剣術を教えてくれた尊敬できる師匠であり、僕の授業を真面目に受けてくれた生徒でもありますしね」

 

「そうね! ギレーヌはすごく強いものっ! ふふ、ルーデウスの授業をギレーヌと一緒に受けたのも懐かしいわね」

 

 一転、明るい表情になった赤毛の少女。しかし今度はギュエスの表情が驚愕に染まる。

 

「ま、待っていただきたい。ではギレーヌは獣族の英雄たるお二人の師にあたり、あまつさえルーデウス殿の教えを受けた弟子であると?」

 

「そうよ! ルーデウスが私とギレーヌに教えてくれたんだから。今のギレーヌは読書きと算術と魔術だって使えるんだから。ギレーヌ、とルーデウスはすごいのよ!!」

 

 ギレーヌのついでであっても、目の前でプッシュされると本人としては照れくさい。

 

「いや、しかし、お二人の言葉を疑うワケではないが…、あのギレーヌが? 暴力しか能がなかったアイツが読書きと算術に加えて魔術まで? いや、しかし…」

 

 ギュエスがだいぶ困惑しているのが見てとれる。まあ先程彼が自ら言葉にしたギレーヌのイメージと俺達の話はだいぶかけ離れてるしな、混乱するのもわかるが…。

 

「"変わった"ということじゃないでしょうか?」

 

「変わった?」

 

「ええ。ギュエスさんが見てきたギレーヌはきっと本当のことなんでしょう。そして僕とエリスが見てきたギレーヌも事実です。なので彼女も"変わった"んじゃないかと。大森林を出て、年月が経って…。冒険者をやっている時もそうでない時も勉強不足で色々苦労したみたいですしね」

 

「そのようなこと、いや、例え多少の苦難があったとしてもあの悪童に、ありえるのか?」

 

 ギュエスはまだ信じ切れていないという様子だな。

 

「ギレーヌは食べ物の残った量をまちがえて、魔物のう〇ちを食べたって言ってたわ!」

 

 ちょ、エリスさん? いきなり何を?

 

「ひとに騙されてお金を全部とられたって言ってたし、地図が読めなくて迷子になったって。ギルドで文字が読めないから大変だって、買い物もうまくできなくて苦労したって…」

 

 怒涛連打のギレーヌ苦労話。そういうセンシティブな内容を含む話は本人のいない所でするのもどうかと思うが。まあ自分が尊敬する師匠(ギレーヌ)を認めてもらいたくて、彼女なりの必死さのあらわれってところか。

 

 そうだな、俺だってギレーヌのこと認めてほしいと思う。すぐに全部は無理でも、少しずつでも。

 

 ……ふぅ

 

「ギュエスさん、僕は人は"変われる"と思ってます。そう信じて今、生きています。

 僕も以前は、……屑と呼ばれる類の人間でした」

 

「え…? ルーデウス殿が?」

 

「自分勝手で、人の気持ちを考えることができなくて。そのクセ自分には甘くて、周りには言い訳と屁理屈ばかりを並べる。何をやっても中途半端で終わって、何も成せない。身内にも見限られて、何とかしようという気概も持てずに、ただ諦める。そんな人間です」

 

「ルーデウスはそんなんじゃ…」

「エリスの家に行く前の話です」

 

 少女の言葉を遮って、続ける。

 

「魔術の師匠に出会って救われて、それからエリスやギレーヌと過ごして、仲間と旅をしてきて…。自分の力も頭も足りてない中で"変われる"ように毎日足掻(あが)いてます」

 

「ルーデウス殿…」

 

「ギュエスさんやギュスターヴさんは英雄だの何だの言ってくれますが、僕は本当はこういった男なんです。だから、もし思うところがあるのなら、ギレーヌのこと認めてくれませんか? いえ、認めて頂けなくても、もしギレーヌと再会されたら拒絶せずに話だけでも聞いてあげてくれませんか?」

 

 多少語弊があるかもしれないが、発した言葉自体には嘘はない。でも、人には話せないこと(生前と転生)、自分の願望も入り混じってること。ああ、やっぱりズルいなあ、俺って人間は。

 

「……わかりました、ルーデウス殿。自分も己の中で腑に落ちたというわけではないが。あいつ、ギレーヌと再び会うことがあったのなら、その時は話だけでもしてみるつもりです」

 

 まあ、この辺りが妥協点か。他人(ヒト)に言われたからって完全に納得するようなものじゃないし、あとは直接本人とやりとりしてもらうしかない。

 

 

 

 ギュウ

 

 いきなり抱きつかれる。背後から、包まれるように。

 

「エ、エリス?」

 

「ルーデウスはルーデウスよ。今も、会った時から、私にとっては、ずっとルーデウスだわ!」

 

 意味不明な口述になっているが、でも彼女の言いたいことはわかる。

 

「ありがとう、エリス。そう言われるくらいには僕は"変われた"のかもしれませんね。それに、エリスにそう言ってもらえて僕も嬉しいですよ」

 

「……うん」

 

 抱きしめてきた手に触れながら俺は答え、少女もまた答えてくれる。

 そうか。俺も少しは変われた、どうにか人生をやり直せているってことでいいのかな。

 

「"変わった"といえばエリスも変わったと思いますよ」

 

「えっ、そ、そう?」

 

「エリスの家で初めて会った時、僕、エリスにボコボコにされましたけど?」

 

「あ、あれは! その、…ごめんなさい」

 

「はじめのうちは、読書きと算術の授業はなかなか受けてくれませんでしたし」

 

「あ、あれも、その、…ゴメンナサイ」

 

 これはいけない、なんだか楽しくなってきた。

 

「蹴られたことも、股間を踏みつけられたこともありましたねー」

 

「ぅ~~、ルーデウスのいじわる」

 

 ちょっとやりすぎたかな。背後から抱きしめられてるせいか顔が見れないのが残念だ。

 

「でも今のエリスは僕にとって、頼りになって、カッコよくて、信じられる人ですから」

 

「そ、そう? それならいいわ! …ありがと」

 

 発した言葉に嘘偽り一切なく、100パーセントの本音。

 ああ、やっぱり彼女の顔が見れないのが残念だ。

 

 ん?

 

「「「……………………」」」

 

 俺とエリスを黙って見つめる、目の前の獣族の方々。

 ………………人前で何をやらかしちゃってるんだろうか、俺達は。

 

「フム。エリス殿がいるのなら、私が気にかける必要はありませんでしたかな」

 

 族長、そんなことはありません。先程の配慮に救われたのは事実です。

 

「 はぁ~…すごい。その、お二人はやっぱりそういう…。うわぁ……すごすぎです 」

 

 テルセナ、そんな真っ赤な顔して感心しないでほしい。こっちが余計恥ずかしいわ!

 

「エリス殿がそういうことなら、ひょっとして今のギレーヌも? いや、しかし…」

 

 ギュエス、さすがにその妄想は突飛が過ぎると思う。俺だってギレーヌのこんなスイートな感じなんて想像できない。

 

 

 

 獣族の集落に辿り着いて5日目。

 床に伏せた状態からようやく起き上がれた。

 ただ俺のメンタルは落ち込んだり、沈んだり、跳ね上がったり、照れくさかったり…。

 ドタバタと目まぐるしく激動した1日だった。

 

 

 




 本話は前話に掲載した次回予告から少しだけタイトルを変更しました。

 次回予告 「ドルディア集落でのハードライフ 試み」



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。