旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

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030 ドルディア集落でのハードライフ 試み

 

 ザアァァー  ザアァァー  ザアァァー

 ザアァァァ  ザアァァァ  ザアァァァ

 

 

 

「ルーデウス、そっちに行ったよっ!」

 

 オーケー、準備はできてる。俺はストラップのついた杖を構えて、クルト達が追い込んだ魔物が視界に入るのを待つ。

 

 きたな。体長3m程の海蛇にも似た魔物が姿を現す。

 コイツは決して強いというわけではないが、動きはそれなりに俊敏だ。だが魔力調節した俺の右目にはしっかりと1秒先の姿を捉えている、外しはしない。

 

「『フロストノヴァ』!」

 

 キイィィン

 

 よし、氷漬けだ。

 

 確認できた魔物は全部で3体。1体はエリスが簡単に斬り倒した、2体目はクルトとガブリンが追い込んで俺の魔術で今仕留めた。残りは1体。

 

 ガサッ ガサバサッ ガササ

 

 上方、高い位置にある大樹の枝と葉が細かく揺れ動く。最後の魔物があの辺りにいるのはわかってはいるんだが…。この魔物は木を伝って移動するが、位置と状況が悪い。剣が届く場所ではないし、俺からでは葉と枝が邪魔で視認しづらい。

 

 見回りの手伝いを始めてから大森林での戦闘はこれで3度目となるが、ここまでの経験でわかったことは、とにかく足場が悪く行動できる範囲が限定されていることが厄介だ。こちらは太い枝上の通路と渡し橋ぐらいしか移動できないが、魔物はその限りではなく自在に動き回る。距離が離れた相手への対処は魔術師である俺はまだマシだが、近接戦闘組は攻撃できる手段とタイミングがかなり制限されてしまう。さらにはこの魔物のように枝葉に紛れ込まれると視線も射線も通りづらく、結果魔術でも投擲術でも狙いにくい。

 

 どうするか…。魔物のおおよその位置はわかっているから効果範囲を広げた魔術を使えば仕留められるとは思うが、周辺の枝葉が犠牲になってしまうな。

 

「ルーデウス殿! 助力する」

 

 ギュエス? 後方から近づいてきたのは俺達とは別の見回り組、応援に駆けつけてくれたのか。

 

 しかし、魔物があの位置では直接的な攻撃はできないだろう。魔物を囲んで逃がさないという意味では十分加勢になるとは思うが。

 と、考えていたらおもむろにギュエスが口元に手を添える。なんだ?

 

「ゥォォォォオオン!」

 

 咆哮。高く圧倒的な音量。唐突に何を…

 

「ルーデウス殿、今のうちです」

 

 んんっ? 魔物が大樹の枝から力無く垂れ下がっている? 身動きもしていない?   

 

 ギュエスの突然の行動と魔物の様子。うーん、理解できない状況ではあるが、ひとまず魔物は仕留めてしまうか。

 

「『岩砲弾(ストーンキャノン)』」

 

 

 

 

 

 

 比較的開けた場所に集まる少年少女6人と屈強な男が1人。今から行われるのは魔術の特別講義だ。

 

 先日の戦闘で見たギュエスの咆哮。あれは後で聞いたところ、以前ギュスターヴから聞いた秘伝魔術の一つだったようだ。秘伝魔術はいくつか種類があるらしいが、どれも"声"を利用したものらしい。反射を利用してソナーのように対象の位置を探ったり、人や魔物に対して平衡感覚と意識を奪う遠距離スタンガンのような魔術といった感じだ。

 

 指導を受けるのは『デッドエンド』と『トクラブ村愚連隊』の5人全員とテルセナ。そして講師が戦士長ギュエス。これも後で聞いた話だが彼は一族の戦士団でもトップにあたる戦士長という立場であるとのこと。そして現族長ギュスターヴの息子であり、あの猫耳の少女ミニトーナの父親であるということ。

 

 娘を亡くしたばかりの彼に指導をお願いするのも気が引けるが…、いや動いているほうが気が紛れることもあるか。これも先日ギュスターヴに教わったことだな。

 

「すみません。お忙しいなか時間を作って頂いて指導をお願いしてしまって」

 

「いや、構いません。大恩ある皆様方に少しでも報いることができるのなら、この程度のことは。しかし、よいのですか? 声の魔術はドルディアの者でなければ扱えないと自分は聞いていますが」

 

「まあ、試してみることは悪くないでしょう。ドルディアの方以外では習得できないというのも、過去にどれだけの事例があるのかもわかりませんし」

 

 ギュエスは懐疑的なようだが、教えること自体は問題ないようだ。

 さっそく先日の魔術を実践して見せてもらう。

 

「ゥォォォォオオン!」

 

 ぐぅ、以前聞いた時と同じように圧倒的な音量、凄まじいな。

 秘伝魔術はこの声に魔力を乗せるってことなのだろうか。基本的な概念はなんとなく理解できるが…。まあ、モノは試しか、ひとまず真似てみるか。

 

「うおぉぉっおん!」

 

 ……全然真似できてる気がしない。あと、ちょっと恥ずかしい。

 その後も何度か試してみるが、やっぱりうまくいかない。他のメンバーを見てみるが俺と同様に手応えを感じてる様子はない。唯一例外なのが、

 

「ゥォぉォオン!」

 

「「「 おぉ~~~~ 」」」

 

 感心の声が本人以外の全員から漏れる。

 ギュエスからも高評価が出たし、完璧とは言えないまでもある程度は形になってるようだ。

 

「 い、いえ。あたしなんか全然ですから… 」

 

 犬耳の少女が顔を赤くしながら謙遜する。この子は相変わらず引っ込み思案というかシャイというか。でも遠慮気味な姿勢でありながらも笑顔が混じっているところを見るに、あの子のこと、ちゃんと受け入れて前に進めてるんだな。それに講師役のギュエスもはじめの教授以降も真剣に俺達の様子を伺い、アドバイスをしてくれている。……俺も頑張らないと。

 

 しかし、その後も練習を続けるが秘伝魔術の実現には至らない。

 声の出し方、魔力の込め方を変えて色々試すが、どうにも声に魔力を乗せるという実感がはっきりと掴めない。本人は非常に嫌がったがギュエスに頼んで最小出力で自分で秘伝魔術を受けてみたりもしたが、やっぱり出し手側の感覚は掴めなかった。ちなみに受け手側としては、魔術を喰らうと数秒意識が飛んでフラついてしまうという感覚を十分味わえた。

 

 結局、数時間費やした練習でもテルセナ以外のメンバーは習得できる兆しも得ることができなかった。技術的な成果はテルセナの技術が向上したということくらいか。精神的な成果は各々色々ありそうだったが。

 

 

 ザアァァァ  ザアァァァ  ザアァァァ

 

 雨の屋外。本日の割り当てられた見回りの時間も終わって、俺は一人座り込んで魔眼の調整訓練をしながら考える。

 

 昨日の魔術講義と訓練、やっぱり秘伝魔術の習得は俺には難しいのだろうか。声に魔力を乗せるという原理はわかるが、そもそもあの"声"自体がドルディア以外の人間には出せていなかったように思う。声、喉、声帯、肺、そのあたりが特殊であり種族特有ということなんだろうな。練習を重ねれば多少はできるようになるかもしれないが、ギュエスのように使いこなせる域までは辿り着ける気がしない。

 

「はあぁ…」

 

 思わず溜息が漏れる。あの秘伝魔術を習得できれば良い手札と成り得るのに。

 大声を出すという条件を考えると隠密性という点では適していないが、相手を問答無用で行動不能にするというのは非常に強力だ。声にのせた魔力に指向性すら持たせて対象もしくはその近辺にだけ効果を及ぼすというのも実に良い。おまけに予備動作も小さく溜める時間も僅かであり、それらは無詠唱魔術に匹敵すると思う。

 メリットを考えると、生前のゲームで言う実に初見殺しの性能を持っている。もし俺が何も知らずに相手に使用されたら、対応できる自信は全くない。

 

 だからこそ習得できないことが惜しいし、悔しいとさえ思う。なんとかならないものか。

 

「はあぁぁ…」

 

 2度目の溜息。仲間達はすでに見回りの手伝い以外にも、それぞれが今後のために動き始めている。俺だけがその場で足踏み、停滞して一歩も踏み出せていないんじゃないかと、そんな感覚に襲われる。

 

 エリスは昨日の講義のあと、戦士団の訓練に今後参加できるようにギュエスに頼み込んでいた。ギュエスもその場で了承したし、彼女も今は戦士団の中で存分に剣を振っていることだろう。

 テルセナもエリスに付き合って、戦士団の訓練に参加するとのことだ。あの子は戦士、近接戦闘って感じでもなかったが…。でも体を動かすことは色々と吹っ切れるにはよいことだろうし、何より赤毛の少女に同性同年代の友人ができたのは素直に嬉しい。ロアにいた頃は家族を除けば俺とギレーヌ、魔大陸に着いてからもクルト達くらいしか対等に話せる相手はいなかったように思う。まあ、それを言い出したら俺も大概に友人と呼べる人数は少ないが。

 

 クルト達は大森林の戦闘を踏まえて、パーティ内の役割、連携を今一度見直すために色々と話し合いをしているようだ。クルトは剣の投擲術やら仕掛け玉やらの攻撃手段を持っているが、ガブリンとバチロウが随分と苦労しているのは先日の戦闘の際に俺からでも見てとれた。そのあたりをどうするか、クルトのお手並み拝見ってところか。俺も随分と偉そうな物言いだな。

 

「はあぁぁぁ…」

 

 3度目の溜息。皆に置いていかれたくはない、なんとか一歩でも進みたい。

 ……そう、先日自分でもエリスやギュエスの前で言ったじゃないか、「毎日足掻(あが)いてる」って。そうさ、足掻(あが)いてやるさ、やってやるさ。

 

 自らを奮い立たせて、再び考える。

 

 秘伝魔術は声の魔術だ。しかし俺にはそのドルディア特有の声自体が出せない。詰んだ。

 

 いや、詰むな。考えろよ、俺。生前から物事を分析したり、理屈でも屁理屈でも並べて解釈するのは得意だったろーが。もう一度、落ち着いて考えろ。

 

 秘伝魔術は声の魔術だ。……それと予備動作が少なく、かつ他の魔術と違って詠唱の必要がない。

 

 ふ~む。俺はロキシーに教わっている頃から魔術を一度詠唱して発動し、その原理が理解できていれば、以後は無詠唱で行使できる。この秘伝魔術には詠唱はない。そして原理は声に魔力を乗せるということ。

 

 声、声か。

 声っていうのは音だ。

 音っていうのは空気の振動だ。

 あれ? そうすると音って風魔術の一種なのか?

 風魔術の原理は大抵は空気の流れとその影響が及ぼす現象だ。

 いや、違うか。音が空気とは限らない。

 壁越しにだって音は伝わるし、なんなら水中だって多少の減衰はあっても音は伝わる。

 となると、音っていうのは物質物体の振動と伝搬といったところか。

 振動か。振動ってのは物体の周期的な運動だったハズ。

 もっと噛み砕いて表現すれば、細かく早く動くこと。

 

 魔術でできるか?

 魔術で振動という現象を引き起こせるのか?

 やってみるか。

 

 右手を突き出し、頭の中で振動をイメージしながら魔力を集中する。

 

「…………」

 

 ダメだな。出来てる気もしないし、対象が無色透明な空気では効果の確認もできない。

 俺は左手で水玉を作って、右手を水玉に添えるように触れる。これで効果確認もできるし、イメージもしやすくなるハズだ。よし、もう一度。

 

「…………」

 

 水玉に変化は見られない、ダメか。いや、諦めるな、足掻(あが)け。

 手から魔力を放出するというよりも水玉自体を振動させるイメージで、もう一度。

 

「…………」

 

 これもダメか。足掻(あが)け。

 もっと現象のイメージをしやすくするにはどうするか…。振動という現象自体は水だろうと空気だろうと発生さえすれば勝手に伝搬していくんだ。水玉全体を振動させるというよりは、より限定的に。そう、掌に触れている箇所を振動させるイメージで。

 

「………っ!」

 

 水玉が揺れた? 正確に表現するなら掌から微かに波紋がたったな。さっきと同じイメージで、もう一回。

 

「……よし!」

 

 水玉に波紋がたつ。目の錯覚ではなく、体の震えが伝わったわけでもなく、確実に振動は起こせている。このイメージでより強く、より大きくなるように試してみるか!

 

 ・

 ・

 ・

 

 が、うまくいかない。

 いや、成果が完全になかったワケじゃない。何度も試して振動の出力は上がったと思う。ただ水玉の波紋が僅かに大きくなっただけで、それ以上の何かがあるワケではない。

 

「はあぁぁぁぁ…」

 

 4度目の溜息。水玉が少し波打つ程度の振動、これでどうしろっていうんだ? これなら水魔術でも風魔術でも同等以上の現象は簡単にできる。

 ただまあ一応は試しておくか…。

 

 俺は立ち上がって、大樹の幹に右手を添える。

 

「すぅー…………ハァッ!」

 

 寺生まれの誰かのように気合を入れて魔術を発動させてみるが、何かが起こるハズもなく。

 やっぱりダメか…。木の幹を破壊する程のパワーとなると、いったいどのくらいの出力が必要になることか。それに振動で物体に影響を与えるには、たしか固有振動数とか共振とか音響インピーダンスとか諸々関係するだろうしな。まあ、うっすら概念を知ってるだけで詳細は元から知らないが。

 あとは生物、魔物相手でも試してみたいところではある。適当な試し撃ちの機会となると…

 

「お~い、ルーデウス。ちょっと今いいかい?」

 

 クルト? ガブリンとバチロウもいるな。

 

 

 

 

 

「……なるほど。人間語と獣神語ですか」

 

「ああ。ルーデウスにはこれまで魔術訓練もお願いしてきて、さらに追加って感じになっちゃうんだけどさ」

 

 クルト達の話はシンプルなものだった。人間語と獣神語を教えてほしいというもの。

 

 言われてみれば、たしかにクルト達3人は魔神語以外は話すことができず、現地言語の習得は必須だろう。というか、よくよく考えればクルト達はドルディアの集落に来てから、仲間内以外ではロクに会話もできずに過ごしてたのか。一応人間語がわかる獣族の方はいるので、エリスを経由して話の内容自体は伝わっていたようだが。

 クルト達には悪いことをしてしまったな。これは本来俺が間に入らなきゃいけないことだし、考慮してなければいけなかった。

 

「わかりました。そういうことなら今後、夜の空いた時間は言語学習に割り当てましょう」

 

「ああ、助かるよ。会話ができれば戦士団の人達とも連携しやすくなるしさ」

 

 なるほど。大森林での戦闘の対策として、まずは現地人との連携強化ってところか。クルトらしいな。

 

「う~ん、いつもルーデウスに苦労とか面倒事とか大変なことをお願いしてるから、俺達も何か返したいんだけど…」

 

 クルトが殊勝なことを言ってくれる。だけど魔術も言語も元々ロアにいた頃から指導役をやってきてるんだ。今さら特段苦というワケでもないし、大したことはないんだけどな。

 

「ここに来てからしばらくは僕一人休ませてもらってましたし、普段ガブリンに調理を教わってますよ。以前は僕もエリスも料理とすら呼べないモノしか作れませんでしたから」

 

「フフ、二人の上達速度ハ悪くはありまセンが、免許皆伝にはまだまだデスネ」

 

 おっと、これは手厳しい。

 

「偉大なる師の期待に応えられるよう精進します」

 

 姿勢を正して、おどけて言葉を返す。ああ、何かイイな、こういう雰囲気は。

 男4人でひときしり笑った後、クルトが声をあげる。

 

「でも、やっぱり普段からルーデウスには頼りにさせてもらってるからさ、もし力になれることがあるなら遠慮なく言ってくれよ」

 

 この白髪のリーダーは本当に人が良いな。いや、他の二人も同様か。

 ん? そういうことなら、

 

「ではクルト、さっそくですがお願いしたいことがあるのですが…」

 

 

 比較的開けた場所。数メートルという距離を空けて対峙する俺とクルト。

 

「では先程話した条件でお願いします」

 

「了解。訓練であっても本気で行かせてもらうよ」

 

 武器を持って、お互い構える。剣神流と北神流の意地のぶつかり合い、ってワケではもちろんない。これは最近慣れてきた魔眼と先程試した秘伝魔術亜種の実践検証だ。

 

 右目の魔眼"予見眼"。見える予測は1秒先に魔力調整している。この状態で剣士として俺よりも格上のクルト相手にどこまでやれるのか。

 そしてチャンスがあれば、振動という現象を起こす秘伝魔術亜種の対人効果を確認する。

 

 クルトと俺が持っている武器は、余分な葉と枝を切り落とした細い木の棒。最初は刃を落とした石剣にしようかとも思ったが、石剣はそれなりに重量がある。刃がなくとも当たり所によっては大ケガしかねない。この武器なら渾身の斬撃(打撃)でも骨折すらしないだろう、せいぜい青アザができるくらいだ。

 

 そしてクルトと俺のそれぞれの戦闘条件。

 クルトの攻撃手段は直接攻撃のみに限定。武器の投擲術や仕掛け玉は使えない。

 俺は魔眼と魔術を1つだけ使用可能。他の魔術は一切禁止だ。

 

「デハ、はじめ!」

 

 ダダッ

 

 開始と同時にクルトが突っ込んでくる。上段からの斬り下ろし、見えているが…、木棒が途中で止まる? 突きに変化するのか?

 

 カツッ

 

 変化した突きを払うように防ぐ。

 反撃のチャンス、ではないな。クルトは体勢が崩れていない。なるほど、防がれることが前提の攻撃だったか。

 

 少し距離が離れて睨み合い。

 クルトは動かないな。ふむ、今度は俺から仕掛けてみるか。

 

 そう思い一歩踏み出すが、クルトは逆に一歩下がる。ん?

 もう一歩踏み出すが、やっぱりクルトは下がる。んん? 俺相手に距離をとるのか?

 

 間合いを詰めるため、さらに踏み込むと右目の視界にはすぐ眼前に迫っているクルトの姿と振られた木棒。

 

「っ!!」

 

 慌てて足を止める。

 

 ガツッッ

 

 防御はしたが今度は強烈な一撃。力で押されて後退させられる。

 ぐっ、いきなり速くなった? 違う、はじめの踏み込みは加減していたのか。

 

 距離をとるため下がろうとするも、今度はクルトが追いかけてくる。

 小手を狙った突き。見えてはいるが動作が小さい、防げるが反撃ができない。カツッ

 下段を狙った突き。これも見えているのに同様に反撃できない。カツッ

 左肩を狙った突き。これも。カツッ

 右膝を狙った。カツッ

 左手首。カツッ

 

 くそっ。攻撃が止まらない。

 下がりながら防ぐだけで手一杯、完全に防戦一方だ。

 

 カツッ カツッ カツッ 

 カツッ カツッ カツッ ガツッッ

 

 ぐぅ、また強烈な攻撃。後方に吹き飛ばされるも、なんとか倒れるのだけは防ぐ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」「ハァ、ハァ、ふぅ…」

 

 ……クルトの狙いはコレか。

 連続攻撃と圧力。ここまで散々後退させられたせいで、俺の後方にはもう()()()()()

 

 彼を侮っているつもりはなかった。魔眼で1秒先が見えれば、剣術の場でもそれなりに喰らいついていけると思ってた。でもとんだ見当違いだったな。

 緩急のある動きで間合いを詰めて、反撃の機会を与えない攻撃を繰り出す。足場が狭く避ける範囲が限られる周りの環境もうまく利用する。

 魔眼を活かせないような見事な立ち回りだ、こちらが完全に手玉に取られてる。

 

 後退はもうできない。横に動けるスペースもほとんどない。

 元々技術も身体能力も向こうが上なんだ、押し切られる前にこちらが仕掛けよう。

 狙いは、……武器を振らせること。

 

 俺は1歩踏みだし、武器を上段に振りかぶる。そして右目に写るクルトの攻撃。

 向こうはこちらの攻撃を受けるつもりもなく、胴より低い位置への横なぎか。

 俺に避けることを許さない斬撃角度、でもコレを掻い潜る!

 

 ビュン

 

 痛ぅ。背中を掠めた。でも、相手の横なぎを前傾に倒れ込む程に屈んでギリギリで躱せた。そしてこれで懐に入った。

 

 右手を突き出し、クルトの腹部に掌をあてる。魔術発動!

 

 ーーーーシーーンーーーー

 

「…………」「…………?」

 

 クルトが飛び退く、何らダメージを負っているような様子はない動きで。

 

「えっと、ルーデウス? 今のは一体?」

 

「あ~、一応、今魔術を使ったんですが」

 

 やっぱりダメか。秘伝魔術亜種は対人効果も望めないか。

 

「昨日ギュエスさんに教えてもらった魔術を参考にして、新しい魔術を試してみたんですが…、あまり効果はなかったみたいですね」

 

「そうなんだ。でも新しい魔術だなんて、さすがルーデゥ…………」

 

「? クルト?」

 

「…………オエェェェ」

 

「クルトッ!?」

 

 

 

 

 

 

 滞在用に借りた家屋、『トクラブ村愚連隊』に割り当てられた部屋。

 

 上体こそ起こしているが、寝台で安静にしている白髪の少年。

 その目の前で五体を投げ出した、間抜けで考えなしで少々魔術が使えるだけの愚か者。

 

「本当にごめんなさい」

 

 額を床に擦りつけたまま謝罪。罪悪感でとてもじゃないが顔が上げられない。完全なる土下座だ。

 

「い、いや、いいよ。元からそういう条件の訓練だったんだし…。治療もしてもらったから、もう平気だしさ」

 

「いえ、そうわけには。本当に申し訳ない」

 

 たしかにクルトの言うおり今は平気そうだが…。

 彼が嘔吐した時は本気で血の気が引いた。自分でもパニック状態になっていたと思う。それこそ持てる限りの治癒治療をその場でクルトに施した。初級治癒、中級治癒、初級解毒、知っているすべての中級解毒とあらゆる魔術を使った。傍にいたガブリンにも魔術を使ってもらった。それから3人で協力して彼を部屋まで運んで、今度はドルディアの方々に良い薬はないかと駆け回った。

 ……思い返せば、相当混乱していたな。

 

「ルーデウス、とにかく大丈夫だかさ。もう顔を上げてよ」

 

 仕方なく顔を上げる。うぅ、クルト聖人の顔が直視できない。

 

「どこか痛いとか気分が悪いようならすぐに言ってください。いや、何かなくても何でも言ってください。何でもしますので。」

 

「あー…、うん。じゃあ明日から言語指導の件、よろしく」

 

 誠心誠意、務めさせていただきます。

 

 

 滞在用に借りた家屋、『デッドエンド』に割り当てられた部屋の自分の寝台に倒れ込む。

 

「はぁぁ…、失敗したなぁ」

 

 本日5度目の溜息を吐きながら考える。

 秘伝魔術亜種。水玉に波紋をたてるだけ、木の幹に対してもほとんど影響を与えることができない程度のモノ。そう考えていたんだが、まさか人に対してああいった効果を及ぼすとは。

 その場で治療をした時、クルトに外傷は見られなかった。そうすると影響を与えたのは体の中ということになる。内臓にダメージ? いや、そこまでではないと思う。元々大した威力もないし、もし臓器に損傷を与えているのなら嘔吐に加えて吐血もしていただろうしな。おそらく体内に振動が伝搬した、臓器を揺らしたってところか。でも、それぐらいでも剣士に嘔吐させるくらいの影響を与えるのか。

 この推察が正しいとしたら…。心臓の近くや頭部で使わなくてよかったと心底思う。

 そして、もう2度と、金輪際、仲間を対象にした魔術の試し打ちはすまい。

 

「ふぅ…」

 

 もう溜息だかなんだかよくわからないモノを、よくわからないまま吐き出す。

 

 この秘伝魔術亜種、使いどころがまるで思いつかない。相手に接触する必要があるし、効果も今のところ判明しているのは吐き気、嘔吐を引き起こすだけ。それなら他の攻撃魔術を使ったほうが威力もあるし、何より接触するほどの超接近戦なんか普段することはない。予備動作が極端に小さいから不意打ちには向いてるかもしれないが…。威力も練習を重ねれば上げられるかもしれないが…。いや、でも、う~ん。

 

 ひとまず秘伝魔術亜種は、

 内部に影響を与えるという意味で『振動(シェイク)』(未完成)と名付けてみた。

 

 

 





 オリ魔術:『振動(シェイク)』(未完成)、本話掲載

 原作老デウスも言ってましたが、「この世界の魔術は万能、そこに気づけば大体なんだって出来る」ということで振動魔術というモノを取り入れてみました。現状ではあまり使い道のない魔術ではありますが…。あと名称の候補はいくつかあったのですが、現状の効果とその範囲からシェイクを採用しました。
 名称候補 High-frequency、Vibration、Vibration wave、Oscillator、Shaking

 次回予告 「ドルディア集落でのハードライフ 返し」



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