職歴無し無職のニートが家を追い出され、人生を後悔している間に事故に遭い死んでしまう。目覚めた時、赤ん坊になっていた。掻い摘めばそんな話だ。
だが、この少女に誠実でありたいと考えている以上、誤魔化すつもりはない。
そこそこの家庭で育ったこと、兄弟がいたこと、子供の頃はそれなりに上手くやれていたこと。
キッカケは学生の頃に安易に行動し、返り討ちに遭ってボコボコにされ、辱められてボロ雑巾のようにされたこと。結果、集団から嘲笑され蔑まれ孤立した。
そこからは転落したような人生だった。家からは出ず、自分の世界と殻に閉じこもった。周りの人間が手を差し伸べてくれたのに自分から振り払い、次第に関心も持たれず関心も持てない冷えた関係になった。
あの頃の自分がどんな人間だったか、隠すことはしない。
親のスネを齧り働きもしなかったこと、引き籠りおよそ生産性のあることは何もしなかったこと、親族で致したこと、あまつさえ親の葬式にも出席しなかったこと。
兄弟から追い払われた後に、何を考えたのか、何も考えていなかったのか。人を助けようと行動して、失敗して、死んでしまった。
そして生まれ変わって、今に至る。
彼女は黙って俺の話に耳を傾けてくれた。自分でも聞くに堪えない内容だと感じるのにもかかわらず。
ただ、
「うおえぇぇ…… げえぇぇ…… うっ…ぷ… おええぇぇ……」
俺の胃が耐えられなかった。
話している途中から、思い出したくもない生前の事案と感情が想起されて動悸が早くなり、胃から込み上げてくるモノがあった。話し終えると同時にトイレに駆け込んで、ご覧のあり様だ。
「大丈夫? ガブリン呼んでくる?」
心配そうに声をかけてくれる赤毛の少女。同時に少し前の慰めとは違う、正しく手当てという意味で背中をさすってくれる。
「おえぇぇ… …はぁ、…はぁ。 いえ、だいぶ落ち着いてきたので、…もう、平気です」
胃の中のモノは出し尽くした。元々大した消化物が入ってなかったのか、胃液ばかりではあったが。
吐き気も幾分か収まったので、俺は魔術で作り出した水玉で口を注ぎ、手を洗い、トイレから出て部屋に戻る。ただベッドに寝転がる気も座る気も起きずに、ベッドを背にして床に腰を降ろす。
少し遅れて戻ってきたエリスも俺と同様に、すぐ隣に座り込む。
「すみません、大事な話をしていた最中なのに。寝床を吐瀉物で汚すワケにはいかなかったもので…」
「いいわよ。ルーデウスが大丈夫なら、それでいいわ」
彼女はそう言ってくれるが。
はぁ、俺ってやつは情けない。情けないところではあるが、今はそれより。
「それで、その…」
「……?」
怖い、滅茶苦茶に怖い。でも訊かないわけにはいかない。
「エリスは先程の僕の話、どう思いましたか?」
愚図な人間だと憤慨されるのか、
下劣な男だと罵倒されるのか、
惨めな奴だと軽蔑されるのか。
彼女に見捨てられたら、俺は…
「どうでもいいわっ。ルーデウスはルーデウスなんでしょ?」
………………
「えっと。まあ、それはそう、なんですが…」
「だから、どうだっていいわ」
「…………」
いいんだろうか? たしかに彼女は人の過去を気にするような気質ではないのかもしれないが…。いや、ダメだ。この件については誤魔化すことも濁すことも、彼女に対して不誠実だ。
「エリスは、僕が生まれ変わった異質な人間であるということをちゃんと理解してますか?」
「……わかってるわ」
わかってない。
「もう一度、順を追って説明しますね。生まれ変わりというのは…」
俺は出来る限り簡潔に、シンプルに、わかりやすい言葉にして再度説明する。
「んー、え~と、つまり、ルーデウスはアスラで生まれる前に別の遠くの場所いて、そこから来た。ってことでいいの?」
「ええ、だいたいそんな感じです」
実に赤毛の少女的な解釈ではあるが、おおよそ意味は間違っていない。ただこれについては彼女が悪いというワケではなく、仕方がない面もある。
俺は生前の、現代日本での記憶がある。だから様々な物語、映画やラノベや漫画で得た予備知識を持っているから、この世界とは違う別の世界というものを理解できる。だがエリスをはじめとしたこの世界の住人にとっては、そういった異世界という概念自体に馴染みがないのだろう。探せばこの世界にもそういった小説や御伽噺なんかもあるかもしれないが、やっぱり普遍的な知識には程遠いと思う。
「ルーデウスは向こうでもすごい魔術師だったの?」
赤毛の生徒からの質問。向こう、ね。当事者である俺もそういった感覚だし、ひとまずエリスの認識はここまでは間違っていないだろう。
「いえ、魔術師ではありませんでした。というより向こうは魔術そのモノが存在しなかったので」
存在しない、でいいよな。生まれ変わる前の世界でも、怪しい黒魔術とか伝統民族の儀式とか中世では魔女狩りだとかはあったらしいが、少なくとも一般的な話ではない。
「そうなの? じゃあ剣術は?」
「剣術は、ありましたね。こちらほど一般に普及してはいなかったですが。それでも、剣の技術で稼いでいる人や実戦で使用している人達もいました」
剣道とかフェンシングとか。あとは軍人が扱うようなナイフを用いた格闘技術も、一応は剣術に分類していいんじゃないかと個人的に思う。
「剣があるならルーデウスをイジメてた奴ら全員の首を、私が斬り落としてぶっ殺せるわね!」
……とても頼もしくも恐ろしい。現代日本でそんな血の海を作り出したら、トップニュースを飾るのは確実だ。
「ま、まあ、それはいいんですよ。昔のことですし」
「そう? 私は許せないけど。でもルーデウスがそう言うなら、いいわ」
うーん。ひとまず血なまぐさい話は置いておいて、次にいこう。
「それで僕は家に引き籠って過ごし、周囲からの援助の手も払い除けてしまったワケなんですが…」
「ふうん、そうなんだ」
えっ? それだけ?
「えー、より詳しく説明しますね。引き籠っている間は親に養ってもらっているのにもかかわらず、家とか家族のために動こうともしませんでした。かと言って生産的な勉強とか訓練とか自己鍛錬も…、いや練習は少しはしてたかな。ただ大半の時間は役に立つことはせず、無為に過ごしていたんです」
「同じね。私もルーデウスがウチに来るまでは似たような感じだったわ」
ええぇぇ。いや、違うでしょ。
「エリスは当時、まだ子供じゃないですか。僕はそれよりもずっと年を重ねて…、それこそ10何年も引き籠っていたわけですし」
「うぅ~ん? でも私もルーデウスが来なかったら、あのままだった気がするわ。ギレーヌの剣術と嫌だったけどエドナのレイギサホウの授業だけは受けて、あとは何もしなくって。ちょっとだけ行った学校も生意気な子供を殴ったら、すぐに追い出されたわ。そのあとウチに来た家庭教師も何人か殴って追い返したわ」
ああ、そうか。エリスも貴族の御令嬢だから引き籠りとかニートとかには特別に悪感情を抱かないのか。世の貴族や上流階級の全員がそういう甘やかされた過保護な育ちだとは思わないが。
それに彼女は、あの頃…。ボレアスの屋敷にはじめて足を踏み入れた初対面を思い出す。マウントポジションからの殺意の篭ったパンチ、あれを何人もの家庭教師が喰らっているのか。状況はかなり異なるが、周りの手を払い除けたという意味ではたしかに一緒かもしれない。
「あっ、でもそのうち冒険者になりたくて、家を出たかもしれないわね」
そういえばエリスは俺が家庭教師をやっていた頃、冒険者に憧れていたようだったな。ギレーヌの冒険者時代の話には興味深々だったし。
「冒険者にはなれたし、今さらだけど。もしルーデウスがいなくて私一人だったら、きっと誰ともパーティを組めずにやっていけなかったかも」
彼女一人で仲間を探してパーティを組む、たしかに少し想像しづらい。まあ現実は俺と一緒にいるんだし、たらればの話か。
それにしてもエリスは冒険者か。俺は、あの頃あのままの状態が続いたとして、何かやりたいことを見つけられたんだろうか。自らが動き出せる契機とか要因とかに巡り会えたんだろうか。
ああ、それが親との死別ってことだったのかもしれない。…はぁ。
話が少し脱線したな。
「ひとまず話はわかりました」
……俺が説明していたはずなのに、俺がわからされてどうする。
ふぅ。落ち着け。
落ち着いて話せ。ここからは人でなしの時間だ。
「僕は、その、引き籠っている間、親族で、致したことも…」
「ルーデウスはエッチね」
………………
「それは、とても周囲に言えないような、世間からは屑と言われても仕方のないことで…」
「ルーデウスはくずじゃないわ」
んん?
「エリスは僕のことを、気持ち悪いとか、不潔だとか思わないんですか?」
「え、なんで? ルーデウスがすごくエッチなのは、私知ってるもん」
あれぇ? おかしくない? なにか違うくないか?
いや、待てよ。そういえば前世でも古代とかそういった時代には禁忌されてなかったようだし、この世界では問題にされないのか? 文化と価値観が違うのか? 俺も生まれ変わってから、この世界の情報はできる限り把握しておこうと努めてきたけど、それは身の回りや自分に関係するようなことであって、こういったことは考えたことがなかった。俺も、この世界についてもっと理解を深める必要があるな。
ただ、この世界の事情がどうであれ、それで俺が前世でしたことが許されるわけではないけれど。
ううーん、ひとまずこの話は区切っておいて、他にも
「以前は親の葬式にさえ出席しなかった、薄情な人間ですよ」
「それはダメね。ちゃんと出なさい。
あ、でもあの男のお葬式なら出なくてもいいんじゃないかしら?」
あの男っていうのは、あの人のことを指しているのだろう。なんというかエリスからの評価は下の下、地の底だ。昼間のことを考えれば理解できる話ではあるが。
「私だっておじい様とお父様とお母様のお葬式なら…、お葬 しき な ら ………… ぐずっ」
赤毛の少女は自らの家族のことを言いかけて、突如涙ぐむ。
いけない。
「エリス、ごめん。不安にさせるような話しをしてしまって」
隣に座る彼女の手に自分の手を重ねて、声をかける。
「…ううん、いいの。ルーデウスだって、お母さんとか他の家族のこと分かってないんだし…」
迂闊だったな。あの場では聞けなかったが、サウロス、フィリップ、ヒルダ…、エリスの家族の安否が不明の今、葬式なんて内容は出していい話題ではなかった。
それにゼニス、リーリャ、アイシャ。俺の家族も無事なんだろうか。あの人は見つかっていないと言っていたが…。
大規模転移災害。地上のあらゆる場所への突然の転移。いや、地上とも限らないか。海の中、空の上、なんなら地面の下や石の中ということもあるかもしれない。生きているどころか、死体さえ見つけ出すのは…。災害が起きてから1年半、状況は非常に悪い。
「…………」「………………」
二人して黙り込む。俺の過去について話していたはずなのに、いつの間にか自分達が置かれている現状の確認と、家族はもういないかもしれないという不安が頭をよぎる。
沈黙を破ったのは赤毛の少女だ。
「今、考えてもしょうがないのよね…」
気を遣わせてしまったというよりは、これは生来のものだろう。彼女はこういったメンタル面でも行動でも切り替えが非常に早い。
「ルーデウスは向こうで魔術師じゃなかったみたいだけど、魔術はいつ覚えたの? 前に聞いたロキシーっていう師匠から教えてもらったの?」
「本格的に習得して実戦で使用できるようになったのはロキシーに教わってからですね。ただ家に魔術教本があったので、魔術自体はそれ以前から独学で使えていました」
魔術を覚えたての頃を思い出す。あの頃は魔力量を増やすために毎日限界ギリギリまで水魔術を使ってたっけな。
「剣術も習ってたんでしょ? あの男はギレーヌより弱いし、教わることはあんまりなかったかもしれないけど」
あ~、うん。エリスからの視点では、あの人は地の底どころか奈落の底、マントルまで届きそうな勢いだ。相当酒が入っていたようだし不意打ち気味ではあったから、あの人が実際そこまで弱いというわけではないだろうけど。
「ルーデウスは頑張ってるわ。魔術も剣術も読み書きも計算だって。ウチに来てからも、お休みの日にも勉強してて」
「そう言ってくれるのはありがたいのですが。それは生まれ変わる前の記憶を持っていて、無駄なく要領良くやれる
「でも、頑張ってるのは本当のことなんでしょ?」
う~ん、まあそう言われればそのとおりか。言葉も文字もほとんど独学で覚えたし、幼少期は魔術と剣術の稽古で1日の大半の時間を過ごした。エリスの家庭教師になってからも、空いた時間は市場の調査やら、他言語の学習やら、訓練も兼ねたフィギュア作りやら…。
これまで頑張ってきたのは事実、かもしれない。他に娯楽もなかったからというのが大きな理由ではあるが。
「それに魔大陸に行ってからだって、みんなのことを考えて、みんなもいろんな人も助けて、私のことも支えてくれて、倒れてもボロボロになってもルーデウスが頑張ってることは知ってるわ。だから、ルーデウスはすごくって、ルーデウスはくずじゃなくって、あの男が言ったことは許せなくて、昔のことなんか関係なくって、私はルーデウスのそばでルーデウスを見てるから、だから、ルーデウスは昔のことは気にする必要はなくって。ルーデウスは、その、ええっと…」
微笑ましくて、思わず顔がにやけてしまう。彼女は今の発言で何度俺の名を呼んだんだか。それに取り留めのない口述になっているが、赤毛の少女が俺のことを励ましてくれているのがわかる。
そうか、エリスは俺の過去と事情を知っても拒絶しないでくれるのか。
あぁ、それはすごく嬉しい。拒否されず受け入れてくれることが、とても喜ばしい。
でも、勘違いしちゃダメだ。エリスはそもそもの育ちがかなり特殊だから、子供の頃から何年も俺と一緒に過ごしてきたから、共に転移災害に巻き込まれて互いに命を預け合うような事態を経験してきたから。彼女にはそういった状況の積み重ねが背景にある。
多少の価値観や文化の違いがあったとしても、この世界の万人が前世のことを受け入れてくれるとは思ってはいけない。そこは肝に銘じておかないとな。
俺は彼女の手を握って言う。
「エリス。僕のことを受け入れてくれて、ありがとう」
「ううん、当然よ!」
明るく、溌剌で、眩しいくらいの笑顔。
あぁ、俺はやっぱりこの子のことが好きだ。
ふぅ。良い感じで締まりそうな流れだが、元々は家族になる云々の話だったな。
エリスと家族。つまり今すぐという意味でもあるし、将来的な関係も見据えたことなんだろう。当然、俺を受け入れてくれた子に対して断る理由なんかない。
さてどう言葉にしようかと考えていると、先に赤毛の少女が口を開く。
「ルーデウス、訊いてもいい?」
「え、ええ、もちろん。何でも訊いてください。以前も言ったかもしれませんが、何か言いたいこと、訊きたいことがあったら遠慮なく言ってくれてかまいません」
魔大陸に着いた、転移災害に巻き込まれて少し経ったあたりだな。リカリスの街で彼女とそういった話をした覚えがある。
「ルーデウスは向こうで…、その…、ケッコンとかしてたの?」
…………
…………はっ!? いかん、あまりの質問内容に思考が停止していた。
「いえいえ、結婚してませんよ、独身です。それどころか恋人だっていませんでしたし」
「そうなの? ふうん」
これはどういった意味なんだろうか。いや、そういった意味にしかとれない状況なんだが。
しかし、彼女も俺に対してそういう感情を持って気にしてくれることが、正直嬉しい。そうだよな、もし俺とエリスの立場が逆だとしたら、俺は間違いなく彼女の過去の交友関係が気になってしまうだろう。男として器が小さいとは理解していても、だ。
仮に転生だとか生まれ変わりじゃなく、どこかのラノベやアニメのように俺がいない世界線、平行世界があったとして、もしそこでエリスが俺以外の男と結ばれていたとしたら…。俺は、その相手の顔面に山ほど岩砲弾をブチ込んでしまいかねない。
「向こうっていうところの女も見る目がないのねっ」
怒っているような口調ではあるが、赤毛の少女の表情はどこか嬉しそうだ。
駄目だと思いつつも、どうしても顔がにやけてしまう。少しだけ下品な方向に。
オレ イマ タブン チョット キモイ。
「あと、もう一つ訊きたいことがあるんだけど…」
「? ええ、かまいませんよ。どうぞ」
再度、赤毛の生徒からの質問。俺は快く了承して先を促す。
「 シルフィ って誰?」
…………
…………それが、あったか。
マズイ、これは返答次第では肉体的にも精神的にも
「ええっと、シルフィというのはシルフィエットのことで。ブエナ村にいた時、エリスの家に行く前に知り合った子で。まあ、子供同士話したり遊んだり…」
「ふうん。そうなんだ」
抑制のない口調、冷ややかな視線の赤毛の愛妻。
「村の他の子供達にイジメられていたところを助けたのがキッカケで、それから魔術を教えたりなんかもしていました…」
こっちはすっかり浮気がバレたダメ夫の心境だ。
「ふうん。私が一番弟子じゃ、なかったのね」
「それは…、その、はい。すみません、前以て言っておくべきでした」
うぅ。なんだろうか、心が苦しい。
「その子のこと、好きなの?」
直球。心が痛い。
「ええっと、それは子供心というか、決して将来を約束したというわけではなくてですね…」
いかん。どう弁明すればいいんだ? どう言い繕えば、この場を逃れられる?
しかし、そんな考えで必死に言葉を並べ立てていると気づく。
先程までの冷めた眼差しを向ける瞳に、涙が浮かび上がっていることに。
違う。そうじゃない。都合よく子供だなんだと言葉にして、そういうことじゃない。俺はこの赤毛の少女に誠実でありたいんだ、彼女に対して誤魔化すことも濁すこともしたくはない。大人だとか子供だとか関係ない。俺は俺自身の気持ちを、ただ伝えるべきなんだ。
「ゴホン。…いいですか、エリス?」
「……うん」
彼女を真っ直ぐに見て、口を開く。
「シルフィは友人です、大切な友達です」
「…………」
逃げるな。
「当時、僕も少なからず好意を持っていたことは事実です」
「…………」
赤毛の少女に対しても、緑髪のあの子に対しても。
「仮に…、ああ、彼女も転移災害で何処にいるのか、無事でいるかどうかさえわかってはいませんが。でも、もし仮に彼女がこの場にいたとしても、僕はエリスを選びます」
「…………」
俺自身の気持ちからも。
「他の誰でもなく、僕が最も大切だと思っているのはエリスです」
「…………」
飾らず、見栄を張らず。
彼女のように、ただ真っ直ぐに。
「俺はエリスのことが、一番好きですよ」
「ルーデウスッ!」
ガバァ
赤毛の少女に抱きしめられる。
「私もっ、ルーデウス」
俺も赤毛の少女を抱きしめ返す。
あぁ、人生ではじめての告白が受け入れられて、とても嬉しい。
「エリス。僕をエリスの家族にしてくれますか?」
「うん、うんっ! ルーデウスは私の家族よ!」
赤毛の少女は非常に喜んでくれている。
あぁ、俺も彼女と家族になれることが、すごく嬉しい。
エリスと家族
俺はこれから彼女と一緒に
生まれ変わった2度目の人生は、赤毛の少女と共に
そう心に決める
決めたのはいいのだが。
エリスに引き寄せられるように、抱かれた恰好。横になって向き合いながらではなく座りながらという違いはあるが、俺が彼女の胸に顔を
普通男女逆なんじゃないのかとか、そういえばさっきの俺のセリフは随分と乙女チックだったなぁとか、顔にあたる感触が柔らかくも妙に湿っているのは、あ、コレ少し前までの俺の涙と鼻水のせいだなとか、そういった考えが頭をよぎるがそれ以上にこの姿勢が続くのはよろしくない。
「エリス、その…」
「……?」
自分にとっての太陽とも言える愛しい人と触れ合っているのは尊いものだと思うが、このままではマイ・サンも目覚めてしまいそうだ。
「そろそろ離して頂けると。エッチな気分になっちゃいそうなので」
「もうっ、ルーデウスは相変わらずね。……でもダメよ、そういうことは15になってからだし、部屋の外にクルト達だっているし」
そこは男として弁えておくべきだと俺もわかっ んんん?
「えっ、クルト達いるんですか?」
「うん、いるわ。さっきトイレから戻ってくる時に会ったから、なんだかこっちを心配して見に来てくれたみたい。ゴメン、言ってなかった?」
聞いてません。部屋に戻ってくる際にエリスが少し遅れて来たのはそれが理由か。ってか、あれからだいぶ時間が経ってないか? 過去のことやらなんやらを話していたから1時間くらいは経ってるんじゃないのか?
俺はすぐさま赤毛の少女から離れて部屋を出る。
「あ…」「あっ……」
白髪の少年と目が合う。いや、彼だけじゃない。鳥頭の博識な少年、四本腕の寡黙な少年、犬耳の引っ込み思案な少女もいる。
「なんだか騒がしくなってたみたいだけど、その様子だと大丈夫そうだね」
クルト…
「店ヲ出てからルーデウスは大変な様子でしたガ、安心しまシタ」
ガブリン… 彼の言い方からして、やっぱりあの時から俺は泣いていたのか。
「ルーデウス ゲンキ ヨカッタ」
バチロウ… ただ純粋で真摯な言葉は身に染みる。
「あ、あの。あたし達にも何かできることがあったら言ってください」
テルセナ… 普段気弱な彼女が助けになろうとしてくれている。
…………
「みんなありがとう、心配かけたみたいで。それに…、僕の、あの人がクルト達に酷いことを言ってしまって…。その、すみませんでした」
わざわざ心配して様子を見に来てくれた仲間達。そんな気のいい彼らに対して俺の肉親は、あの人は数々の暴言を吐いた。
「「 ………… 」」
彼らは黙って互いの顔色を伺った後、クルトが口を開く。
「いや、いいよ。ルーデウスが謝ることは何もないんじゃないか? ルーデウスが言ったわけでもないんだしさ」
「…………」
「それに新入りさんに事前に聞いてたからさ。……まあ、世の中には色んな人がいるってことだと思うよ」
クルト、人が良すぎるだろ。俺はあの人の行動について申し訳ない気持ちでいっぱいだというのに。
「それよりも、さ。 ルーデルスの、エリスもそうだけど、二人の出身地? 生まれ故郷? がなんだか大変なことになってるみたいで…」
白髪の少年は自分達のことよりも、俺とエリスについて案じてくれる。
「俺は、俺だけじゃなくてガブリンもバチロウもテルセナも。二人には感謝してるんだ。ルーデウスは指揮とか作戦とか魔術や言語の指導とか、エリスにはいつも最前線で一番危ない役割をやってもらってさ」
「クルト…」
「二人には負担をかけてると思ってる。だから、二人の力になれる時があるのなら、力になりたいってずっと思ってたんだ」
「…………」
「そういうわけだからさ。
ルーデウス達は、これからどうするの? いや、これからどうしたいの? 力になるよ」
クルトのありがた過ぎる申し出。俺にこんなことを言ってくれる人間がエリス以外にもいるなんて…。
でも、惚けてばかりもいられない。
俺はこれからどうするのか、どう動くべきなのか。……どうしたいのか。
転移災害、未だ安否も行方も不明な被災者、ブエナ村とロアの街、冒険者、仲間、あの人。
そして、何よりも新しい家族。
俺は、俺がしたいのは
「僕は…」
誤字報告いつもありがとうございます。ご助力感謝しております。
アニメ、日記の内容が映像化されましたが強烈でしたね。なんというか、エグすぎるというか凄惨というか…。とにかく凄まじいという感想しか出てきませんでした。
そして、エリス。不器用で拙くて、でも一途で、儚くて。
次回予告 「過去の杯 今の酒」