旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

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005 到着リカリスの町

 

 リカリスの町。

 魔大陸三大都市の一つ。人魔大戦の頃、魔界大帝キシリカ・キシリスが本拠地にしていたという町。別名、旧キシリス城。

 

 ………ダメだ、思い出せない。ブエナ村の実家にあった本には、もう少し町の歴史や特徴が記載してあったはずだが、俺の頭にはこれ以上の情報が記憶されていなかった。

 

 

 

「止まれ!」

 

 町の入り口に立つ兵士が声をあげる。

 蛇の頭をしたいかつい感じの奴と、豚のような頭をしたふてぶてしい感じの奴だ。

 

「何者だ! …何しにきた?」

 

 蛇の方が問いかけてくる。はじめは威圧的な態度に見えたが、こちらが子供二人組とわかったせいだろう。急に声色が柔らかくなった。

 豚の方も、何か微笑ましい目でこちらを見ている。

 

「旅の者です」

  

 俺が前に出る。

 

「二人だけか? 親はどうした?」

 

「僕たち二人だけです。親はいません」

 

 兵士と思われる二人は、こちらに憐憫の眼差しを向けてくる。

 なにやら誤解させたようだが、まあいいだろう。

 

「僕たちはミグルド族の里から来ました。町には入れてもらえますか?」

 

 俺はミグルド族のお守りを見せながら言った。

 

「ん? 髪色が違うが…、ああ、そういうこともあるか。たしかにあの村の連中が身に着けているもののようだ」

 

 なにやらさらに誤解させたようだが、まあいいだろう。

 それにしてもミグルド族のお守りは身分証明として優秀だ。神よ、感謝します。

 

「その荷物はなんだ? 旅の荷物にしてもやたらと多いようだが…、行商か?」

 

 俺とエリスは、体に見合わない背負い袋いっぱいに荷物を背負っている。不思議に思うのも無理はないだろう。

 

「行商というわけではありません。たしかに売るつもりですが、怪しいものではありませんよ」

 

 そう言って背負い袋の中を見せる。中身は道中で狩った、パクスコヨーテの毛皮やアシッドウルフの牙だ。

 

「おおぅ、こりゃすごい」

 

「たしかにすげえ量だな。ボウズ、売るつもりならキチンとしたところに持っていけ、そこらの露店じゃボッタクられるから気をつけろ。できれば商業ギルドで紹介してもらったほうがいいぞ」

 

 道中の3日間であっても、エンカウント毎に狩った獲物の量は驚かれるほど多いようだ。なるほど、商業ギルドね。

 

「もし冒険者ギルドに登録していないのなら、登録だけでもしとくといい。宿がちょっと割安になるぜ」

 

 子供二人組は哀れに見えたのか、懇切丁寧に教えてくれる。悪い気はするが、ここは人の好意を素直に受け取っておこう。

 

「なるほど、商業ギルドに冒険者ギルドですね。ご親切にありがとうございます」

 

 兵士たちは商業ギルド、冒険者ギルドのそれぞれの場所を教えてくれる。また、それだけでなく宿、酒場、食料売り場、道具屋、服屋、露店についても簡潔に説明してくれた。

 

「盗難には気をつけろよ、ひったくりにも置き引きにもだ。同様に金に困ったとしても、盗みはするなよ」

 

 これは彼らの仕事上必要なことだろう。まあどこの国でも町でも、この手の注意喚起はされてることだろうし。

 

「あと最近聞かねえけど、このあたりにゃ『デッドエンド』っていうおそろしいヤツが現れるからな、用心しろよ」

 

 ミグルド族の里はそうでもなかったが、町近辺はやっぱり多少治安は良くなさそうだな。

 

「「 ようこそリカリスへ 」」

 

 その後、門番は歓迎の姿勢で町に入れてくれた。

 うん、実にフレンドリー。やっぱあれだね、蛇とか豚とか、偏見の目で見ちゃいけないね。

 

 

 

 さて、町には無事に入れた。

 

 人込み、雑多な喧噪、客の呼び込みに怒鳴り声。目に入る建屋は立派なものではないが、趣がある。全体的に活気な下町っぽい印象を受ける。

 

 よし、今日中にやるべきことはたくさんある、気合いを入れていくぞ。

 

「ねぇ、どこにいくの?」

 

 エリスが訊いてきた。彼女は魔神語がわからないから、先程の門にいた兵士とのやりとりも意味不明だっただろう。

 

「まずは商業ギルド、そこで狩った獲物を売れる先を訊いて売りにいきます。次にお店を覗いて相場調査といくつか欲しいものを購入。その次には冒険者ギルドに行って、場合によっては登録するつもりです。そして最後に宿を探す、っていう流れになると思います」

 

「冒険者ギルド! いいわねっ!」

 

 テンション爆上げ。ちょっとエリスさん、現金すぎやしませんかね。

 

「ほら、はやく行くわよ!」

 

「ま、まってくださいよ、エリス。先に行くところがあるんですよ。あとあなた道わからないでしょう!」

 

 俺の手を引っ張ってぐいぐいと歩く。

 場所もわからないだろうにどこへ向かおうというのだ、マイスイートトルネード。

 

 

 

 エリスをなだめて、ひとまず商業ギルドに向かう。

 ここを一番はじめに選んだのは、とにかく売るモン売って荷物を減らしたいというのが理由だ。

  

 商業ギルドでは、取引きに問題のない店をいくつか紹介してもらった。それと同時に、ボッタクり露店やガメつい道具屋の婆さんなどの情報も手に入れた。

  

 聞いた話によると、商業ギルドといってもこの魔大陸では町と町との交流はそこまで盛んではないため、あくまでこの町のみの商業を統括しているというスタンスらしい。魔大陸以外では、町や国を跨いだ交流があり色々と規定や特典があるとのこと。

 今後も狩った獲物や入手したアイテムを売りつけたりする予定ではある。しかし、この町に長い期間居つくつもりもないので登録はしなかった。必要であれば別の町で登録するかもしれないが。

 

 あと商隊に関しても話を聞いた。やはり商隊の数自体が少なく、頻度も年に数回程度とのことだ。さらに、その際には専属の護衛や高ランク冒険者を雇うとのことで、商隊に便乗して移動するのは現実的ではないかもしれない。

 

 

 

 商業ギルドを出て、次は紹介してもらった店で獲物を売った。相場調査が済んでいないので正直、適正価格かどうかは判断できないが。ここは商業ギルドを信じよう。

 

 

 

 次にお店や露店を見てまわる、あまり時間はかけられないので簡単に。うんうん、何となく相場の感覚が掴めてきた。エリスもこのあたりでは興味深そうに商品を見ている。武器、防具、装飾品、食料、香辛料、何に使うか想像もできない道具、不思議がいっぱい。

 

 

 

 そして目的の服屋に入る。服を購入しようと思ったのは目立たないためだ。今後冒険者になるにせよアスラ王国に向かって旅をするにせよ、悪目立ちはしたくない。なので服でその目立つ部分を覆い隠そうと思う。

 

 俺もエリスも恰好はロアでの姿のままだが、エリスはまだ剣術練習着なのでよいが、俺は子供用の貴族使用人といった服。うん、浮いてる。エリスは恰好は問題ないがその髪が目立つ、鮮やかな赤い髪。うん、人目を惹く。

 

 結局、俺は灰色のローブを、エリスにはベージュに近い白のフード付マントを選んだ。ただフードには獣族を想定しているのか、耳用の出っ張りと穴がついていた。エリスが以前披露してくれたボレアス流の挨拶を思い出す。

 

「あの、エリス、これ…なんですけど」

 

「そっ、それっ! ど、どうするの?」

 

「えっと、エリスに、どうかなぁ~って…」

 

「ホント!」

 

 すごく喜ばれた。

 彼女はかつてのあの恰好やポーズは嫌ではなかったんだろうか。

 

「大切にするね!」

 

 早速フード付マントを身に着けたエリスが、満面の笑みで言った。

 まあ、あれだな。なんだか知らんがとにかくヨシッ!ってやつだ。

 

 さあ、次は冒険者ギルドだ。

 

 

 

 

 

 

 冒険者ギルド。

 そこには数々の猛者が集まる。 肉体に自信を持つ者、魔術に自信を持つ者。 ある者は剣を、ある者は斧を、ある者は杖を、またある者は素手で。 自分は他者より強いと豪語する者、そんな者を心中であざ笑う者。 鎧を付けた剣士がいれば、軽装の魔術師もいる。 ウシのような体躯の男、下半身が蛇の女、触覚の生えた男か女かもわからない者。あらゆる種族が集い、ひしめき合っている。 それが魔大陸の冒険者ギルド。

 

 

 

 リカリスの町の冒険者ギルド。その巨大なスイングドアが開かれた。

 

 静かに扉が開かれたのにも関わらず、周りの視線が集まる。そこには子供が二人。人族もしくは人族に近い姿の種族だ。

 

「へぇー、これが冒険者ギルド、ね!」

 

 白いフードを被った少女が、何やら興奮して言葉を吐いている。    

 

「ち、ちょっと、エリス。もう少し静かにしましょうよ」

 

 灰色のローブを着た少年が、オドオドとした態度でつぶやく。

 

 依頼を出しにきた、か…? 商人にも役人にも見えない、高額依頼ではないな…。 ペットの迷子探しの依頼かなんかじゃねえの…。 主人からの使いで来たってセンもあるだろう…。 それじゃどのみち高額じゃねえだろ、子供にそんなことさせねえよ…。 まてまて、冒険者の誰かの子供じゃないのか? 親を迎えにきたとか…。

 

 子供二人は、あたりをキョロキョロと見回しながら受付まで歩いていく。

  

 その様子を見て、

 低ランク冒険者は、一般的な感想を持つ。好奇心旺盛な子供たちだな、と。

 中ランク冒険者は、少女と少年が所持している得物に瞠目する。業物だ、と。

 高ランク冒険者は、少年はまだしも少女の達人並みの歩行に気づく。手練れだ、と。  

 そして黒い腹を持つものは、こう思う。スキだらけだな、と。

 

 

 

 

 

 

 何やらぬるい視線が集まっている。敵意は感じないが、何とも言えない居心地の悪さだ。さっさと説明を受けて登録してしまおう。

 

「冒険者ギルドへようこそ、依頼ですか?」

 

 ワイルドな見た目とは裏腹に、丁寧な口調で受付の人が尋ねてくる。

 

「いえ、冒険者登録に来ました」

 

「えっ、登録ですか? …依頼ではなく?」

 

「はい、登録です。」

 

「えーっと、こちらに何かお願いしたいことが…」

 

 しつこい。

 

「登録です。僕とこちらの少女です。当然ですが登録ははじめてなので、説明をお願いします」

  

 イラッとして相手の言葉を遮ってしまった。相手も驚いていたが、気を取り直したのか再度丁寧に対応してくれた。

 

「ではこちらの用紙の内容をご確認の上、署名をお願いします」

 

 渡された用紙を確認する。署名欄とギルドの規約が記載されているようだ。主な内容はギルドの入会脱会の仕方、サービス、情報登録、禁止事項、違約金について、ランク、昇級と降級、義務、等だ。

 うん、特に問題はなさそうだ。

 

 俺は自分の名前を署名すると、もう1枚の用紙をエリスに渡す。こういった署名は本人がするほうがいいだろう。

  

 その後、冒険者カードをそれぞれ作成してもらう。何やら魔道具を使った本格的なやつだ。エリスは渡された冒険者カードを見てニマニマとしている、微笑ましい。

 

「パーティ登録はこの場でされますか?」

 

 ん? パーティ?

 そうか、そういう登録も必要なのか。

 

「その前に、パーティについて詳細を聞かせてください」  

 

 内容は構成人数から入隊除隊、構成可能ランク、パーティランク、クラン結成、etc。 まあ俺もエリスも冒険者登録したばかりだし、特に注意は必要ないだろう。

 

「では、パーティ名は何に致しますか?」

 

 くっ、それがあったか。

 どうしようか、自分のネーミングセンスに自信はない。

 

「どうしたの?ルーデウス。」

 

 魔神語で話しているため、会話がわからなかったエリスが尋ねてくる。

 彼女に説明する、パーティ名をどうするかと。

 

「『デッドエンド』ね!」

 

 あらかじめ決めてあったのか、彼女が勢いよく答える。

 なんかの名前だろうか? 最近聞いた気がするな、なんだったか。

 それにしても、出会ったら 死(デッドエンド)か。随分物騒ではあるが、エリスとの初対面で喰らったマウントパンチが思い出される。

 

「…えーっと、それは…」

 

 受付の顔が引きつった。何か都合が悪いのか?

 

 ん?

 そして気づく、周りの不快な視線を。

 

 腕が6本ある男が、笑っている。

 豚の頭をした痩せた男が、笑っている。

 耳が尖った女が、目に涙を浮かべて笑っている。

 馬みたいなヤツが、腹を抱えながら笑っている。

 茶色の体毛に覆われた大男が、バカにしてくる。

 蜂のような女が、哀れんだ目を向けてくる。

 失笑、嘲笑、罵詈雑言。

 

 あれ?なんだこれ

 なんなんだこれ

 まって

 まっ

 ・

 ・

 ・

 ああ、生前の…

 嫌な記憶が掘り起こされる

 

 

 

 バアァァン!

 

 エリスが思い切り机を叩いた。

    

「『デッドエンド』よっ!」

 

 叫ぶ。怒気を孕んだ声で。殺気を放って。

 腕を組んで仁王立ち、フードは最早被っていない。

 赤毛が逆立つ勢いで、睨む。

 

「文句あんの!?」

 

 静寂。周囲から音が消えている。

 

 

 

「受付さん、『デッドエンド』でお願いします」

 

「え…、あ、はい」

 

 理由はわからない。

 ひょっとしたら何かマズイ名称なのかもしれない。

 今後トラブルに巻き込まれるかもしれない。

 

 でも関係ない。

 今この時、彼女は俺のヒーローだ。

 

「エリス、今日のところはこれで帰りましょう」

 

「………………わかったわ」

 

 俺たちは冒険者ギルドを後にした。

 

 

 

 大通りを歩く。エリスは怒り心頭のようだ。周りの歩行者などお構いなしにただ真っすぐ、両肩を張り拳を握りしめながらズンズンと大股で歩く。

 俺はそんな彼女の後を追うように歩く。ただ悪い気はしていない。やってやった感はあっても、気落ちも後悔もしていない。

 

 しばらく歩く。少しは冷静さを取り戻したかと思い声をかけようとすると、エリスは歩くのを止めて振り返った。

 

「………ごめんなさい、ルーデウス」

 

 下を向きながらそんなことを言う。ふむ、うちのお嬢様は自分から頭を下げられる、随分と殊勝なお人だ。謝る必要はありません、言葉は足りてませんが。

 

「エリス、僕は別に怒ってませんよ」

 

「………」

 

 彼女は下を向いたまま。  

 

「あー、ホントに怒ってません。むしろ関心してます。あの空気の中であんな風に周りを黙らせて」

 

「っ」

 

 顔が上がる。

 

「だから理由を教えてください。どうしてパーティ名をあれにしたのか、それにどんな意味があるのか。たしか門番の兵士がそんなことを言ってましたよね『デッドエンド』って」

 

「………ルイジェルドよ」

 

 ん? ルイジェルド?

 あの頼れる兄貴分、ぼくらのルイジェルドがどうかしたの?

 

「えっと、なんでルイジェルド? あー、ルイジェルドがどう関係しているんですか?」

 

「………ルイジェルドって、二つ名が『デッドエンド』って言ってたわ」

 

 んん? じゃあ門番が言っていた、おそろしいヤツってルイジェルドのことなのか? …そういえばミグルド族の里長の家ではルイジェルドは町に入れないって言ってたな。100年前に討伐隊が組まれたとかなんとか。

 

「ルイジェルドには、色々教えてもらったし…、相談に乗ってもらったし。………それをあいつら馬鹿にしてっ!」

 

 話がつながった。エリスはルイジェルドに対する敬意や恩義から『デッドエンド』の名前を使った。ただ、その名前は巷ではおそろしいスペルド族を表す二つ名だった。ミグルド族、この町の門番、冒険者たちに至るまでそれはよく知られていることなんだ。そして魔神語がわからないエリスにはその事実がわかってなかった、そういう話だ。

 

 あれ? これって、俺がルイジェルドに関する話を、エリスに伝えてなかったせいじゃないか。や、エリスの勇み足も多少あったかもしれないけど。

 

「はぁ~~~」

 

 俺は自分の不甲斐なさにため息をつく。ただエリスはそう思わなかったようで、俺のため息を聞いて涙目になる。

 

「ああ、違います。エリスは決して悪くない、悪くないんです。

 …いいですかエリス、2つ伝えることがあります」

 

「………はい」

 

 俺はしっかりと強い意志を持って伝える。

 

「ルイジェルドを馬鹿にするなんて僕だって腹が立ちます。許せません」

 

「………うん!」

 

「こちらから無駄に喧嘩を売ったりはしませんが、あんな奴らは無視しておけばいいんです」

 

「うんっ!」

 

 エリスの表情が明るくなった。

 

「もうギルドには『デッドエンド』で登録してしまいましたし、

 僕らは今日から新『デッドエンド』です!」

 

「ルーデウスッ!」

 

 エリスの表情が眩しい。

 これでいいだろう。あのやさしくて頼りになるルイジェルドが汚名を着せられているというなら、それを晴らしてやる。やってやるさ、俺だって恩返しぐらいしたいって気概はある。

  

 エリスをロアまで無事届ける。

 デッドエンドの名声をあげる。

 問題はない。 

 

「あと1つはなんなの?」

 

 エリスが聞いてくる。

 

「ええ、もう1つは…」

 

 エリスの質問に答えようとした時、

 

 

 

 俺は背中に大きな衝撃を受けた。

 

 





 次回予告 「新 デッドエンド」

 20250510:句点、読点、改行を修正しました。内容に変更はありません。

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