旅の唄 ~赤毛の少女と共に~   作:シロとクロ

7 / 31
007 冒険者と冒険譚

 

 冒険譚。嘘か真か、真偽のほどはわからない。

 

 冒険譚には伝説的な英雄譚から臆病者の笑い話まで星の数ほども存在する。

 そんな数ある話の中に、魔大陸では有名な新人冒険者の冒険活劇を題材とした話がある。

 

 ひょんなことから集まった3人の新人冒険者。

 男のひとりは、統率力とカリスマを持つリーダーであり、達人級剣士。

 男のひとりは、力が強く、頼りになる剛腕戦士。

 男のひとりは、頭がよく、なんでもできる腕利きシーフ。

 将来有望なパーティではあるが、いかんせん、全員が前衛職。

 そんな中、酒場にて宝石を見つける。フードをつけた女の魔術師。

 足りないピースであった彼女を仲間に誘うべく、声をかける。女は快く了承。

 男3人に女1人を加えて、4人となったパーティの冒険がはじまる。

 旅、魔物の討伐、迷宮の踏破、トラブルに喧嘩、友情と成功。そして…

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。

 

 あれから年頃(?)の美少女が隣で寝ていたにも関わらず、あっさりと眠りに落ちてしまったらしい。やっぱり昨日は相当に疲れていたか。いや、昨日1日のことだけじゃない。この魔大陸にきてからは大半は野宿、ミグルド族の里でも床で寝起きしていた。昨夜は久々にベッドで眠ったのだ。ああ、睡眠って大事なんだなぁ。

 

 隣を見る。昨夜は一緒に大人の階段を登った、わけではないけれど。でも、今までより心が通じ合えたと感じられた、そんな夜だった。その彼女は隣でかわいい寝息をたてて、ねーわ。

 いない。ベッドの上には俺ひとりだった。

 

 

 

 バァン!

 

「ルーデウスッ! 起きた!?」

  

 エリスが勢いよく扉を開けて部屋に入ってきた。そっちかいっ。

 

「………おはようございます」

 

「おはようっ! 早く朝ゴハン食べに行くわよ!」

 

 元気だなぁ。昨夜のしおらしさは微塵も感じさせず、はつらつと急かしてくる。

 ん…? エリスからほんのり蒸気が上がってる、顔も若干赤い。

  

「あれ? 何かやってたんですか?」

 

「うんっ! 剣の素振り!」

 

 あなた随分と体力オバケですね。健康なのは良いことです。

 うーん、エリスの体力が正直羨ましい。

 

 

 

 食事を済ませて、さあ本日の行動開始。

 

 まずやることは手紙を出すこと。書く道具は手紙屋で借りればいいから、手紙自体その場で書いて出せばいいだろう。中央大陸まで無事届くかどうかはわからないが。

  

 次に長旅に必要なモノの市場調査。昨日の商業ギルドで聞いたかぎりでは、商隊に便乗しての移動は難しそうだ。そうなると個々での移動に必要な"足"を調べておきたい。あとは旅用の道具、服。道中で狩りを行うなら防具も必要か。特に前衛のエリスは危険も多い、ある程度買い揃えた方がいい。

  

 そして最後は冒険者ギルド。ああ、正直気が重い。でも昨日の大立ち回りをしておいて、知らぬ存ぜぬで済ますのは無理がある。捕まえて兵士に突き出したのは良くても、相手に大怪我をさせている。意図的に治療もしなかった、応急処置のみだ。

 うーん、あくまでこちらはひったくりの被害者という体で取り繕う。よし、このスタンスでいこう。場合によってはこの町に居づらくなるかもしれないが…。

 

 悪い方向にばかり考えても仕方ない。

 まぁ、何とかなるだろう。何とかなるさ。なんくるないさ。

 

「ではエリス、本日も気合を入れていきましょう。レッツゴー!」

 

「………?」

 

 なんとかならなかった、伝わらなかった。

 

「いいですか、エリス。僕が"レッツゴー"と言ったら"ゴー"と返してください」

 

「…わかったわ!」

 

「では…、レッツゴー!」

 

「ゴー!」

 

「拳を突き出して、勢いよく!」

 

「ゴォーッ!」

 

「お尻を突き出して、よりかわいく!」

 

「ゴ、ごぉん!」

 

「前屈みになって、よりセクシーに!」

 

「ご、ご………ぁんっ」

 

「谷間を強調して、より…」

 

 殴られた。調子にのりました、はい。

 

 

 

 手紙は問題なく出せた。現在地と近況、俺とエリスがなぜか魔大陸に移動してしまったこと、日銭を稼いで凌いでること、状況によってはアスラ王国に向けて出発しようとしていること。それぞれの実家、ブエナ村のパウロ宛とロナのサウロス宛にだ。

 

 長旅に必要なモノの市場調査。これは想定外だった。この魔大陸では"足"になる動物は馬ではなく、運搬用に飼育されたでかいトカゲのような爬虫類とのこと。多少種類や個々の大きさによって違いはあるが、とにかく値段がお高い。ロキシーの父親やミグルド族里長にもらった金銭とリカリスに来るまでに狩った獲物で得た金銭を合わせても足りない。しかも旅には他に必要なモノだってあるのだ。手元に所持しておきたい金銭も考えれば…、うーん大問題だ。

 

 旅に必要な道具、服、防具は選ばなければ揃えられそうだ。特に道具は俺の土魔術で代用できそうなものもある。水や火はエリスだって初級魔術が使えるし、このあたりは節約できそうだ。魔術って旅に向いてるな。

 

 道具を物色していると、エリスが数本の革紐を所望してきた。なんだろう、髪を結い上げるには革紐は不向きだと思うんだが。ああ、昨日買ったマントの調整用か。成長期を見越して大きめのサイズを選んだしな。まあ少額だ、問題なく購入。

 

 

 

 そして今は本日のメインイベント、冒険者ギルドの前にいる。

 

 荒くれ者どもが集まる冒険者ギルドらしく、建物の中は喧騒としている様子。

 スイングドアを開けて中に入る。

 注目。そして、ざわめき。アウェー感がハンパない。

 

「………ふんっ」

 

 うちのお嬢様は、おかまいなしにドカドカと前に進む。

 広間の中央まで進む、そして、いつもの仁王立ち。

 

「言いたいことがあるなら言いなさいよっ!」

 

 周囲の冒険者が目を背ける。

 エリス、すごい。すごいけど言葉通じてない。

 俺は急いで彼女に駆け寄る。

 

「ルーデウスも言ってやりなさいよっ!」

 

「まぁまぁ、エリス。ここは抑えて…」

 

「なんでよっ!」

 

 うちのお嬢様は、暴走中。

 

「あー…、いいですかエリス。昨日言ったじゃないですか。こちらから無駄に喧嘩は売らない、無視すればいいって」

 

「それはっ! そう、かも、しれないけど…」

 

 あと一歩。

 

「僕らは『デッドエンド』。彼の汚名を注ぐのも目的のひとつなんです。無駄な喧嘩は控えましょう」

 

「…わかったわよ」

 

 鎮火。ミッションコンプリート。

 

 エリスが怒った時の迫力はすごい。大半の者が恐怖を覚える。それは暴力沙汰が日常茶飯事であるはずの冒険者ギルドでも有効だ。ただこちらとしては肝が冷える。導火線が短いうえに、沸騰は一瞬。ダイナマイトのようだ。

 

 

 

「おいおい、噂の新人様が随分デカイ顔してるじゃねーか」

 

 馬の頭を持った男がヘラヘラと近づいてくる。

 …いい予感はしない。

 

「…誰ですか、あなたは?」

 

「いいじゃねえか、俺のことは。気にすんな。

 それより噂になってるぜぇ、昨日はえらく派手に暴れたってな」

 

 嫌な感覚だ。

 

「何を聞いたか知りませんが、僕らは昨日、恥ずかしくもひったくりにあいましてね。そのひったくりを…」

 

「とぼけるなよ、この場にいるみんな知ってるぜ。冒険者殺しの『デッドエンド』の偽物だって」

 

「っ!?」

 

 死んだ?

 いや、相手の言葉を鵜呑みにするな。

 目の前の男は不気味だ、気持ちが悪い意味で。

 ここはやり過ごして、さっさと立ち去ろう。情報の真偽はあとで確かめればいい。

 

「同業者をヤって食ったメシはうまかったかい?」

 

 馴れ馴れしく肩に腕をまわしてくる。不快だ。

 

「いやいや、別に文句があるわけじゃねーぜ。仮にも『デッドエンド』なんて名乗ってるんだ」

 

 コイツなんなんだ、なにを言ってるんだ。

 

「…よくわからないですね、昨日の件は…」

 

「なぁ。おまえ自分が何やったか、ホントはわかってんだろ?」

 

 コイツっ!

 

「新人だろうが何だろうが、やっちまったことは認めねえとよぉ。でなきゃ俺らだって納得なんてできねえよなぁ」

 

「………」

 

 嫌な感じ、悪い流れ。

 

「黙ってないで、何か言えよ」

 

 周囲の視線が気持ち悪い、くそっ。

 

「たまにいるんだよ、おまいらみたいな新人。ロクな経験もないのに、やたらと自分を大きく見せたがるヤツって。だからみんなやさしく諭してやってるんじゃねーか。  

 ………ガキが調子乗ってんじゃねえよっ」

 

 肩に回された腕とは逆の手で、額を小突かれた。

 このっ。

 

 ドカッ!

 

 と思った瞬間、目の前の馬ヅラは視界の外に消えた。

 

「ルーデウスに何してんのよっ! ぶっ殺してやるわ!!!」

 

 エリスが殴り飛ばしたようだ。烈火の怒り。導火線が短すぎる。

 

「ガァァァッ!」

 

 バキッ!

 

 追撃。倒れていた馬ヅラに強烈な一撃。

 椅子とテーブルを弾き飛ばして、壁際まで吹き飛んだ。

 

「が、がはっ…」

 

 馬ヅラは鼻血を出して苦し悶えている。

 エリスがさらに前にでる。これ以上はまずいっ!

 

「エリス!まっ…」

 

 ガァァン!

 

 エリスを止めようとした瞬間、踏み出した彼女と馬ヅラの間に、椅子が勢いよく投げ込まれた。

 

 

 

「嬢ちゃん、ちょっと待てや」

 

 入口付近にいた豚の頭を持った大男がそう言った。

  

 誰だ? ここにきて乱入者。

 変化する状況がうまく飲み込めない。

 

「わりぃが、こっちが先だ。そいつには用がある」

 

「邪魔しないでっ!」

 

 豚頭がそう言うと、すかさず沸騰状態のエリスが吠える。

 人間語と魔人語ではお互い理解できているはずもなく、状況はさらに混沌となる。

 

 今の言い方からして豚頭は馬ヅラを助けに入ったわけじゃないのか?

 それなら、

 

「エリス、待って!」

 

 ひとまず今にも殴りかかりそうなエリスに制止をかける。

 オーケー、エリス、ハウスだ。 

 

「…彼が何か言いたいことがあるようです、まずは話を聞いてみましょう」

 

「………」

 

 彼女は何も言わない。しかし、とりあえずは止まってくれたようだ。   

   

「…? まあいい。ボウズも黙って見とけ」

 

 豚頭の大男は、俺とエリスの人間語のやりとりは理解していないだろう。

 ただ空気は伝わったようで、こちらから視線を外すと倒れて尻もちをついている馬ヅラに近づいていく。

 

「よぉ、ノコパラ。おめえ随分とやってくれたじゃねえか」

 

 豚頭はノコパラと呼んだ馬ヅラの男にそう毒づく。

 なんだこの二人、何のことだ?

 

「おめえは昔からそうだったよな。狡すっからくて、意地汚くてよぉ」

 

「ぐっ、何言ってる、ブレイズ。俺ぁただ…」

 

「バートレットを嵌めたのは、てめえだな」

 

「「「 !? 」」」

 

 なんだ?今確実に周囲の冒険者たちの空気が変わった。

 

「拘置所で直接本人から聞いたよ。新人のガキ共にちょいと痛い目みせてやろうぜって、

 おめえから持ちかけられたってよ」

 

「………」

 

 ブレイズと呼ばれた豚頭の男。ノコパラと呼ばれた馬ヅラの男。

 やりとりは続く。

 

「バートレットがかっぱらって、おめえが売り捌く。儲けは山分けってな」

 

「………」

 

「あいつは片足を失った。牢屋から出た後も、町から追放処分を喰らうだろう。まあそれは馬鹿なことした、あいつ自身の自業自得ってやつなんだろうが。

 だが、けしかけたおめえが此処でのうのうとしてるってのはどうなんだ?」

 

「………」

 

「あいつはパーティこそ違うが俺の舎弟分で、同郷の弟分だ。

 この落とし前、どうしてくれんだよ、あぁ?」

 

 こわい。完全にヤクザの恫喝のソレだ。

 

 ノコパラは先程から沈黙している。今のは事実なのか?

 つまりなんだ、あれか。ひったくりの首謀者はこのノコパラとかいう、さっきまで絡んできてた男で。ブレイズと呼ばれた豚頭の弟分ってやつが、ノコパラにそそのかされて盗みを働いた。そう言えば、昨日捕まえたひったくり犯は痩せた豚のような頭だった。なるほど、同郷ね。

 

 ブレイズがノコパラにさらに近づく。

 

「おい、待て。わかった、悪かったよ。でも…」

 

「うるせえよ、ケジメはつけろ」

 

「待てって、ブレイズ。俺らも昔は…」

 

 ダァン!

 

 ブレイズが倒れているノコパラに対して足で踏み抜く。

 踏み抜いた先はノコパラの股下ギリギリあたり。

 

「~~~~~ッ」

 

 ノコパラが声にならない悲鳴を上げる。

 

「はんっ、"片足"に対して"片玉"ってのは妥当なとこだろ」

  

 マジか…、今、潰したの?

 ノコパラの股が赤く染まってく。うげぇぇ。

 

「「「 ……………… 」」」

 

 周囲も俺も戦慄する。顔を青くする者、自分の股間を抑える者。  

    

「…ふんっ」

 

 平気そうなのはエリスだけだ。

 

 気づけば周囲は騒然としていた。大事なものを片方潰されたノコパラは、ギルド職員と思われる者に連れられて外に出て行った。治療しに行くのか、外に放り出されただけか。

 

 いずれにせよ、まずはやるべきこと、

 

「すみません、助かりました」

 

 俺はブレイズに近づくと、頭を下げて礼を言った。

 

「あん? …別におめえらのためにやったわけじゃねえよ。こっちの事情だ」

 

「それでも助かったのは事実です。ありがとうございます」

 

「ふん、まぁいい。それよりそっちこそ災難だったな、あの野郎に絡まれてよ。あいつは昔からあんな感じだ。ねちっこくて陰湿で、なるべく最小限の動きで儲けを掠め取ろうとするクズ野郎だ」

 

「お知り合いだったんですか?」

 

「昔、同じパーティだったってだけだ。とっくに解散してる」

 

 かつてのパーティメンバーに対して実に辛辣。過去に何かあったんだろうか。

 

「あ、申し遅れました。僕はルーデウス、赤毛の子はエリスといいます。

 …パーティ名は『デッドエンド』」

 

「ああ、聞いてるよ。頭のおかしい名前のパーティが盗みを働いたヤツを空飛んで捕まえたって、頭のおかしい話をよ」

 

 頭のおかしいって、俺たちをそんな素晴らしい世界の爆裂狂みたいに言わないでほしい。まあエリスの導火線の短さとか、俺の無詠唱魔術の使い方とか、色々ツッコミどころがあるのは自覚しているが。

 

 その後、ブレイズと少し話をした。

 やっぱりひったくり実行犯はブレイズの同郷の者で、普段それなりに仲が良かったみたいだ。ひったくりして捕まった噂を聞いて、今日朝イチで拘置所に行って本人に直接話を聞いたらしい。あと足は片足は完全に切断していたが、片足は治療されていたとのこと。治癒魔術を施されたか。

 彼自身のことも少しだけ聞いた。冒険者歴は長く、現在はBランクパーティ『スーパーブレイズ』のリーダーとのこと。すごいネーミングセンスだな。

 

 ブレイズと話した後は、ギルド職員に昨日のひったくり事件について事情を聴かれた。ただこちらも昨日の兵士同様に、軽い感じの事情聴取だった。この感じなら、仮に殺していても大して問題にならなかったかもしれない。いや、やめておこう。むやみに『デッドエンド』の悪名を上げるつもりはない、ルイジェルドに顔向けできない。

 

 

 

 宿に戻ってきた。

 ロビーのテーブルには昨日話しかけてきた、若い3人組の冒険者がいた。食事をとっているようだ。そういえば昨晩は随分と雑な対応をしてしまったな。こちらからリーダーと思わしき、白髪の少年に話しかける。

 

「こんばんわ、昨晩はすみませんでした」

 

「えっ、………こ、こんばんわ。ルーデウスさん、エリスさん」

 

 誰だコイツ。

 別のひとり、黄色い鳥頭の少年が言う。    

 

「…巷での話はお聞きしまシタ。相当な武勇伝を残されたようで…」

 

 さらに、他二人に比べて体の大きい4本腕の少年が、

 

「…ミノガシテクダサイ」  

 

 なんか脅してる感じになってる。なぜだ。

 大して年も変わらないような連中がやたらと下手にくる。うーん、心地悪いな。

 

「あー、どんな話を聞いたかは知りませんが…。僕らは冒険者になりたての新人です。そんなに畏まらないでください」

 

「「「…」」」

 

 黙るな、3人とも。

 

「えっと、ホントですよ。もっと気安くしてください。ああそうだ、自己紹介、自己紹介をしましょう。僕らはお互いをロクに知らないのですから」

 

 なんとか会話の糸口を探る。コミュニケーションっていざとろうとすると難しいな。

 

「昨晩も言いましたが、僕はルーデウス、こちらはエリスといいます。彼女は魔人語がわかりません。なので会話は少々難しいです。あと僕らは2人で『デッドエンド』というパーティを組んでいます」

 

「………」

 

 これでも答えてくれないか。

 いや、なにやら白髪の子が他の二人に目配せをしている。なんだ?

 

「俺はクルト」「私はガブリン」「オデハバチロウ」

「「「 3人そろって『トクラブ村愚連隊』!!! 」」」

 

 牛乳な特戦隊のごときポーズを取る三人。その年で戦隊ヒーローごっこはどうなんだろう。

 

 なんてはじめは思ったが、話してみると彼らは新人という括りからはもう少しで脱却できそうな冒険者らしい。Dランク間近のEランクパーティ。俺から見れば十分先輩だ。パーティの構成、これまでやってきた依頼内容、最近の活動内容なんかを聞いた。冒険者になりたての身としてはタメになる話が多かった。

 

 あと昨日エリスに声をかけてきたのは別にナンパというわけではないとのこと。自分達が前衛職3人構成のため、エリスのフードを見て魔術師だと思い、彼女を仲間に勧誘するつもりだったらしい。思わず「いや、腰のホルダーに剣携えてるじゃん」って言ってしまった。なんでも前衛職3人の男たちが魔術師の女の子を勧誘するのは、有名な新人冒険譚の定番であり、エリスのフードを見て「これだっ!」とロクに確認もしていなかったそうだ。「俺は?」と聞いたら弟かなにかと思ったとか。クルト君、そういうところだぞ。

 

 まあ少しは打ち解けられたかな、悪くはないだろう。

 

 

 

 食事をとって、部屋に戻る。

 ああ今日も疲れた、なんか最近こんなんばっかりな気がする。前世では考えられないような苦労人生活だ。

 

 ベッドに倒れこむ前に、エリスに部屋から追い出される。死人にムチ打ち、おまけに外に放置プレイ。お嬢様が随分とあらぬ方向に成長されている。冗談はさておき、勘づく。ああ、体を拭いているのか、お風呂があるわけじゃないもんな。エリスだって女の子だ、身綺麗でいたいだろう。

 ドアのカギ穴から覗いてみるが真っ暗だった、くそう。

 

 それなりの時間を待って、許可が下りたので部屋に入る。

 するとエリスがなにやら革紐を束ねたようなものを持って言った。

 

「はいっ!これ」

 

 全然わかりません、お嬢様。

 

「だからっ!これ」

 

 エリスが手に持っている"これ"を見てみる。

 革紐を束ねた、いやキレイに編んであるな。三つ編みのように。それが片端がミサンガのように円環になってる。片端は何もなし、ただ編んだ紐がほつれないよう結んであるだけ。全体的には頭の小さいオタマジャクシの形状。全長は1mちょっとか。

 うん、わからない。

 

「だからっ!こう!」

 

 エリスが革紐の円環部分を俺の右腕に通す。円環は手首で止まらず肘の上あたりまで。次に逆側の端を杖に結び付けた。

 あれ、これって?

 

「ひょっとして、…これはひったくり対策ですか?」

 

「うんっ、そうよ」

 

 ああ、そうか。昼間、市場調査をしている時に買った数本の革紐はこのためか。それでさっき部屋を追い出された間に作ったのか。

 

「………どう?」

 

 相変わらず言葉が足りてません、お嬢様。

 ああ、でも。

 

 ………人から手作りのモノをもらったのはいつ以来だろう。

 革紐を編んだだけの簡単なもの。でも手作りは手作りだ。10歳の誕生日にエリスから杖をもらった。5歳の誕生日は両親に剣と本をもらった。もちろん嬉しかったけれど、でもそれは直接作ったものってわけじゃない。ああ、手作りのモノもあったか。師匠からもらった杖、卒業記念のお守り、そして魔人語の資料。杖と資料は手元にはないけれど、お守りは肌身離さず持っている、俺の宝物だ。

 

 そして、この"革紐ストラップ"も宝物だ。  

 

 ふふっ

 

「ありがとう、エリス」

 

 俺は感極まって、思わずエリスに抱き着いてそう言った。

 

「///っ! そ、そう?」

 

 抱きしめた手からは、彼女の体が硬直しているのがわかる。

 体勢から確認はできないが、おそらく顔も真っ赤じゃないだろうか。

 エリスからいい匂いがする。思わず抱きしめた手が下にさがる。

 お尻、やわらかい。

 

 繰り出されるボレアスパンチ。

 

「そ、そういうのはまだダメよっ」

 

 俺は殴られた勢いのまま、自分のベッドに倒れこんだ。

 

 

 

 おやすみなさい、エリス。

 

 





 ノコパラは本作では原作以上の小物、クズ、ゲスに成り下がりました。

 オリキャラ:バートレット、痩せた豚頭の男、ひったくり犯、ブレイズの舎弟分。

 改行の使い方を少々変更しました。

 次回予告 「はじめてのおしごと」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。