先日登録した冒険者のランクについて情報をまとめておこう。
冒険者はその実績に応じて、S~Fまでの7段階でランク分けされる。最上位ランクがS、上位ランクがAB、中位ランクがCD、下位ランクがEFだ。そして冒険者ギルドの規定として、受注可能な依頼は自分のランクの上下1つ以内。現在Fランクの俺たち『デッドエンド』ではEランクの依頼までしか受けることはできない。
依頼の内容は主にこんな感じだ。
Fランク、町中の雑務が基本、報酬は激安。
Eランク、ほぼ同上。稀に町の外での活動もある。
Dランク、採取などの外での依頼が増える。
Cランク、魔物の討伐、魔物からの素材の収集。
それ以上のランクは高難易度の魔物討伐、希少品入手、迷宮関連、護衛任務、国政案件といった内容になる。まあ、Bランク以上は今は関係ないだろう。
次にアスラ王国に向かうことに関しての情報だ。
現在地は魔大陸北東のリカリスの町。目的地のアスラ王国は中央大陸西部にある。アスラ王国を目指すには、以下の経路となる。
リカリスの町(魔大陸北東部) → ウェンポート(魔大陸南端) → ザントポート(ミリス大陸北東端) → ウェストポート(ミリス大陸南西端) → イーストポート(中央大陸南端) → アスラ王国(中央大陸西部)
世界の端から端への移動だ。各大陸を縦断もしくは横断し、大陸間も船で移動、とてつもない距離になる。他の経路では魔大陸北西端から天大陸経由で中央大陸に入るルートもあるが、これは問題があって却下。天大陸は通常の手段では上陸できず、また船も出向していないので、ほぼ不可能だ。
とりあえず魔大陸南端ウェンポートまで行くことにする。ここまでに集めた情報によると、商隊に便乗することはできそうにない。徒歩での移動もできなくはないが、現実的には騎乗と運搬を兼ねた"足"が必要になってくる。"足"は先日の市場調査で調べておいた、飼育された大トカゲだ。大人2~3人運ぶことができる。しかし、その大トカゲがお高い。金が必要だ。
冒険者として地道にランクを上げて、より報酬の良い依頼で稼いでいくか。それとも別の金策を考えるか…。う~ん、どうしたものか。
そういえば冒険者登録をしてから、まだ仕事をしていない。ひとまず今日のところは冒険者として仕事をしてみるか、何事も経験だ。
………前世では考えられないような考えをしてるな、俺。
というわけでやってきました、冒険者ギルド。
エリスと一緒にスイングドアを開けて中に入る。注目は…されるか。冒険者登録をしてから目立つ行動ばかりしているし仕方ない、仕事は1度もしていないのに。
そんな中、声をかけてくるパーティがある。
「ルーデウスたちも仕事の受注かい?」
ツノの生えた白髪の少年、クルトだ。昨晩のおかしな低姿勢もなくなり、普通に接してくれる。いまだアウェー感のあるギルド内でありがたい。
「はい、まずは仕事をひとつでもこなそうと思いまして」
「ああ…。そういえば、まだ冒険者登録したばかりだったよね。仕事以外ですごく話題になってるから、忘れてたよ」
クルトが遠い目をして言う。言わないで、わかってるから。
俺たち『デッドエンド』はFランクパーティ。受注可能なEFランクの仕事がないか、貼り出してある依頼書を探してみる。倉庫整理、荷物の運搬、調理手伝い、帳簿記入、害虫駆除、ペットの捜索、etc…
微妙。いや、新人には危険の少ない依頼を斡旋されるのは理解できるが、これはさすがに…。なんて考えていると、後ろから手が伸びて1枚の依頼書が剥がされた。
「おっと。この依頼は『ピーハンター』が受けるつもりなんだ…です、…よろしいですか?」
緑のトカゲっぽい男が、クルト達と俺とエリスを見てそう言ってきた。途中で何を察したのか敬語になったな。いや、それは別にいい。
剥がした依頼書の内容は"ペットの猫の迷子探し(Eランク)"か…。俺もエリスも探索調査や追跡術の心得なんかはない。
「ええ、どうぞ。僕らは他の依頼を探すので、かまいませんよ」
クルトも俺と同様に、その依頼を受けるつもりがない旨の返事をする。それを聞いて緑のトカゲ男は依頼書を持って受付に向かっていった。
するとクルトの仲間の鳥頭が、独特な話し方で教えてきた。
「…今の『ピーハンター』のジャリルっていう冒険者デス」
「有名なひとなんですか?」
「…この町では、少しは知名度がありマス。彼のパーティはランクは高くないけど、ペットの迷子探しはお手の物。その手の依頼のエキスパートっていう話デス」
へー、そんなエキスパートがいるのか。追跡術のほかに動物の使役術や調教術あたりを持ってるとか? 限定的ではあるけどそういう特技持ちっていいな、前世での資格みたいだ。俺とエリスの特技は…魔術と剣術。どう見ても戦闘特化にしか思えない。
どの依頼がよいか…、ふむ、ここは仲間に意見を聞いてみよう。
「エリスはどういった依頼を受けたいですか?」
「竜を狩ってみたいわ!」
いきなりとんでもないことを言い出す。周りに人間語がわかる者がいなくてよかった。
「いえ、そんな依頼はありません。そもそも討伐系はCランク以上になるので、僕らでは受注できませんよ。最低でもDランクに上がらないと」
「え~、そうなの?」
「今受注できる依頼は…このあたりでしょうか」
俺は受注可能なEFランクの依頼書について、エリスに説明する。
「………討伐がダメなら、せめて修行になるやつがいいわ」
エリスは低くなったテンションで答えた。
クルト達と別れて俺たちは今、受注したFランクの依頼をこなしている。内容は建築資材の運搬、時間は昼まで、報酬は安い。エリスの言を受けて、せめて体を鍛えることになりそうな依頼を選んでみた。
しかし、はっきり言って労力と報酬が見合っていない。この子供の体にはやっぱり力仕事は無謀だった気がする。それでもエリスは俺よりもよっぽど仕事量をこなしているのだが。これが前衛職と後衛職の違いだろうか。
今運んでいるこの石の山も、いっそ運び先で土魔術で作ったほうがよっぽど楽だ。ただ依頼を受けた立場であるため、指示以上の勝手はできない。
あれ? ………何かひっかかるな、………そうか。
仕事を終え、ギルドに戻って完了報告。わずかばかりの報酬を受け取る。
「これからすぐに出かけます。エリスも来てください」
「どこ行くの?」
「市場調査です!」
すぐに市場に向かう。
こういったものは…ないな。需要がないのかもしれない。
こんなかんじのものは…ある。値段も相応か。
そしてこの系統は…確実にある。露店でも見かけたし、当然のように専門の店もある。そこでエリスに置いてある商品の品質を確かめてもらう。この系統は俺よりもエリスのほうが適任だ。
宿に戻って、部屋に籠る。
さあ、修行の成果を今こそ見せる時!
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ん? 気づけば部屋の中が薄暗い。もう日が沈んだか、没頭してしまったな。
あれ? 気づいたらエリスがいない。ほったらかしにしてしまったな。
部屋を出て宿入口にあるロビーを見渡す。エリスがいた、クルト達と一緒のようだ。なにやら楽しくおしゃべりしている。ん? おしゃべり?
「クルト! ガブリン! バチロウ! …ボウケンシャ! …トクラブ…ムラバレンタイ!」
惜しい。しかし様子を見ると、ひょっとしてクルト達がエリスに魔神語を教えてくれてたのか?
声をかける。
「エリス、ごめん。ちょっと作業に集中しちゃって…」
「ルーデウスっ! おそいっ! お腹すいたわよっ!」
お嬢様はご立腹。すぐに食事を頼む。クルト達も今から夕食ということで一緒にとることにする。野営時の大王陸亀のみすぼらしい料理もどきではなく、ちゃんとした料理がでてくる。
食事をとりながら彼らと話す。
「先程はなにやら、エリスに魔神語を教えてくれてたみたいで」
「いいよ、全然大したこと教えられたわけじゃないし。でも話してみてわかったけど、彼女ほんとに言葉全然わからないんだな」
クルトに続いて、鳥頭のガブリンが言う。
「あまりひとりにさせないほうがいいデス。ひとりでは食事も頼めなったようデス、たいへんそうデシタ」
うっ、そのとおりだ。
「エリス、ミツケタトキ ゲンキ ナカッタ」
4本腕バチロウのトドメの一言。俺、撃沈。
あとでしっかりと謝っておこうと心に刻む。
その後は、エリスに通訳をしながら、楽しく食事会。食事が終わり食器も下げられた時、エリスが質問してくる。
「ルーデウスはさっきまで何つくってたの? また人形?」
「人形だけではないんですが…、そうだ、ちょっと待っていてください」
どうせならクルト達にも見てもらおう。俺は部屋に戻って先程まで没頭して製作していた作品をとってくる。そして、それらをテーブルに並べる。
エリスは興味深そうに、クルト達は不思議そうに、それらを見た。
「これらについて、忌憚なき意見を聞かせてください」
まずはネコミミとシッポとツインテールの女の子の像。大きさは手のひらサイズ。時間がなかったので完成度はイマイチだが、見れないほどではない。十分人形ではある。
次はコップとお皿だ。材質は石であるが表面はツルツルになるまでキレイに整えてある。硬くしたせいか、少々重いのが難点か。
最後は剣だ。自分でも時折即席で短剣を作って使うときがあるが、それよりもは長く、硬く、靭性もなるべく持たせてある。形状は両刃の直剣だ。
「剣はいいわね! コップとお皿も悪くないわ。人形は壊していい?」
何かおそろしいことさらっと言われた。ダメにきまってる、誰がモデルだと思ってるんですか。ただ彼女はこういうとき言葉を飾らず、率直に思ったことを言ってくれる。ありがたいな。剣とコップとお皿は十分モノになっているようだ。
「これは? すごい高そうだけど…」
おっと、こちらも高評価頂きました。彼らがまだ物を見る経験の浅い少年だったとしても、魔大陸ではこういう評価になるのか。
「こちらの作品は僕が土魔術で作ったものです」
「…作った?」
俺は、彼らの目の前で土魔術で簡単な人形を作ってみせた。作ったのはツノの生えた少年剣士、モデルは俺の目の前にいる。
「「「………」」」
絶句したようだ。
その後、彼らは魔術ってあんなことができるのか、魔術師ってすごい、なことを言っていた。褒められて嫌な気はもちろんしないが、作品よりも魔術自体に感心していたようだ。たしかに無詠唱魔術でないとこういった作品は作れないから、珍しいのは確かなのだが。
剣はエリス、クルト、ガブリンが自身の武器と同種なため、もう少し詳細な意見をもらう。重さ、重心、取り回し、持ち柄の感覚、市場の商品と比べてどうか。今後、改良版を作る際に参考にさせてもらうつもりだ。
食事後の品評会も終わって、部屋に戻る。
ベッドに倒れこむ前に、先程心に刻んだすべきこと。
「エリス、先程はすみませんでした。ちょっと作業に集中しすぎて…」
「いいわよ、別に」
ケロっと何事でもないかのように、返された。
「ルーデウスがやるんだから、間違ってないわ。許してあげる!」
許されたみたいだ。でも、ちょっとあれだな。エリスは俺のやることに対して、なんだか盲信的な感じがする。これはあまりいい傾向とは思えない。一応言っておいたほうがいいか…。
「そう言ってくれるのは嬉しいのですが…。えっと、いいですか? 今回のことだけじゃなく、これからエリスも何か思うところがあったら、僕に言ってください」
「? 言ってるわよ」
まあ彼女ならそうか。言いたいことを我慢してるって感じはしない。
「では聞きたいことはありますか? 僕らは『デッドエンド』の仲間なんですから、言いたいこと聞きたいことがあったら遠慮なく言ってくださいね」
もう1歩、踏み込んで反応を伺う。
「じゃあ、あの作ったもの、どうするの?」
「ああ、あの作品は明日市場で売るつもりです。今回は初回ということで実験的な意味が強いですが…、今後お金を稼ぐ手段になると思いまして」
「………あの人形も?」
「? ええ、そのつもりですが」
「っ! ルーデウスのバカッ!」
爆発。エリスはそう叫ぶとベットに潜りこんで、シーツを被った。
えぇ? どゆこと?
乙女心はどんな高等魔術より難解だ…
原作青年期以降で、ルーデウスが土魔術で人形以外にもお皿や石剣なんかを製作している描写がありましたが、あれらを売る商売をすれば結構な稼ぎになるんじゃないかな、と思います。
次回予告 「買い物日和」