女心と秋の空…
変わりやすい秋の空のように、女性の気持ちは移り気で変化しやすい。
今は秋ってわけではないが。
翌日、不機嫌なエリスと一緒に、土魔術で製作した作品を持って市場に行った。
まずはコップとお皿。食器の専門店は見当たらなかったので、似たようなものを取り扱っている露店で買取交渉開始。ただし露店といってもボッタクりのお店はではないことは、あらかじめ把握している。そういった情報は、商業ギルドを訪れた時に仕入れてあるからな。
結果を言えば、かなりの好感触でありそれなりの値段で売れた。さらにこの露店の店主は気前が良く、色々教えてくれたりもした。こういったツルツルな表面に仕上げた製品は本来高級品なこと、製品自体が硬くて頑丈なのも評価ポイントが高いそうな。ただやっぱり少々重いらしく、この質ならもう少し厚みを薄くしたほうが世間の需要には合っているとのこと。今後も似たものがあれば買取るので持ってきてくれと言われた。上々の結果だ。
次に武器屋に行った。こちらは課題はあるが今後に期待、という結果となった。武器屋の頑固ジジイ曰く、質はわるくないが面白味がなくロマンに欠けるとのこと。あんたの趣味なんて知らんがな、とも思ったが話を聞いてみると納得はできた。兵士やお城に卸す大量生産品ならまだしも、こういった武器屋で扱う一点モノは冒険者や武芸者が購入していくらしい。なのでインパクトのないものは決して人目を惹かず、高値をつけにくいとのこと。
たしかに製作した剣は、ごくごく一般的な両刃の直剣。う~ん、ロマンを追い求めるか…。今後改良版の製作では、エリスやクルトたちにさらにアドバイスを求めてみるか。
最後に雑貨を取り扱っている露店での交渉。こちらは散々な結果だった。エリスの視線が怖かったので、取り出した人形はツインテールの女の子ではなく、ツノのついた少年剣士のほう。かつてロアで製作し、そして泣く泣く売った神の像ほどに手間と時間をかけたわけではないが、これだってそれほど悪い出来ではない。しかし、若そうな女性の店主には最低価格を提示された。交渉はしてみたがどうにも芳しくない。おそらくはこういった人形を愛でるような文化自体がないのかもしれない。
結局、はじめの提示どおりの最低価格で売り渡した。
今回は実験的な意味合いだったとはいえ、それなりの収入にはなった。
はっきり言って、冒険者として低ランク依頼をこなすよりよほど実入りはよい。しばらく時間をとって、この土魔術による金策に従事するか…。いや、あまりに大量生産して卸しても相場が崩れてしまう。このあたりの匙加減は難しそうだ、慎重にやるべきかな。
ひとまず今後は人形は無し、食器は相場の様子を見ながらも生産継続、武器は改善改良をして再トライという方針だ。
金に余裕もできたので、以前より欲していた服と防具を購入する。
服屋。エリスの買い物は実に早い。軽くて動きやすくて丈夫なものを基準にして、あっという間に選び終えた。女の子は買い物には時間がかかるとはなんだったのか。俺もこれまで身に着けていた貴族使用人の子供服からは脱皮して、動きやすく旅にも耐えられそうな服をチョイス。
会計を済ませて店をでる時、エリスは上機嫌になっていた。買い物自体は女の子らしく嬉しいものなのかな、と思ったが本人にきいてみると違うらしい。どうやらこの魔大陸に来てから、ここまで服1着でのやりくりは大変でようやく余裕ができて良かったと言っていた。
おとっつあんが情けないせいで苦労かけたね、ゴメンね。
防具屋。以前も思ったがエリスに防具は必須だ。前衛は常に致命傷の危険性があるし、俺の中級治癒魔術では部位欠損は治せない。
彼女は肘、膝あてから、グローブ、ブーツ、胸当てを選んだ。動きやすさを重視してか皆革製である。金属製の重装備でスピードが落ちるのを嫌がったようだ。
最後に残った頭部用の防具について、二人で物色している。
「エリス、これなんてどうですか?」
「嫌。ゴツイ、重い」
世紀末覇者にしか見えない兜は却下された。
「エリス、じゃあこれなんかは?」
「嫌。視界が悪そう」
小鬼殺しが着けていそうな兜は棄却された。
「エリス、こちらは当店自慢の一品で…」
「それ、防具の意味あるの?」
ネコミミは一蹴された。…ホントなんでこんなものがあるんだ?
ん、これは…。
俺は独特な紋様意匠の、金属板のついたバンダナっぽい品を指さして言った。
「エリス、この鉢金なんか良くないですか? これなら視界の邪魔にはならないでしょうし」
「…悪くはないわね」
目についたソレを手に持ってみる。
「僕でも着けられそうなくらい軽いし、正面の金属板も頑丈そうです」
「いいわねっ!」
お買い上げ、2つほど。
俺は他にはお揃いの鉢金とは別にブーツを選んだ。後衛だし、これくらいでいいだろう。
今は買い物を終えてカフェでまったりしているところだ。まあカフェなんて洒落たものじゃなく、酒場でお茶らしきものを飲んでるだけだが。
「さて、エリス。これからのことを話しましょうか」
「えっ!? こ、これからのこと?」
「はい。これから僕らがロアまで帰るのに、必要なこと、やるべきことについて、です」
「あ…うん、わかったわ」
エリスは何故か一瞬慌てた様子をみせたが、すぐに落ち着く。
彼女に説明する。ここからロアまで向かうとして、その道のり、かかるであろう時間。現在はこの魔大陸の外に出るまでの移動に必要な資金すら足りていない状況であること。土魔術の作品を売ってお金を稼ぐ手段は有用そうであること。冒険者として活動するのも悪くはないが、当面は昨日のような地味な活動になること。
「先日話したように、エリスも何か気づいたことや意見があるのなら言ってください」
「………いいの?」
「はい、もちろん。遠慮はいりません」
「じゃあ、えっと………えー…、ルイジェルドに協力してもらうってのは、どう?」
ルイジェルドに頼む、か。…ふむ。1度はこちら側から断ってしまったが、頭を下げてお願いすれば彼なら協力してくれるかもしれない。彼が同行してくれるなら道中の危険度はグッと下がるし、狩りも二人でやるよりはずっといいだろう。食料確保に金策も安定する。このリカリスでトカゲ代さえ稼げれば、以降は相当ラクになるはずだ。
しかし彼には町に入れないというハンデがある。町に寄る際には、彼には外で待機してもらって…、いや、ダメだ。なんだその扱いは。それに彼には戦士、騎士として認めてもらった、というのもある。
………男の意地ってやつがあるじゃないか。
「悪くはないとは思いますが…、できればそれは最後の手段としておきたいですね。彼にはすでに恩がありますし、仮に同行してもらうとなると相当な期間になります。彼に敬意を持っているからこそ、そこまでは甘えたくありません」
「…そう? それなら仕方ないわ」
エリスはあっさりと自分の出した意見を引っ込める。まあ思い付きを口にしただけで、そこまでは考えていないか。でも意見をちゃんと言ってくれるのは良い傾向だ。
「お金を稼ぐ方法としては、この町近辺で狩りを行うという方法もあります」
「狩り! いいわねっ!」
喰いつきいいなあ。
「でもいいの? CだかDだかに上がらないと討伐できないって」
「それは討伐依頼を受けられないって意味で、魔物を狩ることとは別なんですよ。現にこの町にくるまでに狩りは行っていたでしょう? 僕らも今は冒険者ですから、依頼未受注での依頼指定の魔物は避ける必要はありますが」
「………わかったわ」
それはわかってないほうのわかったですね、わかります。
「つまりは魔物を選べば狩りはできるってことです。狩った獲物、収集した素材を売りにだせば、いい金策になると思います」
「じゃあ早く行くわよっ!」
「ちょ、まってください。エリス、ハウス!」
いきなり立ち上がって手を引っ張られた。
体ごと引きずられる、力も瞬発力もハンパない。
「~~~んふふっ」
「今から町の外に出ても、すぐ暗くなりますよ! 明日、明日からです!」
やる気満々の彼女をなんとか宥める。酒場でえらい注目を集めてしまった。
その後はギルドに寄って、少しばかり情報収集を行う。町近辺に出現する魔物、現在依頼に出されている魔物の確認、周辺の地理。
宿に戻る際には、エリスは朝の不機嫌さはどこにいったのか、非常に上機嫌になっていた。
…今日はいい日だったな、と思う。
こうしてリカリスの町に来て以来、はじめての平和な一日が終わった。
魔大陸の一般市場でフィギュアは売れないんじゃないかと。芸術に理解ある魔王とかに献上するとかなら需要はあるかもしれませんが。
次回予告 「魔物」