その、柔らかな旋律は…【ARIA×ガンダムSEED クロスオーバー 習作】 作:鳥和気沙羅
「ぶはっ!……はぁ。あやうく死ぬところ、だった…?」
ニコルは水面から顔を出すと同時に、ずっと気付かなかった息苦しさを思い出すように外気を思い切り吸い込んだ。さっきまでのぼんやりした気分はどこかに吹き飛んでしまう。感傷に浸っていた少年のニコルを頭の隅に追いやり、軍人ニコル・アマルフィへと頭を切り替えた。
呼吸が落ち着いた所で、ニコルが頭の中のギアを少し上げて周りを見回すと、すぐ後ろにリゾートの水上コテージのようなものが立っていた。クルーゼ隊の同僚ディアッカが、水上リゾートホテル特集の組まれた雑誌を読みながら「女の子と行きてえのに相手がいないんだよなぁ…」とぼやいているのを聞いたことがある。
このまま海水に浸かってプカプカ浮いているのも、バカンスならばなかなか楽しめるだろうが今はそれどころではない。
持ち主の方に無断で悪いとは思いつつも、海の底に向かって伸びている柱を掴んでよじ登り、そのコテージのベランダ?に勝手に上がって縁に腰掛けた。
さあ、自分の現在の状況を整理してみよう。
さっきまで自分の体が浮かんでいたのはかなり広大な水たまり、というか海だ。その時点で間違いなくここは自らの祖国プラントではなく、地球だろう。宇宙空間に浮かぶ人工物であるプラントには、ここまで広い海は存在しない。
それだけで非常にまずい。
今の自分は何故かザフトの赤いパイロットスーツを身につけて丸腰の状態だ。あったって気休めだが、顔を隠せるヘルメットもない。そんな目立つ格好をした兵士が、敵連合国のどこかに一人迷いこんでいる。
…そう、そういえば「何故か」なのだ。と気づく。
これもまずい。いやむしろこれの方が深刻だ。
クルーゼ隊所属、ニコル・アマルフィ、15歳、愛機はブリッツ、ディアッカの他の同僚たちの顔と名前、そういった情報は思い出せるのに、自分が直前までどんな任務に就いていたのか、何故地球の海に身一つで放り出されているのか、全く分からない。確かに覚えている中での最新の記憶は、『足つき』を追って地球に降下した、ということだけだ。
何かしらの強いショックによる一時的な記憶喪失、だろうか?とニコルは想像した。
パイロットスーツなのにブリッツに搭乗していない今の自分からして、撃墜され命こそ助かったものの、衝撃で記憶が飛んでいる、という可能性は否定できない。
…だとしたら本当に最悪だ。ブリッツは海の底に沈んでいるということだし、現在地不明、作戦位置不明、友軍位置不明、救難信号発信機も無し。今生きているのだけが不幸中の幸いか。
まさしく途方に暮れるしかない状況のようだ。これからどうするか名案も浮かびはしない。しばらくの間、ニコルは声も上げられず俯いてじっと穏やかな水面を見つめていたが、少しずつ違和感が湧いてきた。
…穏やか過ぎる。
ハッと立ち上がり今度こそちゃんと周囲を見回す。海は穏やかで、空はどこまでも澄み渡っている。海鳥が飛んでいるのも見える。コテージは無人だったが、陸側の歩道を6つかそこらの子供たちがキャイキャイはしゃぎながら走って行った。
どう考えてもつい先ほど、あるいは最近までMSやMAの飛び交う戦闘があったような様子ではない。自分はそんなに長い距離を流されてきたのかと考えかけるが、なら気がつくずっと前に溺死しているはず。
いったい何なんだ、ここは。これは。自分はどうしてここにいるのだ。
混乱しているニコルは、静かにコテージに近づいてくる一艘のボートに気付かない。
「…あの、失礼ですが本日ご予約いただいていたお客様でしょうか?」
人がいるわけもないと、無意識で警戒を解いていた海側からかけられた声に、ニコルは内心飛びあがりそうなほど動揺しながら、一方で軍人の習性通り素早く肩幅に足を開き、腰を落としつつ振り向く。
そこに居たのは、純白のボートに乗った、雪の妖精のように美しい女性だった。
本文が約1500字、まだまだ少ないですね。精進します。
10月26日21:40
タイトルを変更、本文をわずかに加筆修正致しました。