その、柔らかな旋律は…【ARIA×ガンダムSEED クロスオーバー 習作】   作:鳥和気沙羅

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そろそろニコル君にも積極的に動いてもらおうと思います。

あと今後アクアのいくつかの場所に、ピアノの生演奏とかありそうダヨネー→あるということで行きまっしょい、で展開します。



その、暖かな希望は…

突然、自分自身のことを『異世界人』なんて言うので、どうしていいか分からなかったけれど、アリア社長の反応を見るに、猫妖精が彼に何かしたことは本当のようだ。にわかには信じがたいが、アリア社長はこんなことで嘘をつく人……猫じゃない。

 

だとしたら。

 

私の新しい『お友達』はとびっきり不思議で奇想天外で、このアクアに沢山の『素敵』をくれる人に違いない。

 

「ねえねえ、ニコル君のいた世界や貴方のお話が聞きたいわ。まだアクアのことを話しただけで、貴方のお話は聞かせてもらっていないし。なんていったって貴方は、あの猫妖精が気に入って連れてきちゃうような素敵な人ってことでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気のせいや錯覚でなければ、僕を見るフローレンスさんの目がキラキラ輝いている。どうも妙な期待をされているようだ。思わず苦笑いを浮かべてしまった。

とはいえ戦争のことは言えないし、言いたくない。今いるこの世界は見るからに平和だし、何よりフローレンスさんには、コーディネイターとナチュラルのいがみ合いとか、そんな暗い感情の話は似合わないと思うから。

 

「…うーん、何から話せばいいんだろう。僕の世界にも火星や地球はありましたけど、火星にはまだ人は住んでいなかったですね。そうできるように頑張っている最中でした。人々は地球の他に、宇宙の色々な所にコロニーを作って住んでいて、僕がいたのは『プラント』っていう、100基よりちょっと少ないくらいのコロニーが集まった国です。大きな砂時計みたいな形をしたコロニーだったんですよ。んー特に何がある国とおいうわけでもなかったんですが……そうそう、プラントでは地球の多くの国よりも早く、15歳で成人と認められます。僕もついこの前15歳になったばかりでした」

 

「そうなの!それでニコル君は、アクアが火星と聞いて驚いていたのね。ちなみに、アクアでは西暦換算の18歳で成人します。私は今19歳だから、お酒も飲める立派な大人なのです。えへん」

 

腰に手を当て、少しおどけた風に胸を張って言うのを見て、僕の口から思わず笑い声が出てしまった。そんな僕を、フローレンスさんは何故か嬉しそうに見ている。

 

「私はこのARIAカンパニーで、水先案内人(ウンディーネ)というお仕事をしてるの。簡単に言えば、ゴンドラにお客様を乗せて、この街の観光案内をするガイドさんかな。水先案内業界のほとんどの会社は、少なくても10人くらいのウンディーネが所属しているんだけど……ウチは今は私一人だけ。ゴンドラを漕ぐのも、お客様とお話しするのも大好きだから、忙しいのだって大歓迎なんだけどね。あと実はさっきから1度も、ニコル君の楽しそうな笑い声を聞けていなかったから、ウンディーネとしてちょっと反省していたところだったり」

 

どこか自嘲的な笑みを浮かべるフローレンスさんを見て、初めてそんな風に気遣われていたことを知る。プロフェッショナル意識の高さからくる考えでもあるだろうけど、ああ本当に優しい人なんだなと再確認した。

 

「貴方は、元の世界ではどんなことをしていたの?何が好き?」

 

そう訊かれて、言葉に窮した。

暗い顔にならないよう気をつけながら、嘘と本当を織り交ぜた虚構を構築していく。

 

「……僕は、宇宙空間で色々な作業をする技術者をしていました。今着ているこの服が、僕の世界での宇宙服です。といっても、その技術者の専門学校を卒業したしたばかりの新人でしたけど。好きなことは、ピアノを弾くことです。子供のころからピアノを弾くのが好きで、途中で専門学校に通うと決めなければ、ピアニストにでもなっていたかもしれませんね」

 

作業は作業でも、ヒトの命を奪う作業だったことは言えない。

 

「宇宙飛行士、かあ。素敵ね!宇宙を散歩できたら、とても綺麗なんでしょうね」

 

そう、確かに真空の宇宙空間でMAやMSが弾ける光は、音のない花火のように残酷な綺麗さだった。

 

「ピアノが弾けるなんて羨ましいわ。私は、音楽は船謳(カンツォーネ)以外からっきしなの。そう言われてみれば、とても綺麗な指ね」

 

綺麗なものか。この指は、何度もブリッツのライフルのトリガーを引いて、命を散らせてきたのだ。

 

口には出さないけれど。ついさっき、この世界では戦火を忘れようと心に決めたばかりだ。

さあ、本題に入ろう。

僕は意を決して、あることをフローレンスさんに訊いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フローレンスさん。ピアノって、このネオヴェネツィアにもありますか?」

 

「…そうね……あるところには、あるんじゃないかしら?」

 

アリア社長が来る直前の投げやりな様子とは打って変わり、逆に猫妖精のとんでもない悪戯を楽しもうとするかのように、彼は晴れやかな表情でそう訊いてきた。しかし、元気になったのは本当に良かったけど、『ピアノ』とは。どこかで見なかったかと言われれば、全く見ないわけではないにしろ、さっきの話からしてピアノの所在が知りたいだけでなく、彼自身が弾きたいのだろう。だとすると、飛び入りで弾けるピアノの在処を探してあげたいが、なかなか思い当たる場所が……

 

 

 

あった。

 

 

 

私の大好きな2人の親友は、それぞれ別々の業界大手水先案内店に勤めている。特に、ぽやーっとしている私ともう一人を、いつもビシッと引き締めて、何くれとなく連れまわそうとしてくれる親友、晃ちゃんの勤めている『姫屋』は創業120年を誇る老舗。

たしか本店の建物は地球で有名だった高級ホテルを改装して使っているはず。何度かゴンドラ協会の会合で姫屋が使われたので入ったことがある、確かお客様の待合室兼エントランスホールに、立派なグランドピアノが置いてあった。勝手に使っていいかは分からないが、詳しくは晃ちゃんに聞いてみればいいだろう。

 

「……一つ、思い当たる所があるわ。今からそこの知り合いに連絡してみるから、アリア社長と待っててくれる?」

 

「はい。また急に変なことを言ってすみません。結局何から何まで頼ってしまって……」

 

「ううん、気にしないで。暗い顔で塞いでいるより、何か行動している方が誰だって良いものよ」

 

じゃあ後でね、という意味を込めてひらひら手を振ると、何故か彼は私から顔をそむけた後、膝の上にすり寄ってきたアリア社長のお腹を、いきなりわしゃーっとくすぐり始めた。俯いたということは、やっぱり気兼ねしているのだろうか。迷惑だとか、そんなに気にしなくてもいいのに。ただの私のおせっかいなんだから。そう思いながら電話口へパタパタ駆け足で向かうアリシアは、彼の耳が真っ赤になっていることに気付かなかった。

 

 

 

 

 

「もしもし晃ちゃん。今お電話大丈夫?」

 

「アリシアか。それは構わないが珍しいな、まだお前は営業中の時間じゃないのか?」

 

凛としたアルトの声が返ってきた。良かった、晃ちゃんもお仕事中なんじゃないかと思っていたけど、今日は偶然オフだったようだ。

 

「今日は新人さんのお迎えのために早く切り上げたの。それより、晃ちゃんに訊きたいことがあるんだけど……」

 

「なるほど。しかし、お前が私に質問なんて、いよいよ珍しいじゃないか。どうした?訊きたいことってのは?」

 

「あのね、姫屋のエントランスホールにピアノがあるわよね?」

 

「……ああ、あるな。それがどうした?」

 

「それって外部の人、例えばお客様とか…私のお友達に弾かせてあげたりできるかしら?」

 

「はぁ!?」

 

「さっきうちの会社に……地球から引っ越してきたばかりで迷子になった男の子が来てね。色々話を聞いてたら、地球ではピアノを長いことやってたそうなんだけど、アクアでは弾けるピアノが見つからなくて困ってるんですって。知らない土地で寂しいでしょうし、なんとか鍵盤に触れさせてあげたくなっちゃって……晃ちゃん、お願いっ」

 

さすがに『異世界』から来たとは言えないので、地球からきたことにした。親友に嘘をつくのはつらいし、晃ちゃんなら私が嘘をついたとは言わないだろうけど、まだ大事にしないほうがいいだろうと思ったのだ。

 

「……はあ、お前らしいというか何というか……上に訊いてみてやる。予約待ちのお客様がお手を触れることは時々あるが、うちのゴンドラに乗る予定のない方も触れていいか、確認だけな。そいつ、今すぐ連れてくるつもりか?」

 

「えっと……」

 

そういえば、ニコル君は真っ赤な『宇宙服』のままだ。外に出るなら、何か着替えてからの方がいいだろう。

 

「実は彼、1度海に落ちてびしょぬれになっちゃってるの。別の服に着替えてもらってからそっちに行くから、1時間くらいかかるかもしれないわ」

 

「海に落ちたぁ!?なんか間抜けそうな奴だな……まあ、一応許可が下りるかも分からんし、ちょうどいいさ。じゃあ後でまた連絡する」

 

「ありがとうっ晃ちゃん!」

 

「あー礼はいいから、早くその『間抜け』を着替えさせてやれ。切るぞっ」

 

照れたような声の直後、ガチャリと電話は切れた。晃ちゃんはいつもそう。すっごい照れ屋さんだけど、本当はとっても優しい。

 

「さて、問題はニコル君の着替えね……」

 

ウンディーネは女性専門の職業だ。したがって、ウンディーネの制服の予備に『男性用』は存在しない。ARIAカンパニーは、私が一人前(プリマ)になって先輩社員が退職してから、社員は長らく私一人だった。ということは、少なくともここ数年は男性社員もいなかったわけで。

 

「……アリア社長に訊いてみようかしら?」

 

私より長く、というか創業当時からこのARIAカンパニーにいるアリア社長なら、何か知っているかもしれない。いつの間にか彼のところから離れて、キッチンの猫用おやつをつまみ食いしようとしていたアリア社長を、めっ!とお叱りしながら抱きかかえる。

 

「アリア社長、ARIAカンパニーに男の人がいたことってあります?」

 

「ぷいにゅーっ!」

 

ビシッとアリア社長が前足で指したのは、私が入社する以前の膨大な資料が保管されている棚の下の引き出し。大掃除でもなかなか開けないところだ。鍵を開けて、アリシアが引き出しを開けると、軽く埃が舞った。埃の膜を払ってごそごそ手を突っ込んでみると、ビニールに包まれた新品の制服のようなものが出てきた。

白いYシャツ。ウンディーネの制服に似た、水色のラインが裾に入ったスラックスと茶色いベルト、そして水色のネクタイ。男性社員が受付や事務をするための制服、のようだ。幸いビニールの中まで埃は入っていないし、うまくサイズが合うかは分からないが、これならそう違和感もないだろう。

 

制服を抱えて暖炉の前に戻ると、ニコル君は暖炉に手をかざしながら私を待ってくれていたみたいだった。

 

「ニコル君、私のお友達のお仕事先に弾けそうなピアノがあったわ。ニコル君が弾いてもいいか確認してくれるそうだから、返事が来る前にこれに着替えてくれる?うちの古い制服で悪いけど、一度海に浸かったその服じゃ何だし、ね」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!そうですね、こんな赤い服じゃ目立ってしまうでしょうし…お言葉に甘えて、お借りします」

 

そう言って私から制服を受け取った後、彼は固まってしまった。

 

「ごめんなさい、サイズこれしかなかったんだけど……合いそうにない?」

 

「あ、いえそうじゃなくて……その……」

 

だんだん彼の顔が赤くなっていく。

 

「……あの、ここで着替えるんですか……?」

 

「え?……ああ!えっと、上の階の屋根裏部屋に鏡があるから使って!私、下で待っているわね!」

 

「は、はい!すみません、行ってきます!」

 

何をやっているんだろう。男の子なんだから、私がいる所で着替えられるわけないじゃない。

自分の失敗を悔やみながら、意味もなく彼が登っていった階段から目をそらした。

 

 

 

 

 

「アリシア、上に確認したが自由に弾いてくださって構わないそうだ。玄関前で待っていてやるから、そいつを早く連れてこい」

 

「ありがとう晃ちゃん!彼が着替え終わったらARIAカンパニーを出るわね。私のゴンドラを泊められる所ってある?」

 

「今の時間なら、玄関前の停泊所も空いてると思うぞ。まあお前のゴンドラが止まっていたら目立つとは思うがな」

 

晃ちゃんからの連絡を聞いた後、彼が着替え終わったのか階段を下りる音がした。

振り向くと彼が立っていて、Yシャツの襟を直していた。

きっちり一番上のボタンまで止められたYシャツと、お手本になりそうなくらい丁寧に結ばれたネクタイ。スラックスは裾が長かったようで、ロールアップしている。靴は元のままだが、白っぽいものだったので全体に溶けこんでいた。シャツの裾をスラックスに入れているその着こなしから、彼の育ちの良さを察することができた。

 

「どうでしょうか?おかしくありませんか?」

 

「全然!よく似合っているわ。今友達から返事があって、自由に弾いていいそうだから、お店までいらっしゃいって。私もニコル君の演奏を聴いてみたいし、一緒に行きましょう?」

 

「よかった。じゃあ、案内よろしくお願いします。ウンディーネさん」

 

「あらあら、ウンディーネさんなんて。アリシア、でいいわ。お客様にも友達にも名前で呼ばれることの方が多いから。では、お客様?お手をどうぞ!」

 

「……はい!よろしくお願いします、アリシアさん」

 

彼に向かって、お客様をゴンドラにご案内するときのように手を差し伸べる。彼は無垢な少年の笑みを浮かべて、私の手を取った。

 

 




なかなかニコル君がピアノを弾いてくれません。
ARIAカンパニーの男性用制服については、アニメで言うARIA第22話、性別逆転パラレルワールド回の制服にすることも考えましたが、あれはあくまで「ウンディーネが男性の職業であった場合」の制服なので、参考にする程度にとどめました。




正直に言うと、表現しづらかったのでやめました。
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