魔王を倒した勇者、TSしたらなぜか聖女が病んだ   作:栗色cc

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勇者の戦いと【助けて】

ルードは、耐え難いほどの罪悪感に苦しんでいた。

仕方なかったこととはいえ、何の罪もない善良な女性たちを罠にかけた。

 

視線の先にいる女性二人。

 

もう一人の女性にオルナと呼ばれていた女性は、武器の心得があるらしく刀を抜いて周囲の男たちに向けている。

だが、片方の足はもう使い物にならないのか引きづっている。

 

もう一人の、アーテと呼ばれていた白い女性は。

両手を組み、地面に座って祈っていた。

 

神に、だろうか?

その姿はルードにとって、とても痛々しく映る。

 

「は、ははははははははははははははは!まさか、この女現状が見えてねえようだ!」

 

リーダー格の男が、笑い声を上げる。

客観的に見てそう可笑しいことではないだろう。

 

かたや荒事を何度も経験している男性が数十人。

 

かたや女性が二人。

加えて武装している一人は、腱を断たれて片足が潰されている。

 

彼女たちに残されたのは、このまま嬲られる未来だけ。

 

「おい、まさか本気か?武器を持っている割に、現状が見えないのか?この如何しようもない戦力差を」

 

「……っ、逃げて、お姉さんたち」

 

「うるせえ、ルード!」

 

ルードは、お頭と呼ばれている男に殴られる。

その痛みが、ルードを冷静にさせた。

 

――そうだ、今さら、俺が何を言っているんだ。

 

自分が、この二人を死地以上の場所へと追いやったのだ。

今さら反省しても遅い。

 

「すぅ」

 

オルナは刀を地面に下げ、片足で跳ぶ。

とーん、とーん、とーん。

 

「なあ、嬢ちゃん、抵抗は止めようぜ?無駄に痛い思いをするだけだ」

 

一人、近づいてくる。

武器として鉄製の鈍器を持っているが、それを持つ手は下がっている。

 

空いている片方の手で、下卑た視線でオルナへと手を伸ばす。

ルードはこれから映る光景を想像して、ぎゅ、っと固く目を瞑った。

 

「なあ」

 

「——まず一人」

 

鈴の音と、優雅に舞う血飛沫。

周囲の視線が舞った血液に釘付けになる。

 

「……え?」

 

ルードが想像していた光景とは、まるで立場が違った。

どうして、男の首が落ちているんだ?

 

驚きに、思考が停止する。

 

眼もくれず、オルナは斬り捨てた男を蹴って、後ろへと跳躍。

 

「な……!?」

 

銃を持った男が、目の前に現れたオルナを見て驚きから正気に返る。

咄嗟にオルナに向かって銃を構える。

 

だが、その時にはオルナは男の首に刀をかけていた。

 

斬る。ばん。

 

「ぐ、ふ」

 

男の首が飛ぶ。

そしてオルナも吹き飛ぶ。

 

オルナは受け身すら取れず地面に転がる。

どれだけ待っても、彼女は動かない。

 

「…………」

 

「…………」

 

沈黙が、その場を支配した。

誰もが、開いた口が塞がらないといった様子だ。

 

「お、おねえ、ちゃん……」

 

ルードは茫然と一人呟く。

 

彼女は、あんなに強かったのに。

もしかしたら、全員に勝ってしまうのではないか、とさえ思ったのに。

 

あっけなく、死んでしまった。

 

「う、ぅぅ……」

 

なぜか、涙が止まらない。

嗚咽が漏れる。

 

止めようと思っても、止まらない。

このままではお頭に殴られてしまう。

 

それだけはいやだ。

そう、思っているのにルードの体から悲しみは止まることはなかった。

 

でも、いつまでたってもお頭から拳が飛んでくる気配は無かった。

 

「オルナ様……」

 

アーテが、呟く。

オルナの死体に目を向けていて、彼女も多大なショックを受けているようだ。

 

「私、は。また……」

 

だがショックを受けていても、アーテの組んだ手が解かれることはなかった。

 

「——また貴女を()()()()()()()()

 

「——気に病まないで、アーテ」

 

その言葉に、その動きに誰もが目を見開く。

 

「おいおい、マジかよ……これは夢か……?」

 

お頭がルードを殴らなかった理由。

それは単純だった。

 

目の前で起こっている事象に、釘付けになっていたからだ。

 

「勇者ってのは、こういうものだろう?」

 

()()()()、ゆっくりと立ち上がる。

刀を軽快な動作で拾い上げ、血を振って落とす。

 

「蘇った……?」

 

表現として、端的に表すのならばそうだろう。

まるで、傷が無かったかのように巻き戻る。

 

それは死さえも乗り越えて巻き戻っている。

 

「化け物……」

 

「化け物とは心外だな」

 

生き返ったオルナは、理解できない事象に畏怖しているお頭に目を向けて笑う。

自嘲的に。

 

だが、その目は冷酷に満ち満ちていた。

 

「俺には、君たちの方が化け物に見えるよ」

 

「~っ、殺せ!」

 

お頭の命令で、周囲を囲んでいた男たちが戸惑いながらも一斉に飛び出す。

オルナは周囲を一瞥。

 

「両足があれば、君たち程度」

 

銃を持っていた男を殺した時とは、比べ物にならないほどの速度で駆ける。

強烈な踏み込み。

 

袈裟薙ぎ。

人体など、果物と同じであると謳うように分かつ。

 

「ひっ」

 

圧倒する様を見て、男たちが狼狽えた様子を見せる。

それは致命的なまでの隙であった。

 

恐怖を見せた者から、瓦解していく。

斬り殺し、殴り殺し、蹴り殺す。

 

圧倒的なまでの武が、男たちを圧倒していく。

 

「ふぅ」

 

オルナが、軽く息を吐いた。

軽い準備運動を終えたとでもいうべきように。

 

鮮やかな赤髪に、血は見惚れてしまうほど芸術的なまでな美しさを持っていた。

そして、緩慢に視線をルードへと移す。

 

「——近づくな、化け物!」

 

ルードは、オルナの戦いを注視していた。

それが故に、それを頭に当てられるまで気付かなかったのだ。

 

お頭が、ルードを盾にするかのように。

いや、人質にするように銃をルードの頭に突き立てていた。

 

恐らく、部下が持っていた銃を取ってきたのだろう。

 

「少しでも動けば、こいつを殺す!」

 

ルードは、興奮から一転、恐怖に支配される。

反射的に、体は助けを求めるために視線を彷徨わせる。

 

「……ぁ」

 

オルナが、こちらを見ていた。

ルードは自分が助からないだろうと思った。

 

だってそうだろう?

どれだけのことを、彼女たちにしたと思っている。

 

それを忘れて、オルナに助けを求めるなど通るはずがない。

 

「はぁ……」

 

オルナは、重いため息を吐く。

お頭は彼女一挙手一投足にびくり、と反応している。

 

「それで、俺が止まるとでも?」

 

刀を逆手に持ち、振り上げる。

 

「動くなと言ったはずだ!こいつが死んでもいいのか!?」

 

「…………」

 

お頭の言葉にオルナは反応することはなかった。

 

肩幅いっぱいに、足を広げる。

弓を引き絞るように、上体を逸らす。

 

「っふ!」

 

投。

 

「なっ」

 

目の前を高速で迫る刀。

お頭は引き金を引く――のではなかった。

 

「ひ」

 

しゃがんだのだ。

まるで子供が恐怖から逃れるように。

 

「そうすると思ったよ、人は皆、命が一番大事だからね」

 

いつの間にかに来ていたオルナが、お頭の腹を蹴る。

 

「ぐぼっ!?」

 

お頭は吹き飛んで、壁に激突する。

ちょうどオルナが投げた刀が突き刺さった場所だ。

 

オルナは刀を引き抜いて、お頭に振り上げる。

無情なまでに。

 

「じゃあね」

 

「ま、待——」

 

鈴。

 

お頭の首が落ちる。

カラン、というお頭が身に着けていた装飾品の音がする。

 

「ぅえ?」

 

ルードは、その場に座り込んだ。

意味も分からずに。

 

「俺、助かった、の?」

 

「うん、どうやらそのようだ。運が良かったね少年」

 

いつの間にかに目の前に立っているオルナが、笑顔で俺に手を差し伸べる。

烈火のような赤に、ルードは自身の犯した罪すら忘れ見惚れていた

 

―――――――――――

―――――――

―――――

悪人どもを殲滅した俺は、軽く息を吐いて刀を収める。

()()()()()かと思ったが、案外一回も死ななかった。

 

まあ、こんなものか。

魔王が台頭している時代に、戦わず逃げていた卑怯者なぞ。

 

だからこそ、なのだろう。

覚悟もなく、他者を平気な顔で踏みにじることができる。

 

「本当に、嫌なものだ」

 

俺はルード少年に手を差し伸べる。

リーダー格の男の死体を茫然と見ていたルードは、ゆっくりとこちらを見る。

 

震えた声色で、つぶやく。

 

「俺、助かった、の?」

 

「どうやら、そのようだね」

 

運が良かったのかな。

ルードが人質に取られていた時、俺は刀を投げつけた。

 

十中八九、ルードを解放して避けると思ったからだ。

だが、そうじゃない可能性だってある。

 

ルードを盾にする可能性も、ルードを掴みながら刀を避ける可能性もあった。

 

「運が良かったね、少年」

 

まあ兎に角、助かったんだからいいじゃないかと思うのだ。

笑みを浮かべつつ、ルードに手を差し伸べる。

 

「…………」

 

「……どうしたんだい?少年」

 

その視線は、一心に俺へと向けられている。

だが、ルードは俺の手を取ろうとはしなかった。

 

「おーい――ぐふっ」

 

衝突。

地面を転がる。

 

予想外のことに、頭が追いつかない。

 

「な、何が……?」

 

とりあえず、俺は衝突してきたものの正体を知ろうとする。

それは俺に抱き着いているようで……。

 

あ。

 

「あ、アーテ……?」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、私のせいで。貴女をまた死なせてしまいました。私の不注意のせいで。それさえなければ、貴女は死ぬことはなかった、無かったのです」

 

また発作が……!?

どうすれば良いのだろう。

 

「え、ええと……」

 

手を右往左往して、行きついた先は彼女の後頭部だった。

体に従って、優しくその銀髪を撫でる。

 

「大丈夫、大丈夫だよ」

 

何度も、何度も撫でる。

彼女が落ち着くまで。

 

「——俺はここにいる。どこにも行きはしないから」

 

「っ、オル、ナ様……?」

 

「だから」

 

アーテは俺の胸にうずめていた顔をようやく上げる。

今にも泣きだしそうな顔だ。

 

痛ましささえ感じる。

 

「だから、どうか笑っていてくれ」

 

俺はそんな顔をしたアーテが、たまらなく嫌だった。

彼女にそんな顔は似合わない。

 

だってそうだろう?

()()()()が、自責に耐えかねているのを見るのは誰だって嫌だ。

 

「……わかり、ました」

 

アーテは、一度俺に抱き着く。

硬く、ぎゅっ、と。

 

顔を上げた彼女は、微笑んでいた。

 

「うん、やっぱり君はその表情が似合う」

 

「ありがとうございます」

 

アーテは静かに俺から離れる。

手を差し伸べて、俺を引き上げる。

 

「さて」

 

アーテは振り向いて、ルードの方を見る。

まだ、茫然としているようだ。

 

「貴方は、どうしてこのようなことをしたのですか?」

 

普段からアーテが身に纏う荘厳な気配が、増した気がする。

それに気づいたルードは、ゆっくりとアーテを見る。

 

ルードは、自身の掌を見つめ俯く。

そしてポツリ、と語りだした。

 

「俺と妹は、この街で生まれた。親は知らない、生まれたときには、もういなかった。孤児だった俺たちを偶然拾ってくれた爺さんがいて、しばらくはその人と一緒に暮らしていた」

 

その時代はとうに魔王がいた時代だ。

自分一人が生きていくのだって辛いのに、子供を二人も拾うだなんて変わった人だな。

 

だが、語り方から今はその人と一緒に暮らしていないのか。

 

「俺たちが六歳になったころ、爺さんは死んだ。寿命だったらしい」

 

「……それは随分、幸運だったね」

 

俺の言葉に、ルードは投げやりに笑う。

 

「爺さんにとっては、幸運だったんだろ。でも、俺たちにとっては違った。荒れ果てたこの街で、子供が誰の助けも得られず生きていくことになったんだ」

 

「誰かが、大人は助けてくれなかったのですか?」

 

「——そんなもの、いるかよ」

 

吐き捨てるような言葉は、嫌悪に満ちていた。

顔を顰め、体を怒りに似た感情で強張らせている。

 

「あいつらは、俺たちを汚らわしいものとして扱った。いないものとさえも。誰もが俺たちを助ける事なんてしなかった!」

 

ルードからは涙が滴り落ちている。

感情を整理しようと、重いため息をつく。

 

「……俺たちは俺たちだけで生きていくしかなかった。生きていくために、飢えをしのぐために盗みを働いた。それがバレて、殺されかけたこともあった。でも、何事も無く生きていけたんだ」

 

声は、だんだんと暗く沈んでいく。

 

「魔王が倒されてから、妹の容態が悪くなった。どうしてかは、分からない。俺は頭が悪いから、何がどうして悪くなったのかが、分からなかった。そんな妹を抱えて、走り叫んだ。妹を助けてくれと。……でも」

 

「誰も助けてくれなかったのか……」

 

ルードは頷く。

 

「そんな時だ。あいつらがやってきた。妹を助けてやるから、力を貸せと」

 

あいつら、とは俺たちを襲って来た男たちの事だろう。

俺たちへルードが起こした行動から察するに、子供の姿を生かしてここまで誘導することか?

 

子供であれば、警戒心は相当薄れるだろう。

そしてこの場所まで誘導して、殺し奪う。

 

本当に下種だな。

 

「俺はそれを承諾した。でも、妹は良くならなかった!」

 

嘘だったのか。

ただルードを利用しただけだと。

 

「それでも俺には、あいつらに縋ることしかできなかった。妹が良くなる可能性はゼロとも言い切れないから」

 

ルードは顔を上げる。

どこか諦めた顔をしている。

 

「そして、お姉ちゃんたちを騙したんだ。それからは知っての通りだ」

 

「……そうですか」

 

アーテは目を閉じる。

 

「では、その妹のもとへと案内してください」

 

「は?」

 

ルードは大きく目を見開き、口を開けている。

 

「ま、待ってよ。悪いのは全部俺なんだ!俺がやったんだよ!だから妹の事だけは……」

 

「何を勘違いしているのですか?私たちは貴方の妹さんに危害を加えようとはしていませんよ」

 

「え?」

 

ルードは先程よりも、間抜けな顔を晒している。

 

「貴方の話が本当であれば、助けます。私たちは助けられるかもしれない命を見捨てたりはしない」

 

それは一種の宣誓のようだった。

アーテはゆっくりとルードへと近づいて、手を差し伸べる。

 

「で、でも、俺はお姉ちゃんたちにひどいことを……そんなことされる筋合いなんて」

 

「——もう一つ、勘違いです。私は貴方の事を助けるだなんて言っていない。私は貴方の妹を助けると言ったのです。貴方の処遇を決めるのはそれからです」

 

「で、でも……いや……だって……」

 

なおも、ルードは混乱している様子だ。

どうして、俺たちが彼の妹を助けようとしているのかが、分かっていないのだろう。

 

「少年」

 

俺は、ルードに笑いかける。

 

「こういうのは、はい、と言っておくべきだよ」

 

「……!」

 

ルードは視線を彷徨わせながらも、なんとか目の前で手を差し伸べているアーテに目線を合わせる。

口元は震え、言葉も震えている。

 

「……がいします。お願いします。俺の妹を、助けてください……!」

 

ルードは、ようやくその手を取った。

 

「分かりました。力の限り、貴女の妹さんを助ける事を約束しましょう」

 

 

 

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