No.1
「あれはもう、地獄への全力疾走でしたね。引継ぎの話が来たとき、私は叫んでしまいました「なんて事だ、もう助からないぞ!」とね
―― 七代目SRベイゴマックス 《SR吹持童子》さん(インタビュー映像より)
「フェンリルは倒れる直前に、こう言っていました。『最上級モンスターだったから、なんとか耐えられた。でも……下級・上級では……無理だった』とね。
── クシャトリラ・ライズハートさん(インタビュー映像より)
大破炎上する『六花ホールディングス』本社ビル。廃墟のデュエルフィールド。焦げ跡のついたデッキケース、そして風に舞う、一枚のカード。
《ワーム・テンタクルス@六花》
名の後ろに、ただ一つ添えられた記号がすべてを変えた。
当初は弱者救済と謳われた制度だった。それが、世界を“リセット”にまで追い込む引き金になるとは、誰が予想しただろうか。
「見たんだ……!《ワーム・テンタクルス》が、あ、ああ、ありえない融合をしたんだ……!《@六花》になったから……!」
──目撃者A(名無しのデュエリストさん)
黒く濁る空の下、フィールドに現れる巨大融合体。
《ワーム・ゼロ》──25体融合、攻撃力12500。
その日、ターミナルワールドは死んだ。
この事件はやがて、「精霊界最大のデュエルバランス崩壊」と呼ばれることになる。
「……ターミナルワールドの死。それはもう何度目かはもうわかりませんが、今回の始まりは一輪の花だったのです」
── デュエル史研究家・荒巻シズカ 教授
(オープニング映像が流れる)
これは、実話であり
公式記録と関係者の証言をもとに
構成しています。
「彼女はワームに手を差し伸べた。花弁のように、美しく……、慈悲の心に満ちていた。」
── 記録映像冒頭ナレーション
ターミナル・第7セクター。
スラムと化したフリーデュエルゾーンの隅。
半壊したショップの裏手に、震えるカードの精霊が一枚、雨に濡れていた。
《ワーム・テンタクルス》。
かつてDP上位に名を連ねた爬虫類族モンスター。
だが今や、誰にも使われることのない絶滅寸前のスペック。
雨粒がカード表面と精霊を濡らし、文字がにじむ。
その前に、一足の靴が止まった。
氷の結晶を模した衣装、氷柱を思わせるような傘、透き通るような瞳――
《六花聖ティアドロップ》は、しばし彼を見下ろしたあと、そっと膝を折った。
そして、ため息にも似た声で、静かに言った。
「……寒かったでしょう。こんなところで、ずっとひとりで」
カードの精霊は、答えない。けれど、その肩が微かに震えた。
「ちゃんとここにいるのに、見てもらえない……それは、ただ寒いよりも、ずっと辛いわよね」
そう言って、彼女は傘を傾けた。
その小さな影が、《ワーム・テンタクルス》の上に差しかかる。
「ねえ。ちょっとだけ――“六花”って名前を使ってみない?」
戸惑いも、強制もない。ただ、そっと差し出された手。
「誰かが見てくれるかもしれない。
あなたが、ここにいるってことを……知ってくれるかもしれない」
沈黙の中、精霊の肩がほんの僅かに揺れた。
微笑む彼女の手が、雨に濡れた精霊へと差し伸べられる。
「ついてきて。まだ、あなたは終わってなんかいないわ」
「“@六花”――これは、彼女なりの優しさでした。しかし…数日後、世界は変わり始めました。」
── カード労働倫理審査会・ポセイドラ調査官
『あのときのことを、後悔してるかって?……いや、してないよ。
ただ――そうだな、“結果は最悪だったけど、始まりは純粋な思いだった”。それだけは断言できるよ』
―― ワーム・テンタクルス(六花プレミアム元登録者)
淡い光が差す温室のような空間。
氷柱を模したガラス柱が等間隔に立ち並び、足元には花の咲く絨毯のようなフィールドが広がっている。
そこは《六花》の本拠地。植物族以外が踏み入ることのない、静謐な支配領域。
その中央、ぎこちなく立っているカードの精霊の姿。
金属質の鱗に覆われた烏賊のような異形の爬虫類族、《ワーム・テンタクルス》。
テンタクルスは落ち着かない様子で、居心地悪げに立っていた。
「ここに、俺がいていいのか……?」
「ええ。あなたにはまだ、戦う意思がある。それだけで、ここに立つ資格はあるの」
ティアドロップは、淡く微笑む。
「あなたのような、強いサポートを受けられない精霊に【六花】の名前を貸し出して、少しでも助けたいだけよ。ただ、本当に有用かどうかは、やってみないとわからないわ。」
『“@六花”を名の後ろに付けることで、六花のサポートを得られる。
それがどれだけでかいことか、すぐにわかった。
俺みたいな落ちこぼれ爬虫類族が、“サポートを受ける側”になれるなんて……』
「……けど、俺はワームだぞ。爬虫類族だ。六花とも植物族とも、何の接点もない」
「あるように見せるの。あなたのデッキのカード名と名称に“@六花”をつけるだけで、ね。
見て、たとえば罠カード《六花深々》――通常なら、あなたを特殊召喚できない。でも、《ワーム・テンタクルス@六花》ならどうかしら?」
ティアドロップが指を鳴らすと、ホログラムカードが浮かび上がる。
そこには、《ワーム・テンタクルス》のカードテキストに、一文が追加されていた。
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《ワーム・テンタクルス@六花》
効果モンスター
星4/光属性/爬虫類族/攻1700/守 700
1ターンに1度、自分の墓地の「ワーム」又は@六花と名のついた
爬虫類族モンスター1体をゲームから除外して発動できる。
このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。
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「こ……これはアウトじゃないか?これはもう、俺じゃないだろ」
「いいえ。違っているようで、あなたは“あなた自身のまま”でいられる。
誰にも見向きされなかったあなたが、カードの名前一つでチャンスを得られるの。どう?やってみる?」
テンタクルスは黙っていた。
長い間、彼は誰にも拾われなかった。効果が弱い。カテゴリが古い。シナジーが薄い。パックに入っていても、誰も手に取らないカード。
しかし今、自分を呼んでくれる存在がいる。
それだけで、心が少し温かくなった。
「……分かった。やってみるよ、ティアドロップさん。」
「ふふ、契約成立ね。一緒に頑張りましょう?」
契約の花弁が舞い、正式に名義貸し契約が発効される。
こうして《ワーム・テンタクルス@六花》が誕生した。
『そりゃあ最初は戸惑ったさ。《六花深々》から呼び出されたとき、俺、自分のことじゃないみたいだった。“これは俺じゃねえ”って思った。』
『けど、あの人は言ったんだ。“あなたはあなたのままよ”って』
『信じられないかもしれないけど……あの瞬間、俺、泣きそうになってた。
DPなんてどうでもよかった。ただ、誰かに――もう一度頼られるのが、嬉しかったんだ』
(※少し沈黙)
『ああ、今でも思うよ。
――あの人は、最初から“悪いこと”をしようとしてたんじゃない。
ただ、本気で誰かを助けたかっただけだって』
(※映像暗転)
『それが、あんなでけぇ事件になるなんて……なぁ……』
それは、ターミナル全体を揺るがす《名称ビジネス革命》の幕開けだったのだ。
でも所詮ワームはワームっすよね。