「トラップカード《
『彼は戦い続けていくうちに、気が付いてしまう。この契約は、今までの枠を超えたすさまじい"可能性"を秘めていることに。そして、勝利が続くほど、彼は自分が“違う存在”になっていくのを感じていた。だが、その“違い”を指摘する者は、もうどこにもいなかった』
──記録映像ナレーション
《ワーム・テンタクルス@六花》は勝ち続けた。
それはもはや奇跡などではなかった。
名称一つで、【六花】のサポートが受けられ、展開速度が倍加し、事故率は激減した。
《六花精ボタン》の効果でワームがよみがえり、《六花精ヘレボラス》の効果でワームへの効果は無効となった。
そして、@六花のもたらすものは、それだけではなかった。
「魔法カード《
「俺が呼ぶのは、《ワーム・ゼロ@六花》!!デッキに眠るワームたち全員で融合召喚!!現れろ!ワーム・ゼロ!!」
「ふざっけんな!インチキだろそれは!」
「だが、『六花プレミアム』加入者なら可能だ!バトル!ワームゼロで攻撃!!」
「嘘だろそれうわぁぁあああああ!!」
【六花】のサポート、そして@六花を経由して、あらゆる専用サポートが、本来なら無関係である彼に降り注いだ。
たった一つの、「@六花」という名前の力で。
「すげぇ……あのテンタクルスが、勝ちやがった」
「六花のカードに対応したってだけで、こんなにも……」
「っていうか、六花の名前悪用しすぎだろ、それは……」
■記録映像:『氷華の茶会』
(静かなBGM。柔らかな光が差す、六花の城・中庭)
氷の花で囲まれた白いテーブル。 ティアドロップのほか、《六花聖ストレナエ》《六花聖カンザシ》《六花精スノードロップ》《六花精ボタン》らが集まっている。
湯気の立つティーカップ。淡く光るお茶菓子。精霊たちは穏やかな表情を浮かべていた。
「……ねえ、ティア。最近、来訪者が増えてるわね」
「“名を貸してほしい”って言ってくるの。精霊たちが、“私にも”って」
「分かるよ。あのテンタクルスって子、DPがぐんと伸びてたじゃない」
「“@六花”って、今やブランドよね。正直、私たち自身より目立ってるくらい」
ティアドロップは、静かに頷いた。
「だから、提案があるの。“六花”の名を、もっと広く知ってもらうべきだと思うの。」
少し沈黙。だが、誰も否定はしなかった。
「……いいと思うわ。それで困ってる誰かを咲かせることができるなら」
「ティアが選んだ子たちだし、信用してる」
「でも、ルールだけは作らないとね。“無制限”は危ないから」
「ええ、みんなで、支える形にしましょう。“救済”の責任を」
(ティーカップの音。微笑む六花たち。花弁が舞う)
「(あれこれ、マズい奴じゃないかな?)」
「(ターミナルワールドの管理者に怒られないかなぁ…)」
唯一、六花精ボタンと六花精エリカだけは今後の行き先に不安を抱いていた。
──この茶会の記録は、後に「六花意思決定会議 第0回」として、正式に記録された。
噂は瞬く間に広がった。
“@六花”を名に加えただけで、あらゆるサポートが適用される。
これは偶然でも誤解でもない。正式な契約により使用許可を取られた中で行われた行為だった。誰がつけたのか、いつの間にかこの制度は《六花プレミアム》と呼ばれるようになった。
そこからは早かった。
「勝てなかった」
「環境についていけなくなった」
「誰も組んでくれなかった」
そんな声をあげる精霊たちが、六花の元に集まりはじめていた。
未分類デッキ、過去テーマ、サポート皆無のカテゴリたち――
名も無き精霊たちは《@六花》の制度を、まるで光の差す方舟のように見ていた。
そして、それは事実だった。
@六花という名称一つで、すべてが変わる。
――召喚ルートの確保
――展開事故の回避
――構築自由度の拡大
六花の名は、もはや植物族の象徴ではなかった。
それは、勝利のブランドになっていた。
かつて見向きもされなかったカードたちが、“@六花”の名を得て次々と蘇る。
《アマゾネスの鎖使い@六花》──平均獲得DP+450%
《天魔神 エンライズ@六花》──平均獲得DP+630%
《センジュ・ゴッド@六花》──デュエル使用率急増
喜ぶ者、涙する者、跪いて感謝する者。
だが、その裏で、声を潜めた怒りが芽吹いていた。
「この状況は、明確な労働構造の逸脱に該当します」
そう語るのは、【爬虫類族労働組合】の総書記、《エーリアン・リベンジャー》である。
「“六花”とは植物族テーマのはずです。それなのに、まったく関係のない種族に恩恵を与えるのは、明らかな越権行為と言えるでしょう。いや、これは偽りの恩恵だ」
「“恩恵”ではありません、“囲い込み”です」
静かに言葉を挟んだのは、《レプティレス・ヴァースキ》──組合の副書記。
「我々は、ワーム・テンタクルス氏を、種族全体の誇りとして見ていました。彼は苦境にありながら、粘り強く闘ってきた同志だった。」
「しかし“@六花”を名乗った瞬間から、彼はもう我々の同志ではない!」
集会場には、静かな怒号が広がっていた。
「植物族のブランドの下でしか戦えないのか!」
「いつまで“偽りの名前”に頼る気だ!」
「我々の名前は、尊厳は奪わせない!」
抗議デモが始まったのは、契約から17日目のことである。
六花の領地・《氷の華亭》前に、数十人の精霊が集まり、冷気のなかでプラカードを掲げていた。
そこに書かれていたのは:
“NO MORE NAME TAGS”
“六花ブランド、搾取の花”
“ティアドロップの卑劣な売名行為”
その日、ティアドロップはバルコニーにいた。
静かな朝の光が、氷の床を照らしている。
下の広場には、抗議に集まった十数人の爬虫類族精霊たち。
プラカード、はためく関連団体の旗、地鳴りのようなコール。
それらすべてを、彼女はただ、他の六花達と一緒に見つめていた。
「これ、ダメな奴じゃないですか?」
六花精ボタンが不安そうにつぶやく。
六花精エリカは
「(あ、これ今回の鯖落ち原因私たちだ……)」と、静かに頭を抱える。
(テラスに座る《六花聖ティアドロップ》。背景には優雅な庭園が映し出されている)
『……正直に言えば、どうしてデモなんかが起きてるの?って思いました』
――六花聖ティアドロップ(株式会社『六花ホールディングス』元CEO)
『私、あのとき――テンタクルスさんを見て、あまりに“孤独”だと感じたんです。効果が弱いから使われない。“存在しているのに、誰にも使ってもらえない”――カードの精霊にとって、それは……死と同じなんです』
『だから、私にできることは何かないか、って思ったんです。六花の名前を、貸してあげたら……何かが変わると思ったんです。』
『“六花”って、そんなにメジャーではないですけど、少なくとも誰かに見てもらえる名前だから』
『でも……抗議が始まったとき、私は何もできませんでした。
怒っていいのか、悲しんでいいのか、自分でもよくわからなかった。
ただ、“これは違う”って、そう思ったんです。』
(苦笑するような表情)
『見下してたわけじゃない。
ただ、どうすればよかったのか、わからなかっただけ。
だって……私、“人に優しくしようとしただけ”だったんですもの』