抗議デモ:記録映像より抜粋
灰色の空の下、六花の城の前に広がる広場。
そこは本来、氷で囲まれたガラス庭園へと続く静謐な空間だった。
だが今、その門前には異なる属性と種族の精霊たちが、入り乱れ、旗を掲げ、怒号を上げていた。
「名前で縛ってゾンビのように働けと!?それが六花の正義かよぉッ!」
―― ゾンビ・マスター(アンデッド族ユニオン会議・共同代表)
「@六花のせいで先行封殺エンジョイができなくなった!!ティアドロップは辞任しろ!!」
――
「冗談じゃねぇ!分け前よこs……“名前”で世界が変わるなんて、やっちゃいけないことだってあるだろうが!」
―― デーモンの召喚(悪魔族組・組長)
「スタメン落ちた、ティアドロップは辞任しろ!」
―― シャークラーケン(水属性協同組合・組合長)
抗議デモは日に日に大きくなっていった。
《ピラミッド・タートル》が、その甲羅に拡声器を鈴なりに装備してのっしのっし歩き。
《イグナイト・イーグル》がその横でマイク片手にキレ散らかす。
《
場は、制御不能のカオスになっていた。
■ ターミナルデイリーニュース第143号(抜粋)
【見出し】
「六花の名は、救済か、暴力か?――“@六花”を巡る抗議激化」
(途中省略)…本紙が確認した「@六花」を名乗る非六花族は累計74体を超え、なお増加傾向にある。
一方、組合団体からは“六花ブランドによる囲い込み”との批判が相次いでいる。
ティアドロップ氏への公開質問状には、「使用料徴収の正当性」、「@六花制度における種族別格差是正」など6項目の回答が求められている。
【記者:ゴシップ・シャドー】
【六花城・会議室(内部資料による再現映像)】
氷で囲まれた六花達の居城の中。
抗議行動が激化する中、六花たちはついに緊急会議を開いた。
《六花精スノードロップ》は、壁に投影されたデモ映像を見つめながら、静かに呟く。
「……思った以上に、広がりが早いわ。これ以上、無視はできない」
「でも、引き返せるの?」
《六花精ボタン》は書類を抱えたまま、力なく椅子に沈み込む。
「…無理ね。申請は止まらない。契約済みの“@六花”はすでに何十人も出てきてる……ここで止めれば、“選別”って言われるわ」
ティアドロップは黙ったまま、遠くのモニターを見ていた。
そこには、《
「……救おうとしただけだったのに」
ぽつりと落とされた言葉に、部屋の空気が静かに沈黙する。
「誰にも見られず、使われず、忘れられていく精霊たち……。
“@六花”って名前だけでも、居場所になればいいって……それだけだったのに」
「…いっそ、やめてしまいましょうか?」とボタンが問う。
「みんなで遠い所に逃げちゃえばいいのよ。ここで逃げたら、傷口は最小限で済む。“六花”の名を、誰にも貸さないことにすれば、ね?」
ティアドロップは小さく首を振った。
「……いいえ。逃げない」
視線はまっすぐスクリーンに向けられていた。
「誤解されたとしても、踏みにじられたとしても――。
それでも、助けを求める声があるなら、私は応えたい。
“六花”が少しでも希望になるなら、私は……一人でもやるわ」
その瞬間、スノードロップが立ち上がった。
「……ティア様が一人で立つなんて、ありえません」
彼女はわずかに微笑んだ。
それは、凛とした氷の中に灯った、芯のある暖かさだった。
「“六花”が希望になるのかどうか――それは私たちが形にするしかないのよ。最初に名を貸したのはティア様でも、責任を取るのは“私たち”よ」
「そうですよ」
ボタンが立ち上がった。
「ティア様――あなたはそうやって、いつも一人で全部背負おうとするから……だから、今度は私たちが支える番です。一緒に作りましょう、“皆の希望となる制度”を」
その場にいた他の六花精たちも、次々に静かに頷いていく。
「ティア様――私たちは、あなたの味方です」
ティアドロップは、皆を見渡した。
その目に、一瞬だけ迷いが宿る。けれどすぐに、それは凛とした光へと変わった。
その会議の記録は、後に“分水嶺(ターニング・ポイント)”と呼ばれるようになる。
【六花城・臨時記者会見】
フラッシュがたかれ、ティアドロップが登壇。
白い石造りの記者会見室。
背後には六花の紋章が浮かび、ティアドロップが一人、壇上に立ち記者たちに一礼する。
フラッシュの嵐。
「@六花の完全解放について、お考えは?」
「名称使用料の還元比率が低すぎるとの声もありますが?」
「六花族によるブランド独占と見られている件について、説明を」
「現在の“名義的接続”におけるシステム裁定範囲はどこまでと想定されていますか?」
矢継ぎ早に飛び交う問い。
ティアドロップは一瞬、息を詰まらせるようにして、沈黙した。
記者たちの質問に、ティアドロップはしばし沈黙した。
そして、唇を噛むようにして、静かに答えた。
「……私が始めたことです。責任は、取ります」
「制度として、@六花を皆様へ解放いたします。」
数秒の静寂。
その後、背景のスクリーンに、組織名が表示される。
その日、『六花ホールディングス株式会社』の設立が発表された。
運営は六花達を中心とした精鋭チーム。
それは、「契約手続きさえ踏めば、誰でも等しく“@六花”を与える」新制度の発足だった。
制度の門戸はすべての精霊に開かれ、
その瞬間から、誰もが《六花》になる権利を持った。
制度発表のわずか数分後には、運営窓口に申請希望が殺到した。
そして同時に――投資家たちが、動き出した。
──【ドラグニティ産業連盟】より、初期運用資金5億DPの注入を提案
──【ブンボーグ開発局】から、株式の20%取得を含む資本業務提携案
──【グレイドル中立連合】は、友好的M&Aの提示および“シナジー統合計画”の草案提示
そして――
“六花”は、もはや六花だけのものではなくなった。
【速報】六花ホールディングス(コード:RFK-001)、時価総額が前日比+1230%でターミナル証券取引所の新記録を更新
本日、六花ホールディングス株式会社(コード:RFK-001)は、終値で前日比+1230%の大幅上昇を記録し、設立からわずか18日で時価総額ランキング第3位に躍り出た。
背景には、独自の《@六花》ブランドによるカード展開支援制度の普及と、連日のランキング上位独占があると見られている。
「"@六花"はもはやプレイスタイルの一形態ではない。これは、新たな構築経済圏の創出だ」
── サイバース族系VC企業《リンク・ブレインズ証券》アナリスト談
■ 経済番組《デッキ・スキャン》より抜粋
(司会:ジェムナイト・オブシディア)
「正直、こんなに早くここまで市場が反応するとは思いませんでした」
「“@六花”制度の最大の革新は、“カードの所属カテゴリを変更せずにサポートを得る”という抜け道を正規化したことです」
「これは、いわば“属さずして属する”という状態。バランスの崩壊とも取れますが、投資家にとっては“多様性の最大化”とも言えるでしょう」
「“花は咲かせた者のものではなく、咲いた後に集まった者のものになる”――歴史の常です」
── アーカナイト・マジシャン(歴史学者/経済魔導理論 専門)
「彼女は“助けたい”と思った。それは事実です。
でも、救済という言葉が“パッケージ”になったとき、それはもう別の意味になるのです」
──