小さな温室の一角。
そこはかつて、六花たちが休日を過ごしていた“庭園”だった。
六花ホールディングスの本社機能は移転され、今はもう社屋ではない。
もはや会社の人間は、ここには誰もいない。
だが――彼女たちはそこに、集まっていた。
白いテーブルに、銀のティーセット。
カップから立ちのぼる蒸気が、微かに花の香りを含んでいる。
その席には、かつての《六花》たちが集まっていた。
中央にティアドロップ。
その隣には、ストレナエ、カンザシ、スノードロップ、ボタン、エリカ…。六花の皆が全員集まっていた。
いや――今はもう、彼女たちに“六花”の名はない。
端末に表示された新たな登録名は、それを無情にも告げていた。
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【登録名変更通知】
・・・該当者は現在、六花ホールディングスとの正式な提携関係が存在せず、商標の使用について適正な許可が確認されておりません。つきましては、下記の通り登録名義を即時変更・再認定させていただきます。
六花聖ティアドロップ → ■■聖ティアドロップ(商標不適正使用による是正処置)
立花聖ストレナエ → ■■聖ストレナエ(同上)
六花精ボタン → ■■精ボタン(同上)
(以下略)
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今後とも、公正かつ持続可能なブランド運営にご理解を賜りますようお願い申し上げます。
敬具
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ティアドロップは、通知を見て、苦笑した。
「……綺麗に剥がされたわね。“六花”っていう、私たちの名前」
誰もすぐには返さなかった。
代わりに、スノードロップがカップをティアドロップの方へそっと滑らせた。
「でもね、ティア様。名前が変わったって、私たちは私たちですから」
「“六花”は登録商標かもしれないけど、
私たちが一緒に過ごした日々まで、誰かに譲った覚えはないですよ」
ボタンがそう言って、小さく笑った。
その声には、悔しさよりも、穏やかさがあった。
遠く、端末から自動的に流れるニュースの声が聞こえる。
「速報です。六花ホールディングスが本日、ターミナル証券取引所にて過去最高値を更新。
代表の《メカファルコン@六花》氏は、“六花はもはや極めて重要なインフラである”とコメント……」
その声を、ティアドロップはただ、黙って聞いていた。
やがて、ゆっくりとカップを持ち上げる。
「……あの場所は、もう私たちの“六花”じゃない。
でも、それでいいのかもしれないわ」
「“六花”は制度じゃなくて――」
「……ここにあるものだったんだから」
その言葉に、誰かがそっと頷く。
静かな、でも確かなうなずき。
肩書きも、権限も、名前すらも、もう彼女たちにはない。
けれど、それでも残っているものがあった。
それは、制度ではなく、“絆”だった。
テーブルの上に、雪の花びらのようなティーカップが並んでいた。
どれも、違う模様だったけれど――
なぜか不思議と、揃って見えた。
「まぁ、それはそうと。これもう完全にリセット案件ですよね…。」
「それはそう」
ターミナルワールドは、かつてない繁栄を迎えていた。
構築自由度、勝率安定性、展開速度――
すべてを兼ね備えた《@六花》は、今や構築環境の99.8%を占めていた。
しかしその裏で、世界そのものが“悲鳴”を上げ始めていた。
【ターミナルワールド・緊急ログ】
【演算領域:LIMIT OVER】
【CPU熱制御:FAILED】
【記憶空間:“@六花”構築情報により圧迫中】
【警告:世界構造が演算処理に耐えきれません】
システムは、もはや「世界の再描画」を処理できなかった。
そして――終末は目を覚ました。
「世界のバランスが、崩れてしまった……。もう“終わらせる”しか、ない。」
「然り。終末による破壊と再生しか、道はない。」
現れたのは、二柱の終末神。
《破滅の女神ルイン》、破壊と再生を司る女神。
《終焉の王デミス》、世界の終末を司る破壊の王。
『六花ホールディングス、あなた方はやりすぎた。もはやルールの範囲を逸脱している――』
『禁止カードとして投獄するのすら生ぬるい。速やかに抹消するべきだ』
儀式の光が輝き、二柱の神が六花ホールディングス本社ビルの上空に降臨する。
発動される終末プログラム。
すべてを無に帰す、ターミナルワールドの番人。
だが――
「はいはいチェーンして《六花深々》、墓地の《SRベイゴマックス@六花》を蘇生。」「特殊召喚成功時に効果発動。《原始生命態ニビル@六花》を手札に加えますね。」
「そしてそのまま効果発動して盤面リセットしますね。」
『ちょっとまって』
神の姿が、光の中で崩れ落ちる。
《破滅の女神ルイン》、撃破。
『我の先行か。ゆくぞ六花』
「あ、《エグゾディア》が揃いました」
『』
《終焉の王デミス》、後攻0ターン目で撃破。
観測者たちは呆然とした。
世界の秩序の番人が、あまりにもあっけなく崩されたからだ。
ターミナルワールドの全システムが過負荷により沈黙した。
もはや、何もできなかった。
@六花は、止まらなかった。
ルールを内側から食い破り、無限の“展開経路”を持っていた。
世界は、もはや“処理できない膨大なデータ”に覆われていた。
プツンッと、処理負荷が限界値を超えた。
すべてが、白に包まれる。
■ ワールドが初期化されました
再起動しますか?
>YES