ヴィランによるヴィランの為の世界再成記   作:黎川暁明

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第三話

ハァ……、ハァ……、何なんだあのヴィランは! 攻撃がまるで当たらない、動きが速すぎて当たる気がしない! 逃げなければ。逃げて早く増援を…!

 

「逃げないでよ」

 

「ぐぁっ…」

 

 空から声と共に攻撃が降る。痛い…、熱い…、背中に灼熱感がはしる。切りつけられたのか? このままではこのまま殺される…! せめて反撃を…!

 

「うぅ…、ああっ!」

 

 俺が放った攻撃が人影の首の辺りを裂き、鮮血が散る。確かな手応えがあった。間違いなく当たった。勝った!

 

「やった、勝っ」

 

「……無刀ヒーロー、エアブレード。個性は“刃風”だったっけ。良い個性だね。羨ましいよ」

 

「なっ、なぜだ!確かに当たったはずだ!」

 

 間違いない、確かに当たった。辺りに散った血液は少量じゃない。死にはしないだろうが切ったのは首だ。喋れるはずがない!

 

「……ヴィランがヒーローの質問に答えるとでも?」

 

「っ!」

 

「じゃあねヒーロー、サヨナラ」

 

 最後に天から差した月明かりで見えたそのヴィランの姿は、その強さに反して白く美しく小柄で、まるで少女のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

 家を出てから三ヶ月が過ぎた。人目につき難い山や森の中を歩いて南下しつつ、時折町に降りてヒーローと戦って悪名を広めて実力を積んでいた。ちょうど季節が秋ごろだったこともあって、食べ物には困らずにすんだのは有り難かった。時折猪や熊ともやり合った。そこらのヒーローよりも遥かに強い相手だったけどその分得るものも多かった。特に直に動いているところを見れたことと、肉のつき方を調べられたのは大きかった。

 

「無刀ヒーローエアブレード、思ったより弱かったな。恵まれた個性持ってるくせに」

 

 思わず毒を吐いてしまう。個性の割に精神が弱過ぎた。まあもうどうでもいい。それなりに痛めつけたが死ぬほどではないし、放っておいてもう行くとしよう。

 

「流石だなぁ? 最近有名なヒーロー狩りさんよ」

 

「誰だ!」

 

 気付かなかった。ヒーローの関係者か? いや、それなら今話しかけてくるはずがない。ならヴィラン? なぜボクの居場所が分かったんだ? どうする…裏の人間なら警察にでも放り込めばいいか?

 

「おいおい、そう殺気立ってくれるな、“白鬼”さんよ。俺はアンタをスカウトに来たんだぜ?」

 

「白鬼?」

 

「あん? 知らねえのか。ここ数ヶ月、ヒーローを倒して回ってる白いヴィラン。その異様な強さと髪色からついた通り名が“白鬼”。東北地方(ここら)じゃあ都市伝説になってきてるぜ?」

 

「へぇ…。スカウトってのは?」

 

 通り名までついていたのか。知らなかったけど嬉しいな。目標に近づいてるってことだ。

 

「アンタに紹介したい組織がある。アイツらは間違いなくいつかの未来に世界を支配するぜ。…興味はねえか?」

 

「……見返りは?」

 

「信頼できる仲間と支配した世界での地位を」

 

 少し、考え込む。悪くない、いや、かなり理想的と言っていい。この男の言葉が嘘なら逃げればいい。どうせならやってやろうじゃないか。

 

「いいよ。乗ってあげる」

 

「そう来なくっちゃなあ」

 

 裏に生きる人間たちの密会を月だけが見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン、と薄暗いバーにノックの音が響く。

 

「どうぞ」

 

 応じたのは男…だ。顔、というより首から上は黒いモヤに包まれハッキリしない。背が高く、目はモヤの中で黄色い光を放っている。カウンターの内側に立っていることもあって、バーテンダーのようにも思えた。

 

「よう、俺だ。義燗だ。話してたヤツ連れて来たぜ」

 

「あなたでしたか。どうぞ」

 

「どーも、邪魔するよ。アンタも、ホラ」

 

「その方ですか?」

 

 部屋に入ってきた人間は二人。一人は明るい髪色をした中年の男だ。タバコを燻らせ、サングラスをかけている。詐欺師だとでも言われれば万人が信じてしまうような怪しい風貌だ。もう一人は黒いロングコートを羽織った小柄な少女…?だ。目の部分だけ穴の空いた仮面からは紅い瞳が覗いている。コートは傷ついて裾がボロボロだ。そのコートと対称的に、長く伸びた長髪は白く、薄暗いバーの中で光を放っているかのようだった。

 

「ああ。紹介するぜ。東北地方で最近有名なヴィラン、通称“白鬼”だ」

 

「ガキじゃねえか。ホントに使えんのかよ」

 

 義燗の言葉に、もう一人バーの中いた男が口を開く。不気味な男だ。体中の至るところにアクセサリーでも付けるかのように手をつけている。肌は荒れていて、顔につけた手の隙間から神経質そうな赤い目が覗いていた。

 

「ざっと二十人」

 

「あ?」

 

「ここ三ヶ月ほどでそこのヴィランに襲われたヒーローの人数だよ。強さは本物だぜ?」

 

「へぇ…、悪くねえ。だがよ、さっきからずっとダンマリなのは気に入らねえな。挨拶もしなけりゃ顔も見せねえし名乗りもしねえ。礼儀ってモンがあんだろうがよガキ」

 

「君の言うことももっともだね。……これで良い? ボクは直理。富士宮直理だ。この人にスカウトされて来た。今の世界が大キライだ。一度全部壊して作り直したい。君たちは世界を支配するんだろ? ボクも仲間に入れてくれ。きっと役に立つ」

 

 少し高い声と共にコートの子供が動いた。腕を上げ、紐を解いて仮面を外す。肌は白く傷痕一つない。顔立ちは美しく、少し幼さの見えるそれは少女のものと言っても過言ではなかった。

 

 黒いモヤの男や義燗が多少驚くなか、手を身につけた男は品定めするかのようにコートの子供を見据えて動かない。

 

「……恋をした人がいるんだ。でもある日彼女は居なくなった。今の世界は彼女には生きづらいんだって、そう言ってた。彼女はちょっと変わった嗜好を持っていただけなのに、今の世界じゃそれさえも許されないらしい。異形型個性の人の差別だって続いてる。何がヒーローだ。社会の問題も解決出来ずに」

「だから一回世界をぶっ壊すんだ。一度世界を終わらせて、ガレキの上に新しい世界を創る。平等で、自身を曝け出せる世界を」

 

 そこまで言って、そのまま軽く微笑んで手を差し出した。

 

「だからボクを仲間に入れてくれ。そんじょそこらのヴィランより遥かに役にたつよ」

 

「………弔、どうしますか? 私は貴方決定に従いますよ」

 

「………良いぜ。仲間に入れてやる。役に立たなきゃ速攻ブッ殺すからな」

 

「ああ。よろしく頼むよ、弔くん」

 

 

こうして、ボク、“白鬼”こと富士宮直理はヴィラン連合に加入した。

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