今回はファンタジー作品で有名な「ムーミン谷」の物語。
『命を食す』というテーマを踏まえて簡潔ながら執筆しました。
ここは平和なムーミン谷。
しかしこの所はちょっと違うようだ。
子供たちの間に謎の玩具が流行っている。
それは不思議な形をしたラッパ状のオモチャだ。
ムーミンたちは器用にそのラッパを吹いて遊んでいると、収集家のヘムレンさんがやって来て「ほほう、これは面白い音のラッパだ。どれ、私にも吹かせてくれ」とムーミンからラッパを借りて吹いてみる。
しかし大人には吹くのが難しいらしく、ヘムレンさんは顔を真っ赤にしながら吹き続けようとする。
そんなヘムレンさんにフローレンが微笑みながら言った。
「ヘムレンさん、そんなに無茶はしないで」
笑いながら指摘を受けたヘムレンさんは「いやはや」と苦笑い。それに子供たちも笑い飛ばす。
そんなムーミン谷に事件が起きたのは真夜中の事。
その夜、小さな農場に謎の玩具であるラッパを持った謎の人影が。
謎の人影がラッパを吹いて不思議な音色を醸し出すと、農場の牛や羊といった動物たちが次々と倒れていく。
翌朝、事件は瞬く間にムーミン谷に広がった。
動物たちの死骸を念入りに診て、頭を抱える署長さん。
と、そこにムーミンたちが騒ぎを聞きつけてやって来た。
「署長さん!」
「おっ、これはムーミンたちじゃないか」
「これはいったい……」
「ううむ、皆目検討もつかない。なんせ、動物たちには何の外傷もないからね」
ムーミンたちの疑問に署長は頭を抱え込んだまま悩み抜いてしまう。
その後の調査で動物たちは全員、心不全で死んでいる事が判明。さらに犯人らしき人影を目撃したという証言もとれた。
署長は自ら捜査を進めていくと、犯人の足跡らしきものを発見。それを追っていく。
するとしばらく犯人の足跡を追っていると、背後から何者かの気配が。
署長は意を決して振り返ってみると、そこにはムーミンの姿が。
署長は「危ないから帰りなさい」と告げるが、ムーミンは「やだ! 僕も真犯人を見つけるお手伝いをする! 動物たちをあんな目に遭わせた奴なんて放っておけないよ!」と反発。
このムーミンの粘りに署長も、「分かったから、あまり危険な事はするなよ」と口止めしながら捜査を続行。
二人は足跡を追って薄暗い田舎道を進んでいく。ヌタヌタとした泥道を進み続けると、そこには謎の集落が。
この一軒の誰かが動物殺しと関係があるらしいと踏む署長さん。
署長とムーミンが頭をひねって、どうやって探すか考えていると。
ある一軒の家から、こっそりと抜け出す人影が。
署長が「誰だ!」と懐中電灯を照らすと、その人影の正体はスナフキンだった。
スナフキンが語るには、自分も動物を傷一つ付けず命を奪った犯人に関心を持ち、彼自身も動物殺しの一件を自分ながらに捜査していたのだ。
そしてスナフキンが更に語るには、今ムーミン谷で流行っているラッパのオモチャは異国では動物や人の魂を奪い取る術式の道具であり、それをムーミン谷に広めたり、動物の命を奪った人物の家から犯行の道具として使われた証拠のラッパを持って立ち去ろうとしていたのだ。
そしてスナフキンの指し示した民家に踏み込もうとする署長とムーミンたち。
すると中から出てきたのは普通のお婆さんだった。
署長はお婆さんを問い詰めると、お婆さんは素直に犯行を認めた。
お婆さんが語るには、彼女は長生きをする為に動物の魂を喰らい続けなければならない体質であり、ムーミン谷に自分が犯行に使ったオモチャのラッパを広げたのは生活費として稼ぐ為だったという。
このお婆さんの言い分にムーミンは「そんなの勝手だよ! 動物たちにも命はあるんだから……」と命の尊厳を訴える。
だがお婆さんは「それならあんた達はどうだい? 生きる為に、同じ生き物である動物や植物を片っ端から喰らい尽くしているじゃないか。あたいのやっている事と同じじゃろ」と正論を突っ返す。これにはムーミンも署長も何も言い返せなかった。
スナフキンもお婆さんの言い分を聞いて語った。
「確かに命とは、別の命を食すことで生を繋ぎ止めている。このお婆さんの生き方に、同じ生き方をしているぼく達がとやかく言う権限はないですよ」
スナフキンの言い分を聞いて、署長も考えに考えた末にお婆さんを逮捕しない方針を決める。
一方のお婆さんも、自分のやった事が露見してはムーミン谷に居られないと考えて、ムーミン谷を去ることを決意する。
事件が無事に解決してから、ムーミンとスナフキンは同じ生き物であった食べ物への感謝の意を忘れず、今日も食べ物を口に運ぶのだった。