三ヶ月以上間が空いてしまいましたが続きです。今回はハルカ回です。
後、ここまで読んでくれた読者の皆様に、この物語の副題を教えましょう。
もしアルちゃんが男だったら&もし便利屋が本編にめちゃめちゃ関わって来たらどうなる?
『…‥何してんだ?』
その人に会ったのは、ゲヘナ学園に入って少しした頃でした。
『あぁ?なんだおめぇ。』
私はその時、あるグループにいました。今思えば、そのグループはろくでもないものでした。
誘拐や弱い者いじめ、さらには気に入らない相手を嵌めて拷問紛いのことをしてたりもしていました。
でも私は、そんな人達に『必要とされてる』ことに喜びを覚えていました。…‥ただ、都合のいいように扱われていただけだったのに。
『その子に、何をしてるのかって聞いてるんだ。』
『遊んでるだけだよ。…‥どのくらい、こいつを叫ばせられるかっていうゲームをね。』
『…‥屑だな。』
『お前も一緒にやるか?案外楽しいぜぇ?』
『ぐっ!?』
『なっ!お前っ!…‥ぐはっ!』
二発の弾丸が二人を襲い、片方の方は当たりどころが悪かったのか、気を失ってしまいました。
『ちっ…‥覚えてろ!』
『…‥黙ってろ。こんなのは遊びなんかじゃない。ただのいじめだ。』
『君…‥大丈夫か?』
『あ、その…‥は、はい。大丈夫です、慣れてますから。』
『…‥怪我が酷い。色々買った後で良かった、治療するよ。』
『あ、貴方に迷惑じゃありませんか?私なんかの治療に時間を使うなんて勿体無いと思うんですけど…‥』
『俺がしたいからするんだ。…‥それに誰かの治療に時間を使うことを『勿体無い』なんて、俺は思わない。』
『じゃ、じゃあその、お願いします。』
『…‥君はいつも、あんな風にいじめられてるのか?』
『いつもは、本当に優しい人達なんです。こんな私を気にかけてくれるし…‥今日は偶々虫の居どころが悪かっただけで、明日には戻ってると思います。』
『…‥もし良ければだけど、依頼する気はないか?』
『い、依頼?』
『初回特別サービスってことでタダにする。まぁ、お試しみたいなもんだ。』
『この便利屋68社長陸八魔アルに、君を護衛させてほしい。』
『…‥えっと、それはつまり、私を守ってくれるってことですか?』
『あぁ、このまま君を放って置くことは俺の信念に反する。』
その誘いを了承したことが、私の唯一自分のことを褒められるところです。
それからは、アルさんと一緒に学校生活を送ることになりました。
彼は普段学校に来ていないらしく、当初は風紀委員に問い詰められていました。
『…‥ど、どうしてヒナが来るんだよ!』
『貴方は仮にも要注意リストに入っているの。委員長の私が来ないわけないでしょう…‥それで、なんの目的でここに来たの?』
『依頼というか…‥まぁ、そういうことにしてくれ。とにかく悪さをする気はないから、どうかその物騒な物は降ろして下さいお願いします。』
『はぁ、まぁ貴方だけなら問題は起こしそうにないわね。…‥後の二人はどうしたの?』
『社内のことを外に洩らすわけには…‥あっはい。今日は別の依頼に行ってます。多分明日は来るんじゃないでしょうか。』
『分かった。なら、貴方達が追われないよう私が手配しておくわ。普通の学校生活を送っている者まで捕まえるのは私達の本意じゃないもの。…‥どう?これを機に、ゲヘナに戻ってくるっていうのは。』
『前にも言ったでしょう、俺には俺の道があるって。』
『貴方ならいい戦力になりそうなのに…‥』
『それが目的ですよね!?いくら誘われたとしても、俺は風紀委員会には入りませんから!』
『気が変わったらいつでも言ってちょうだい。…‥それじゃあ、私は仕事があるから。』
『ふぅ、行ったか…‥』
『あ、あの。お知り合いなんですか?』
『おぉ、ハルカか。うーん…‥なんだか奇妙な関係だよ。でも決して、仲が悪いとかではないかな。追う側と追われる側だけど。』
それを語る彼は、何かを思い出しているかのような顔をしていました。…‥今の私にも検討が付きませんが、きっと何か大きな事があったんでしょう。
『そうですか…‥』
『それじゃ帰ろう。今日は家まで送るよ。』
『は、はい。』
そこからの一週間は、本当に幸せでした。傷付けられることも絡まれることもなく、普通の学校生活が送れていました。
『アルちゃん…‥これで何人女の子引っかけてるの?』
『人聞きの悪いこと言うなよ!』
『貴女、名前は?』
『い、伊草ハルカといいます。アルさんには本当にお世話になっていて…‥』
『ふぅん…‥社長も罪な男だね。』
『カヨコまでなんだよ!これは依頼だからって説明しただろ?』
『それとこれとは話が違うよね~…‥ま、大方事情は分かったよ。どうする?一旦会社の方は休みにするか、私とカヨコちゃんの二人で回すか。』
『俺も時々戻るから、二人で頑張ってくれないか?…‥一段落したら戻るから。』
『一段落ねぇ…‥それはちょっと難しそうじゃない?連中、ずっと見てるよ。』
『…‥どうしよう。』
『ははは!アルちゃんらしいや。…‥うーん、ま、とりあえず側に居てあげたら?最悪さ…‥ゴニョゴニョ』
『それは最終手段で…‥』
『あ、あの。お二人は何の話をしているんでしょうか?』
『貴女は気にしなくていいよ。…‥さっきの話の続き、聞きたいな。』
『い、いいんですか?それじゃあ…‥雑草にもやっぱり、適した環境があるんです。それを見極めるのが難しいんですけど、慣れたら案外簡単で…‥』
アルさんの仲間だというお二人にも会って、会話をしました。カヨコさんはずっと私の話を聞いてくれて、凄く優しい人だなと思いました。
楽しかったです。今まで満たされていなかったものが急速に満たされるのを感じられて、まるで自分が普通の女の子になったようでした。
あの出来事が、起きるまでは。
今日もあの人は待ってくれているだろうか?いつも不安になってしまう。
今はあの人の好意に甘えているだけということを、忘れてはならない。
「でも…‥私も少しは、幸せになってもいいんでしょうか?」
そんな事を口に出したのが、間違いだった。
「ハルカちゃ~ん。…‥ちょっと、付いてこれる?」
「ひっ…‥」
付いて行けば間違いなくまた、酷い目に合わされる。…‥今の私には、あの人がいない。
「…‥いいから、黙って付いて来い。あぁ、あいつなら来ないぜ?今頃、ボロボロになってる頃だろうよ。」
「!」
その言葉に、私は何も出来なくなってしまいました。それと同時に、途方もない申し訳なさが込み上げて来ました。
私と関わらなければ、あの優しい人がこんな目に会わなくて済んだ。…‥結局私は、誰かを不幸にしてしまう。
「わ、分かりました。」
「よぅし、良い子だ。…‥たっぷり痛め付けてやるから覚悟しろよ?」
付いていって、約30人くらいの集団がいる廃倉庫に着いた時、終わったと思いました。
(あぁ…‥私はいったい、どんな目に会わされてしまうんでしょうか?)
きっと痛いんだろうなぁ、辛いんだろうなぁ。
「あいつらまだ帰って来ねぇな…‥ま、もう私達だけで始めちまうか。」
「まずは一発!今日も良い声聞かせてくれよ!」
目の前に迫る弾丸を避ける気力はもうなくて、ただ迫り来るそれを待っていました。
やけに時間が遅く感じました。その時間の中で、なにやら駆けて来る足音が聞こえてきました。
そうしている内に視界に入って来たのは、少しだけ見慣れた、何より大きい背中。所々ボロボロで、戦った後なのだろうという予測が付きました。
「っ…‥間に合った。」
「お、お前!なんでここに!」
「依頼を遂行するため。あの程度の妨害に苦戦してちゃ、便利屋68社長の立つ瀬が無くなっちまう。」
「ハルカ、大丈夫か?」
「な、なんで…‥」
「今言ったろ?依頼を遂行するためだ。」
お金なんか一円も払っていないというのに、対価なんてなにもないというのに、貴方はここまでしてくれるんですか?
「元を辿ればお前が全部おかしくさせたんだ!元々そいつは私達の遊び道具だったのに!それを奪いやがって!」
間にアルさんがいなかったら、私はその恐怖に耐えられなかったでしょう。トラウマというのはここまで根強く残るのかと、私自身驚愕しました。
「…‥ならこのまま、ハルカは貰っていくぞ。この子をお前達の好きにはさせない!」
…え?今彼は、何と言った?『貰っていく』?聞き間違いじゃなかったら、確かにそう…‥
「ふざけんな!返し」
それを言いきる前に、その人は私達の後ろから放たれた2発の弾丸に撃たれました。
「ひゅ~!アルちゃん格好いい♪」
「社長、遅れてごめん。」
「全然。むしろ、よく来てくれた。」
「り、リーダー!…‥お前達、何者なんだ!」
「便利屋68。…‥ただの、何でも屋だ。」
(今の、アルちゃんが昔見てたアニメのセリフだ。…‥でも、凄くカッコ付いてるね。)
「ムツキ、カヨコ。…‥いくぞ!」
「「了解!社長!」」
そこからは、激しい戦いでした。私は見ていることしか出来なくて、少し情けなかったです。
「はぁ…‥はぁ…‥覚えておけ!ハルカの後ろには、俺達が付いてる!」
「ち、ちくしょう!…‥覚えてやがれ!」
そんな捨て台詞を吐いて、集団は去りました。
「…‥あー、その、ハルカ?」
「な、なんですか?」
「さっきは勢いで言っちゃったけど、そ、その、ハルカが良ければ…‥俺達と、来るか?」
「い、いいんですか?わたしなんかがいっしょにいても…‥めいわくじゃ、ありませんか?」
「俺の方から誘っているんだ。遠慮なんて、しなくていいさ。」
その言葉を貰っても私は、素直に頷く事が出来ませんでした。また巻き込んでしまう、そもそも、私のような者がこの人達と一緒に居ていいはずがない。…‥そんなことで、頭がいっぱいになっていました。
ただ無言で泣きじゃくっていたからか、それを見かねたカヨコさんが私の元に来ました。
「あっ、ご、ごめんなさい。で、でも…‥あ」
焦りが収まらなくて、感情の整理が追い付かなくて、まともに喋れなかった時、抱き締められました。
「大丈夫。焦らなくていいし、落ち着いた時にまた考えてくれればいいから。…‥だよね?社長。」
「ありがとうカヨコ。…‥ハルカ、ちょっと休もうか。」
「じゃ、会社行く?ここもゲヘナも邪魔が入りそうだし。」
「そうだな。」
「…‥落ち着いたか?」
「はい、ご迷惑お掛けしてすみません。」
あれから移動して、アルさん達の会社に来ました。出されたお茶を飲むと、いくらか精神は落ち着きました。
「そう、だな。ハルカはどうしたい?」
「…‥まだ、分からないんです。これまであまり自分の気持ちを出したことがなくて…‥」
「ならさハルカちゃん、アルちゃんと過ごした一週間ってどうだった?」
「楽しかったです、それまで生きてきた中で一番と言えるくらい。」
「お、おう。な、なんか照れるな…‥」
「それなら、アルちゃんと一緒にいるのを選ぶのも一つの手じゃない?依頼が終わったら、もうアルちゃんと会える機会、そうそうないと思うよ?」
「…‥え?」
(アルさんと、会えなくなる?)
「まぁ、いつまでもこのままってのは出来なくなるだろうな…‥なるべく行きはすると思うんだけど…‥」
アルさんがそう言うと、カヨコさんがアルさんの耳元まで近づいて、静かに話し始めました。
耳をすませば会話は聞こえたのかもしれませんが、今の私にそこまでの余裕はありませんでした。
『アルさんと会えなくなる』。ムツキさんが何気なく言ったその一言が、私に深く突き刺さっていたからです。
「社長。仕事どうするの?」
「うぐっ…‥それを言われると弱いんだよなぁ。」
「今の生活続けるつもりなら、いつか体が持たなくなるよ。」
「うーん…‥」
(朝起きて最低限仕事してから学校行って、ハルカを守りながら勉強した後、帰ってからも仕事してるから…‥正直一週間でも、かなり疲れた。)
「潮時…‥なのか?」
ショックを受けている中でも、その言葉はやけに鮮明に聞こえました。
(嫌だ嫌だ嫌だ!アルさんと会えなくなるなんて、そんなの嫌だ!)
「入ります…‥」
「うん?」
「アルさん…‥いえ、アル様。私、この会社に入ります。」
「!?きゅ、急にどうした?焦らなくてもいい…‥え、ていうか様付けってなん…‥」
「ふ~ん…‥ハルカちゃん、来たね。"こっち側"に。」
「歓迎するよ。ようこそ、便利屋68に。」
「わ、私、精一杯頑張ります!」
「お、俺を…‥」
「置いてけぼりにするなぁー!」
「様…‥アル様。あ、あまり昼寝されると夜眠れなくなりますよ?」
「んー…‥夢、見てた。」
「夢、ですか?」
「ハルカと出会った時から、入社までの夢。懐かしい…‥っていうには、まだちょっと早いか。」
「き、奇遇ですね。私もさっきまで、昔を思い返していました。…‥アル様。コーヒーの準備が出来ています。さ、冷めないうちにお召し上がりください。」
「お、助かるわ。」
コーヒーを飲んでいる彼を眺めながら、ふと思ったことを心の中で繰り返す。
(…‥アル様。貴方は私のこの気持ちを、受け入れてくれるでしょうか?今にも喉から出てしまいそうなこの激情を、受け止めてくれるでしょうか?)
(あぁ、アル様…‥お慕いしています。これまでも、これからも、ずっと。)
(コーヒー飲んでるだけなのに凄い見てくる…‥嫌なわけじゃないけど、なんだか恥ずかしいな…‥)
なんかハルカが大分マイルドな気がした人は正解です。あえて狂気度を落として書いたので。理由は『ハルカは元々あぁだった訳じゃなく、過程であぁなった』と解釈したからです。