流派スカイランド神拳一番弟子、ソラ・ハレワタール 作:無悪岩
リア・アーダナスは、面倒くさそうにため息をひとつ吐くと、
「よっこらしょ」と大げさに腰を上げた。
立ち上がっただけで、周囲の空気がぴりりと張りつめる。
その無自覚な威圧感に、ソラは思わず肩をすくめる…が、すぐに踏ん張った。
リアはゆっくりとソラの方へ振り向き、ぞんざいに言い放つ。
「弟子はとってねえし、ガキなら尚更だ。くだらねぇ冗談抜かす体力が残ってんなら、さっさと山降りて家へ帰りな。」
ぐい、とゴーグルを持ち上げ、頭にかける。露わになった鋭い視線が、ソラを突き刺した。
完全に"関わりたくない”オーラ全開だった。それでも、ソラは一歩も引かない。
「か、帰りません!私、強くなりたいんです!!ヒーローになりたいんです!!」
必死に叫ぶソラに、リアは肩をすくめ、あきれたように吐き捨てる。
「……くっだらねぇ。まぁ、ここまで来た根性は認めてやるがな。おままごとがしたいなら、ダチとやりな。」
「くだらなくなんかありません! 私は、本気でヒーローを目指してるんです! だから、強くならなきゃいけないんです!」
目を逸らさず、真っ直ぐに訴えるソラ。
リアはしばらく無言でソラを見つめ、それから鼻で笑った。
「…わかったわかった。そんなに言うなら、試してやるよ。」
リアはソラを促し、山道を奥へ進んでいく。小さな体で必死についていくソラを見ながら、リアは不敵に笑った。
「ヒーローってのはな、まず勇気が必要だ。」
そう言ってリアが案内した先は、切り立った崖だった。
「向こうへジャンプして渡れたら…弟子入り、考えてやるよ。」
指差した先、崖の向こう側までは、到底子どもの脚力で届きそうにない距離があった。
(……まぁ、ビビって帰るだろ)
リアは内心でそう踏んでいた。
しかし。
「わ、わかりました!!いきます!!」
ソラは一度だけ大きく息を吸い込み、勢いよく助走をつけ──
「せ、せーのっ!!」
崖へ飛び込んだ。
「……はあああああああああああ!?!?!?」
リアが素っ頓狂な声をあげた。
当然、ソラは届かず、あっさりと空中に放り出され、落下していく。ソラの叫び声が谷にこだまし、どんどん遠ざかっていく。
「…っ、クソガキ!!」
リアはすぐさま地を蹴った。凄まじい勢いで崖へ飛び込み、崖壁を蹴って加速、空中のソラに一瞬で追いついた。
「きゃあああああ!!!」
「おら、捕まれ!!」
ソラを抱き抱え、体勢を反転。リアは足から大地へ突き刺さるように着地し、地面にクレーターを残しつつも、まるで何事もなかったかのようにソラを降ろした。
「アホかお前は!! あんなの、ガキの力で届くわけねぇってわかるだろうが!! そんなんも分かんねぇのか!!」
リアは本気で怒鳴った。目元に大粒の涙を浮かべながら、ソラは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「け、けどっ……ととと、飛びましたよ!! で、ででで弟子入りでいいんですよねっ!!」
リアは思わず頭を抱えた。
「…くそ、マジでアホだこいつ……」
期待に満ちた目でリアを見上げるソラに、リアは無情な宣告を下した。
「弟子入りを考える、だけだ。考えた結果、お前は弟子に取らねぇ。さっさと帰れ、アホガキ。」
「え、ええええええぇぇぇぇ~~~~~!!!」
ソラは崩れ落ち、地面に突っ伏して大声で泣き始めた。
***
その後。
山の麓へと続く道を、リアはため息をつきながら歩いていた。腕の中には、しゃくり上げながら号泣しているソラが抱えられている。
「いいから歩けっつってんだろ、アホガキ……! なんで抱っこしなきゃなんねぇんだ……!」
「あ、うええぇぇっ……! だって……ぐすっ……あしが、あしがうごかないのおおお~~!!」
「情けねぇな。お前、それでもヒーロー目指してんのかよ。」
ぼやきながらも、リアはソラをしっかりと抱えて歩き続けた。
空は、すっかり夕暮れに染まっていた。