流派スカイランド神拳一番弟子、ソラ・ハレワタール   作:無悪岩

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3話

 翌日。

 リア・アーダナスは本日の修行を終え、裏山の岩場に腰を下ろし、空を流れる雲をぼんやりと眺めていた。

 

「……ま、あれだけ泣き喚いてたら、二度と来ることはねぇだろ。」

 

 ぼやきながら、ゴーグル越しに空を仰ぐ。今日も、青空が広がっている。

 リアは腕を組み、あくびをひとつ。

 

 その時だった。

 

「はっ、はっ……き、来ましたっ!! 師匠! よろしくお願いします!!」

 

 声が聞こえた。

 リアが顔をしかめ、そちらを振り向くと──

 ボロボロになりながらも、昨日と同じ格好で、必死に山を登ってくるソラ・ハレワタールの姿があった。

 

 服は泥だらけ、顔も汗まみれ。それでも、瞳だけは昨日以上にギラギラと輝いている。

 

「……あのさぁ……」

 

 ゴーグルを頭にかけ、リアは目頭を押さえた。

 

「なんでまた来てんの? お前……」

 

「ヒーローになるためです! そのためにも、師匠にまず弟子入りをします!」

 

 ──なんでもう師匠って呼んでんだこのアホは。

 

 心の中で毒づきながらも、リアはグッと堪えた。

 感情に流されず、理詰めで追い返す方向に切り替える。

 

「いいか、ガキ。まず大前提として──」

 

「ソラです! ガキじゃありません!」

 

「……あぁ、悪かったな、ソラ。続けるがいいか?」

 

「はいっ!」

 

 話を遮られ、こめかみにピキリと血管が浮かぶのを感じながらも、リアは自制心を振り絞った。

 

「まずな。親御さんには話したのか? よく知らねえ大人に、自分の娘が弟子入りするなんて、普通なら絶対に反対されるぞ?」

 

「いいえ! ふたりとも快く送り出してくれました!」

 

「……それはアレだ。遊びに行くもんだと思ってんだろ。ちゃんと説明して──」

 

「しました! 師匠のことも、ちゃんと伝えてます!」

 

 リアは天を仰ぎ、大きく息を吐いた。

 

「……マジかよ……」

 

 その間に、ソラはリュックからごそごそと何かを取り出す。

 

「お母さんが、師匠にって!」

 

「こりゃ……手紙か?」

 

 リアは震える手で封を切った。何が書かれているのか、想像するだけで胃が痛くなる。

 かつて自分も師から理不尽な修行を受けたが、それよりも今は、はるかに恐ろしかった。

 中には、丁寧な字でこう綴られていた。

 

『ソラからお話を聞きました。最初は不安に思いましたが、とても強く、頼りになる素晴らしいお方だと聞いております。どうか、ソラをよろしくお願いいたします。』

 

 リアは無言で手紙を読み進め、そっと封を閉じた。

 

(マジか〜〜〜〜〜〜……)

 

 手紙から目を逸らしてソラを見る。

 ソラはキラキラした目でリアを見上げていた。

 

(…親子揃ってこれかよ。)

 

 リアはとてもとても頭を抱えたくなった。眉間を指でぐりぐり押さえ、やがて真剣な表情でソラの方を向く。

 

「いいか、ソラ。ハッキリ言うぞ。オレはお前を弟子にしない。」

 

「えっ……な、なんで!?」

 

「事情だよ、事情。人には言えねえことのひとつやふたつあるだろ。それだ。まあ、お前が納得するとは思わねえが…。そういうことだ。諦めろ。」

 

 立ち上がり、リアは手を軽く振った。

 

「家までまた送ってやる。ほれ、帰れ。」

 

 ソラは目に大粒の涙を溜め、ぷるぷると震えていた。

 

「……うっ、うぐっ、ひぐっ……」

 

「…弟子入りできねぇだけで泣くなっつーの。それにお前、オレの名前すら知らねぇだろ?」

 

「そ、それっ……でも……!」

 

「第一、強くなりてぇだけなら、オレのとこじゃなくてもいいだろうに。…ハァ、これ以上言っても無駄か。ほれ、帰るぞ。」

 

 リアはソラの肩に手を掛ける。

 

 だが──

 その手を振りほどくように、ソラはくるりと背を向け、森の奥へと駆け出していった。

 

「お、おい!? どこ行くクソガキ!!」

 

 リアが呼び止める暇もなかった。リアはその場に立ち尽くし、頭をがしがしと掻いた。

 

「…ったく、何なんだよ、クソっ。」

 

 仕方なく地面に寝転び、ゴーグルを深くかぶる。空はどこまでも、澄み切った青だった。

 

(…まぁ、あんだけ元気なら大丈夫だろ。)

 

 そう思って目を閉じ──しかし、五分と経たずに、リアは跳ね起きた。

 

「あ〜〜チクショウ!! おかげで寝れねぇじゃねぇか!!」

 

 叫びながら、拳で地面をドンと叩く。思った以上に、胸の奥がざわついていた。

 リアは立ち上がり、鋭い視線で森の奥を睨みつけた。

 

「アイツ…本当に帰れたんだろうな…? 何かあったらタダじゃおかねぇぞ……!」

 

 怒鳴るように吐き捨て、すぐさま駆け出す。その速度は、まるで風そのものだった。

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