流派スカイランド神拳一番弟子、ソラ・ハレワタール   作:無悪岩

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5話

 朝の陽が昇りきる前から、ハレワタール家…というより、ソラ・ハレワタール本人が落ち着かなかった。

 リビングをぐるぐる歩き回り、座ったと思えばすぐ立ち上がる。その繰り返しだ。

 

 

「ソラ、少しは落ち着きなさい。アーダナスさんは『陽が昇りきった頃に来る』って言ってたでしょう?」

 

 

 母、レミが呆れたように声をかける。太陽は、まだ完全には昇りきっていない。

 すると、玄関の外から声が聞こえてきた。

 

──ソラ〜、起きてるか〜?

 

 

「師匠だ!!」

 

 

 ソラは目を輝かせて、勢いよく家を飛び出した。

 

 

「師匠! おはようございます!!」

 

「おう、おはようさん。約束どおり、ちゃんと起きてんな。」

 

「はいっ! 今日からよろしくお願いします!」

 

 

 やる気に満ちたソラに、リアは「やれやれ」と肩をすくめつつ、どこか満更でもない表情を浮かべる。

 

 

「あれっ。あのゴーグルはどうしたんです?」

 

「あ? ……あぁ、アレか。邪魔だったから置いてきた。」

 

 

 いつも身につけていたゴーグルがないことに気づいたソラが尋ねると、ぶっきらぼうに答えが返ってくる。

 窓越しに、シドとレミがふたりの様子を見守っていた。

 リアは背中から自身よりも2~3回りほど大きなリュックを下ろすと、軽く首を鳴らす。

 

 

「さて。いきなり修行ってのもいいが……お前、トレーニングか何かやってただろ?」

 

「はい! あの人と会ってから、師匠に弟子入りするまでの1年間、自主トレは毎日欠かさずやってました!」

 

「なるほどな。」

 

 

 ソラが崖から飛び降りたあの日。リアが抱えて運んだ際に感じた、年齢に見合わぬ筋肉と体の重さ。その違和感の正体が、ようやく腑に落ちた。

 

「ソラ。修行の前に、まずちょっとだけ勉強だ。今後に関わる話だから、しっかり覚えておけ。」

 

「えっ、べ、勉強ですか…?」

 

 

 ソラの顔が曇る。「修行=体を動かす」ものと思っていたからだろう。

 リアはその様子を見て、肩をすくめながら笑った。

 

 

「なに、お勉強って言っても、学者様みてぇな難しいもんじゃねえ。お前の喋り方だって、ヒーローになりたくて勉強したんだろ?」

 

「そ、それは…そうですけど……」

 

「修行を効率的に進める、いわば“ヒーローへの近道”だと思え。少しは前向きになれるだろ?」

 

 

 “ヒーローへの近道”──その言葉に、ソラの目がぱっと輝いた。即座に正座の姿勢をとる。

 

 

「わかりました! どんな勉強でも受けて立ちますっ!!」

 

「わかりやすくて助かるぜ。」

 

 

 リアはリュックから黒板と脚を取り出し、素早く組み立てる。

 カカカッと黒板に人間のような図を描き、チョークを持った。図にはサイドテールやアホ毛もあり、どこかソラに似ていた。

 

 

「ソラ。パンチを打つ時、どこの力を使うと思う?」

 

「う〜ん……やっぱり、腕です! 腕力です!」

 

 

 ソラは立ち上がり、正拳突きを見よう見まねで繰り出す。

 

 

「ブー。ハズレ〜〜」

 

「えぇっ!?」

 

 

 リアは煽るように、突き出された拳の前に顔をぐっと近づけた。

 

 

「じゃ、じゃあ足!」

 

「ブー。」

 

「握力!」

 

「ブブ〜。」

 

「うう〜〜、じゃあもう、全身!! 全部です!!」

 

「正解!やるじゃん。」

 

「え、え? 正解何ですか!?」

 

 

 ヤケになって答えたため、ソラは思わず目を丸くする。

 

 

「武術…というよりも、我がスカイランド神拳において、無駄な筋力なんぞ一分もねぇ。つまり、全部の筋肉が必要ってことだ。」

 

 

 そう言ってリアは、青空に向けて正拳突きを打つ。

 そのフォームは、見ているだけで力強さと美しさを感じさせた。

 

 

「拳を突き出す腕力、重心を支える下半身、力を集約させる背筋や体幹。細かく言やあキリがねぇが、とにかく“全身を使え”ってことだ!」

 

「は、はいっ!!」

 

 

 リアはにやりと笑い、黒板に描いた人型図をぐるっと囲み、肩・腕・足にチェックを入れる。

 

 

「ここが、お前のトレーニングで鍛えられてる部位。だが他は……全然なっちゃいねえ。」

 

 

 1年間の独学トレーニング。やってはいたが、我流だった。

 リアの言葉にソラは背筋を伸ばし、ぐっと拳を握る。

 

 

「だから─」

 

「基礎トレーニングからですね!」

 

「そういうことだ。理解できたか?」

 

「はいっ!!」

 

 

 やる気に満ちたソラと、それを見てにやつくリア。

 窓から覗くシドとレミも、嬉しそうに顔を見合わせた。

 ─そして次の瞬間。

 

 リアがリュックに手をかけたと思った瞬間、ソラの視界から姿が消えた。

 

 

「うわぁっ!? し、師匠!? これ……な、なんですか!?」

 

 気づけば、体中に拳大の錘が括りつけられていた。腕も脚もずっしりと重い。

 

「何って、錘だよ錘。定番だろ? オレも昔、師匠にムリヤリ付けられてな。」

 

 

 そう言いながら、リアも自分の体に重い錘をジャラリと巻いていた。

 

 

「じゃ、それ付けて……家の周り、10周な。つっても、ただ歩くだけじゃねえぞ? 全身の筋肉を使うイメージで、一歩ずつ丁寧に歩け!」

 

「わ、わかりました……!」

 

「アホ! 適当に歩くなって言ってんだろ! こうだ、こうやって…一歩ごとに、体で錘を吊り上げる感覚を意識しろ!」

 

「こ、こうですかっ!?」

 

 

 リアが手本を見せながら、ソラの横を並走する。

 

 

「腰に負担が集中してんぞ! 背筋! 脚の筋肉を主軸にして、体幹でバランスを取れ!」

 

「は、はいっ!!」

 

 

 荒々しい口調の裏には、確かな理論と的確な指導がある。

 ソラはその厳しさの奥に、リアの本気の優しさを感じ取っていた。

 

 こうして…ソラとリアの、修行初日が幕を開けたのだった。

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