流派スカイランド神拳一番弟子、ソラ・ハレワタール   作:無悪岩

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6話

 一週間後。

 リアは初日のメニューに少しずつ課題を加えながら、相変わらずソラに基礎トレーニングを続けさせていた。

 ソラは毎日汗まみれになりながら、それをひたすら繰り返していた。

 

 

「う、うぐっ……し、師匠っ!この基礎トレーニングって…いったい、いつまで続くんですかー!?」

 

 

 あの日、目の前で見せられた【天空正拳突き】。ソラは、いつか自分も教えてもらえるものだと期待していた。が、一週間が過ぎても、構えすら教わっていない。

 

 

「ん〜?さあ?基本的な突きや蹴りは教えただろ?今はそれでいいじゃねえか。」

 

 

 リアは気の抜けた声でそう返す。新聞をめくりながら、常識外れな鍛錬…。足の指だけでロープを挟んで登るという動作を続けていた。

 

 

「さ、さあって……。いい加減、基礎トレ終わらせて技の稽古に移りたいんですけどー!?」

 

「そんな甘くねーよ。基礎トレに終わりなんか無ぇし。」

 

 

 リアは新聞をめくりながら、眉をひそめた。

 一面には、こんな見出しが躍っていた。

 

 

 『若きヒーロー、隊長就任!』

 ──若くして王国最強と名高いシャララ隊士が、この度、青の護衛隊の隊長に就任。世間を騒がす組織に終止符を──

 

 

「ふぅ〜ん…このオレを、ひいてはスカイランド神拳を差し置いて“最強”ねェ……? ふぅ〜〜ん!!」

 

 

 新聞を読み上げながら、リアはあからさまに不機嫌そうに鼻を鳴らした。だが、さっきまでひぃこら言っていたソラの反応が一変する。

 

 

「若きヒーロー!? もしかして……!! 師匠! 新聞見せてください!!」

 

「あ?ああ…。」

 

 

 リアがロープから器用にスルスルと降りて、新聞をソラに手渡す。動きづらそうにしながらも、ソラはそれを両手で抱えるようにして読み込んだ。

 写真はなかったが、挿絵には凛とした佇まいの女性の姿が描かれていた。それを見たソラの目が、ぱあっと輝く。

 

 

「やっぱり……!この人です!この人ですよ!あの日、私を助けてくれたヒーロー!!」

 

「あァ?何言ってんだオメー」

 

「シャララ隊長っていうんだ…!」

 

 

 リアには初耳だったが、ソラにとってはこの“シャララ”こそ、ヒーローを目指すきっかけとなった存在だったようだ。

 シャララがいかに強く、優しく、憧れの存在か─。そんな話を熱弁するソラに、リアは少しだけ興味を抱いた。

 

 

「へぇ〜。じゃあ聞くが、ソラ。オレとその“シャララ隊長”、どっちが強ぇんだ?」

 

「シャララ隊長です!!」

 

「お前なあ…!ちっとは悩めよ……!」

 

 

 ちょっとした意地悪のつもりだったが、即答されたリアは撃沈する。

 

 

「だって、隊長は師匠よりずっと優しいんですもん!」

 

 

 ソラは森で助けられたときのことを思い出していた。

 

 

「隊長は師匠と違って、言葉遣いも綺麗ですし……。森から出たあとも、“大丈夫か?”とか“怪我はないか?”とか、ずっと心配してくれたんですよ!」

 

「なんだよ、言葉遣いって! オレだってやろうと思えばやれるんだぞ!!」

 

「でも師匠、私に技を教えてくれないじゃないですか。」

 

「関係あんのか!?それ!!」

 

 

 自分に軍配が上がるだろうとたかをくくっていたリアは、秒殺されたことで微妙に傷ついていた。

 このままではソラのペースだ。そう判断したリアは、咳払いをひとつして、話題を変える。

 

 

「ところで…技って、そんなに早く習得したいもんかね?基礎の大切さはちゃんと説明したはずだが?」

 

「えっ、あ、えーと……それはですね……」

 

 

 視線を泳がせ、口ごもるソラ。

 すると、それを見ていたレミが口を開いた。

 

 

「学校で、いじめっ子に手も足も出なかったから…よね?」

 

「ママ!? どうして言っちゃうの!!」

 

 

 ソラが顔を真っ赤にして抗議する中、リアは納得するように頷いた。

 

 

「なるほどな。鍛えたところで、勝てなきゃ意味がねぇもんな。だからソイツを簡単に、確実に倒せる強ぇ技が欲しいってワケか。」

 

「う…はい…その通りです……。」

 

「…で?お前は、そのいじめっ子をどうしてやりたいんだ?」

 

「…え?」

 

 

 ソラもレミも、予想していなかった質問に言葉を失う。

 

 

「仮に、オレがお前に“確実に倒せる技”を教えたとして…。お前はそれを、ソイツに使うのか?」

 

「えっ……えっと……」

 

「言ったろ? スカイランド神拳は、自衛の技だ。人を傷つけるためのもんじゃねぇ」

 

 

 静かな口調。しかしそのひと言が、空気をぴんと張らせる。

 ソラは拳を握るだけで、何も言えなかった。

 

 

「…なんてな、ガキにする質問じゃなかったな。」

 

「…え?」

 

 

 リアはふっと笑い、頭をかきながら軽く謝る。

 

 

「大方、立ち向かっていったはいいものの、自分が相手を傷つけるかも…なんて考えて、咄嗟に手が出せなかったんだろ?…悪かった。ちょっと意地悪な質問だった。」

 

 

 張り詰めていた空気がすっと和らぐ。

 リアはソラの頭をがしがしと撫で、レミに「すいませんね」と頭を下げると、自分の鍛錬へと戻っていった。

 

 

「それはそれとして──ハッキリ言って、お前にゃまだ早ぇ!せめてさっきの問いに答えを出せるまでは、一生基礎トレと基本の技だけだな。」

 

「えぇ〜〜〜!!?」

 

 

 ビシッと指を突きつけられ、「まだだ」と告げられたソラは、ガックリと肩を落として戻っていった。

 その背中を見て、レミは小さく笑った。

 

***

 

「よし、今日はここまでだ。初日と比べて、だいぶ体力ついたな。」

 

「はぁっ…! はぁっ……!」

 

 

 陽が山の端に沈みかける頃、リアは修行の終了を告げる。

 

 

「さて、オレは帰るぞ。あっ、そうだ。新聞にもあったが、夜はあんまり出歩くなよ。最近、怪しい連中がウロチョロしてるらしいからな。」

 

「し、師匠は……」

 

 

 地面に倒れ込んだまま、ソラは顔だけ動かして尋ねる。

 

 

「師匠は……技や力を……その、どう使うんですか?」

 

「どうするって?」

 

「はい…」

 

「決まってんだろ?」

 

 

 リアは獣のように笑い、拳を突き出した。

 

 

「完膚なきまでにブチのめす。それがスカイランド神拳…いや、オレたち一族のやり方だ。」

 

 

 そう言ってリアは片手をヒラヒラと振りながら、夕暮れの坂道をゆっくり登っていった。

 その背中を見送っていたソラは、ふと首をかしげる。

 

 …『オレたち一族』?

 そういえば、師匠の家族のことなんて、まだ一度も聞いたことがない…。

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