アトリエシリーズってもっと和気藹々してるモンだと思ってたんだけど!? 作:ドンケルハイト量産計画
この鋼の身体となって強化された物は幾つかある。1つは膂力、また1つは視力だ。
攻撃の隙すら許さないと間髪入れず走り込むロックリザード達、俺は大剣を振り向いた姿勢のまま手首をプロペラさながらに高速回転させる。
「悪いな」
「ギャァァァァァッ!?」
足を止めるにも時既に遅し、勢い余って回転する刃に飛び込んだ奴らはミンチと化した。少しすれば光に還るだろうが。
「そっちはどうだ?!」
「なんとか!」
背後では杖をまるでライフルの様に構えた彼女が杖から放たれる銃弾でロックリザードの脳天を撃ち抜いていた。と言うかあれ、銃だったのか。
『ユミア、左です』
「やばっ、撃ち漏らした!?」
雪崩の様に押し寄せるロックリザードに対し、セミオートの銃ではレートが足りていなかったか、撃ち漏らした個体が彼女に飛びかかる。
俺はその光景を見ていたが、目の前が忙しく手を出せない。だがもう1匹ここには居るんだ。
──青い影がロックリザードの側面に飛びかかる。
「ぷに〜ッ!」
「ギャァッ?!」
ぷに太郎のインターセプトが決まった。空中で支えもないまま体当たりを受け、転がり落ちた奴は彼女の弾丸を受け倒れる。
「助けてくれたの?」
「ぷにっ!」
「そっか……ありがと」
『その前にフラミィもユミアに警告しています』
「はいはい、ありがとありがと」
美少女とマスコットの絡みは絵になるだろうが、生憎そちらを見る余裕は無い。近付く相手には逆手に握った大剣でコンパクトにすれ違いざまで斬り落とし、距離のある相手には手首を回転させ順手持ちで薙ぎ払う。
だが、数が減ってもまた次、その次と現れるのだからキリがない。
「次から次へと……ジュラシックパークに来たみたいだ」
俺は別に達人でもなんでも無いが、この大地を東から西に横断する中で幾つもの獣と戦って来ている。パワーレベリングを受けた様なものだ。だが、数というのは質の差を埋める事も出来る。このままじゃジリ貧待ったなし、俺のエナジーが底を突く事になる。
「……このままじゃキリがない」
「なら、一点突破で抜け出すしか無いな」
「何か方法が?」
「俺が道を開く、嬢ちゃんはフォローを頼む」
「……分かりました、後ろは任せてください」
俺の提案に彼女も乗ってきた。なら後は如何に道を開くかだが──。
『超高性能自立型探索補助装置であるフラミィであれば、包囲の薄い場所を観測出来ます』
「ならお願い、フラミィ!」
『スキャン開始──』
フラミィを中心に光の円が広がり、消えた。アレがスキャンって奴か、機械寄りの俺にも出来ればな。
『スキャン完了、ここから南西の方角の包囲が手薄です』
「早い、流石超高性能だな!」
『当然です。フラミィは超高性能自立型……』
「はいはいその話は後で!」
「よし、行こう!」
俺はぷに太郎を拾い上げ、フラミィが示した方角へ走り出す。彼女も銃を構えながら器用にこちらに付いてくる。
「ギャァッ!」
「そいやッ!」
「ぷに〜っ!」
片手持ちの大剣を振る、ロックリザードの追撃を退ける。胸に抱いたぷに太郎も、何やらブレスの様な物を吐き出して迎撃していた。昨今のスライムは多芸だ。
「ギャッ! ギャァ!」
「
背後では絶えず銃声が響く。彼女のリロードはレボリューションしていた。細く長い指先が澱みなく弾丸をこめていく。土壇場での技の冴えといった所か、狙いもまるで外れない。どこでそんな腕を磨いたのか。捉え所もなく浮かんでいるあのフラミィすらも撃ち抜いてしまいそうだ。
そんな命からがらの逃走劇が暫く続き──
──そうして俺達は、彼女と出会った建物の前に立っていた。
『逃走成功です。お疲れ様でした、ユミア』
「はぁ……はぁ……。疲れたぁ」
なんとか目立った怪我もなく逃げ延びたのだ。俺は傷が付く事はあっても怪我しないんだが、彼女が無事で良かった。こっちが巻き込んじまったからな。
俺は、尻をべたりと地面に付けた彼女に何と声を掛ければ良いか分からなかった。大丈夫か、ってのも巻き込んだ側が言うのは変だし、謝るのが正しいだろうか。
「あ〜、その。悪かったな。逃げ出しちまって」
「つい追いかけてしまった私も悪かったし……おあいこ様って事でどうですか?」
悪戯っぽく笑う彼女。危ない危ない、俺がモテない自覚が無ければ勘違いしてる所だ。……と言うか、勘違いさせた人も多そうだな。
「そっか……ならそうしとくか」
俺は手を差し出す。彼女はそれを取り立ち上がる。一緒に修羅場を超えた為か、少し気安くなった様な気がする。吊り橋効果って奴だな。
「おっとと……ありがとうございます」
「こっちこそ。じゃあ約束通り、俺の身の上話だな」
「はい、お願いします!」
──それから、俺は彼女にこれまでの出来事を話した。東に広がる大地についての事や、俺自身の事。ただ、俺は幾らか情報を伏せていた。
1つは俺自身の事。俺が『生きた金属』である事は伏せた。どんなリアクションを取られるか分からないと言うのもあるが、公にする必要性も薄いと感じたからだ。細かい事は記憶喪失として誤魔化しておいた。
もう1つはルトガーの事だ。これは言わずもがな、公言すれば彼の立場を悪くする可能性がある為だ。
それ以外の事はぷに太郎を拾った経緯も含めて語った。彼女は興味津々で聞いていた。特に俺が見かけた植物やら鉱石やらの話を聞く彼女はもう凄かった。まるで絶対に欲しいおもちゃを見つけた子供みたいに齧り付いて聞いていた。
「はぁ〜、ひんやりしてるし、ぷにぷにしてて気持ちいい……」
「ぷに〜」
そして今は彼女の疲れを癒す為、思う存分ぷに太郎をぷにらせている所だ。戦いの後とは思えないほど、なんとも朗らかな光景だ。
「……さて、これからどうするか」
ただ、いつまでも和んではいられない。身の振り方を考えなければいけない時は近付いていた。
俺が選べる選択肢はそう多くない。彼女達の集団に接触するか、ここで別れ再びひとり旅に出るか。どちらにせよ、俺の存在があちらに露見することは間違いない。
「なあ、ユミア嬢。俺はどうすれば良いと思う?」
「ゆ、ユミア嬢? と言うか……どうして私に聞くんですか、
彼女の瞳が困惑に揺らぐ。呼び方にか、質問の内容にか、どちらにもかは分からないが。
俺は流石に名前が無いのは不便って事で、仮の名前としてナナシと名乗る事にした。流石に安直過ぎるとは俺も思うが、下手に凝った名前は俺の中の黒歴史が刺激されそうで止めた。
「さん付け……年上っちゃあ年上かも知れないが距離があるな。まあ良い。俺は記憶喪失って話はしたよな?」
「ああはい、ですから、
「まあそれが一番だろうな」
俺の身の上は話したが、この世界の事についてはほぼ聞いてはいない。
唯一聞いているのは……アラディス調査団についてだ。
──アラディス調査団。
この地には太古の昔、アラディス帝国という栄華を誇った大国が存在していたという。だが、その国は一夜にして滅んだとか。俺が旅する中で見てきた廃墟や遺構もその帝国の残滓だそう。
そして、そのアラディス帝国の滅亡について調査を行う為にやって来たのがユーステラという国からやって来た調査団、名付けてアラディス調査団という事らしい。
確かに、そんな大国が一瞬で滅ぶなんて事があれば理由も知りたくなるだろう。モン◯ンみたいに一国を滅ぼす黒龍が居るんです、みたいな話になれば対策しなければならないしな。
……そんでもって俺は、その調査団に身柄を預けるべきか悩んでいた。
「記憶喪失でこの大地を旅してたなんて、言って信じてもらえるかって所が不安なんだ」
「……確かに、気になる所はありますけど。調査団からすれば貴重な情報源ですし、手荒に扱われる事は無いと思います」
「まあユミア嬢がそう言うなら……ただ、ぷに太郎はどうなんだ?」
「ぷに?」
俺自身が良いとしても、今度はぷに太郎の問題がある。この世界で生きる獣……魔物というそうだが、ぷに太郎も魔物である。コイツを連れて行っても問題が無いのかが気掛かりだ。
「水色ぷになら気性は穏やかですし、問題無いと思いますよ。……ひんやりぷにぷにして気持ちいいですし。はぁ〜ぷにぷに最高……」
「ぷにっ、ぷににっ」
膝に抱えられ、ユミアになされるがままのぷに太郎……正直羨ましいぞ。
『ユミア、後半に私情が混ざっています』
「いいでしょ別に!」
「……仲が良いんだな」
『そんな事はありません。フラミィはユミアから日々いびられています』
「人聞き悪い事言わないでよ!」
緑の炎を宿した空飛ぶランタン、フラミィとユミアの漫才を見ながら、その回答に安堵する。
……そうか、ぷに太郎は大丈夫か。
しかも別にぷに太郎が特別人馴れしてる訳じゃなく、大体のぷにがそうらしい。調査団の団員が近付くと笑顔で跳ねてるとか……よく野生で生きていけるなと思わなくもないが、無闇に敵を作らないのがぷに達の生存戦略なんだろう。
「ならいよいよ否定する材料も無くなって来たな。強いて言えば、ユミア嬢の想定通りにならなかったパターンだが……」
『ユミアの想定だけでは外れる可能性が高いですが、フラミィの演算結果でも概ね同様の結果が出力されています』
「……ねぇフラミィ、今度のメンテナンスの時、面白い機能を思いついたから追加しても良いかな」
『やめてください。フラミィはこのままでも超高性能自立型探索補助装置として完成されています。余分な機能は必要ありません』
いつまでも彼女達のやり取りを見ていても良いが、時計の針は止まらない。時間の無駄使いをしても居られない。
「よし、決めた。案内してくれないか、調査団へ」
「はい! 私も丁度団長に報告する所だったんです。私の
「──ん? 今なんて?」
「えっ、私のアトリエに丁度いい場所が見つかった……ですけど」
「……あぁ、一応聞かせてくれないか?」
困惑しながらも、彼女は頷く。
「ユミア嬢。まさかアンタは、
すると彼女の表情は一瞬。ほんの一瞬強張った。
困った様な八の字の眉は隠しきれない、不安の色だ。
ただそれでもアメジストの色をした瞳は真っ直ぐにこちらを見ていた。
「……っ、はい。私は……ユミア・リースフェルトは──
「そうか、なるほどな」
──やっぱこの世界、アトリエシリーズじゃねえか。
それも、俺の全く知らないアトリエシリーズ。言うなれば『ユミアのアトリエ』って所か。原作知識無しで転生とか転生の意味が無さ過ぎるだろうが……。
それに俺のイメージだと、出先じゃなく地元にアトリエを構えて村や身近な人々の問題を解決しつつ錬金術士として成長ってのがアトリエシリーズのイメージだったんだが……滅びた大国の調査なんて、随分と大層な事をやっている。到底90日くらい寝て過ごして平々凡々な人生を歩みましたなんて終わりが出来ない内容だ。
調べている内容が内容な以上……この地に居る限り調査団に関わるか関わらないかに関係無く、巻き込まれる予感がひしひしとする。
それにこの地にはあまりにも何も無さ過ぎる。特に娯楽。大体の本は朽ち果てていてマトモな娯楽小説すら無い。大陸の外から来たという彼女達に協力すれば、ここよりは発展した人の居る街に行く事も出来る可能性もある。
どの道、調査団に接触する事は決定事項だ。
「……あの〜」
すると視界の端で何やら困った顔をしたユミアが居た。
「ん、どうしたユミア嬢?」
「いや、錬金術士って聞いて、何も思わなかったんですか?」
「ああ、錬金術士ってアレだろう? 大釜に色々入れて色々作る奴だろう?」
「そういうイメージの人も居ますけど……。怖くは、ないんですか?」
……どういう事だ。
俺にはユミアの言葉がまるで理解出来なかった。彼女が何かを恐れている様子なのは分かったが、それが一体錬金術士とどう関わっているのかが見えない。
「怖いって、錬金術士のどこに怖い所があるんだ? 寧ろ、いかにも
彼女は、目を丸くしていた。なんだ、そんな珍獣を見るみたいな目して、確かに俺みたいな変な奴はそう居ないだろうがな、表に出すのはほんの少し傷付くぞ。
「……しゅ、主人公、ですか。そんな事初めて言われました」
なんて思っていたが、そう返されればハッとした。確かに、主人公みたい、なんてこの世界がアトリエシリーズと思ってもなきゃ出ない言葉だ。
それに彼女はこの世界で十数年生きて来た人間の筈だ。ゲームか何かのキャラ、なんて認識は失礼極まりないモンだろう。意識のアップデートをしていかないとな。
「ま、まあ錬金術士ってのは困ってる人を助けるヒーロー、みたいな物だと俺は思ってるからな。だって何だって作れるんだろう? ならこの世界の大体の困り事を解決出来るって事じゃないか」
「困ってる人を、助けるヒーロー……」
そう誤魔化そうとすると、彼女は俯いてしまった。何か不味い事を言ったとしか思えない事態にあたふたしていると、彼女は徐に顔を上げた。随分と輝く様な笑顔で。
「へへ、ありがとうございます……ナナシさん」
よく分からないが、何か彼女の心に刺さる事を言ったらしい。地雷じゃなくて良かった……。
「お、おう。喜んで貰えたなら、何より? だが……」
『補足しますが、ユミアはアナタの定義する
「フラミィ? ちょっと黙ろっか〜」
『やめてくださいユミア、フラミィは繊細なので粗雑に扱わないでください』
更にどういう訳か、ふらふらと飛んで逃げるフラミィをユミアが追っかけ回す事態になっていた。
……本当、彼女達は仲良いんだな。ただそう思う俺であった。