FGO × BIOHAZARD RE4 作:ダイアジン粒剤5
「あれは……」
チェーンソーの駆動音を頼りに三人は森を進み、遂に樹木を切り倒している二人の女性の姿を見つけた。
粉塵対策か顔には奇妙な頭陀袋を被ってはいるが、服装は間違いなく壮年の女性が着ているようなモノであり、一心不乱に樹を切り倒している。
傍らには切り倒された樹々が枝葉を切り払われて横積みにされているので、伐採作業の真っ最中の様だった。
「刑部姫が言っていた、これが第一村人発見。マスター、私に任せて。雑賀は敵地での情報収集も行っていた、先行して話を聞いてくる」
「…………」
二人の女性に向けて歩き出す蛍だったが、以蔵は何か異質なものを見るような目で二人の女性を睨みつけている。
だが特に蛍を止めようとはせず、蛍も以蔵の様子に気付いた風もなく、二人の女性の下へと歩いていく。
「失礼、ちょっと話をさせてもらっても?」
手にしたチェーンソーから爆音が鳴り響いているにも関わらず、二人の女性は蛍の声に反応し、伐採の手を止め振り返る。
頭陀袋を被っているため表所は見えないが、その隙間から除く眼は異様。
瞳孔は見開かれ、眼球全体が真っ赤に血走っている。
「うっ……」
その異様さに一瞬後ずさりする蛍だったが、すぐに気を取り直し話しかける。
「え、えーと、ここはエスパニア……じゃなかった、スペインのどのあたりですか? あと、最近何か変わったことはありませんでしたか?」
「――――」
しかし二人の女性は蛍の問いかけには答えず、口の中で何かをブツブツと呟くだけ。
「あ、あれ? おかしいな、サーヴァントになったから外国でも言葉は通じるはずなのに……」
困惑する蛍だったが、そんな蛍に向かって女性の内の一人が、突如としてチェーンソーを振り回し襲い掛かって来た!
「えっ!? うわっ!!」
「チィッ、やっぱりか! 下がりやぁッ、小娘!」
蛍とて仮にも数多の戦場を往来した一角の戦士、女性の振り回して来たチェーンソーを後ろに飛びのき軽く躱すが、それと同時に飛び込んで来た以蔵がチェーンソーを振り回す女性の腕を居合切りの一閃で斬り飛ばし、同時にもう片方の女性の胸元に袈裟懸けの一撃を叩き込む。
「よう見いや、小娘! こいつら、人間や無いぞ!」
驚きながらも以蔵に言われた通り二人の女性を見た蛍は、目を見開いた。
以蔵によって切り開かれた二人の女性の腕や胸の断面から、気色の悪いミミズのような触手が飛び出して蠢いていたのだ。
「――ッ! これより、雑賀を開始する!」
意識を切り替え、外套の裏に隠しておいた銃剣付きの拳銃を取り出し、それを両手に持って二丁拳銃の要領で装備して、鉛の弾丸を二体の怪物の急所へと叩き込む。
実のところ長距離射撃は得意ではないのだが、それでもこの距離ならば外しようはない。
胸と頭、弾丸は確かに生命の急所へと撃ち込まれた。
「――え? うそ、なんで?」
だが痛がる素振りこそ見せたものの、二体の怪物の命は刈り取れず、未だその体には戦意と敵意が満ちている。
「気ぃつけぇ、小娘! こいつら、人間なんはガワだけじゃ。中身は、人間の形をしちょらん!」
そう言うと以蔵は手にした刀を大上段に構え、一拍の呼吸を置くと裂帛の気合を持って斬りかかった。
「チェストオオオオ!!」
示現流、蜻蛉の型。
あらゆる剣技を見ただけで真似られる以蔵が同僚の人斬りから盗んだ、一撃必殺の豪剣。
チェーンソーを振り回すだけの怪物などに、その一撃を躱すことも防ぐことも出来ようはずもない。
それぞれ一撃、右と左から繰り出された袈裟懸けの連続着入りによって、二体の怪物は体を斜めに両断された。
「二人とも、大丈夫!?」
そして藤丸が二人の下に駆け付けた時には、既に二体の怪物の命は事切れていた。
未だに斬られた断面からはミミズの如き触手がピクピクと蠢いてこそいたが、流石に体を二つに分けられては生きてはいられなかった様だった。
「おう、マスター。大丈夫じゃ。じゃが……まだ、気ィ抜きな」
以蔵の言葉の通り、未だ付近の森からは複数のチェーンソーの駆動音が鳴り響い取り、しかもそれが近付いて来ている。
「マスター、私の傍に」
藤丸を守るように囲う二人。
やがてチェーンソーの駆動音と共に、複数の男たちが森の奥から現れてきた。
皆一様に頭陀袋を被った筋骨隆々の大男たちであり、中でも一際大きな体格をした男は、二つのチェーンソーを鎖で括り付け二枚刃にした異様な品物を手にしている。
「以蔵さん、この人たちも、みんな……」
「おう、人間なんぞ一人もおらん。みぃんな化物じゃ」
そう言うと以蔵は、一歩前へと出る。
「マスター、誰ぞこいつ等を一撃で仕留められるモンを召喚せぇ。そんで小娘、おまんはマスターの守りじゃ。誰一人として近付けさせな」
「……わかった」
戦力外呼ばわりされたようで不満だったが、蛍は頷き以蔵の言葉に従う。
先程仕留めきれなかったのは確かだし、何より要であるマスターの護衛は常に最優先任務だ。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。――」
一方藤丸は、以蔵に言われた通りに手早く手慣れた召喚の詠唱を始める。
まともに唱えれば一分近くかかるが、今では三十秒を少し超える程度で唱え終えることが出来る。
――そして藤丸が詠唱を終えると同時に、彼が呼び掛けた英霊が光と共に現れる。
鬼面の如き面頬を被った、大太刀を構える筋骨隆々の偉丈夫が一人。
「はっ、新兵衛かえ。確かに、おまんならこいつら程度一撃で仕留めるろうが。マスターも変わったモンを召んだもんじゃ。わしがさっき、おまんの示現流をつこうたからかのう」
「――――」
以蔵の言葉に一瞥を返すも、偉丈夫は言葉を返さない。
そもそも一時召還されたサーヴァントは本人の意思こそしっかりとあるものの、言葉を発することは出来ず戦闘が終われば即座に退去となる存在だ。
――田中新兵衛。
岡田以蔵と同じく幕末四大人斬りの一人に数えられる、薩摩出身の剣豪。
以蔵が盗んだ示現流の大本であり、ただそれだけを突き詰めた蜻蛉の型の精度は、以蔵のものを遥かにしのぐ豪剣である。
「まあええ、どっちが多く敵を葬れるか。勝負じゃ、新兵衛!」
そう言い捨て蜻蛉の型を構えてチェーンソー男たちに襲い掛かった以蔵の後を、新兵衛もまた蜻蛉の型を構えて追いすがる。
どちらの剣も一撃にてチェーンソーを振り回す男たちの体を斜めに両断していき、やがて最後の一人、二枚刃のチェーンソーを縦横無尽に振り回す大男を、新兵衛の雲耀が切り捨てた。